有限責任監査法人トーマツ入所、各種業務の法定監査、IPO支援に携わる。 その後、ファイナンシャルアドバイザリーサービス部門にてM&A アドバイザリー業務・財務デューディリジェンス業務・企業価値評価業務等に従事。 組織再編によりデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に異動し、主に国内ミドルキャップ案件のM&Aアドバイザリーとして、豊富な成約実績を収める。 2018年、これまで以上に柔軟に迅速に各種ニーズに応えるべく牧田公認会計士事務所を設立し、現在に至る。本記事の監修を務める。
LOI(意向表明書)はM&Aの交渉初期から中期に交わす重要な文書です。スムーズに取引を行うためには欠かせない要素ですが、LOIがどのような場面で必要なのか分からない方もいるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、M&AにおけるLOIの重要性について紹介します。MOU(基本合意書)との違いや記載するべき内容について理解を深めて、事業や会社のスムーズな譲渡につなげましょう。
M&Aを行う際、多くの場合は最終合意に至る前にLOIという文書を作成します。ここでは、LOIを作成する目的や役割、提示するタイミングといった、基本的な知識を確認しましょう。また、混同されがちなMOUの定義についても解説しています。
LOIはLetter of Intent(レター・オブ・インテント)の頭文字をとった言葉で、意向表明書や基本合意書のことを指します。M&Aの際に買い手側が取引を希望している意向を示すときや、取引の内容について調整を図るために用いられる書類です。
M&Aを実現するには、売り手側と買い手側の双方に時間的・労力的・金銭的な負担がかかります。交渉が打ち切られた場合、双方にとって大なり小なり損失が生じます。LOIの締結は、本格的な交渉や調査に入る前に意向を確認することで、コストが無駄になることや、情報漏洩に対するリスクを回避する役割を担います。
LOIは買い手側が売り手側に買収の意向を表明するときや、M&Aを前向きに進めるため、両社が基本条項に(仮)合意したことを示す意味で締結します。多くの場合、トップ同士の面談を終えたタイミングで提示することになるでしょう。
また、具体的な交渉や調査が始まる段階で、「譲受について具体的な内容を検討したい」という意向を表明するためにも用いられます。いずれにしてもLOIの内容を基に交渉は次のフェイズへ移行する流れです。
LOIの提出後には改めてMOUを交わすのが一般的です。MOUとはMemorandum of Understanding(メモランダム・オブ・アンダースタンディング)の略で、基本合意書や覚書などと呼ばれています。
LOIでM&Aの手段や取引の諸条件を確認した後に取り交わす書類で、両社が中間地点にて合意したことを書面化したものです。LOIで買い手側が意向を伝え、MOUで売り手側と買い手側がこれまでの交渉で合意したことを表明します。
LOIとMOUは用途が似通っている部分があるため、違いが分かりにくいと感じる方もいるかもしれません。そこでここでは、LOIとMOUの相違点について順番・内容・目的の3つの視点から解説します。M&Aにおいてこの2つがどのような意味を持つのか整理しましょう。
LOIとMOUには、締結される順番に違いがあります。LOIは買い手側から売り手側へ希望を伝達するフェイズでも用いられる文書です。まず買い手側からLOIが提出され、次に交渉が済んだ後にMOUが交わされます。
ケースによってはLOIが作成されずにMOUのみとなることもありますが、MOUの後にLOIが改めて作成されることはないでしょう。まず売り手側と買い手側のトップ同士が会談し、LOIの提示によってM&Aの意向を確認します。
売り手側が交渉する企業を決定し、基本的な条件について双方の希望を取り入れたMOUを結ぶのが一連の流れです。MOUを締結する代わりに、買い手側から提出されたLOIの承諾書を売り手側から買い手側から交付するという方式を取るケースもあります。
LOIとMOUに記載される内容について、一般的には以下のような違いがあります。
LOIには買い手側の意思のみが反映されているのに対し、MOUには両方の意思と合意が反映されている点が最も大きな違いといえるでしょう。交渉の結果次第では、LOIとMOUの内容が大きく変わることもあります。また、MOUに記載される内容は両社が合意した基本的な条件であるため、その後の交渉の大きな指針になるでしょう。
LOIは買い手側が売り手側にM&Aの意向を伝える書類であるのに対し、MOUは交渉後の意思確認のために作成するという違いがあります。以下にそれぞれの目的をまとめました。
LOIは買い手側の希望を伝えるのみにとどまるケースが一般的です。一方、MOUを作成するには両社の合意が必要な点も大きな違いといえるでしょう。
LOIには買い手側の意向を伝える役割や交渉をスムーズに進める効果があります。従って、M&Aの初期段階の指針となる重要な文書であることを認識しておきましょう。しかし、場合によってはLOIを省略するケースもあります。省略できるケースを把握することで、状況に合わせた対応が可能になるでしょう。
LOIはM&Aにおいて重要性が高いため、基本的には省略することはありません。交渉を希望している競合が多い場合、買い手側はLOIで意向を伝えなければ、交渉のテーブルにつけない事態も考えられるでしょう。
買い手側が自社の存在をアピールし、M&Aのおおまかな希望を伝えるために、LOIは重要です。MOUを交わす前段階の交渉をスムーズに行う、認識の違いをすり合わせるといった役割があります。LOIを作成する効果は高いといえるでしょう。
LOIの提出は買い手側が名乗りを上げる意味を持つため、一般的には作成することが多いといえるでしょう。しかし、状況によっては省略してMOUのみを作成することがあります。具体的には以下のようなケースです。
LOIの省略は、売り手側と買い手側の意向確認ができていることが前提です。基本的にMOAには、LOIによって示される意向表明を受けて交渉し、得られた合意内容を記載します。従って省略された場合は、MOAがLOIの内容を含んでいると解釈できるでしょう。
LOIは大別して、両社が内容を確認して同時に署名する、手紙形式でやりとりをする、買い手側から売り手側へ送付するという、3パターンの形式があります。ここでは、3つの運用方法を把握しましょう。状況によって適切な形式は異なるため、それぞれについて知識を得ておくことが大切です。
LOIは実務的な必要性に応じて作成するため、形式は定められていません。種類や用途は多岐にわたり、さまざまな形式で用いられます。
両社が同時に署名をするときは、契約の内容や今後の予定、方針やルールといった基本的な事柄を確認したことを表すために作成する場合です。署名をすることで法的拘束力があると誤認されることもあるため、法的拘束力がない旨を明記することもあります。
Letter of Intentの名前の通りに、手紙の形式でやりとりをする場合もあります。以下が一般的な手紙形式での流れです。
売り手側が控えをとり、返送することで両社がお互いの署名が入ったLOIを所持している状態になります。
どちらか一方から送付する形式もあります。M&Aの交渉を希望していることを伝える目的で作成するケースが多く、この場合は買い手側から売り手側へ送付することになるでしょう。
M&Aの競合が多いときは、まずは交渉したい意思があることを確実に伝えることが大切です。一社からの送付は、買い手側が意向や希望を伝えるために用いる手段といえます。この場合、売り手側が署名や返送をする必要はありません。
LOIはさまざまな用途で作成されるため、記載内容も多岐にわたります。用途に適した内容を記載することが基本ですが、記載しておくべき事項もあるでしょう。ここからは、一般的にLOIに記載される項目を詳しく解説します。企業紹介をはじめ、秘密保持や法的拘束力といった重要事項を正しく理解しましょう。
M&Aを申し込むにあたっての自社紹介にあたる部分です。LOIを作成した企業について概要を記載します。以下は記載する事柄の一例です。
どのような目的でLOIを作成するかを明示します。具体的には、M&Aを希望する旨を伝える意志の表明やM&Aを希望する理由、目的などです。M&Aのスキーム(株式譲渡や事業譲渡など)の希望を記載して、相互理解に役立つ内容になるように作成することがポイントといえるでしょう。
想定している現段階での希望額を記載します。売り手側にとって交渉相手を選ぶ重要な指針となる項目です。
金額を記載するときは、「○○円~○○円」といったように価格帯で提示する場合もあります。この場合、下限は希望額、上限はケースによっては交渉に応じられる金額という位置付けが一般的です。基本的に競合がいる場合は提示金額が大きい方が優位に立てるため、金額は幅を持たせて提示されます。
実際の金額は、交渉の段階で変更されることも多いと認識しておきましょう。なお、本格交渉前の段階であっても、客観的に判断される額と希望額が大きく乖離することは好ましくありません。
M&Aを成立させるまでのおおまかな予定や日程を記載します。売り手側と買い手側で成立までの流れを共有することで、同じ認識で目標に向けて交渉を進められる効果が期待できます。以下は記載する内容の一例です。
この段階ではあくまで予定であるため、おおよその目安で問題ありません。詳しい日程は両社で話し合って決定することになります。希望を伝え、両社でスケジュールを共有することは、後の交渉をスムーズに進めるために重要です。
デューデリジェンス(DD)とは、買い手側がM&Aの対象になる事業や企業に対して情報収集や分析を行うことを指します。調査は、取引相手についてさまざまな観点から実施されることが特徴です。買い手側にとっては費用負担が大きくなるものの、リスク回避のために重要であるといえるでしょう。
LOIでは実施するデューデリジェンス(DD)の内容や、費用負担について記載します。また、売り手側に必要な資料の提出や、立ち会いを伴う視察の準備といった協力要請を記載しておくことも必要です。
M&Aの交渉を行う際には、取引相手の秘密情報に触れる機会が多くなります。例えばデューデリジェンス(DD)では売り手側の内部情報を入手することになりますが、判明した情報が漏洩した場合は、売り手側が大きな損害を被ることになるでしょう。
このような事態を防ぐために、LOIには秘密保持のために守秘義務条項を盛り込むことが一般的です。具体的には以下のような項目を記載します。
LOIには原則として法的拘束力は発生しませんが、項目によっては法的効力が必要なこともあります。例えば、秘密保持に関する内容は、確実に守ってもらわなければ盛り込む意味がありません。
他に法的効力を持たせるべき代表的な内容として、独占交渉権があります。独占交渉権とは売り手側が他社と交渉を行うことを禁止し、LOIの提出企業が独占して交渉できる権利のことです。
このように、法的拘束力は項目の性質によって設定の有無を判断する必要があります。必要な部分には法的拘束力を持たせ、後に交渉の場で取り決める、もしくは変化する可能性が高い内容(価格や基本的な条件)には効力を持たせないという、切り分けが重要です。
ここでは、LOIを締結する際に注意した方がよいポイントについて解説します。LOIは交渉初期の指針となる文書といえるため、作成には多くのことについて注意が必要です。売り手側と買い手側それぞれの立場での注意点を把握して、円滑な取引に役立てましょう。
売り手側は提出されたLOIの内容に問題がないか精査する必要があります。具体的には以下のような事柄です。
独占交渉権の記載がある場合は、期間中、他の買い手候補と交渉ができなくなります。そのため、独占交渉権の設定期間が長い場合は、売り手側は例外事項についての設定を求めることもあります。
買い手側は、売り手側が設定したLOIの提出期限を厳守することが大切です。ビジネスマナーの基本ともいえ、信頼性にも影響します。
ただし、提出するのが早すぎても内容が第三者に漏洩するリスクがあるため、タイミングを見極める必要があります。提出期限日当日がベストともいえるでしょう。
M&Aに限った話ではありませんが、交渉において誠実な態度で臨むことは最低限のマナーといえるでしょう。誠意を持って交渉に臨むことは無為な破談を避けることにもつながるため、礼儀の問題だけではなく実利面でも大きな意味があります。
誠実さを欠いた交渉を行えば最終的には自社の損失になると考え、互いを尊重しあった取引を心掛けましょう。
不明なことや疑問点があれば、専門家に相談することも大切です。特に買収価格の提示はLOIに記載する基本的な内容ですが、相手の事業価値を見定めて正確な価値を算出することは容易ではありません。また、売り手側の立場でも、価格をはじめ基本的な条件や法的拘束力の及ぶ範囲など、多くの事柄を精査する必要があります。
これらの分析・判断は素人にはハードルが高いかもしれません。適切なLOIの作成や提示された条件を把握するために、豊富な専門知識を持つプロのサポートをおすすめします。時間的・精神的な負担を軽減する観点からも有益です。
M&AにおけるLOIは、買い手側が売り手側に買収の意思があることを伝えるときや、両社が基本事項に合意したことを示すときに作成されることが主流です。ケースによって作成の有無や、記載する内容は異なります。LOIの提示を受けたときは、不利な項目がないか精査する必要があるでしょう。
M&Aの取引は、専門家に相談すると交渉がスムーズに進みやすくなります。LOIやM&Aについて分からないことや不安を感じている方は、大手監査法人系M&Aファーム出身の公認会計士や税理士が多数在籍するすばるへご相談ください。適切なサポートをご提供します。
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