人材派遣業界の今後
人材派遣業界について知識を深めるために、現状と今後を分析することをおすすめします。人材派遣業界は顧客のニーズや働き方が多様化しており、柔軟な対応が求められます。ここでは、人材派遣業界における今後について解説します。人材派遣業界の動向が気になっている方は、参考にしてください。
ニーズに合わせた人材派遣が重要
厚生労働省によると、2021年の派遣労働者数は約156万人であり、2020年と比較すると0.2%減少しています。一方で2020年の派遣労働者数は約157万人で、2019年と比較すると17.3%増加しています。人材派遣を求める企業は人材不足に悩んでいます。また、2015年に制定された「労働者派遣法改正法」により、派遣社員と派遣先の正社員間での不合理な賃金格差が解消され、政府が掲げる「働き方改革」を推進する取り組みが実現しました。
人材を派遣する業界によっては、技術やノウハウの有無が成果に直結するような専門性が高いものがあります。
人材派遣を受け入れる企業は、人材派遣会社によって抱える人材の得意領域が異なることから業務によって使い分ける場合があります。
また、企業の競争環境は日々変化していることから、新規ビジネス立ち上げに特化した人材を早急に集めたいなどニーズもあります。
そのため、今後の人材派遣業界では、専門性と企業の多様化するニーズに柔軟な対応ができることが求められる可能性があります。
また、コロナウイルス影響で分野や業種によって、今後人材派遣のニーズが増減すると考えられます。
参考 厚生労働省「労働者派遣事業の令和元年6月1日現在の状況(速報)」
「労働者派遣事業の令和2年6月1日現在の状況(速報)」
人材派遣業界の役割は?
ここからは人材派遣業界がどのような役割を担っているかを紹介します。人材を派遣することが人材派遣業界の職務ですが、ただ働ける人材を紹介すれば良いということではありません。
人材派遣会社は、人材を派遣・斡旋することに加えて、人材をマネジメントする役割も担っています。人材を求めている企業と派遣社員、どちらの要望も考慮しつつ、双方の合意を形成していくことが求められています。
派遣社員を求めている企業の要望に、少しでも人件費を抑えたいケースが考えられます。反対に派遣社員は、同じ仕事をするならば、少しでも多くの給料がほしいと考えられます。両者が合意できる点を探ることも、人材派遣業界が担う役割と考えます。
人材派遣業界が抱える課題は?
人材派遣業界にも解決しなければならない課題があります。ここからは、人材派遣業界が抱える問題「景気に左右される」「AI化の進行」「雇用構造の変化」をご紹介します。
景気に大きく左右されてしまう
人材派遣業界は、景気に大きく左右される業界です。前例として、リーマンショックの際に「派遣切り」が社会問題となりました。
景気が好調なときには、どの企業も積極的に人材を受け入れますが、不況時になると採用する体力がなくなる企業が出ます。内定の取り消しや派遣切りなどが発生し、人材派遣業界に大きな影響が及びます。リーマンショック前後では、7兆7,892億円から6兆3,055億円に市場規模が縮小しました。
参考:日本人材派遣協会「派遣の現状」
AI化が進行している
野村総合研究所は、2015年時点で「20年以内に日本にある職業のうち、約49%がAI化される」と推計しました。AI化の対象なる業界は、必ずしも特別の知識・スキルが求められない職業に加え、データの分析や秩序的・体系的操作が求められる職業については、人工知能等で代替できる可能性が高い傾向がある発表しています。
AIにより自動化できる単純作業を代行する派遣の需要が減り、人同士のコミュニケーションが必要となる職種に注目が集まります。
参考:株式会社野村総合研究所「日本の労働人口の 49%が人工知能やロボット等で代替可能に」
雇用構造が変化している
雇用構造の変化も、人材派遣業界に影響を与えています。働く女性の増加や、従業員の高齢化など
働き手の意識も変化し、企業に頼るだけではなく、副業などにより自身だけでお金を稼ぐ方法を模索している方も現れ、派遣労働者として人員を獲得しにくくなる可能性があります。。
政府も副業・兼業の促進に関するガイドラインを制定し、企業も働く方も安心して副業・兼業を行うことができるようルールを明確化しています。
参考:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」
人材派遣業界でM&Aを行うメリット
人材派遣業を営んでおり、今後の派遣業界への不安を抱える方は、M&Aによる売却を検討実行することも手段のひとつです。逆に、体力のある企業は、人材派遣業を買収することで事業拡大を検討することもおすすめです。ここからは、売手と買手それぞれのメリットを紹介します。
売手が得られるメリット
人材派遣業の売却には、以下5つのメリットがあります。
1. 従業員の雇用を継続できる
2. 経営が安定する可能性がある
3. 主力事業に集中できる
4. 創業者利潤を獲得できる
5. 後継者問題の解消
赤字が進み会社が倒産となると、従業員は職を失い、取引先との商流がなくなります。しかし企業や事業を第三者に譲渡することで、商流や従業員の雇用を守ることができます。
また、売却対価を得ることで創業者利潤を得たり、人材派遣事業が不採算の場合、売却により経営が安定する可能性があります。また、多角経営している企業においては人材派遣業を売却することで主力事業に経営基盤を集中できます。後継者がいない企業の場合は、売却することで新しい経営者を迎えられる可能性があります。
買手が得られるメリット
人材派遣業界は景気に左右される企業です。そのため、景気回復に応じて人材派遣業界の市場規模も拡大する可能性があります。人材派遣業の買収により、事業拡大を期待することもできます。人材派遣業を買収する側には、以下2つのメリットがあります。
1. 事業の拡大
2. 人材の獲得
まずは事業の拡大ができるということです。一から新規事業に乗り出すよりも、ある程度の基盤が作られた企業(または事業)を買収して開拓した方が、スピーディに事業拡大できます。また、売手が抱える派遣労働者を獲得でき、新規事業としての参入や既存事業の強化が図れます。
M&Aで売手が確認すべきポイント
人材派遣業を売却する場合には、注意しなければならないこともあります。条件の交渉や合意形成が甘いとM&A実行後に売手と買手でトラブルが生じる可能性があります。ここでは、人材派遣業の売却にあたって、事前に確認しなければならないポイントを3つ解説します。
競業避止義務が発生する
会社法では、第21条で「事業を譲渡した会社は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から二十年間は、同一の事業を行ってはならない。」と定められています。また、事業譲渡ではなく株式譲渡等の場合でも、交渉の結果、一定期間の競業避止義務が課されることが一般的です。
人材派遣業を売却した場合、その先一定期間は、同じエリアで人材派遣に関わる事業をおこなってはいけないので、注意してください。
事業譲渡の場合、許可を継承できない
事業譲渡によるM&Aにおいては労働者派遣事業の許可などの許認可は継承できません。
買手が、人材派遣に関する許認可を持っていない場合、買手は、株式譲渡によるM&Aを実行するか、労働者派遣事業の許認可を申請する必要があります。
個人情報漏洩のリスクがある
人材派遣業の場合、登録者のマイナンバーや履歴書、住所といった個人情報が登録者の数だけあります。M&Aをおこなう際は、個人情報が外部に漏洩しないよう、注意を払います。
また、M&Aを検討していることが従業員に漏れることも避けるべきでしょう。「経営難ではないのか」などの憶測が飛び交い、混乱を招く事態にも発展しかねません。
M&Aにおける交渉
売手も買手も、自身が出す条件に近い状態でM&Aを実行したいと思うものです。そのためには、相手と交渉し、合意形成します。細かな条件面の詳細を詰めずに、契約を結ぶと後のトラブルの原因となる可能性があります。ここでは、交渉をスムーズにするためのポイントを解説します。
スケジュールに配慮する
M&Aがスムーズに実行された場合であっても、〜6ヶ月ほど最終契約・クロージング(資金決済)まで要します。
スケジュールを意識した交渉が、スピーディーにM&Aを完了させるための肝となります。
問い合わせへの迅速な対応
相手からの問い合わせに対する対応のスピード感も、肝要です。買手と売手、どちらの立場であっても、問い合わせに素早く対応するよう心がけることをおすすめします。
また質問に素早く答えることは、相手からの信用にも繋がり、交渉がよりスムーズになるでしょう。M&Aの各工程において、必要となる資料などは、事前に準備しておくことをおすすめします。
自社のアピールをしつつ、誠実な対応を心がける
より好条件で、事業を売却するためには「自社のアピール」が欠かせません。しかし、ここで確認したいのは、自社のアピールポイントと買い手のニーズがマッチしているのかという点です。
買手がM&Aをおこなうことで、どのような効果を期待しているのか想定し、自社をアピールすることをおすすめしまします。また、その際も、信用を得るために、誠実な対応を心がけてください。
人材派遣業界の課題を解決するならM&Aを検討しよう!
人材派遣業界における今後や課題点について解説しました。業界の将来性を考えてM&Aをおこなう方もいらっしゃるでしょう。より円滑にM&Aを完了するには、専門家に相談することをおすすめします。