株式譲渡契約書取り交わしの流れ
株式譲渡契約書の取り交わしを終えるまでの期間は、約1か月前後が目安となります。その間に、株式譲渡承認請求と社内合意、契約書の取り交わし、株式名義の書き換えまで行います。株式を譲渡する際は専門的な知識が必要になるため、注意して進めるようにしましょう。
1.株式譲渡承認請求と社内合意
株主が株式を譲渡する際は、会社に対して株式譲渡承認請求をします。承認を得る必要があるケースは、会社の定款に株式の譲渡制限が設けられている場合に限ります。上場していない企業は基本的に制限があるため承認請求を行いましょう。
会社側は承認請求があったら取締役会(株主総会)を開いて譲渡を承認するかどうかの合意形成を図ります。株式を譲渡した後でも承認が得られれば会社に対して対抗することが可能なことも覚えておきましょう。
2.株式譲渡契約書の取り交わし
株式を譲渡する側と譲り受ける側とで契約を結ぶ際に作成するのが「株式譲渡契約書」です。株式譲渡契約書には、譲渡する株式の数、その対価といった内容を記載します。
加えて、契約日まで譲り受ける相手以外の第三者に株式を譲渡しない旨や簿外債務等が発生した場合の損害賠償について記載して表明保証とするケースがあります。問題が生じないように、想定できるリスクを回避するための文言を記載しておきましょう。
3.株式名義の書き換え
株式の譲渡手続きが完了したら、株式の譲渡に関わった当事者が共同で会社に対して株主名義の書き換え請求をしましょう。名義を書き換えていないと、譲り受けた側は会社に対して株主の立場を主張できません。必ず書き換えの手続きを済ませましょう。
株式譲渡契約書を取り交わす前に確認しておくこと
ここでは、株式譲渡契約書を取り交わす前に確認しておくべきポイントをご紹介します。確認を怠ると、手続きを誤ったり譲渡した株式の権利を行使できずに無駄になったりするリスクが生じます。不備なく契約を完了させるために確認事項を把握しておきましょう。
株券発行会社か株券不発行会社かを確認する
契約書を取り交わす際には、株券発行会社か株券不発行会社かをチェックすることが必要です。どちらなのか明確にせずに契約すると、契約書が無効になってしまうおそれがあります。
両者の違いは、株券を発行する旨を定礎に記載しているかどうかです。株券発行会社は買い手に対して株券を交付しなければなりません。しかし、株券不発行会社は必ずしも交付する義務はありません。どちらなのかを見分けるには定礎で確認するのが原則ですが、会社の登記事項証明書も参考になります。
2006年5月1日より前に設立した法人の場合、登記事項証明書に何も記載されていなければ株券発行会社、「株券不発行会社」であると記載されていれば株券不発行会社です。それ以降に設立した法人の場合、何も記載されていなければ株券不発行会社、「株券発行会社」であることが書かれていれば株券発行会社となります。
譲渡制限がないかを確認する
譲渡制限がある会社とない会社では何が異なるかというと、株式を譲渡する際に会社の承認が必要かどうかです。譲渡制限がある場合、株式を発行している会社の承認が必要になります。一方、譲渡制限がなければ承認は必要ありません。ちなみに、制限がある会社を非公開会社、制限がない会社を公開会社と表現することもあります。
登記事項証明書で確認するときは「株式の譲渡制限に関する規定」をチェックしましょう。この項目には発行した株や制限の詳細が書いてあります。
【関連記事】株式譲渡制限会社(非公開会社)とは?メリット・デメリットを解説!
株式譲渡の目的を明確にする
目的を明確にしないままでいると、リスクが生じたり得られる利益を逃してしまったりする恐れがあります。どうして株式を譲渡しようとしているのか、譲渡によってどのようなメリット・デメリットがあるのかといったことをしっかりと理解した上で譲渡しましょう。
法律で規制がかかっていないか確認する
法律で規制がかかっていると、株式取得までに時間を要したり届け出が必要になったりする場合があります。
たとえば買い手が外国人投資家の場合は外為法に該当するため、譲渡前後に届け出が必要なケースや契約書に規定や条項を追加しなければならないケースが出てきます。また、独占禁止法に該当する場合には、買い手の届け出受理後30日間は株式を取得できないという規定があります。
株式取得後の揉め事を避けるためにも、法律で規制がかかっているかどうかをチェックしておきましょう。
実際に働いている人の処遇を決める
中には従業員の処遇に影響を与えるケースもあるでしょう。譲渡後に代表取締役が退任したり役員のポジションが変更になったりするときは、その処遇の詳細を契約書に記載した方がよい場合もあります。
会社にとって人材は貴重な存在です。優秀な人材が流出してしまうような状況を避けるためにも、契約書には細かく記載しましょう。
株式譲渡契約書の雛形(テンプレート)
ここでは、不備のない契約書を作成するための雛形をご紹介します。そのまま使用することはおすすめしませんが、参考としてみてはいかがでしょうか。それぞれの項目についてポイントを解説していくので、要点を把握しながらチェックしてみてください。
1.合意内容
契約書の合意内容の部分には、株式を譲渡する会社の名前や住所、譲渡する株式の数、譲渡金額、株式の種類といった内容を記載します。
「譲渡人●●(以下「甲」という)と譲受人 株式会社●●(以下「乙」という)とは、株式の譲渡に関し、次のとおり契約を締結する。」
「対象会社の発行可能株式総数は、●●●株であり、発行済株式総数は●●●株であり、その全てが適法かつ有効に発行され、全額払込済みの普通株式であること。」
代金をいくらにするか無償にするかといったことは、買主と売主の合意さえあれば自由に決められます。ただし、実際の株式の時価と譲渡代金に差異が生じている場合は注意が必要です。課税の問題があるため、税理士に相談しておくといいでしょう。
2.株式譲渡の代金と支払方法
代金の支払方法、支払期日を記載します。支払方法は前もって当事者同士で相談しておくと安心です。手数料が発生する場合はどちらが負担するのか明確にしておきましょう。
また、支払期日をはっきりさせることも大切です。期日が明記されていないと、トラブルの原因になるおそれがあります。認識のずれが生じないように設定しましょう。すでに代金の支払いが発生している場合、領収書としての性格があるため印紙を貼る必要がある点に注意が必要です。
「乙は、本件株式に係る全ての株券の引き渡しおよび本件株式の株主名簿上の名義を甲から乙に書き換えるために必要な書類の交付を甲から受けることと引き換えに、甲に対し、本件株式の譲渡代金を、令和●年●月●日までに甲の指定する方法で支払うものとする。ただし、支払日については、本件株式の受渡日にかかわらず、手続きの進行に応じ、必要あるときは、甲・乙協議のうえ変更することができるものとする。」
3.表明保証の内容
保証内容は契約ごとに大きく異なります。何を表明保証するかは、企業ごと契約ごとに設定する内容が変わるからです。買主が表明保証をする例としては次のような文となります。
「買主は、本契約の締結及び本契約に基づく義務の履行、並びに本株式譲渡の実行について、買主に適用のある法令等又は買主の定款その他の内部規則に基づいて必要とされるすべての内部手続を完了していること。」
売主も上記と同じように当事者で話し合って表明保証の内容を記載しましょう。
「丙が簿外の債務を一切負担していないこと。」
表明保証の内容に関しては、売主は保証を制限する傾向に、買主は充実した保証を要求する傾向にあります。どちらも契約後の揉め事を回避したいという意図があるため、両者で十分に話し合って双方の希望・妥協点を落とし込んだ表明保証を記載することがポイントです。契約後に発生しうるリスクを想定して両者が納得のいく契約をしましょう。
4.契約解除の事由と損害賠償
契約解除については、解除を認めるケースと解除した場合にどのような処理を行うのかを明確にしておくことが大切です。解除を認める事由は、会社の倒産、譲渡の承認が否認された場合、代金の未払い、表明保証内容との相違といったことがあります。
契約書に記載した解除の事由に該当することが起きた場合、売主側は買主側に譲渡代金を返還する、解除の原因となった責任の所在がある当事者に損害賠償請求できるといった旨を記載しておく必要があります。
5.合意管轄
合意管轄とは、万が一問題が発生したときにどこの裁判所の管轄にするかを合意で決めることです。合意管轄を規定していないと、遠方同士の取引の場合、裁判のときにどちらかが想定外に遠方から移動することになります。労力や交通費がかかり、体力的にも金銭的にも負担が大きくなってしまいます。こちらについてもきちんと話し合っておきましょう。
【譲渡制限株式の場合】譲渡承認手続きについて
譲渡制限株式の場合、会社の承認を得る必要があります。株主総会もしくは取締役会で承認を得ないと、無効になる場合もあります。書類の不備も無効の原因になりうるため注意が必要です。
承認を得ることを表明保証として記載したり承認されなかった場合の対処について記載したりすることで、想定できるリスクを避けましょう。
【株券不発行会社の場合】株主名簿の書き換え請求について
株式を譲渡した場合、会社が株主名簿の書き換えを行わなければなりません。売主から買主に株主名簿の名義を変更しなければ、買主は株主であることを対抗できなくなります。
書き換え請求についても契約書に明確に記載しておくことが大切です。契約した内容が無効になっていることと同義になる恐れがあります。
【懸念がある場合】売主が同種の事業を始めるのを禁止する事項
売主に懸念がある場合、売主が譲渡した事業と同種の事業を行うことを禁止する事項についても記載しておくとよいでしょう。
株式を譲渡した側は事業のノウハウを蓄積しているため、それを活用して同じ事業を始めるとライバルになる可能性が高くなります。株価や経営に影響を与えることも考えられるので、そういった点にも注意して契約書を作成しましょう。
そのほか記載を考えておく事項
そのほかに契約書への記載を検討する事項としては、公表の有無、商号の使用、諸費用、準拠法といったことが挙げられます。
公表するかどうか、商号を継承して使用するかどうか、そのほかの費用を細かく記載して、当事者同士の認識にずれがないようにすることが大切です。特にクロスボーダー案件では準拠法を別途入れるケースがあることも覚えておきましょう。
もちろん、これらすべてを盛り込まなければならないわけではありません。しかし、必要に応じて追記しておくと、将来的なトラブル防止に役立ちます。
株式譲渡契約書作成のポイント
株式譲渡契約書を正しく作成するのは簡単ではありません。不備があると、予期せぬ損害賠償を請求されるケースもあります。ここでは、株式譲渡契約書を作成する際に押さえておきたいポイントをご紹介します。納得のいく契約ができるように、ぜひ参考にしてみてください。
保証の内容を作成するときのポイント
保証の内容を作成する際、買主か売主かによって注意するポイントが異なるので、それぞれについて解説します。
買主は可能な限り保証の内容を充実させることがポイントです。特に会社の外部の人間が株式を購入する場合、会社の内部事情が完全には分からずに購入することになるため内容を充実させる必要があります。一方、会社の内部の人間が買主となる場合、事情を把握しているので保証は薄くても問題ありません。
売主はできる限り保証の内容を制限したいと考えるでしょう。将来、損害賠償のリスクを負うおそれがあるため、表明保証を薄くすることもひとつの方法です。受け入れられない内容があれば、買主と相談して表明保証内容を回避することも検討しましょう。
有償取引・無償取引の違いによる注意点
株式の取引には有償取引と無償取引の2種類があります。それぞれ契約書に記載する内容が異なるため、違いを把握しておきましょう。
有償取引の場合は金銭の授受が発生します。株式を譲渡することと引き換えに代金を受け取ることで取引が完了する旨を記載する必要があります。金額と支払期日が明記されていればトラブルの回避にもつながります。
無償取引の場合は金銭の授受は発生しません。そのため、株式を譲渡した後に対価として金銭を請求しないことを記載します。
株式譲渡契約書と印紙
株式譲渡契約書には印紙を貼らなくてはならない場合もあります。印紙を貼ることで契約書の性質が変化します。契約書の性質を把握することは、不備のない契約書を作成することにもつながります。契約後にトラブルが生じないように基本的な知識を身につけましょう。
株式譲渡契約書とは何か
株式譲渡契約書とは、株式の買い手と売り手が譲渡と条件に合意したときに取り交わす書類のことです。
契約書があれば、株式が買い手に譲渡され、株主であることを証明できます。基本的には譲渡をしたことを証明するものとして活用が可能です。契約書がどのような役割を果たしているのかを把握しましょう。
株式譲渡契約書取り交わしで印紙が必要か
株式譲渡契約書を取り交わすとき、印紙は必ずしも必要ではありません。必要になるケースは既に代金を受領している記載がある場合に限られています。
一般的に株式譲渡代金の支払いは契約後に行います。ただし、契約前に代金を支払う場合もあり、そのときは印紙を貼る必要があります。印紙を貼ることで金銭を受領した証明書としての性質を持つようになります。
株式譲渡契約の規制
金融商品取引法
上場会社の株式を、証券市場を通さずに直接売買(相対取引)で取得する場合、インサイダー取引規制・開示義務に引っかからないよう注意しなければなりません。
インサイダー取引とは、会社にとって株価が大きく変動するのが決定的なほど重大な出来事が、内輪の関係者またはそれに近い一部の人たちにしか知られていない段階で、抜け駆けして売買し、こっそり儲けようとする行為のことで、懲役5年もしくは500万円以下の罰則となる経済犯罪です。
外国為替および外国貿易法
この法律は、外国人であっても日本企業の株式取得が原則として自由であることを定めています。ただし、一定範囲の取引で、外国人投資家が日本株の譲渡を受けるとき、財務大臣やその会社の事業を所管する省庁の大臣・長官への事前届け出を定めています。
英文株式譲渡契約書の作成はプロの仕事
海外の企業を相手に株式譲渡を行う場合、英文で契約書を作成する必要があります。インターネットで検索すると英文の雛形が出てくるため、そちらを参考に作成する方もいるかもしれません。
しかし、雛形をそのまま使用すると、自分自身が把握していない問題が発生する場合があります。英文契約書を作成する際、どのようなことに注意すべきかご紹介します。
素人仕事で大失敗する英文契約書
素人が英文の契約書を作ると失敗するおそれがあります。英語に精通している社員がいれば、その人の力を借りて作成する方法もあるでしょう。
しかし、注意しなければならないのは、ただの翻訳ではなく英語や準拠法への深い理解が必要になるということです。中途半端な理解で契約書を作成して手続きを進めてしまうと、足元を見られて不利な条件を飲まされるリスクがあります。
ある会社では契約の更新を拒絶したところ、ペナルティは発生しないが一定の条件を満たすと補償責任を問われると契約書に書かれていることに後で気づき、補償金を支払う事態になったケースもあるとのことです。
株式譲渡契約書を依頼するプロが信頼する翻訳家の力が必要
英文契約書でトラブルに見舞われないためには、契約書を作成するプロが英文・準拠法に精通しているか信頼する翻訳家に依頼することをおすすめします。英語への理解が深く外国の法律事情にも詳しい方に依頼すれば、契約直後はもちろん、数年先に起こりうる問題も未然に防げます。
契約に関連するトラブルが発生すると多額の費用が必要になります。そのような事態を避けるためにも、プロの力を借りてしっかりと対策しましょう。
株式譲渡契約書で起こりうるリスクはプロの力を借りて回避する
株式譲渡契約書を作成するには専門的な知識が必要になります。相手が法人の場合は特に利害関係もあるため、契約書の内容を通じてトラブルに発展するケースは多々あります。グローバル化が進み海外の企業と契約を交わすこともあるかもしれませんが、海外の企業ほど注意が必要です。
契約書によるトラブルは大きな問題に発展する可能性があります。契約を取り交わす段階でプロの力を借りて、起こりうるリスクを回避することが大切です。
まとめ
ここまで、株式譲渡契約書の基本的な内容から具体的な作成方法、注意点まで細かく解説してきました。
契約書の内容に問題があると、契約前後はもちろん、契約して数年経ってからトラブルになる可能性があります。契約書によるトラブルは発生してから対処してもすでに遅く、多大な損害を負うことも考えられます。株式譲渡契約書によるトラブルを避けるためにも、プロの力を借りてリスクを最小限に押さえることが大切です。
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