事業再生ADRの特徴やメリット・デメリットとは?事例とともに紹介

税理士 安江一将

会計コンサルティング会社・税理士法人及びベンチャー企業2社に勤務。会計コンサルティング会社・税理士法人では税務顧問・税務申告のほかに、事業承継支援業務、組織再編業務、IPO支援業務、M&A業務を数多く実行。ベンチャー企業では管理部長・経営企画室を歴任し、上場のための体制構築・実行支援を推進する。大手コンサルティング会社名古屋支社副支社長を経て2019年8月に安江一将税理士事務所として開業した後、さらにM&A業務を推進することを目的として株式会社M&A DXに参画し、現在に至る。

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経営が行き詰まった企業が事業再生をするには、複数の手段があります。その一つである「事業再生ADR」ができた背景や特徴などの基本的な情報とともに、事業再生ADRを利用するメリットやデメリット、そして実際にこの制度を利用して事業再生を行った企業の事例と併せて紹介します。

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事業再生ADRとはどのような制度?

事業再生ADRとはどのような制度?

事業再生ADRとは具体的にどのような制度なのでしょうか。概要と制度ができた背景などの基本情報から解説します。

事業再生に関わる「裁判外紛争解決手続」

「ADR」とは「Alternative Dispute Resolution」の略で、和訳すると「裁判外紛争解決手続」という意味を持ちます。事業再生ADRは、事業再生にあたり訴訟など裁判所で紛争解決を行わずに、当事者間での話し合いを基本として公正中立な立場である第三者が関与しながら解決する手続です。

この手続は、裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(ADR法)に基づいて、法務大臣の認証を受けた事業者(認証ADR機関)によって進められます。

事業再生ADR制度が作られた背景とは

過剰債務に陥った企業は、事業再生のために融資の減額や猶予、免除を求めます。一方で、企業が倒産した場合には、債権回収が不可能となるリスクがあるため、金融機関が任意整理(私的整理)を主導します。

債権放棄となると金融機関側のリスクが高くなることから、任意整理の交渉が難しくなり紛争に発展することがあります。このような場合、法的整理が行われることとなります。

法的整理では取引先への支払いを停止しなければならず、事業再生ができたとしてもその後の取引に影響が出る恐れがあります。このような問題解決のため、2007年ADR法が施行され、事業再生ADRという制度が生まれました。事業再生ADRとは、法的整理手続ではないものの、一定の法令に基づき制度化された、企業の事業再生のための「準則型私的整理手続」の一つです。

事業再生ADRの対象となる企業

事業再生ADRの対象となる債務者には、事業規模や経営母体などの制限はありません。上場企業や、公的団体が母体となっている団体でも、事業再生ADRを利用できます。

ただし、事業再生が可能で必要としていることに加え、国内唯一の事業再生ADRの特定認証紛争解決事業者である事業再生実務家協会の手続規則に則り、以下の要件を満たすことが求められます。

・主に過剰債務により事業継続が困難で、自力再生が不可能であること
・技術、ブランド、商圏、人材等の事業基盤を有し、収益性、将来性が高いなどの事業価値を持ち、債権者の支援で事業再生の可能性があること
・法的整理手続開始の申立により著しく信用力と事業価値が低下するなど、事業再生に支障が生じる可能性があること
・事業再生ADRによって破産手続より多い回収が見込めること
・認証ADR機関の助言や意見に基づき、公正かつ経済的合理性があり法的に適合する事業再生計画案を策定する可能性があること

事業再生ADRの利用申請は増加中

事業再生ADRの利用申請は現在、増加傾向にあります。

2013年以降は一旦利用申請が減少したものの、2018年の地域経済活性化支援機構(REVIC)法の改正により地域金融機関での再生支援強化が図られたことにより、2019年までに3年連続で前年を上回る数の申請が行われています。

事業再生ADRの特徴とメリット・デメリット

事業再生ADRの特徴とメリット・デメリット

法的整理をすることなく、第三者により事業再生を図れる事業再生ADRには、以下に挙げる特徴やメリット・デメリットがあります。

事業再生ADRの特徴

事業再生ADRは、手続を中立的な第三者である認証ADR機関が行うという点が大きな特徴といえます。そして、裁判所の手続きに依らずに当事者間での話し合いで解決をするという点も、事業再生ADRの特徴です。

認証ADR機関は、第三者の立場で債権者の間に立ち、調整をします。裁判所が関与する法的整理と同じレベルでの再生が望めるという特徴を持ち、もし意見がまとまらない場合は法的整理に移行することも可能です。

事業再生ADRのメリット

先述のように、法的整理では取引先への支払停止となることがあります。一方で、事業再生ADRなら、金融機関との間での話し合いのみで進められるため、従来と同じ取引を継続しながらの手続が可能というメリットがあります。交渉は金融機関のみとなるため、「倒産」というイメージを持たれず、顧客離れを防ぎやすいでしょう。

事業再生ADRでは、金融機関からの「つなぎ融資」の借入が可能です。つなぎ融資とは、融資が実行されるまでの間の、一時資金として借りられるものです。法的整理であれば費用がかかるため、資金不足に陥ると事業再生もままならない可能性もあります。しかしつなぎ融資を利用すれば、資金不足を防げます。

また、事業再生ADRは手続が法的整理よりスピーディーなので、利用申請から終了まで最短で3カ月で手続可能です。

事業再生ADRのデメリット

メリットが多い事業再生ADRですが、いくつかのデメリットも存在します。法的整理の場合は債権者の多数決で賛成が得られれば再建計画実行ができますが、事業再生ADRは債権者全員の同意がなければ再建計画が成立しないという点はデメリットでしょう。

そして、事業再生ADRは専門家が事業再生計画を精査するため、通常の私的整理よりも手続が厳格で、その分の弁護士やコンサルティング会社などへのコストと時間がかかってしまう点もデメリットといえます。

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事業再生ADRの手続の流れ

事業再生ADRの手続の流れ

事業再生ADRの手続は、どのような手順で行われるのでしょうか。具体的な手続は、以下のような流れで行われます。

申立後、債務者と事業再生ADR事業者が協議

まず、債務者は特定認証紛争解決事業者(事業再生実務家協会)に事前相談をします。
債務者は、事業者に手続の申請を行います。その際、固定資産明細や法人確定申告書などの必要書類を提出し、事業再生ADRが利用できるかどうかの審査を受けます。審査の結果、申請に対して仮の受理が決定した場合、債務者に通知されます。

事業再生計画の作成

債務者は、事業再生ADR事業者とともに事業再生計画の作成を行います。作成した事業再生計画は、専門家の事前審査を受けます。事前審査を通過するためには、主に以下の要素が必要になります。

・破産手続を行った場合の配当額を超える弁済を提供可能であること
・再生計画が債務者の自助努力を伴うものであること。
・事業再生計画案に実行可能性があること
・債権者からの合意を得られる見込みがあること

以上の要件を満たしたものであることが確認できれば、正式に申請が受理され、債務者に通知されます。

また、事前審査には一律50万円の費用がかかり、その他にも業務委託金などの費用も必要です。

事前審査通過後、再生計画実行へ

事業再生計画案が事前審査を通過すれば、事業再生ADRの手続が開始となります。まず、すべての債権者へ「一時停止」の通知を行います。「一時停止」とは、手続き期間中に債権の回収、担保権の設定または破産手続開始、再生手続開始、会社更生開始若しくは特別清算開始の申立てをしないことです。その後、債権者会議を実施します。債権者会議では事業再生計画案の説明と手続実施者の選任をし、選任された実施者が事業再生計画案の調査をして結果を債権者会議に提出、すべての債権者から事業再生計画案の同意を得ることができれば、再生計画が実行へ移ります。

もし債権者会議で事業再生計画案に同意しない債権者がいた場合は、事業再生ADRの実施が不可能となります。その場合は簡易裁判所での話し合いとなる特定調停へ移り、特定調停でも解決しない場合は法的整理へ移ります。

事業再生ADRが実施された事例

事業再生ADRが実施された事例

利用申請が増えていることもあり、実際に事業再生ADRが実施された事例は少なくありません。大手企業においても、この手続を実施して事業再生した例が見られます。中でも有名な例として、3社での事業再生ADR実施例を紹介します。

エドウインの場合

日本の大手ジーンズメーカー「エドウイン」は2011年、資産運用の失敗により数百億円の損失を出したことで事業継続が困難となり、2013年に事業再生ADRの手続申請を行いました。このケースでは、債権者会議で金融機関の同意を得られ、約200億円の債権回収が一時停止されています。

事業再生ADRの手続を行った翌年の2014年、エドウインの大口取引先であった伊藤忠商事が約300億円の金融支援を行い子会社化、その融資で一時停止した債権への返済を行い、再建に成功しています。

曙ブレーキ工業の場合

自動車部品メーカー「曙ブレーキ工業」は、北米での取引先メーカーの次期モデル受注に失敗するなどの事業不振が原因で資金繰りが悪化したため、2019年1月末に事業再生ADRの手続を申請しました。

事業再生計画では日本国内と北米、欧州にある工場のうち計6カ所が閉鎖・売却の対象となり、世界中の全従業員の3割の3000人ほどの整理が含まれており、取引金融機関への借入金返済の一時停止を行いました。

その結果、同年9月に事業再生計画の承認を得て事業再生ADRの手続が成立しました。取引金融機関37行が債権放棄に応じ、事業再生ファンド「ジャパン・インダストリアル・ソリューションズ」から200億円の資金調達を行ったことで、資金繰りが改善しました。

JALの場合

日本の航空会社JAL(日本航空)は、1987年の完全民営化以降事業拡大を図ったものの、2008年のリーマンショックや投資の失敗などの影響により経営が傾き、2009年に事業再生ADRを申請しました。

JALのケースでは、事業再生ADRの手続が終わった後の2010年、会社更生法に移行して法的整理を行ったという流れという点が、先の2例と異なります。企業再生支援機構の支援の元で企業再生を進め、2012年に約2000億円以上の黒字を出すV字回復を達成しています。

まとめ

まとめ

事業再生ADRは、要件を満たせば企業や団体でも利用できる制度です。当事者間での話し合いのみで解決を図り、手続中でも取引も継続できること、手続がスピーディーなどのメリットがある方法なので、経営困難となった企業の再建手段の一つとして今後も利用が見込まれます。

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