企業買収で価格はどのように決まる?相場の調べ方と高く売るポイント

会計士 牧田彰俊

有限責任監査法人トーマツ入所、各種業務の法定監査、IPO支援に携わる。その後、ファイナンシャルアドバイザリーサービス部門にてM&A アドバイザリー業務・財務デューディリジェンス業務・企業価値評価業務等に従事。組織再編によりデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に異動し、主に国内ミドルキャップ案件のM&Aアドバイザリーとして、豊富な成約実績を収める。2018年、これまで以上に柔軟に迅速に各種ニーズに応えるべく株式会社M&A DXを設立し、現在に至る。

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買収したい企業があるとき、または自分の会社を売却したいときに気になるのは「いくらで買うことができるのか」「売ることができるのか」といった価格でしょう。企業買収の相場が気になる方もいるのではないでしょうか。

そこでこの記事では、企業買収の価格の算定方法を紹介します。買収交渉前に価格を試算できれば戦略をたてて、M&Aを成立させる対策に役立つでしょう。買収価格を決める注意点や、価格交渉方法・希望価格に近付けるためのポイントなども解説します。

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企業買収の価格算定の方法

企業買収の価格算定の方法

企業買収の価格を算定する代表的な方法は、マーケットアプローチ(マルチプル法等)・インカムアプローチ(DCF法等)・コストアプローチ(時価純資産法等)の3つです。ここではそれぞれの算出方法を押さえましょう。

これらの方法を使えば、理論上では適正な数値を算出できます。しかし、それぞれの算定結果には大きな差が出ることがあるので注意しましょう。複数の方法で算出し、総合的に判断することが必要です。

マルチプル法

マルチプル法は類似会社比較法ともよばれ、マーケットアプローチに分類されます。M&Aの初期段階で使われることが多く、簡単な計算で客観的な数値を算出できるのが特徴です。買い手企業が買収する企業を選定するための指標として利用する評価方法でもあります。

マルチプル法では、評価対象企業と規模や事業内容が似ている企業は、企業価値や株式価値が類似するという考え方です。そのため、以下の方法で算出します。

1.評価対象企業と規模や事業内容が類似している上場企業を複数選ぶ

2.選んだ上場企業の企業価値や株式価値に対応する指標との倍率を出す

3.評価対象企業の財務指標などに2で算出した倍率を掛ける

DCF法

インカムアプローチのひとつであるDCF法は「Discounted Cash Flow」の略で、M&Aの代表的な評価方法になっています。マルチプル法が相対的な評価なのに対し、DCF法は絶対的な評価といえます。将来的に見込まれる利益などと加重平均資本コスト(WACC)を用いて、以下の手順で算出します。

1.将来の収益が見通せる事業計画を策定する

2.将来発生する見込みのフリーキャッシュフローを算定する

3.加重平均資本コスト(WACC)を計算する

4.フリーキャッシュフローを加重平均資本コストで割り戻し、現在価値を算定する

5.事業外資産・負債や有利子負債等の必要な加減算項目を調整する

途中、複雑な計算が必要になるため、DCF法による価格を正確に算出したい場合は専門家に相談するのがおすすめです。

時価純資産法

時価純資産法では、時価純資産額が株式価値になります。客観性があり分かりやすいので、中小企業のM&Aでよく用いられる方法です。評価内容には、将来的な収益やキャッシュフローなどは含まれません。算出方法は以下のとおりです。

1.負債を含む会社の資産・負債を時価評価する

2.時価総資産額から時価負債額を差し引いて、時価純資産額を算出する

のれん代付きの場合は、この時価純資産額にのれん代をプラスしましょう。のれん代とは、売り手企業のブランド力や技術力などの営業権のことを指します。のれん代付きで算出するのは原則黒字企業です。プラスする額は3年間の営業利益をさかのぼり、その平均値をもとにした3年分~5年分が目安になるでしょう。この時価純資産額に営業権をプラスして評価する手法を「年買法」とよびます。

企業買収における価格決定の注意点

企業買収における価格決定の注意点

企業買収における企業価格の算出方法を紹介しましたが、実際の売買価格を決定する際はどのような点に注意すればよいのでしょうか。さまざまなアプローチで算出した企業価格はあくまで目安です。売買価格はほかの要因も絡み合って決定します。ここではそれらの要因を押さえて、注意する点を確認しましょう。

実際には交渉次第で価格は決まる

企業買収における実際の売買価格は交渉次第です。買い手企業・売り手企業、双方の合意によって価格は決まります。さまざま指標などを用いて算出する価格は、あくまで目安でしかありません。

たとえば、買い手企業が買収価格を決めるときは、売り手企業の将来性や財産などが自社にとってどれだけの価値があるかを主観的に考えます。検討した結果、リスクを背負ってでも購入する価値があると判断すれば、評価以上の価格でも買おうとするでしょう。

業種によって相場は変わる

企業買収の価格相場は、業種によって大きく変わります。価格を形成する要素の重要度もさまざまです。そのため、買収しようとする企業の業種が変われば、そのたびにしっかりとしたリサーチが必要になります。

不動産賃貸業では企業の売上高や利益よりも、企業が保有する不動産などの資産価値のほうが重要であり、評価を左右するでしょう。一方、調剤薬局では店舗の売上・利益や処方箋の対応数、立地などが評価に影響します。人材が確保できているかも重要です。

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M&Aでの価格交渉の方法

M&Aでの価格交渉の方法

M&Aでは、売買価格に売り手と買い手の双方が納得してはじめて契約が成立します。そこに至るまでにはさまざま交渉が行われますが、交渉方法にはどのようなものがあるのでしょうか。ここでは、「個別交渉方式」と「オークション方式」それぞれの特徴を紹介します。

個別交渉方式

個別交渉方式とは、基本的に売り手企業が自社の掲げた条件にあう買い手企業候補の中から1社を選び、個別に価格や条件などの交渉を行う方法です。双方がそれぞれの条件に合意すれば契約手続きに入ります。

交渉が決裂した場合は、別の買い手企業候補と交渉開始です。ここでも合意に至らなければ、次の企業というように、合意が得られる企業と出会えるまで個別に交渉が続きます。個別交渉を続けた結果、合意できる企業が見つからなかった場合は売却自体を取りやめることも可能です。

個別交渉方式は、1社ずつ交渉するため時間がかかることがあります。しかし、途中で売却を辞める選択ができたり、情報を公にせずに進められたりする点はメリットといえるでしょう。

オークション方式

オークション方式は、売り手企業の業績などをまとめた企業概要書とプロセスレターを作り、買い手を募ります。複数の入札があった場合は数社に絞り込みますが、絞り込みの条件は価格だけでなくスキームなども検討することが大切です。

候補企業とは面談や交渉を重ね、交渉する1社を決定します。その前後でデューデリジェンス(DD)などの手続きが進み、契約が締結され資金決済すれば完了です。

売り手企業の財政状況が安定していたり価値が高い場合や、特殊な技術をもっていて価値が高い場合などにおすすめの方式といえるでしょう。売買価格は、個別交渉方式より高くなりやすい傾向にあります。ただし、オークション方式は広く買い手を募るため、情報漏洩のリスクが高いことを忘れてはいけません。

価格算定に影響を与える無形資産

無形資産とは、文字の通り、形を有しない資産の事です。
具体的に、高い技術力、取得し難い許認可、業界シェア、ブランド名、販売網、ノウハウや経験、様々な無形資産があります。それでは、なぜ無形資産は、価格算定に影響を与えてしまうのか具体的に過去のM&Aの事例を参考に見ていきましょう。

【事例】「Zホールディングス」による「ZOZO」の買収

「Yahoo!ニュース」や「Yahoo!ショッピング」などのeコマース事業を展開しているZホールディングス株式会社による、日本最大級のファッションECサイト「ZOZOTOWN」のファッション小売業を展開する株式会社ZOZOの買収です。
買収の背景は、ブランド力、ノウハウ、ユーザーの利便性向上などの事業シナジー効果の実現です。
このように無形資産はM&Aの際にシナジー効果を生む重要な要素になっていて、企業買収において買収価格を押し上げる要因になりやすいと言われています。また、買収後にはこの無形資産を評価するPPA(Purchase Price Allocation)を実施する必要があります。

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M&Aで売り手が希望売却価格に近付けるためのポイント

M&Aで売り手が希望売却価格に近付けるためのポイント

自社をM&Aで売却するなら、できるだけ高く買ってもらいたいものです。売り手企業の希望売却価格にできるだけ近い価格で契約するには、どうすればよいのでしょうか。M&Aの売買価格は、買い手の主観で決まります。売り手企業は、そのことを念頭においた対策を取ることがポイントです。

自社の評価を高くしてくれる企業に売り込む

たとえば、売り手企業の市場にこれから進出を考えている企業がいたとします。その企業は、ノウハウがある企業を買収できれば、効率的に事業拡大を進められるでしょう。このような企業が交渉相手だと、自社を高く評価してくれる可能性があるので、相場より高値で買ってもらえるかもしれません。

高値で売りたければ自社の強みや弱みの分析し、どのような会社にとって価値が高い会社なのかを考えましょう。買い手企業をニーズによって分類し、自社の理想とする買い手企業像に近い会社から優先順位をつけていきます。財政や信用などの観点から、除外しなければいけない会社が含まれていないかも忘れずに確認しましょう。

この作業は、売り込み先のリスト、いわゆるショートリストを作る手順です。ロングリストをベースにショートリストをしっかりと作り込むことによって、合理的に効率よく買い手候補企業に売り込むことが可能になります。

具体的な情報を提示する

買い手企業にとって重要な判断基準になるのが、売り手企業の情報です。この情報が少ないと正しい判断が難しく、積極的な交渉が難しくなるでしょう。

売り手企業は、自社の具体的な情報を提示することが重要です。情報をしっかりと開示し、売り手企業が買い手企業にとって有益な会社だという認識を与えられれば、高値がつきやすくなります。

買い手企業への情報には、ビジネスモデルのほかに自社の強みや弱みなども入れましょう。特別なノウハウや技術など、普通なら簡単には手に入らないものは買い手企業にとって魅力的です。現在は弱みでも、買い手企業が介入し改善することによって成長が見込まれるものもあるでしょう。

従業員の特徴や平均年齢なども重要な情報のひとつです。決算書とその分析についても明記しましょう。

競争相手を意識させる

売り手企業がどれほど魅力的な会社でも、買い手企業はできるだけ安く買いたいものです。交渉では減額の駆け引きが行われるしょう。このような場合の対策には、複数の競争企業を立てて、オークション方式で交渉を進めるのが有効です。

オークション方式では、低すぎる価格だと買収の機会を逸する可能性があります。個別交渉だと低めの価格を提示する会社でも、競合他社の落札を食い止めたいと思えば最初から可能な限りの価格で入札するでしょう。競争相手を意識するオークション方式なら、入札後の交渉もしやすくなります。このような駆け引きによって、売買価格は上げることが可能です。

M&A仲介サービスに相談する

M&Aを有利に進めたい場合は、M&A仲介サービスを利用するのがおすすめです。書類収集・作成などの手間を省きながら、効率的に売買相手を探すことができます。希望価格があれば、要望に応えるよう尽力してくれるでしょう。

通常の業務を行いながらM&Aのための書類を準備するのは、経営者や社員にとって大きな負担です。よりよい条件で売買できる相手を探すのも簡単なことではありません。

M&A DXには、大手監査法人系M&Aファーム出身の公認会計士・税理士や金融機関出身者等が多数在籍しており、企業に有利なM&Aのお手伝いが可能です。M&Aに関するさまざまな業務をワンストップでご提供するので、社内の負担を最小限にしてM&Aを進められるでしょう。

まとめ

まとめ

企業買収は、買い手企業にとっても売り手企業にとっても、企業の将来を左右しかねない大きな買い物です。さまざまなアプローチで売買価格を試算し、戦略的に交渉を行うことが大切になります。

しかし、多くの手続きなどが絡むM&Aを、自社だけで進めていくのは難しいこともあるでしょう。そのような場合は、信頼できるM&A仲介サービスを利用するのがおすすめです。M&A DXでは、さまざま業界で経験を積んだ専門家がM&Aをフルサポートいたします。企業買収を考えているなら、経験豊富なM&A DXにお任せください。

株式会社M&A DXについて

M&A DXのM&Aサービスでは、大手会計系M&Aファーム出身の公認会計士、 M&A経験豊富な金融機関出身者や弁護士が、豊富なサービスラインに基づき、最適なM&Aをサポートしております。セカンドオピニオンサービスも提供しておりますので、M&Aでお悩みの方は、お気軽にM&A DXの無料相談をご活用下さい。 無料相談はお電話またはWebより随時お受けしておりますので、M&Aをご検討の際はどうぞお気軽にお問い合わせください。


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