会社分割における包括承継の範囲と基本的な情報を解説!

会計士 加藤大典

大手自動車メーカーに入社、生産技術部にて製造工程設計業務に携わる。その後、デロイトトーマツコンサルティングに入社し、組織再編により有限責任監査法人トーマツのアドバイザリー部門に異動。製造業の法定監査業務及びIFRS導入支援、組織再編支援、事業再生支援、内部統制構築支援、決算早期化支援、経営管理体制強化支援等の様々なプロジェクトに従事。

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ビジネスにはさまざまな専門用語がありますが、その中の1つとして会社分割があります。文字から大体の意味は推測できるかもしれませんが、実は奥が深いもの。また、会社分割を知る上では包括承継の範囲や流れなども知っておきたいものです。

そこでこの記事では、会社分割の基本情報を押さえつつ、会社分割における包括承継の範囲や会社分割の目的と分割の流れ、混同されやすい言葉などについて紹介します。ビジネスの基礎知識をおさらいしたい方はもちろんのこと、会社分割についてもう少し深く知りたい方もぜひ最後まで読んでみてください。

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会社分割の基本情報

会社分割の基本情報

会社分割とは、会社がある事業の一部、もしくは全部をほかの会社に包括的に承継させることをいいます。実際に行った会社は数多くあり、その中には多くの人に知られている有名な会社も含まれています。会社分割にはいくつかの利点や注意点があるため、ここでは会社分割の利点や注意点について解説します。会社分割についてよく知らない方は、この項目でチェックしておきましょう。

なお、会社分割には2つの種類がありますが、それぞれの違いに関しては以下の記事で紹介しているため、気になる方はぜひチェックしてみてください。

参考記事「会社分割とは?メリットや吸収分割と新設分割の違いを解説!

会社分割の利点

会社分割によって新規事業を始めやすくなったり、会社の不採算部門を切り離すことによって資金や時間のコストを抑えられたりと、会社分割を行うメリットはさまざまあります。不採算部門を切り離すことができれば、会社全体のイメージダウンを防ぐことができ、取引先や顧客からの外的な評価を保てます。また、会社分割は短期間で済む上に、買収資金がかかりません。十分な資金がなくても実行できる点もメリットといえるでしょう。

会社分割の注意点

会社分割はメリットばかりではありません。特に注意したいポイントが、税務の手続きです。会社分割の場合には法人税や所得税がかかる上に、新設分割を用いた場合には会社の設立登記が必要となり、登録免許税が課せられます。、ある条件を満たせば対価として現金を受け取った際に得た譲渡益が非課税となる制度もありますが、クリアしなければならない条件がいくつもあるため、手間がかかってしまいます。

その他、取締役の兼務が難しかったり、人材や技術の流出が起きやすくなったりといった問題もあります。

最近では、手続きの簡易化や利益の効率化といった目的から、中小零細企業による会社分割が行われていますが、これらのメリットとデメリットを比較・検討した上で行わなければいけません。

参考記事「会社分割の手続きはどのような流れで行われるか?手続きの流れからメリット・デメリットまで解説

会社分割における包括承継の範囲とは

会社分割における包括承継の範囲とは

会社分割における包括承継の範囲は、基本的に分割対象の事業とそれに付随する権利義務です。会社法上は、会社分割による承継の対象を、分割会社の事業に関して有する権利義務の全部又は一部としており、特定の資産や債務だけを承継の対象とすることも可能と読み取ることができます。しかし、実務上は、権利義務だけを承継するケースはほとんどありません。

一方、会社分割によって事業を承継することを前提とした上で、その事業によって権利義務の範囲を特定させるケースもあります。例えばAとBという2種類の事業を展開している会社が、会社分割で事業を切り分けて新会社を設立する場合、事業内容を正しく把握しなければ、Aの事業であるにも関わらず、Bの事業として捉えられてしまう恐れもあります。そのような事態を防ぐためにも、会社分割における権利義務の範囲は事業によって判断します

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なぜ会社分割を行うのか?

なぜ会社分割を行うのか?

会社分割を行う理由としては、主に2つあります。それはグループ会社の再編とM&Aですが、それぞれ具体的にどのようなものなのでしょうか。ここでは、双方の内容について触れつつ、実際に行う目的を紹介していきます。

1.グループ会社を再編するため

会社分割は、グループ会社を再編する上で有効的な手段の1つといえます。例えば、兄弟会社を作って元々の事業と新事業を別々の後継者に継承させる、別の事業と合わせて新設会社を立ち上げる場合などです。特に分割型新設分割は、グループ会社がよく行う会社分割の方法として知られています。

2.M&Aの手法として用いるため

会社分割は、グループ再編とは別にM&Aの手法としても用いられていますが、その前にM&Aとはどのようなものなのでしょうか。

M&AとはMergers and Acquisitionsの略であり、会社の合併や買収を意味します。経営戦略のひとつで、2つかそれ以上の複数の会社がひとつになる合併や、特定の事業や会社の経営権をほかの会社から買収すること等を指します。M&Aには売手・買手それぞれのメリットがあります。売手側は事業の承継問題が解決し、会社自体の存続や発展が見込めます。一方の買手側は時間やリスクを抑えて経営資源を入手することができます。もちろん、これらのメリットは適切な取引があってこそ実現できるものですが、日本を含め世界的に多くの会社で行われています。

その上で、会社分割は、会社のスリム化を図ったり、採算が取れない事業を切り離したりなど、M&Aを行う上で役立つものといえます。また、事業規模の拡大や新規事業の取得などの目的を果たす際にも用いられます。ただし、M&Aはさまざまな知識や経験が求められるため、実際に行う際はM&Aアドバイザーのような専門家に相談してみましょう。

会社分割の流れ

会社分割の流れ

会社分割の基本情報をある程度把握した上で、次はどのような流れで進められていくのかを見ていきましょう。同じ会社分割でも、新設分割と吸収分割では流れが異なります。

新設分割の場合

新設分割の場合、分割する会社は、まず新たな会社を設立するための計画書を作成します。作成した新規分割計画は、債権者保護手続き等の分割手続きを行う日から、新設会社成立後6か月を経過するまでの間、分割会社の本店で保管します。続いて、分割会社から設立会社へ承継される事業で働いている従業員に対し、株主総会開催日の2週間前の日の前日までに書面で通知します。その後、株主総会の特別決議による新設分割計画の承認、株式買取請求通知、債権者保護手続きを経て、新設分割の登記が行われます。分割会社と新設会社は、それぞれ事後開示書類を本店に据え置きます。

参考記事「新設分割のメリットとデメリット|手続きの方法や適格要件も解説

吸収分割の場合

吸収分割の流れは、新設分割とほぼ同様です。とはいえ、既存の会社に承継することから、承継会社も同様の手続きを踏む必要がある点が大きく異なります。その他、分割の効力発生日や登記、株主買取請求通知と株主総会での特別決議との前後関係にも異なる点があるため、注意が必要です。

参考記事「吸収分割の基礎知識|事業譲渡との違いやメリット・デメリットを解説

会社分割までの期間はどのくらい?

会社分割は、双方とも数ヶ月かかります。また、個別の手続きによって期間が設けられています。書類の準備や会社間の交渉等を考えると、余裕をもってスケジュールを設定したほうがよいでしょう。

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会社分割と混同されやすい言葉

会社分割と混同されやすい言葉

会社分割は事業承継のスキームのひとつですが、中でも混同されやすい「事業譲渡」と「吸収合併」の2つをピックアップしました。

事業譲渡

事業譲渡とは、企業の一部や全部の事業を第三者に譲渡することをいいます。譲渡する側は、不採算事業を第三者へ引き継いでもらうことで、利益率の高い事業に集中することができます。反対に、譲受側は取引対象となる資産や負債の範囲を定めることで、例えば帳簿外にある債務を承継してしまうといったリスクを遮断することが出来ます。事業譲渡も会社分割も、事業を承継するという点において変わりはありませんが、会社法・税務上の違いや債権者保護手続きの有無、従業員への対応等に違いがあります。

参考記事「事業譲渡と会社分割の手法とメリット・デメリットの違いを徹底比較

吸収合併

吸収合併とは、ある会社が別の会社を取り込むこと形で行われる合併のことをいいます。取り込まれた会社は解散となり、すべての資産・事業・社員が取り込んだ会社に移ります。基本的には、大規模な会社が小規模の会社を取り込むケースが多く、合併の中でもよく使われる手法です。吸収合併のメリットは、企業の技術力や研究の質の向上や顧客層の拡大によって事業のシナジー効果が期待できる点でしょう。また重複している機能や部門の統合によるコスト削減も可能です。一方で、合併後の人事評価や社内ルール、ITシステムの整備にコストがかかる点がデメリットとして考えられます。会社分割と同じく、メリットとデメリットをふまえ慎重に検討した上で行動しなければなりません。

吸収合併と近い言葉として新設合併がありますが、意味が異なるので、混合しないようにしましょう。新設合併とは、2つの会社が解散した上で、新しい会社を設立することをいいます。吸収合併とは違い、1つの会社に取り込まれるわけではありません。
吸収合併は、売手の株主が、買手から現金・株式・社債のどれかを受け取ることが可能です。これに対し、新設合併は、新しい会社の株式・社債のどちらかのみで、現金を受け取ることはできません。

参考記事「いまさら聞けない吸収合併の基礎知識と社員に対する扱い方

参考記事「吸収合併とは何か!必要な手続きや仕訳について

会社分割において知っておくこと

会社分割において知っておくこと

ここまで、会社分割の基本情報やおおまかな流れ、混同されやすい言葉などを紹介してきましたが、最後に、会社分割において忘れてはならない「COC条項」と「労働契約承継法」について紹介します。

COC(チェンジオブコントロール)条項

COC条項は、チェンジオブコントロール条項と呼ばれるもので、一般の商取引の契約書において、M&Aによる経営権(支配権)の移動があった際の対応に関する条項のことです。COC条項は会社分割だけではなく、M&Aでも欠かせないものであり、経営権の移動が生じた場合に契約の解除事由が発生したり、契約の相手方への通知義務が発生するなど、契約内容に何らかの制限がかかるものです。

COC条項を設ける目的は2つあります。1つ目は、契約している取引先の買収によって自社の情報や技術が流出してしまうことを防ぐためです。ライセンス契約を結んでいる企業が競合会社に買収される場合、COC条項の取り決めに従って契約を解除することが可能となります。2つ目は、敵対的な買収を防ぐためです。COC条項があることで、買収後に重要な仕入先や取引先から契約を解除される可能性があります。買収する企業からすると、買収後にその恩恵を受けることができないとなれば、買収を行う意味がありません。これにより、敵対的買収が行われるリスクを抑えることができます。

労働契約承継法

労働契約承継法は、会社分割時の労働者保護の観点から、労働契約の承継等に関する特例を定めたものです。この法律は、法人が、会社分割を行うにあたり、労働者の理解や協力を得るよう努めた上で、労働者・労働組合に対して労働契約の承継等に関する事項の通知を行い、労働者に対して、一定の期間を設けて異議の申し出の機会を設けること等が定められています。労働契約承継法は会社法に基づいて会社分割される際に適用されますが、合併や事業譲渡の際は適用されません。また、労働契約承継法の対象にはパートや嘱託職員なども含めた全ての労働者に対して手続きが必要です。

まとめ

まとめ

今回は、会社分割の基本情報を押さえつつ、包括承継の範囲や会社分割と混同しやすい言葉などについて紹介しました。会社分割は一見すると簡単そうなに思えるかもしれませんが、手続きも煩雑化しやすい手法といえます。社内のみで対処しようとせず、まずはM&Aの専門家に相談するとよいでしょう。

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