クロスボーダーM&Aとは?その成功の鍵について事例を交えて解説

山下正太郎

メガバンクに入行し、M&Aを含む各種ファイナンス業務に従事した後、大手M&Aブティックに入社。中小企業の事業承継問題に対するソリューションとしてのM&A取引を推進。その後、上場企業および大手コンサルティング会社の企画部門にて投資責任者を歴任。キャリアを通じて多数のM&A案件の成約に携わった他、PMI担当として買収先とのスムーズな経営承継を実現した経験を多数持つ。

この記事は約14分で読めます。

近年、日本でもM&Aが活発におこなわれるようになり、クロスボーダーM&Aの事例も増えています。しかし、新聞や雑誌記事などでクロスボーダーM&Aという用語を聞いたことがあっても、どのようなM&Aであるのかイメージがわかず、気になっている方もいらっしゃるのではないかでしょうか。

そこで、クロスボーダーM&Aの概要とポイントを解説します。

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クロスボーダーM&Aとは

クロスボーダーM&Aとは

クロスボーダー(Cross-border)とは国境(border)を超える(cross)ことを意味し、クロスボーダーM&Aとは、国境を超えておこなわれるM&Aのことを意味します。M&Aをおこなう売り手または買い手企業のいずれかに海外企業が含まれます。

クロスボーダーM&Aの目的

クロスボーダーM&Aは、国内企業が海外マーケットを獲得する目的でおこなわれる他、海外企業が国内企業の技術を獲得する目的でおこなわれる場合が多いです。

IN-OUT取引とOUT-IN取引とは

クロスボーダーM&Aは、国内企業が海外企業を買収するIN-OUTと海外企業が国内企業を買収するOUT-INに分類されます。

IN-OUTは買い手が国内企業で売り手が海外企業となるM&Aで、従来から国内企業が欧米企業を買収するM&Aの事例が多く見られましたが、近年では成長著しいアジア各国の企業を買収するM&Aも多く見られるようになってきました。日本国内マーケットは少子化を背景に縮小傾向であるのに対し、人口が多い中国、インド、インドネシアなどの巨大な海外マーケットの獲得を目指して進出しています。

また、OUT-INは買い手が海外企業で売り手が国内企業となるM&Aで、海外企業がメイドインジャパンを高く評価し、製造業などの高い技術を獲得するために国内企業を買収する事例が見られるようになってきました。

なお、国内企業同士のM&Aについては、IN-INと呼ばれます。IN-OUT取引やOUT-IN取引は、IN-IN取引と異なり海外企業が含まれることになるため、相手国の文化、マーケット、規制、会社法や税法など、各国特有のカントリーリスクに留意しましょう。

クロスボーダーM&Aの方法

クロスボーダーM&Aの方法

それでは、クロスボーダーM&Aはどのように進められていくのでしょうか。ここからクロスボーダーM&Aの流れと手法について説明します。

クロスボーダーM&Aの流れ

クロスボーダーM&Aについても、IN-INのM&Aの流れとおおむね同様となります。売り手企業または買い手企業は、M&Aアドバイザリー会社または仲介会社と契約締結し、マッチングを依頼します。

M&Aアドバイザリー会社または仲介会社はマッチング候補を選定し、売り手と買い手企業に打診します。買い手企業は秘密保持契約に基づき、売り手の詳細情報を入手の上検討を行い、買い手と売り手が売却金額などの基本的な事項について合意し、基本合意書を締結します。次に、買い手企業がデューデリジェンスを実施し、双方で最終条件に関する交渉を行い合意に至ることにより、最終契約書を締結します。その後、資金決済などクロージング手続きを実施し完了となります。

クロスボーダーM&Aの手法

三角合併やLBOは国内M&Aでも活用される手法ですが、案件が大きくなるクロスボーダーM&Aでは活用されるケースが多い手法です。

三角合併とは、存続会社となるB社が消滅会社となるA社を吸収合併する際、消滅会社(A社)の株主に対して存続会社(B社)の株式を交付するのではなく、B社の親会社であるC社の株式を交付する合併です。合併というと2社間で行われるイメージを持つかもしれませんが、三角合併はA社、B社、C社の3社が合併にかかわることから三角合併と呼ばれています。2006年に新会社法が施行され、翌年に対価についての規定が柔軟化されたことで、OUT-INが活発に行われるきっかけとなりました。現在の会社法では、海外企業と日本企業が直接合併することができないため、海外企業(C社)が日本子会社(B社)を設立し、その日本子会社(B社)がターゲットとなる日本企業(A社)を買収するかたちで、OUT-IN取引が行われるようになってきました。

また、LBO(レバレッジド・バイアウト)とは、M&A時に買い手企業が売り手企業の資産や将来のキャッシュフローを担保として借入金を調達しM&Aを実施する方法です。LBOは、十分な自己資金がない場合であってもM&Aが可能になるというメリットがあります。特にクロスボーダーM&Aなど案件が大きい場合に活用されます。

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クロスボーダーM&Aのメリットとデメリット

クロスボーダーM&Aのメリットとデメリット

クロスボーダーM&Aにはいくつかメリットがありますが、デメリットもあるため、整理しましょう。

メリット1 M&Aそのものの利益

M&Aの代表的なメリットはシナジー効果です。買い手企業と売り手企業の双方がノウハウや顧客を共有することで、両社を単純に足し算した以上の効果を出すことが期待できます。例えば、高品質な製品を提供できる国内企業が、海外に幅広い顧客を有する海外企業を買収することによって、海外での業績を拡大できる可能性が高まります。

メリット2 スピーディーな海外展開が可能になる

国内企業は日本にはない技術や商品を有する海外企業を買収することにより、新商品開発をスピーディーに進めることが可能となります。また、海外で自社や商品を認識してもらうためには一定の時間や労力を要しますが、買収することで知名度を上げることが可能となるほか、買収する企業が顧客基盤を有している場合には、よりスピーディーな海外展開が可能になるでしょう。

デメリット

クロスボーダーM&Aを行う場合には、現地国特有のリスクが生じる場合があります。例えば、売り手企業が現地国で何らかの優遇措置を享受している場合、買収後の株主変更によって売り手企業が異なる企業グループになったものとして、優遇措置が打ち切られてしまうこともあります。また、国内企業と海外企業のM&Aであるため、企業風土やビジネス慣習が大きく異なり、海外現地企業のガバナンスが困難となることもあるでしょう。

クロスボーダーM&Aの成功には財務や国際税務知識が必要

成功には財務や国際税務知識が必要

様々なメリットが見込めるクロスボーダーM&Aですが、成功するためには一定の知識が重要になります。そこで、クロスボーダーM&Aに関する財務や税務の要点を確認ししょう。

DDを適切に行う

買い手企業と売り手企業の基本合意後、買い手企業はデューデリジェンス(DD)を行います。DDとは買い手企業が売り手企業の事業実態について理解を深め、内在するリスクを事前に調査することです。

DDは将来の事業計画についての調査が中心となるビジネスDD、財務上のリスクを洗い出す財務DD、税務上のリスクを洗い出す税務DD、労務等に関する法律リスクを洗い出す法務DDなどがあります。

海外現地国においては、会計・税務・法務など日本の規定と異なることもあり、各種DDが十分に行われない場合、買い手企業は売り手企業の簿外債務や法律上のリスクなど想定外のリスクを抱えてしまう可能性があります。

タックスヘイブン対策税制に注意

財務だけでなく、税務の知識もクロスボーダーM&Aには欠かせません。税金支払はキャッシュアウトを伴うため、企業価値評価にも重要な影響を及ぼします。

海外現地税制だけでなく、海外進出に伴う日本における税務リスクにも留意しましょう。例えば、タックスヘイブン対策税制は、日本企業が軽課税国に所在する海外子会社を通じて租税回避行為を規制する税制です。例えば、シンガポールなど実効税率が20%未満となる場合、事業実体がないなど事業上の合理性がない場合には、シンガポール子会社の所得が日本親会社の所得に合算され、日本で課税されることになります。したがって、上記のようなクロスボーダーM&Aに伴い検討する必要がある税制にも留意しましょう。

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クロスボーダーM&AはPMIも意識する

PMIも意識する

一般的なM&AもクロスボーダーM&Aもクロージングして終わりではなく、PMIという取り組みも重要です。そこで、PMIのポイントについて解説します。

鍵を握るPMIとは

PMIはPost-Merger Integrationの略語で、企業がM&Aをおこなった後の統合プロセスを指します。対象は、経営・業務・組織風土など多岐にわたり、統合効果を最大化することが目的です。

限られた時間の中でPMIに取り組んでいくために、例えば3段階に分けて考えることができます。一つ目は経営統合で、経営戦略や予算管理、人事制度などマネジメントに特化したものです。次に業務統合では、業務プロセスや人事配置などより具体的な段階に入ります。そして最後の組織風土統合では、組織風土や企業文化など個々の意識に焦点を当てて進めます。やるべきことが膨大にあるため、トップがしっかりと基本方針を提示し、PMIのマスタープランを作成することなどが成功の鍵となります。

トップを誰にするか

そこで、新体制に移行する際にトップに誰を据えるかがポイントとなります。企業の昇格人事でも候補者の中から選定するには一定期間が必要となるほか、外部から登用する場合も選定・交渉に時間がかかります。また、買い手企業から役員を派遣するケースもありますが、特にクロスボーダーM&Aの場合には海外赴任となるため、国内M&Aよりも慎重に候補者の適性を見極めることになります。したがって、PMIを視野に入れ、M&A実行時などなるべく早い段階からトップの検討・選定を進めていくとよいでしょう。

現トップの退任に注意を払う

また、現トップの引退時期や引き続き勤務する場合の条件など処遇も大切であり、条件次第では、現トップとの交渉が決裂する可能性があります。

退職する際に条件を交渉するのではなく、買収検討段階から退職時の条件についても打ち合わせしておくとよいでしょう。また、退職後に売り手企業との競業を避けるためにも、競業避止条項や勧誘防止条項への合意についてもあらかじめ確認しておきましょう。

クロスボーダーM&Aの事例

クロスボーダーM&Aの事例

それでは、実際にどのようなクロスボーダーM&Aがおこなわれているのでしょうか。ここではIN-OUTとOUT-INに分けて紹介します。

IN-OUT取引成功事例

IN-OUTとして紹介するのが、リクルートホールディングスによるHRテクノロジー分野の米国企業の買収です。リクルートホールディングスのホームページによると、2012年にindeed、2018年にはGlassdoorを買収し、オンライン求人プラットフォームやテクノロジーを活用した採用ソリューションの提供などを通じて、世界中の個人の求職活動と企業の採用活動を支援しています。

現在は60か国以上でサービスを展開しており、海外売上高比率が2012年の3.6%から2020年の44.7%と大幅に高まり、IN-OUTの成功事例となっています。

OUT-IN取引成功事例

また、OUT-INとして紹介するのが、2016年の鴻海精密工業によるシャープの買収です。かつて、日本の家電メーカーとして、世界に名を轟かせていたシャープですが、当時主力の液晶事業が行き詰まり、業績不振に悩まされていました。

そこで買収に名乗り出たのが台湾メーカーの鴻海精密工業です。クロスボーダーM&A後、1年以内と早々にシャープの「黒字化」に成功しています。

失敗事例も多いことを理解しておく

しかし、成功事例ばかりではありません。クロスボーダーM&Aをしっかり理解するためにも、失敗事例があることを理解しておきましょう。

事例の一つとして、キリンホールディングスによるブラジル企業へのM&Aが挙げられます。ビール市場に参入することによる売り上げ増加を見込み、キリンホールディングスは2011年にスキンカリオールを買収しました。

社名をブラジルキリンに変更して展開しましたが、現地の景気低迷や価格競争などが原因で想定した売り上げを下回る結果になり、特別損失の計上に至りました。2017年には、ブラジルキリン社の全株式をハイネケングループ企業へ譲渡することを発表しています。

実際にクロスボーダーM&Aを手掛ける前に慎重に現地のニーズや情勢をしっかりと把握することが重要となります。

まとめ

まとめ

クロスボーダーM&Aにはメリットがいくつかありますが、過去には失敗事例もあるため十分な検討をしましょう。また、M&Aの経験の他、財務、税務や法律などの専門知識も不可欠となりますので、経験豊富な専門家への相談が鍵となるでしょう。

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