合併とは
ひとくちに「合併」といっても、種類はさまざまです。また似たような言葉として、「買収」「提携」「統合」なども存在します。
合併はビジネスにおいてどのような意味合いをもつのか、しっかりと把握しておきましょう。合併の定義とほかの手法との違いを詳しく解説していきます。
合併とは?
ビジネスにおいて合併とは、2つ以上の法人をひとつに統合することを指します。合併することで、新たにひとつの法人格となります。詳しくは後述しますが、合併には「吸収合併」と「新設合併」があり、それぞれの合併方法で法人の立ち位置が大きく異なるのがポイントです。
似たようなものに「買収」や「提携」などがありますが、これらの方法では法人格の消滅は起こりません。合併は、法人同士の結びつきが最も強い方法です。
簡易合併とは?
合併は、「簡易合併」と呼ばれる方法で行われるケースがあります。簡易合併は、株主総会の承認を得ずに合併できます。
合併は、原則として株主総会における合併契約の承認が必要です。上場企業など多くの株主がいたり反対株主がいたりする場合は、「合併に手間がかかる」「合併自体ができない」などの問題が生じる場合もあります。
そのようなとき、簡易合併であればスムーズな合併が可能です。簡易合併を行うには「消滅会社の交付する資産の金額が、存続会社の純資産の5分の1以下であること」という条件を満たす必要があります。
また、合併に反対する株主が存続会社の総株式数の6分の1を超えた場合は、株主総会の省略はできません。存続会社で差損が発生する場合や存続会社が譲渡制限会社で譲渡制限株式を割り当てる場合も、省略できないので注意しましょう。
略式合併とは?
簡易合併以外に、略式合併という方法もあります。簡易合併と同様に、株主総会の決議がなくても合併が可能です。
略式合併では、存続会社となる親会社が、消滅会社となる子会社の10分の9以上の議決権を保有している場合に子会社側の株主総会を省略できます。吸収合併するときのみに認められており、新設合併には認められていません。
すでに支配権が高いため、株主総会を開く必要がなく、合併する側の会社の規模が大きく、合併しても存続会社への影響が少ないと判断されたときに株主総会を省けます。
合併と買収の違い
合併と似たような言葉に、「買収」があります。買収は広義的な概念であり、企業がほかの企業を支配することを総称して呼ばれます。そのため、買収の一スキームとして合併があり、その他スキームとしては株式譲渡が一般的であり、企業がほかの企業の発行済み株式を買い取る手法です。株式譲渡の場合、株式を100%完全に保有しても被買収企業は消滅しません。
合併の場合は、消滅会社は残りません。ひとつの会社として事業活動を継続していくことになります。
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合併の種類
ここまで、合併の方法やほかの手法との違いを解説してきました。簡易合併と略式合併は、合併にいたる手続き上の手法の違いです。
ここからは、再編した組織の違いによる2種類の合併について解説します。合併には、大きく分けて「吸収合併」と「新設合併」の2種類があります。会社が置かれている状況や目的などによって、どちらかの種類を選択します。それぞれで特徴が異なるので、しっかりと把握しておきましょう。
吸収合併
吸収合併とは、一方の存続会社がもう一方の消滅会社を丸ごと取り込む合併です。消滅会社の資産や負債、権利、義務などすべてを存続会社に承継します。吸収合併後は、消滅会社は清算となり事業活動は継続しません。
大規模な会社が小規模な会社を吸収したり、親会社が子会社を吸収したりするなど、吸収合併は多くのケースで実施されています。親会社が子会社を吸収合併することにより、コスト削減やシナジー効果を生むなどのメリットを享受できます。
吸収合併にともない消滅会社の株主は、合併の対価として存続会社から金銭などをもらいます。存続会社は、現金や株式、社債などで交付可能です。
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新設合併
新設合併の場合は、新しく会社を設立することになります。吸収合併では存続会社が消滅会社の資産や負債をすべて取り込みましたが、新設合併は新しい会社に資産や負債を移します。
吸収合併の場合、消滅会社側の従業員は「吸収された側」となり、立場が弱いと感じてしまうこともあります。世間的にも「消滅会社は経営状態が悪かったから吸収された」と思われるかもしれません。
新設合併であれば、新たな会社で平等な合併というアピールができ、社員のモチベーションが下がりづらかったり、消滅会社側の社会的イメージのマイナスということが起きずらかったりします。
新設合併は、吸収合併と比較して実際に行われた事例は少数です。しかし、さまざまな機能を有した会社をまとめて新会社を設立することで、事業をより効率化できることはメリットといえるでしょう。
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吸収合併と新設合併の違い
吸収合併と新設合併の大きな違いは、「許認可」や「免許」が引き継がれるかどうかです。吸収合併の場合、存続会社が有する許認可や免許は承継できます。そのため、今まで行っていた事業を合併後もスムーズに続けられます。
新設合併の場合は、許認可や免許の承継はできません。新設合併をしたのであれば、新たに許認可や免許を取得する必要があります。
合併前に上場企業であった場合、吸収合併であればそのまま上場した状態でいられます。新設合併であると上場廃止となってしまうため、再度上場するには再審査が必要です。
合併時の「登録免許税」にも差が生じます。吸収合併では、資本金が増加した部分のみに税金が発生しますが、新設合併は資本金すべてが課税対象です。新設合併は、吸収合併よりもスタート時に多くの手間がかかると考えておきましょう。
企業合併するメリット
企業合併すると、さまざまなメリットを享受できます。企業合併した際の大きなメリットは、「経営を一元化できる」「資金力を強化できる」「信用力を強化できる」の3つです。
これら3つのメリットを享受すれば、さらに力強い事業活動が可能になります。激しい競争で生き残るために、企業統合を検討する会社が多いのも頷けます。それぞれのメリットを詳しく見ていきましょう。
経営を一元化できる
企業統合すれば経営を一元化できるので、事業の効率化や収益力の拡大を見込めます。経営の一元化には、「共通部門の一元化」と「事業展開の一体化」の2種類があります。
合併によって複数の会社で共通している部門をひとつにまとめることで、コスト削減が可能です。コストを削減した結果、効率的で無駄のない事業活動ができるようになるでしょう。たとえば、業務で使用するシステムをひとつにすれば、システム管理料を削減できます。
合併する会社が有している顧客や販売網、資材の仕入れ先などを一体化すれば、さらに大きく事業展開できる可能性が高まります。取引先が増えることで、今までよりもビジネスチャンスが拡大することがメリットです。
資金力を強化できる
合併することで資金が増加する場合は、今までよりも資金繰りが楽になる可能性があります。仮にグループ会社であったとしても、会社間でのお金のやり取りは一工夫する必要があります。お金のやり取りをする場合は、「配当」「貸付金」「経営指導料」などとして名目を明らかにする必要があります。課税されるケースも多く、事前に十分な検討をする必要があります。
合併をした場合は同じ組織になるため、資金の移動は容易です。口座間の移動に過ぎないため、資金移動の妨げになる障壁もありません。資金が必要になればスムーズに移動ができるので、機動力のある事業活動ができます。よりいっそう安定感が増し、健全な経営をできるようになるのが大きな強みといえます。
信用力を強化できる
合併により、財務状態が改善する場合には、信用力を強化できるのも大きなメリットです。合併すると会社の規模は大きくなります。資金力も改善すれば財務的な信用力も高まります。
一般的に合併は経営状態が良好で成長性のある会社が行うことが多いため、世間的にも合併にポジティブな印象を抱きやすいのもポイントです。存続会社においては、「合併できる経営状態のよさ」を世間に印象づけられ、財務的な信用力とともにブランドの信用力も向上します。
信用力が上がることで、顧客や取引先が新たに増える可能性も高まるでしょう。今後の事業活動がしやすくなり、経営力を高めることにもつながります。
【関連記事】企業合併のメリットやデメリットは?買い手・売り手ごとにも解説!
企業合併するデメリット
企業合併するメリットがあれば、デメリットもあることを把握しておきましょう。目先の利益のみを追って合併をすると、事業活動がうまくいかないおそれがあるので注意が必要です。
合併によるデメリットを軽減したり回避したりできるのか、合併を延期したほうがよいのかなどについて、しっかり検討しておきましょう。企業合併することのデメリットを詳しく解説していきます。
合併コストがかかる
ひとつめのデメリットは、合併時にかかる多額のコストです。株主への支払いや、各会社の業務や人材を融合するための費用がかかります。
複数の会社をひとつにまとめる場合、業務システムの統合が必要です。既存のシステムを使用する場合、新たな要素の追加や修正など、システムメンテナンス費用が発生します。まったく新しいシステムを導入するならば、多額の導入費用を支払わなければいけません。
合併の際は、消滅会社の社員をそのまま雇うケースが一般的です。存続会社と消滅会社のうち給与水準が高いほうに合わせることが多いため、その分人件費が増加します。合併によって資本金が1億円を超えた場合、納税額が上がる可能性も把握しておきましょう。
また、合併には複雑な知識や手続きが必要なため、各ステップで専門家への依頼も必要になるでしょう。合併前にはコストを正確に計算しておき、合併で得られる利益との比較が重要です。
意思疎通が難しくなる
合併して組織が巨大になることで縦割り構造が強くなってしまい、部門間の意思疎通が難しくなることがあります。縦割り色が濃くなると、競争意識が高まりやすくなります。会社全体の意思疎通や協調性が低下する可能性もあります。
会社全体で意思疎通が難しくなると、全社としての目標や将来的なビジョンを共有しづらくなります。進む方向もバラバラになりやすく、効率的に利益を上げられなくなる可能性もあります。
縦割りで協調性がなくなると、社員同士の交流や能力の高め合いが起こりにくく、会社全体のレベルアップが図れません。モチベーションの低下によって生産性が落ち、離職率が上がることも考えられます。合併後は、意思疎通をしやすい環境づくりが重要です。
時間的・精神的な負担がかかる
合併前後は、通常の業務を行いながら新しい従業員とのすり合わせやコミュニケーション、自分が行う業務の確認などさまざまな手続きをする必要があります。時間的にも精神的にも負担が増えるでしょう。時間外労働の増加も考えられます。
社員の不安やストレスの発生も懸念材料となります。合併によって職場環境が変わることで、慣れない環境での業務にストレスが増加するかもしれません。また、新しい従業員になじめないという問題もおこりえます。
ストレスを抱えたままだと、モチベーション低下によって生産性も下がります。合併して収益が下がっては元も子もありません。合併後は、従業員の負担を軽減する措置が必要です。
合併手続きの方法
合併を完了するには、さまざまな手続きをしなくてはいけません。会社にとっては大きなイベントとなるため、誰か一人の意思だけで合併を進めることはできず、段階を踏んで進めていく必要があります。合併の手続きは、大きく分けて10段階です。
それぞれの手続きはどれも重要です。慎重かつ確実に実行していきましょう。ここからは合併の手続き手順について詳しく見ていきます。
1.合併の準備を行う
合併を実行するためにまずすべきことは、合併の準備です。債権者への詳しい説明や、合併契約書の作成が必要となります。
会社法では、合併など組織再編をする際に影響を受ける債権者がいる場合は、組織再編を実施する旨を知らせなければいけないと決まっています。さらに、債権者が異議を述べる機会を作る必要があるため、債権者保護手続きをします。
合併契約書は、その名のとおり合併に関する契約書です。「法定記載事項」を記載しなければ契約書が無効となってしまうので注意しましょう。
2.取締役会の承認を得る
合併契約の締結前に、当事会社の業務執行決定機関で合併契約の締結に関する承認を得なくてはいけません。合併は、会社の今後の事業活動に大きく影響を与える重要なイベントです。そのため、取締役、取締役会の承認が必要になります。
取締役会を設置している会社であれば、取締役会の承認を得ることが一般的です。取締役会を設置していない会社の場合、取締役の過半数による決定が必要となります。承認されたら、次の手続きへと進みます。
3.官報公告の掲載の申し込みをする
取締役会での承認を得られたら、官報公告の掲載を申し入れます。複数の会社がひとつになる場合、法律で合併公告が義務付けられています。合併公告をする場合は費用がかかりますが、公告をしないと罰則対象となるので注意しましょう。
官報に掲載する際は、以下の項目等を確実に載せなければなりません。
・合併公告である旨
・最終貸借対照表
・当該事業所の名称
・当該事業所の所在地
・会社代表者
申し込み方法は、「郵送」「インターネット」「FAX」「事務所へ来所」などの方法があります。都合のよい方法で申し込みましょう。
4.合併契約の締結をする
取締役会の承認が得られ、官報公告の掲載申し込みが済んだら、当事会社間で合併契約の締結を行います。合併契約の締結は、合併の準備期間で作成した合併契約書を使用します。
ここまでの段階で、債権者保護手続きの準備や取締役会の承認などを行っています。しかし、まだ株主総会決議での承認決議は行われていません。そのため、当事会社間で合併契約の締結をしても、まだ効力は発生していないことになります。この段階で合併が完全に決定しているとはいえないので注意しましょう。
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5.債権者へ催告をする
次に、債権者へ個別催告を行います。個別催告の対象とする債権者は、金銭的に重要であるかどうかは問われていません。条文上は、影響が少ない少額の債権者に対しても個別催告が必要とされています。
個別催告を行うと手間がかかるため、少額の債権者に対しての個別催告は省略したいと考えることもありえます。しかし個別催告を省略した場合、債権者から「個別催告が行われなかった」として、合併の無効を主張されるといったトラブルの発生も考えられます。催告する債権者を限定した場合、トラブル発生のリスクがあることを把握しておきましょう。
6.事前開示書類の備置をする
事前開示書類の備置をとらなければいけません。株主や債権者が権利を行使する際に必要となるさまざまな情報を提供するという意味合いから、設置が義務付けられています。
「合併契約の内容」「対価の相当性に関する事項等」「法務省令で定めた一定事項」が記載された書類を、本店に備える必要があります。
備置期間は、以下のうちいずれか早い日から、合併の効力発生日後6か月を経過するまでと定められています。
・株主総会日の2週間前の日
・株主に対する通知日・公告・催告の日のいずれか早い日
・新株予約権者に対する通知、または公告の日のいずれか早い日
7.株主総会決議を実施する
当事会社の株主に対して株主総会収集通知を送付した上で、株主総会決議の開催が必要です。株主総会決議とは、株主総会において合併契約の承認決議を行うことを指します。
会社法で、株主総会決議による合併契約の承認は、合併の効力発生日の前日までに行うことが定められています。なお、簡易合併や略式合併の場合、要件を満たしていれば株主総会決議での承認は必要ありません。
8.消滅会社の決算を行う
合併により法人格がなくなる消滅会社に関しては、決算をしなくてはいけません。消滅会社は、合併の効力が発生する日の前日を決算日として会計処理を行い、最終的な決算書を作成して税務申告をします。存続会社は合併自体の会計処理が必要ですが、消滅会社に関しては必要ありません。
9.合併の登記申請手続きを行う
合併の効力が発生したあとの手続きは、合併の登記申請手続きです。登記申請書に必要な事項を記載し、法律で定められた書類を提出期限までに法務省へと提出します。
存続会社は、合併の効力が発生した日から2週間以内に法務局で手続きを済ませなければいけません。その際、ほかの必要書類とともに「変更登記申請書」を提出します。
変更登記申請書には、「登記の理由」「登記すべき事項」などを記載し、収入印紙を貼付して提出します。
10.事後開示書類の備置をする
合併の登記申請手続きが完了したら、最後に事後開示書類の備置を行います。合併の効力が発生してから、6か月間本店に備置しなくてはいけません。事後開示書類には、以下のような内容を記載します。
・合併の効力が発生した年月
・合併の消滅会社における手続きの経過
・会社法の規定による手続きの経過
・存続会社が承継した、消滅会社の重要な権利義務に関する事項
・消滅会社が備え置いた書面に記載された事項
・合併による変更の登記をした日
・本合併に関する重要な事項
など
法務や税務の視点から見た合併の注意点
ここまでご説明したとおり、合併は非常に複雑なM&Aの手法であり、実施にあたってはいくつか注意すべきポイントがあります。この章では、法務上および税務上注意すべき点をご紹介します。
合併の際注意する点(法務)
●株主総会の決議を省略できないケース
<簡易合併の場合>
合併によって存続する方の会社の交付金額が純資産額の5分の1以下の場合、簡易合併となり株主総会開くことを省略できます。手続きが一つなくなるため、よりスムーズに合併によるM&Aを進めることが可能となります。ただし、存続する会社に対して反対株主が総株式数の6分の1を超えるなど、特定のケースでは株主総会を省略できません。
<略式合併の場合>
親子会社の間で合併を行う場合、親会社が子会社の議決権を90%以上持っていると、子会社の株主総会決議を省略して合併することができます。ただし、子会社が消滅する場合、存続会社の差損が発生する場合などは、略式合併には該当しないため、株主総会決議を経る必要があります。
●不適当な合併等への該当
上場企業が自社よりも事業規模の相対的に大きな非上場企業と合併する際には、「不適当な合併等」に該当するリスクがあるため十分注意しなくてはいけません。
不適当な合併等とは、上場企業が非上場企業と合併する際に、上場企業が実質的な存続会社とは認められないケースを意味します。具体的には、合併後に上場会社に実質的な存続性が見られず、なおかつ一定の期間内に新規上場の審査に準じた審査に適合しないと、その上場企業は上場廃止となります。
合併の際注意する点(税務)
●適格合併と非適格合併の分類
合併を税務上の観点から分類すると、適格合併と非適格合併の2つに分けられます。適格合併では、合併される法人の資産や負債は簿価で合併法人に算入されることになり、移転損益は計上しません。一方、非適格合併では、合併される法人の資産や負債は合併の際に時価で引き継がれ、移転損益は合併される法人の最終事業年度において課税所得の一部と見なされます。
適格合併と非適格合併それぞれに該当する条件は、以下の3つとされています。
1.合併実行後も完全な支配関係が継続している
2.合併の実行前・後ともに半分程度の支配関係が継続している
3.共同事業を営んでいる
●繰越欠損金の取扱い
適格合併をする場合は、消滅する会社の繰越欠損金を存続会社に引き継ぐためには一定の要件が必要になります。繰越欠損金が発生している会社を合併し、繰越欠損金を悪用した租税回避を防ぐため、たとえ適格合併でも、合併会社間の支配関係が5年間継続していない場合は、消滅会社が持っている繰越欠損金の引継ぎには制限がかかります。また、消滅会社にだけ繰越欠損金の引継ぎを制限した場合は、存続する会社と消滅する会社を入れ替えれば租税回避ができてしまいます。そのため、存続会社側であっても繰越欠損金の使用には制限が課されています。
●逆取得
合併の実施に際しては、逆取得に該当し、会計処理が通常とは変わってくるリスクもあります。逆取得とは、存続企業とは異なる方の会社が取得企業となる状態です。たとえば、消滅会社の株主が合併後に存続会社の支配株主に入れ替わるケースなどが該当します。存続会社が取得企業となる本来の合併(通常取得)とは逆の状態であることから「逆取得」と呼ばれます。
逆取得に該当する合併の場合、前述した通常取得とは異なる会計処理が求められるので注意を要します。具体的には、被取得企業となる存続会社において、取得企業の資産および負債を帳簿価額で受け入れます。通常取得とは異なり、時価評価は行わないことがポイントです。
なお、逆取得の状態を避ける上では、一度株式譲渡のスキームで対象企業を買収し、子会社化してから吸収合併する方法が有効です。売り手企業の株主は対価として現金を受け取れるメリット、買い手企業は条件を満たすことで適格合併を行えるメリットが得られます。
企業合併の事例
これまで、数多くの企業合併が行われてきました。特に大手の企業であると、合併が起こるたびにニュースでも取り上げられるため、目にしたことのある方もいるかもしれません。
ここからは、企業合併の事例5件を紹介します。それぞれの企業で合併をした目的は異なり、企業合併によりどのような効果を得られるのかが分かります。
ユニー・ファミリーマートホールディングス株式会社の事例
株式会社ファミリーマートは2016年にユニーグループ・ホールディングス株式会社を吸収合併し、「ユニー・ファミリーマートホールディングス株式会社」と社名を変更しています。
もとのユニーグループ・ホールディングス株式会社は、「サークルKサンクス」などを傘下に置いていた企業です。ファミリーマートとの合併で、コンビニエンスストア業界3位のファミリーマートと4位のサークルKサンクスがひとつになりました。
2018年11月に、サークルKサンクスからファミリーマートへのコンビニエンスストアブランド統合が完了しています。店舗数が増加してスケールメリットを得られた事例です。
伊藤ハム米久ホールディングス株式会社の事例
2016年4月に、伊藤ハム株式会社と米久株式会社が経営統合をしています。両社で持株会社となる伊藤ハム米久ホールディングス株式会社を設立し、傘下に入りました。
ともに業績が好調なタイミングでの経営統合であり、経営統合後の売上高は6,000億円を達成します。当時業界3位のプリマハムの売上高を超える勢いでした。
2社の経営統合の背景には、国内市場の縮小や中国などの食料需要増に対する懸念があります。「シナジー効果」「新商品の開発領域拡大」「原価低減と収益性アップ」を目的として行われました。
(参考:『日本経済新聞 伊藤ハム・米久が経営統合発表 「新興国の食欲」再編促す』)
RIZAPグループ株式会社の事例
RIZAPグループは、合併、買収等を繰り返して失敗した事例となります。失敗してしまった理由は、短期間で大きく成長させようとしたことです。
RIZAPグループは、「美容、健康関連事業」「アパレル関連事業」「住関連ライフスタイル事業」「エンターテイメント事業」の4事業を軸として事業展開してきました。しかし、軸の事業が分からなくなるほど合併、買収等を繰り返します。
合併や買収した企業を短期間で立て直すことで利益を得ようと計画していましたが、次々に合併、買収等を行ったことで立て直す時間がなくなり失敗が続いています。合併、買収等においては、企業調査と統合後のマネジメントが重要です。
株式会社ロッテホールディングスの事例
2018年4月1日に、株式会社ロッテホールディングスは3子会社の合併を行いました。菓子やアイスを製造する子会社の株式会社ロッテを存続会社とし、菓子販売の株式会社ロッテ商事とアイス販売の株式会社ロッテアイスを吸収合併しています。
お菓子やアイスに関する製造・販売をひとつの会社にまとめることにより、意思決定の迅速化を目的として合併は行われました。「挑戦できる風土」「自由に話し合える環境」「個の能力の発掘」の3つが生まれることを予想し、会社に新鮮な風を吹き込ませる期待をもっています。
(参考:『産経ニュース ロッテHD、4月に3子会社合併』)
株式会社ADKホールディングスの事例
もともとの会社である株式会社アサツーディ・ケイは、まずは複数の子会社を3つの事業会社に統一しました。3つの事業会社とは、マーケティング業の「株式会社ADKマーケティング・ソリューションズ」、コンテンツ作成の「株式会社ADKクリエイティブ・ワン」、プロモーションの「株式会社ADKエモーションズ」です。
2019年1月に持株会社である「株式会社ADKホールディングス」を設立し、3つの事業会社を傘下においています。ネット広告などの市場環境の急速な変化に対応するため、スピーディーな経営判断を目的として行われました。専門性を強化することで、収益性がさらに高まることもメリットです。
(参考:『日本経済新聞 ADK、持株会社に 再上場へ備え』)
合併手続きを依頼するなら「M&A DX」へ!
ここまで解説してきたように、企業合併を行うと多くのメリットを享受できます。複数の会社がひとつになることで「経営の一元化」「資金力の強化」「信用力の強化」が達成でき、よりいっそう企業の経営力強化につながるでしょう。
合併の手続きは煩雑であり手間がかかります。専門的な知識も必要となるため信頼できる専門家に依頼すると安心です。
M&A DXは、経験と実績を積んだ「公認会計士」「弁護士」「税理士」「金融機関出身者」が在席する総合M&A会社です。合併に関する豊富な知識やノウハウをもつ専門家が、M&Aを仲介し力強くサポートします。
これまでに多くのM&Aのサポートを行い、十分な実績を有していますので安心してお任せいただけます。合併手続きは、ぜひ信頼のM&A DXにご依頼ください。
まとめ
合併することのメリットは計り知れません。合併がうまくいけば、経営力が強化され、今まで以上に収益を上げられる可能性を秘めています。
一方で、「合併コストが発生する」「意思疎通が困難にある」「時間的、精神的負担が発生する」などのデメリットがあり、その対策をしっかりととらなければいけません。
合併手続きを自分たちだけで行うこともできますが、手間や負担を削減したいのであればM&A DXの仲介サービスをご利用ください。大手監査法人系M&Aファーム出身の公認会計士や弁護士、税理士など、業界のプロフェッショナルが力強くサポートいたします。
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