吸収合併された企業側の社員の処遇
吸収合併される側の企業で働いている社員の中には、リストラや解雇が行われる可能性があるのか不安を覚える方もいるでしょう。雇用契約や就業規則が大きく変わってしまうのではないかと心配になるのも無理のないことです。
しかし、吸収合併を根拠にリストラや解雇はできません。ここでは、吸収合併された企業側の社員の処遇を解説します。
吸収合併を理由としたリストラ・解雇はできない
吸収される企業と労働者が結んだ雇用契約は、会社法第750条に基づいて、会社が無くなっても全て引き継がれます。吸収合併を根拠として従業員をリストラしたり、解雇したりすることは原則的にできません。
どうしても雇用契約の変更が必要なときは、事前に通知や告知を行い、書面で合意を得る手続きを取ります。正式な手続きを経て、合併先の雇用形態に合わせた契約に変更するケースも発生するでしょう。
(参考:『会社法第750条』)
(参考:『「事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針」の概要|厚生労働省』)
雇用契約や就業規則も引き継がれる
吸収合併によって消滅する会社の権利や義務が合併先の会社に引き継がれるため、雇用契約や就業規則も基本的に全て継承されます。従業員の同意を得る必要はありませんが、従来の規則から合併後直ちに変更はないので、不利益を被ることはあまりないでしょう。
まったく異なる立場の会社を吸収合併する場合だけでなく、親会社に合併されるケースも考え方は同じです。母体が同じ会社であっても、労働条件などは原則として消滅する子会社の規則が適用されます。
吸収合併された企業側の社員の待遇
吸収合併では人員削減は行われず、雇用契約や就業規則も原則的に合併前の規定が引き継がれます。とはいえ、同じ会社に異なる規則や給与体系があると混乱や不満を招きかねません。ここでは、吸収合併された企業側の社員の待遇がどうなるかを確認しましょう。
給与
給与体系はそれぞれ合併前の基準が引き継がれます。そのため一時的に2つの給与体系が混在しますが、時間をかけて合併した会社に合わせて調整するのが一般的です。統合の過程では、調整給を支給するケースもあります。
役職
合併後は再配置が行われるケースが多いでしょう。再配置の結果、希望のポジションが用意されることもありますが、降格を言い渡される場合もあります。同じ部署では役職がかぶることも考えられるため、組織がどのように再編されるかによって処遇は大きく異なるでしょう。
社会保険・雇用保険など
合併で所属する企業が変わった場合でも、所定の手続きを行えば継続期間は引き継がれます。M&Aが発生した時点で、社会保険の喪失・資格取得手続きを速やかに行えば問題ないでしょう。雇用保険は「新旧事業実態証明書」によって吸収合併前の会社と同一事業主であることを認定されれば、資格の切り替えは必要ありません。
しかし、切り替えに関して空白の日が生じてしまうと認定が難しくなります。喪失・資格取得手続きは同日中に行うことが重要です。
有休休暇
吸収合併の場合は、合併先の企業に労働契約が引き継がれ、基本的には勤続年数や有給休暇の日数も継続してカウントされます。
有給休暇の買い取りについては会社によって対応が変わるものです。労働基準法で定められた有給休暇は原則として買い取りが認められていません。会社が独自に付与した有給休暇などは、労働契約によっては買い取りができるケースもあります。
福利厚生
家賃補助や社宅などに関しては、基本的には吸収合併前の労働条件が適用されます。しかし、中には効率化を目的として社宅を廃止するなど、社員に不利益をもたらす改定がなされるケースもあるかもしれません。
改定する前に社員へ説明の上、書面で合意を取り付けることが必要です。このようなケースでは、経営層と従業員の摩擦を防ぐために、家賃補助を別途支給するなどの対応が取られることもあります。
吸収合併された企業側の社員の退職金
吸収合併された企業側の社員が退職する際、退職金の支給はどうなるのでしょうか。ほとんどの場合、働いてきた年数を続けてカウントするため、退職金の計算年数はゼロにはなりません。契約によっては吸収合併時に1度退職金をもらってから移籍するケースもあります。
合併直後なら満額支給される
通常、退職金制度は合併前の規定が使われます。そのため、合併直後なら退職金は満額支給されるでしょう。継続して勤務する場合は合併後の会社の制度に統一するのが一般的で、既定の違いによっては減額される可能性もあります。
勤続年数は受け継がれても、合併後の水準が低ければ合併前に想定していた退職金より少なくなります。吸収合併時にいったん退職金を受け取れるケースもあるので、確認してみるとよいでしょう。
勤続年数は引き継がれる
吸収合併前の労働条件は、基本的にそのまま継承されます。そのため、勤続年数も引き継がれることがほとんどでしょう。社員と合意がない状態で、経営者は勤続年数の通算を拒否できません。
勤続年数は退職金の計算を大きく左右します。有給休暇の権利などにも影響するので、勤続年数が継続して加算され続けるのは、社員にとって大きなメリットです。
もし事業譲渡だったら?
事業譲渡でM&Aを行う場合は、労働条件がそのまま引き継がれないケースがあることに注意しなければなりません。そうした場合、譲渡される企業の社員は、新しく所属する企業の労働条件に同意する必要があることに留意しましょう。
労働条件に同意して転籍した社員の退職金は、事業譲渡の際に支払われるケースと新しい会社に引き継がれるケースがあります。退職金をもらう場合、勤続年数はリセットされ、1年目からのカウントに戻ることに注意しましょう。
吸収合併を行う際、社員への告知や同意は必要?
従来の規則が適用される吸収合併では、事前に社員への告知や同意を得る必要は法律上ありません。とはいえ、何も説明せずに進めてしまうと要らぬ混乱を招き、社員のモチベーションを低下させてしまうリスクもあります。
この項はなぜ告知や同意が必要ないのか、モチベーションの低下による離職をどう防ぐべきかなどに考察しましょう。
法令上は必要ない
吸収合併の場合、多くのケースで消滅会社の社員の雇用は守られることもあり、社員に告知を行ったり、同意を得たりする義務は法令上ありません。労働条件などがそのまま引き継がれるので、原則として社員に不利益は生じないでしょう。しかし、身を置く組織が大きく変わることは避けられないため、事前にしっかりと説明して理解を得ておくのは重要です。
モチベーション低下による離職に注意
いきなり吸収合併を伝えられると、社員は今後の展望に不安を抱き、仕事に対するモチベーションが低下することも考えられます。大量の離職者を出さずに、合併後もスムーズに事業を続けるためには、丁寧に内容を説明するとよいでしょう。
特に、労働契約は社員の不利益にならないよう同じ契約が使われることを重点的に説明します。従業員が不信感を抱く原因にならないよう、疑問点はできるだけ解消するのがおすすめです。
社員に迷惑がかからない友好的承継はM&A DXへ!
吸収合併を行う際は、事前の交渉や契約をお互い納得できる形に整えておかなければ、社員に迷惑がかかるかもしれません。交渉は専門的な知識を持たないと難しい部分も多いため、専門家に依頼するのがおすすめです。
株式会社M&A DXでは、事業承継を考えている企業を万全の体制でサポートします。経験豊富なM&A・相続・事業承継に関する専門家集団による、友好的承継を見据えた支援が強みです。初期の企業価値を算定する段階から実際に合意を取り付け、統合プランを策定するまで、ワンストップでプロの視点による支援を提供しています。
希望を最大限にかなえるためのお手伝いをするのが株式会社M&A DXの仕事です。疑問点はすぐに解決へ導く豊富な知識と経験で、双方が納得できる契約を実現します。
まとめ
吸収合併によって消滅会社の社員は、処遇に対して漠然とした不安を抱きがちです。しかし、原則的にはこれまでの契約や労働条件が引き継がれるので、今までと変わらずに勤務できることを丁寧に説明するとよいでしょう。
実際に吸収合併の交渉や契約を行う前に、専門家に相談するのがおすすめです。株式会社M&A DXでは、M&Aや事業承継などを実績豊富なプロのスタッフがワンストップで支援します。吸収合併をご検討の際は、ぜひ株式会社M&A DXまでご相談ください。