相続税の対象となる財産とは?相続税の控除なども紹介_前編

税理士 安江一将

会計コンサルティング会社・税理士法人及びベンチャー企業2社に勤務。会計コンサルティング会社・税理士法人では税務顧問・税務申告のほかに、事業承継支援業務、組織再編業務、IPO支援業務、M&A業務を数多く実行。ベンチャー企業では管理部長・経営企画室を歴任し、上場のための体制構築・実行支援を推進する。大手コンサルティング会社名古屋支社副支社長を経て2019年8月に安江一将税理士事務所として開業した後、さらにM&A業務を推進することを目的として株式会社M&A DXに参画し、現在に至る。

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本記事では、相続税の対象となる財産にどんなものがあるのか、またその価格はどうやって評価されるのかといった点について解説します。これらの論点は、一見シンプルなことのように思えますが、実はけっこう複雑なところがあります。本記事でその基本を理解してください。

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相続税となる相続財産の原則

「相続税の対象となる財産はどんなものか」と聞かれたら、「亡くなった人(被相続人)が生前に持っていて、死後にその家族などが相続などで受け取った財産」だと考えるのが普通でしょう。

ところが、実はこれは正確ではないのです。

もちろん、上記の財産は相続税の対象となる財産の中心なのですが、それ以外にも相続税がかかる財産があります。また、上記に含まれているものでも、相続税の対象外となる財産もあります。そこで、まずどんな財産が相続税の対象となるのか、ならないのかを見ていきましょう。

被相続人が遺した財産のうち、相続税の対象となる財産には、たとえば次のようなものが存在します。

・現金
・預貯金
・上場株式や投資信託などの有価証券
・自社株などの非上場株式
・貸付金
・不動産(土地、建物)
・動産(自動車、貴金属など)

これらは一例で、この他にも経済的な価値のある財産があれば相続税の課税対象となります。

ここで問題になるのが、現金や預貯金など、価値がはっきりしているものはよいのですが、不動産や動産など「時価」がいくらなのか、はっきりとはわからないものは、なんらかの基準で評価しなければならないということです。
相続税を考える場合には、この「財産評価」という考え方が必ずついてまわることを覚えておきましょう。相続財産評価についてのくわしい考え方は、後編で解説します。

相続税の対象とならない、例外的な相続財産

被相続人が亡くなった時点で持っていた財産であっても、例外的に相続税の対象とならないものも存在します。次のようなものです。

・仏壇や仏具、墓地、墓石など

ただし、仏壇や仏具などのうち非課税となるのは、日常礼拝をしているなど、祭祀に用いられているものに限定されます。極端にいえば、亡くなる1か月前に、1億円で純金の仏像を作っていたとしても、それは非課税財産としては認められないということです。

・相続人が相続で取得した財産のうち、国や地方公共団体、公益を目的とする事業を行う特定の法人に対して相続税の申告期限までに寄附をした金額、など

相続財産を受け取った相続人が、その財産を国など特定の団体に寄付をすれば、寄付した金額については、相続税は非課税になるということです。

他にもいくつか細かい規定がありますが、一般的な人に関係するのは上記の2点でしょう。

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亡くなった人の財産ではないのに相続税の対象となる「みなし相続財産」とは?

一般的なご家庭での生命保険は、被相続人となる人(たとえば、お父さん)が「契約者」(保険料を支払う人)となり、自分を「被保険者」(保険の対象)として、自分が死亡した際の保険金は、相続人(たとえば、お母さんや子ども)が「受取人」となる、という形で加入することが多いでしょう。

このとき、お父さんが亡くなったあとに支払われる死亡保険金は、民法上の「相続財産」ではありません。これらは被相続人が所有していて、直接相続人などに渡される財産ではないためです。

しかし、相続財産ではないからといって、この保険金を相続税の課税対象から外れてしまえば、財産の大半を生命保険契約につぎ込むなどして簡単に課税逃れができてしまいます。こうしたことが認められては、課税の公平を保つことができません。そこで、相続税法では一定の財産を相続財産と「みなす」ことで、特別に相続税の対象としているのです。これを「みなし相続財産」といいます。

この規定により相続財産とみなされて、相続税の対象となっているものには、主に次のものが存在します。

・死亡退職金(本人の死亡を契機にして、会社から遺族に支払われる退職金)
・被相続人が保険料を負担していた生命保険契約の死亡保険金
・被相続人が保険料を負担していて個人年金を受け取っていたが、保証期間の途中で亡くなったために相続人等が継続して受け取ることとなった個人年金
・信託受益権

みなし相続財産は、受取人固有の財産

これら「みなし相続財産」は、原則として「受取人の固有の財産」です。そのため、受取人の指定がある生命保険金や、支給対象者が規程で定められている死亡退職金であれば、その指定された受取人等が、遺産分割協議(他の相続人との話し合いや承諾)を経ることなく単独で受け取ることが可能です。

また、法定相続人が一定の相続財産を受け取る権利として定められている「遺留分」からも対象外になっています。

ただし、相続税の計算上は、相続財産にふくめて考えらます(相続財産としてみなされます)。権利としては「受取人の固有の財産」ですが、課税対象としては、他の相続財産と同列に扱われて総合して課税されるというところがポイントであり、ややこしいところです。注意してください。

生命保険金と死亡退職金には非課税枠がある

みなし相続財産のうち、生命保険金と死亡退職金にはそれぞれその相続全体での非課税枠が定められています。非課税限度額は、次のように計算をします。

非課税限度額:500万円×法定相続人の数

ここで「法定相続人の数」は、「保険金を受け取った人の数」ではない、という点に注意してください。下記の例でご確認ください。

(例1)

法定相続人が1人。生命保険金4,000万円を受け取った人は、その1人のケース。
 非課税枠=500万円×1人=500万円
 生命保険金4,000万円-非課税枠500万円=3,500万円が課税対象

(例2)

法定相続人が3人、そのうち、生命保険金4,000万円を受け取った人が1人のケース。
 非課税枠=500万円×3人=1,500万円
 生命保険金4,000万円-非課税枠1,500万円=2,500万円が課税対象

非課税限度額は、生命保険金と死亡退職金にそれぞれ別枠で定められています。生命保険金と死亡退職金の両方にそれぞれ非課税限度額を適用することも可能です。

(例3)

法定相続人が3人、そのうち、生命保険金4,000万円を受け取った人が1人。死亡退職金2,000万円を受け取った人が1人のケース。
 生命保険金の非課税枠=500万円×3人=1,500万円
 生命保険金4,000万円-非課税枠1,500万円=2,500万円が課税対象
 死亡退職金の非課税額=500万円×3人=1,500万円
 死亡退職金2,000万円-非課税枠1,500万円=500万円が課税対象。

なお、この非課税枠が利用できるのは、法定相続人が生命保険金や死亡退職金を受け取った場合のみです。たとえば内縁の妻など法律上の相続人ではない人が取得した死亡保険金等には、非課税の適用はありません。

注意!相続が発生していない生前にもらったものが、相続税に対象になることも

相続税の対象となるのは、被相続人の死後に渡されたものだけとは限りません。被相続人が生前、相続人に贈与した財産が相続税の対象となるのが、次の2つの場合です。

相続開始前3年内の一定の贈与があった場合

被相続人が亡くなる前の3年以内に贈与を受けた一定の財産は、相続税の計算上足し戻されて、相続税の対象となります。

ただし、この規定により相続税の対象とされる贈与は、「相続や遺贈等で財産を取得した人」が受けたものに限定されます。たとえば、お父さんが亡くなる1年前に財産の一部を贈与された子が、お父さんが亡くなった後に相続財産を取得したとき、亡くなる1年前にもらっていた財産も、相続税の計算に含める、ということです。

一方、相続や遺贈で何も受け取らなかった人が受けた贈与は、たとえ亡くなる3年以内におこなわれたものであっても足し戻しの対象とはなりません。たとえば、お父さんが亡くなる1年前に財産をもらっていたのが子の子(孫)だとすれば、通常、孫は相続人にはなりませんので(子が亡くなっているなどの例外を除き)、遺贈をしない限り相続財産を受け取れません。そのため、亡くなる前1年以内に、孫が贈与された財産は相続税の計算上足し戻されることはないということです。

(参考)

ちなみに、近い将来相続税と贈与税は一体化させる方向で改正が進んでいくといわれています。その一環として、近い将来には、相続の際に足し戻しの対象となる贈与が、現在の3年以内から10年以内程度にまで拡大される可能性もあるものと思われます。
不確定ではありますが、法改正の動きに注意を払う必要があると同時に、もし贈与を考えているのなら、早めに実行したほうがいいでしょう。

相続時精算課税制度を使った贈与

贈与への課税制度には、毎年110万円までの非課税枠を利用できる「暦年贈与」と、累計2,500万円までの非課税枠が設けられ、相続時にまとめて課税が精算される「相続時精算課税制度」とがあります。
相続時精算課税制度を活用した贈与は、その名のとおり、もともと相続時に精算するということで、贈与時の非課税枠が設けられているものですので、それが何年前の贈与であっても、贈与税非課税となっていた部分はすべて相続時に足し戻され、相続税の対象となります。

なお、暦年贈与、相続時精算課税制度については、「贈与税とは?贈与税と相続税を整理する相続時精算課税も解説!」でくわしく解説していますので、そちらもご確認ください。

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相続で取得した財産から差し引ける「マイナスの財産」

ここまでは相続税の対象となる財産について解説をしてきました。
一方で、相続税計算の際に、財産から控除(差し引くこと)が可能な金額もあります。

被相続人の債務や未払金

相続人は被相続人の財産だけではなく、借金などの「マイナスの財産」も引き継ぐことになります。下記に示すようなマイナスの財産を引き継いだ場合は、相続税額の計算上、相続財産から控除できます。

・被相続人の借金(住宅ローンも含む)
・医療費などの未払金
・死亡時点で未払いとなっていたクレジットカード残高
・分割で支払っていた固定資産税などの未払い税金

なお、被相続人が生前に購入した墓や仏壇などの相続税が非課税である財産について未払代金があったとしても、これは債務控除の対象とはなりません。

被相続人の葬儀費用

被相続人の葬儀などにかかった費用のうちも、相続税の対象となる財産から控除をすることができるものがあります。

・葬儀会社等に支払った葬儀費用
・火葬や埋葬、納骨をするためにかかった費用
・遺体や遺骨の回送にかかった費用
・お通夜にかかった費用葬式
・葬式に当たりお寺などに対して読経料などのお礼をした費用

なお、次のものは控除の対象となりません。


・香典返しにかかった費用
・墓石や墓地、仏壇などを相続後に購入した場合の費用
・葬儀とは別日に行う初七日や四十九日法事などにかかった費用

香典が収入として課税対象とならない一方で、香典返しの費用も債務控除の対象とはなりません。また、墓地等を生前に購入した場合には墓地等への相続税が非課税となる一方で、相続が起きてから購入をしても何ら控除の対象とはなりません。

相続放棄の意義と、その手続き

相続と聞くと、財産を受け取ることをイメージする場合が多いかと思います。しかし、相続の対象となるのは、いわゆる財産(プラスの財産)のみではありません。借金などマイナスの財産も相続の対象になるのです。たとえば、借金を承継した相続人は、その後、被相続人に代わって借金を返済していかなければならないのです。
そして、プラスの財産「だけ」を相続するということはできません。
それでも、たとえば預金2,000万円と借金1,000万円を相続したとしたら、差し引き1,000万円のプラスなので、相続人も納得できるでしょう。

では、相続財産が預金1,000万円(プラスの財産)と借金2,000万円(マイナスの財産)だったらどうでしょうか? この場合は、プラスの財産とマイナスの財産を差し引きすると、マイナス1,000万円となります。それならば、相続をしないほうがましです。このような場合には、相続を放棄することが可能です。

「相続の放棄」は、家庭裁判所へ申述をして認められることで、初めから「相続人ではなかった」ことにされる、非常に強い効力を持つ手続きです。

当然、相続放棄をすると、マイナスの財産のみならずプラスの財産も一切相続することができなくなります。借金だけを放棄して預貯金は相続するなどということは認められません。

また、相続放棄には期限があり、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に手続きをする必要があります。さらに、期限内であっても誤って財産を処分してしまうなど単純承認とみなされる行為をしてしまうと、もはや相続放棄が認められなくなってしまいます。

相続放棄を検討している場合には、すぐに専門家へ相談して適切な対応、手続きを取ることが肝要です。

まとめ

まとめ

相続税の対象となる財産には、見落としやすい財産などもありますので、申告から漏らしてしまわないよう注意しましょう。
後編記事では、財産の評価方法や、生前にしておくべき対策などについて解説します。

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