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事業譲渡で気を付けるべき会社法!注意点や種類を解説

公認会計士 牧田彰俊

公認会計士 牧田彰俊

有限責任監査法人トーマツ入所、各種業務の法定監査、IPO支援に携わる。 その後、ファイナンシャルアドバイザリーサービス部門にてM&A アドバイザリー業務・財務デューディリジェンス業務・企業価値評価業務等に従事。 組織再編によりデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に異動し、主に国内ミドルキャップ案件のM&Aアドバイザリーとして、豊富な成約実績を収める。 2018年、これまで以上に柔軟に迅速に各種ニーズに応えるべく牧田公認会計士事務所を設立し、現在に至る。本記事の監修を務める。

会社の全事業または一部事業を他社に売却する「事業譲渡」は、会社法に則って進めます。会社法では事業譲渡において気を付けなければならない項目について定めており、事業譲渡を検討している方は内容を理解しておく必要があります。

しかし、会社法は非常に複雑な項目を含むため、理解が難しいと考えている方もいるのではないでしょうか。そこでこの記事では、事業譲渡をする際に知っておくべき会社法の内容を解説します。あわせて気を付けるべき事業譲渡の種類やポイントについても説明しますので、事業譲渡と会社法の関係を理解する際の手助けになるでしょう。

事業譲渡で注意しなければならない会社法

会社の設立から経営・廃業まで、会社に関するあらゆる内容について定めた法律が「会社法」です。事業譲渡についても会社法で項目を設けています。

事業譲渡で注意しなければならない会社法の条文は、主に3つあります。はじめに押さえておきたい項目は、事業譲渡における株主総会の承認について定めている会社法第467条と第468条です。譲渡後の競業禁止について記した第21条も理解しておく必要があります。

会社法第467条

会社法第467条では、株主総会の特別決議を必要とする事業譲渡の内容について定義しています。事業譲渡の多くの場合では、譲渡する側と譲り受ける側の経営者同士の合意だけでは成立しません。

事業譲渡を成立するには株主総会を開催し、特別決議で契約の承認を受ける必要があるのです。株主総会の特別決議の承認が必要な事業譲渡の主な内容は以下のとおりです。

・事業の全部の譲渡をする場合
・事業の重要な一部分を譲渡する場合
・ほかの会社の事業のすべてを譲り受ける場合
・事業の全部の賃貸・全部の経営の委任・他人と事業上の損益の全部を共通にする契約などの締結・変更・解約をする場合
・会社の設立後2年以内の事後成立で「成立前から存在する財産」を、譲受企業の純資産額の一定割合以上の価額で取得する場合

上記にあてはまる事業譲渡を行う場合、効力発生日の前日までに株主総会の特別決議を行い、契約の承認を得なければなりません。

(参考:『e-Gov法令検索』)

会社法第468条

第467条に対し第468条は、株主総会の特別決議による承認を必要としない事業譲渡について定義しています。

まず事業を譲渡する側のケースでは、事業譲渡の契約の相手が「特別支配会社」である場合は株主総会の決議を求めていません。特別支配会社とは、譲渡する側の総株主の9/10以上の議決権を持っている会社のことを指します。

事業を譲り受ける側のケースでは、事業全部の譲り受けの「対価として支払う財産の帳簿価額の合計額」が譲り受ける側の会社の「純資産額として法務省令で定める方法により算定される額」の1/5を超えない場合は、株主総会の特別決議は必要ないと定めています。

ただし、「法務省令で定める数の株式」を持つ譲受会社の株主が、一定の期間内に事業の譲り受けに反対した場合は、株主総会を開催し、特別決議を行う必要があるため注意しましょう。

(参考:『e-Gov法令検索』)

会社法第21条

事業譲渡をする際に注意したいのが、第21条が定義している「競業避止義務」です。事業譲渡をした会社が、同一の市町村および隣接する市町村の区域内にて、譲渡した日から20年間は「同一の事業」を行うことを禁止しています。禁止期間は、特約により最大で30年まで延長することも可能です。

しかし、第21条は現代社会ならではの問題点も指摘されています。事業内容にもよりますが、現代ではインターネットを用いて世界中で事業を行うことが可能です。そのため「同一の市町村および隣接する市町村の区域内」と範囲を区切る21条が時代にあっていないのではないかという疑問が生じます。

事業を譲り受けたにもかかわらず、譲渡した会社がインターネットなどで同じ事業を再び始めたというような事態を避けるためには、事業譲渡契約書の締結が有効です。事業譲渡契約書内に、競業避止義務の範囲や同一事業の内容について細かく取り決めておきましょう。

(参考:『e-Gov法令検索』)

財産の譲渡と事業譲渡の違いは?

事業譲渡にあてはまる財産の譲渡の場合は、上述のとおり株主総会の特別決議が必要です。一方、事業譲渡にあたらないような財産の譲渡の場合は、どのような手続きが必要なのでしょうか。

単なる財産の譲渡の場合は、原則株主総会の開催は必要ありません。会社法362条4項1号の規定により、取締役会を設置している会社であれば、取締役会の決議のみで譲渡することが可能です。

事業譲渡と単なる財産譲渡は「重要性」の有無で判断されます。たとえば、会社の中で一番売上を上げている重要な製造部門の全部を譲渡する場合であれば、事業譲渡にあてはまる可能性が高いでしょう。一方、現在は使っていない製造機械を他社に売却するような場合は、事業譲渡ではなく財産譲渡と考えます。

会社法における事業譲渡と会社分割の違い

事業譲渡と似た会社法上の制度として「会社分割」があります。しかし、雇用・許認可・契約・課税関係などの面で、事業譲渡と会社分割は明確に異なります。

会社分割は、効力発生日に一部の事業に関する権利義務を包括的にほかの会社に継承させる行為です。会社分割は一括継承とも呼ばれ、会社法における組織再編の行為にあたります。そのため従業員の雇用においても、個別に契約を結びなおす必要はありません。

一方、事業譲渡は相手との合意で個別に権利義務を継承させる取引行為です。事業譲渡は会社分割とは異なり、事業に関する権利義務を継承させようとすれば、民法の一般原則により、相手方から個別の同意を得なければなりません。

特別決議が必要な事業譲渡の種類

事業譲渡は会社全体ではなく、事業のみを売買する手法です。一般的には事業のすべてを譲る必要はなく、目的に合わせて事業の一部の売買をする場合でも事業譲渡と呼びます。

株主総会での特別決議が必要な事業譲渡の種類は、会社法第467条に記載されています。ここではあらためて、特別決議が必要な事業譲渡の種類を6つに分けて解説します。

1. すべての事業を譲渡

事業譲渡では事業すべてを譲渡することも可能です。すべての事業を譲渡する場合は株主総会の特別決議が必要になります。これは前述した会社法の第467条にて定めています。譲渡する会社はその効力発生日の前日までに、株主総会の特別決議による承認が必要です。

2. 総資産額1/5以上の事業の一部分を譲渡

総資産額の1/5以上の事業は、事業の「重要な一部」とみなされ、事業譲渡の対象となります。事業の重要な一部とは、利益や売上高などの「量的基準」と事業内容などの「質的基準」の両面から判断します。まず、量的基準を判断する場合、利益や売上高、従業員の人数などの譲渡対象が事業全体の1割を超えると、重要な一部であるとみなします。

質的基準から重要な一部と判断されるのは、事業内容などから会社のイメージに大きく影響があるケースです。たとえば、化粧品会社が化粧品の事業を譲渡する場合は、重要な一部と判断されるでしょう。

しかし、譲渡する資産の帳簿価額が譲渡企業の純資産の1/5を超えないのであれば、重要な一部とみなされる事業譲渡であっても特別決議を求めません。

3. 親会社が子会社株式などの全部あるいは一部を事業譲渡

譲渡企業の総資産の1/5にあたる子会社の株式などの全部もしくは一部を事業譲渡する場合も、特別決議が必要です。全部あるいは一部の売却により、親会社の影響力がなくなってしまうため、親会社の株主総会での承認を要します。定款に記載すれば総資産額の1/5を下回る割合を定めることも可能です。

5. 事業のすべてを賃貸あるいは委任による事業譲渡

事業のすべてを貸し出したり委任したりする場合、所有権は譲渡企業側に残ります。しかし、この場合も株主総会を開き特別決議で可決される必要があります。売却ではないため、譲受企業は譲渡企業へ賃料を支払います。

また、同じ第467条4項では「他人の事業上の損益の全部を共通にする契約、そのほかこれに準ずる契約の締結」をする場合も特別決議の承認を要求しています。

6. 事後設立で譲り受ける事業譲渡

事後設立とは、会社設立前から所有している営業用の財産を、設立後2年以内に譲受会社の純資産額の1/5を上回る価額で譲り受ける契約のことです。

このような事後設立の場合も、譲受企業は株主の承認を得る必要があります。ただし、純資産の1/5を下回る割合を定款で定めた場合は、その割合を上回る場合に株主総会を招集します。

会社法に基づいた事業譲渡のポイント

事業譲渡を成立させるには、さまざまな手続きを経る必要があり時間がかかります。高度な専門性を要する内容も多いため、専門家と連携しながら進めていきましょう。ここからは、会社法に基づいた事業譲渡の流れとポイントについて解説をしていきます。

取締役会で決議を行う

事業譲渡を行うことを双方が合意し、基本合意契約を締結した後にデューデリジェンスを行います。デューデリジェンスとは譲受側の会社が譲渡企業の事業内容や財務、法務面の調査を行うことです。専門家による徹底的な調査により問題がないことを確認したら、取締役会で決議を行います。

譲渡側の場合、事業譲渡では重要な財産の多くを処分・売却します。そのため、取締役会設置会社では、取締役会の決議と承認が必要です。この段階で、事業譲渡の交渉期間や売却する事業などの基本的な部分を、過半数以上の賛成にて決議します。

事業譲渡契約書の締結手続きを行う

デューデリジェンスの調査報告をもとに、事業譲渡側と譲受側双方が交渉をし、事業譲渡の内容を細かく取り決めます。このとき決まった内容を事業譲渡契約書に盛り込み、締結手続きを行うのです。

事業譲渡契約書には、前述した会社法第21条の競業避止義務についてさらに細かい取り決めを盛り込んだり、事業譲渡の価額や債務を含むかどうかなどの詳しい条件を記載したりします。ただし、事業譲渡契約書を結んだだけでは、効力は発生しないため注意しましょう。

事業譲渡の通知と告知を行う

事業譲渡契約書を締結したら、事業譲渡を行う旨を株主に通知して株主総会の開催を告知しましょう。株主総会を告知する際は、株主ひとりひとりに郵便を送って知らせるのはもちろん、自社サイトのトップページに告知文を掲載するなどして、株主総会の招集を幅広く知らせます。必要があれば官報公告も利用するとよいでしょう。

また、一定規模の事業譲渡の場合、「有価証券報告書」の提出義務がある会社は、譲渡側・譲受側ともに内閣総理大臣へ「臨時報告書」を提出しなければなりません。譲受側は事前に公正取引委員会へ「事業等の譲受に関する計画届出書」を提出し、受理される必要があることも忘れないようにしましょう。

株主総会による決議を行う

事業譲渡を行う双方の会社は、会社法467条に基づき株主総会の特別決議で承認を得なければなりません。決議の承認は、事業譲渡の効力発生日前日までに行いましょう。

特別決議に関しては、会社法第468条で定められているケースでは開かなくても問題ありません。しかし、事業譲渡に反対する株主がいる場合は、会社法第467条と同様に株主総会を開き特別決議の承認が必要になります。

株式買取請求の手続きを行う

事業譲渡に反対する株主は「株式買取請求権」を行使できます。事業譲渡が行われて会社の資産が外部に流出すると、譲渡会社自体の価値が下がってしまいます。

会社の価値が下がると、株主が損をする可能性があるため、株主は持ち株を会社に買い取るよう請求する権利を有しているのです。会社は権利を行使した株主の株式を公正な価格で買い取る必要があります。

これらのすべての手続きが終わったら一部の業種を除いて、資産の引き継ぎや名義変更手続きを開始できます。事業のノウハウなど形のない資産を含めると、譲渡が成立するまでには一定の期間がかかります。専門家でないと判断できないような事案も出てくる可能性が高いため、譲渡が完全に成立するまでは専門家と連携しながら進めていきましょう。

まとめ

事業譲渡を成立させるには、会社法を順守しながら計画的に進めていくことが大切です。事業譲渡や関連する法律は素人が網羅的に知ることは非常に難しいでしょう。事業譲渡をスムーズに成立させるには、専門家と連携が重要です。

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