社長年齢の高齢化
近年、全国的に社長の平均年齢がどんどん高齢化しています。
これには様々な要因が考えられますが、高齢社長の事業承継が進んでいないことが最も大きい要因であると言われております。社長の事業承継が進んでいない要因も様々ありますが、一番は後継者不在と言われています。
この傾向は今後しばらく続くとみられ、このまま廃業が加速してしまうと莫大な経済損失が発生すると試算されています。
データで見る社長の平均年齢
調査業務大手の株式会社東京商工リサーチの調査によると、2018年の全国社長の平均年齢は前年より0.28歳伸びて61.73歳であったとのことです。また、中小企業庁の調査によると、年代別の中小企業経営者年齢の分布は下表の通り、どんどん高齢化していることがわかります。
中小企業庁HP「第2部 深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命」より抜粋
1995年の経営者年齢のピークが47歳であったのが、2015年にはピークが66歳になっているとのことです。
これらの指標から、30代40代の青年層の起業・独立・開業はそこまで増加していないものの、20年前まで40代であった社長が60代となったことにより、平均年齢が増加していることがわかります。
社長の高齢化によるパワーの低下
厚労省が公開した「平成29年簡易生命表」では、日本人の平均寿命は男性で81.09歳、女性で87.26歳と共に過去最高を更新しています。また、政府が提唱する一億総活躍社会にて定年年齢の引き上げ等が実施され、ますますご高齢の方がお元気にパワフルになられています。
個人的な印象としても、私が子供の頃の60歳70歳と、今の60歳70歳では全く見た目が違い、今は非常に若々しい方が多い印象です。
このようにご高齢の方がお元気になられている一方、社長はどうでしょうか。
社長は元来、非常にパワフルでお元気な方が多い人種です。
また前述の通り、昔の60歳70歳の社長と比べると、今の60歳70歳の社長は皆さん若々しい方が多いのではないかと推察しております。
そんなお元気な社長でも、ご自身の20年前や10年前と比べて、今の方が元気でパワフルといえるでしょうか?
もちろん昔の60歳70歳と比べて、今の60歳70歳の方がお元気なことに異論はありませんが、やはり自身の昔と比べて、今の方が元気という方はそう多くないと思われます。これは、人間誰しも年齢を重ねるため、やむを得ないことです。
ただし、企業経営では、やむを得ないでは済まされません。
中小企業では、大なり小なり社長のパワーに依存している、左右されることがあると思います。
そのため、社長のパワーの低下が企業のパワーの低下となってしまう会社も、これまで数多く見てまいりました。
家族だけで運営しており、子供も手が離れてそれなりに貯金もあるので廃業するというケースであれば、それでもいいかもしれません。しかし、そのような場合においても、廃業により取引先が困ってしまうケースが想定されます。また、家族以外の社員・従業員がいる場合は、廃業によりその社員・従業員は職をなくし、さらにはそのご家族までもが生活に困ってしまうかもしれません。
しかし、現実には70代以上の廃業のケースは増加しております。
これをデータで見ると、休廃業・解散企業の経営者年齢構成比も下表の通り、70代以上の割合がどんどんと高くなってきています。
中小企業庁HP「第2部 深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命」より抜粋
これは、経営者が高齢化していることもありますが、後継者不在により会社を継続することが困難で、休廃業・解散しているケースが多いためかと思われます。
なぜ後継者がいないのか
それでは、なぜ後継者がいないのでしょうか。
ここでは、私がこれまで数多く手掛けた事業承継案件で、なぜ後継者がいないのかという実例を紹介します。
これをご覧いただければご自身も思い当たる節があるかもしれません。
【ケース1:お子様がいらっしゃらない】
多くの中小企業では、まずは親族内、特に家族内で事業を承継出来ないか検討するケースが多数です。ただ、お子様がいらっしゃらない家庭も多く見受けられます。この場合は、一般的な事業承継の形であるお子様に家業を承継させるということが出来ず、後継者不在という状況となります。
【ケース2:お子様が女性しかいない】
最近では女性の社会進出がますます進んでおり、女性社長・経営者も増えているのではないかと実感しております。
しかしながら私が遭遇したケースでは、お子様が女性しかおらず、皆さんご結婚等で家業には関与していないというケースが散見されました。社長の親心として、お子様特に女の子に大変な思いをさせたくないと仰って、家業を継がせないという社長もおりました。
この場合もまた、後継者不在の状況となります。
【ケース3:お子様が家業と関係しないことをしている】
お子様はいらっしゃるものの、お子様全員家業と関係しないことをしているケースも数多く実例としてあたりました。お子様は様々なことをされていますが、よく実務上見る例は以下の通りです。
✓ 社長が大変な姿を幼い頃から見てきたので、自身はサラリーマンとなった
✓ 医者や弁護士等の資格を取って、資格業でご飯を食べている
✓ お子様はお子様で別の事業を行い、そちらが軌道に乗っているので、家業を継ぐつもりはない
こちらは一例ですが、このようにお子様が家業と関係しないことをしており、後継者不在の状況となるケースもよく目にします。
【ケース4:会社内で社長の後任を選ぶことが出来ない】
ご家族内で事業承継が見込めない場合、次に会社内で社長の後任を担える後継者がいないか検討する場合があります。しかし、以下理由により、会社内の役員や社員・従業員に事業承継することが難しいケースが多数となります。
01. そもそも社長の後任に足りうる能力を持った人材がいない
やはり中小企業は大なり小なりオーナー社長のワンマンのパワーで成り立っているケースがあります。
そのような会社においては後継者の育成が疎かになり、会社内で後任足りうる能力を持った後継者が育っていないケースが多数です。
02. 会社内で社長をやりたがる人材がいない
長年会社を運営していると、いわゆる右腕と言われる人材がいるケースがあります。また、右腕とまではいかなくても優秀で熱意のある若手・中堅社員がいるケースもあります。
しかし、そのような方々が一概に社長をやりたがるかというとそうとも言い切れません。まず、中小企業では多くの社長が金融機関に対して個人保証や自宅を担保に入れたりしていますが、そこまでして社長になりたくないという声はよく耳にします。
また、右腕の方に熱意があったとしても、社長と同様に高齢となっているケースがあり、真の意味で事業承継問題の解決と言えないケースがあります。
03. オーナーの創業者利潤の確保が出来ない
親族内で事業承継をすれば、会社の経営権がご親族に移るので、これは一つの解決策になります。また、親族外への事業承継としてM&A(エムアンドエー)をした場合は、会社の経営権(株式)を譲渡することに伴い金銭対価を受領し、創業者利潤を獲得することが出来ます。
一方、会社内で後任を選定した場合は、後任の資力によるものの一般的にはそこまで資力がないことから、創業者利潤を獲得することが難しいケースが一般的です。その後は、顧問報酬や配当金で少しづつ創業者利潤を享受していくことになりますが、多額の金銭は望めないことや社長の死去どのように取り扱うか等、問題が山積みのままとなります。
ここでは、よくある後継者不在のケースを例示列挙しました。
そのため、後継者不在というのは様々なケースで起こりうるということがおわかりいただけたのではないでしょうか。
事業承継をしなくてはいけない理由
それでは、なぜ廃業ではなく事業承継をしなくてはいけないのでしょうか。
前述の通り、単に廃業してしまっては社長自身のExit機会を喪失するだけではなく、会社に関与しているあらゆる方にも影響が出ます。
以下主な理由を列挙し、これにより事業承継をしなくてはいけないと言われております。
オーナー社長のExit機会の喪失
オーナー社長は、廃業してしまうと、創業者利潤を獲得する機会を失います。廃業した場合は、資産負債を全て現金化し、残余財産があれば分配することになります。場合によっては、連帯保証の影響により、有利子負債の返済に迫られるケースがあります。
そのため、廃業をしてしまうとM&A(エムアンドエー・Merger and Acquisition)や上場した際に得られる創業者利潤を獲得する機会を喪失してしまいます。
従業員の雇用
廃業してしまうと、従業員が職場をなくしてしまいます。
この影響は従業員だけではなく、従業員のご家族の生活も脅かしてしまう可能性があります。そのため、従業員がいらっしゃると、簡単に廃業という選択肢を取ることが難しくなります。
取引先への影響
廃業してしまうと、取引先にもご迷惑をかけてしまう可能性があります。
得意先には、自社の製品やサービスが提供出来なくなり、スイッチングに時間や余分なコストが発生したり、最悪の場合はスイッチングが出来ないケースもあります。また、仕入先に対しても、仕入先にとって自社が大口の取引先の場合は、仕入先の会社運営継続に支障をきたすケースがあります。
事業承継の選択肢
それでは、事業承継をする際にどのような選択肢があるのでしょうか。
ここでは、事業承継の選択肢を下表のフローチャートに沿って、説明します。
ケース1:親族内で承継
まずは、親族内で後継者がいる場合は、親族内で事業承継することが日本では一般的となっております。
この時に留意しなくてはいけないのが、後継者の意思や能力が、事業承継後の企業価値向上に資する人材として足りうるのかという点です。後継者となり事業承継したものの、二代目・三代目として企業運営を行っていく気概やヤル気に乏しい方もいらっしゃいます。
ただし、親族内での承継は、他の社員・従業員から二代目・三代目として受け入れられやすいというメリットがあることは間違いないかと思います。
ケース2:社員に承継
親族内で後継者がいない場合に、社内の社員・従業員に事業承継させるケースがあります。
ただし、前述に記載の通り、社員への承継は非常に難しいケースが多数です。そのため、選択肢としてはなかなか選ばれにくいよう認識しております。
ケース3:第三者への承継(M&A)
親族・社内に後継者がいない場合、第三者への承継であるM&A(エムアンドエー)が選択肢にあがります。
この場合、自身が保有する株式(事業)を譲渡することにより、対価として現金を受領することから、創業者利潤を獲得することが出来ます。
最近では、事業承継の一つの手段として非常にポピュラーになりつつあります。
一般的には、自社よりも規模の大きい会社へのM&Aになるため、会社の成長や雇用の安定等、社員・従業員の方の満足度も高まるケースが多数です。
ケース4:廃業
事業承継がうまくいかず、残念ながら廃業するケースがあります。
事業承継にはどの方法でも時間がかかりますので、後継者がいないだけではなく、時間の制限で廃業を余儀なくされるケースは避けたいところです。また、廃業した結果手許に現金が残れば良いですが、場合によっては有利子負債の返済のために持ち出しが発生してしまうケースがあります。
その他:上場
事業承継の選択肢の一つとして、会社を上場させる方法もあります。
ただし、どの会社でも上場出来るわけではないので、気軽に事業承継の選択の一つにはなりません。会社を上場させることが出来れば、創業者利潤を獲得することが出来、また後継人材の確保がしやすくなったり、市場を通じて株式の売却もしやすくなります。
事業承継のご相談は
このように事業承継には様々な選択肢があります。
弊社では、公認会計士や税理士が在籍しておりますので、相続対策だけではなくM&Aに関するサービスを提供しております。
弊社では相談は無料で行っておりますので、ご相談を通じて、どのような事業承継があなたにとってベストか選択するお手伝いをいたします。
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