M&Aによる株価への影響
近年M&Aを行う企業が増えており、大企業だけでなく中小企業も経営戦略のひとつとして捉えています。
M&Aによって気になることといえば、株価ではないでしょうか。M&Aを行うことで株価は変動することが多いですが、買収される企業と買収する企業では株価への影響は異なります。ここでは、M&Aによる株価の変動を、買収される企業と買収する企業に分けてご紹介します。
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買収される企業の株価は上昇しやすい
M&Aは会社が新規事業に進出したり、事業の成長を促したりするために行われることが多く、目を見張るような成長を遂げている企業や有名企業がM&Aを実施する場合には株主の注目が集まります。
M&Aの買収価格には一般的に株価にプレミアムという付加価値が上乗せされるため、買収される企業の株価は上昇しやすいとされています。市場株価は買収価格の前後に収束し、株価よりも高い価格でM&Aが行われた場合、市場株価も高くなるケースが多くなります。
買収する企業の株価変動はケースバイケース
買収される企業の株価はM&Aによって上昇しやすいといわれますが、買収する企業の株価は、ケースによって上がる場合もあれば下がる場合もあります。
株価が上昇するときは、M&Aによって今後の業績が上がると投資家に期待された場合です。M&Aのあとに業績が実際に向上すると、さらに株価は上昇します。
一方で、株価が下落するときは、当たり前ですがM&A後に業績が悪化する場合です。また、M&Aの買収価格が相場より高すぎると損失も大きくなるため、投資家からの期待値が低くなり株価は下落する傾向にあります。
M&Aで株価が上昇するケース
M&Aによって株価が上昇するケースは主に4つあります。買収される企業の株価が上がるケースが多くありますが、買い手企業の株価が上昇するケースもあり、買い手企業の規模やM&Aに対する投資家の期待値などが関係します。
ここでは、具体的にどのような場合にどのような理由で株価が上昇するのかを解説します。
買い手企業が有力・大企業である場合
M&Aによって株価が上昇する理由には、買い手企業が有力企業や大手企業であることが挙げられます。業績がよい企業とM&Aを行うと、傘下となる企業への期待値が上がるからです。
この場合、買収される企業の業績や規模にはあまり影響されないケースがあります。赤字企業であったとしても、買い手企業の財務力や営業力等により経営の改善が期待できると判断される場合は、投資家からの期待値が高まるからです。
有力企業とのM&Aが株価に与える影響は大きく、買収される企業の株価が上昇する可能性も高いといえます。経営基盤がしっかり安定している企業や、業績を安定して伸ばし続けている企業に注目するとよいでしょう。
買い手企業が買収を強く希望している場合
買い手企業が相手企業の買収を熱望している場合にも、株価は上昇しやすくなります。M&Aは、新規事業への進出やさらなる成長など何らかのメリットを求めて行われますが、買収したい企業にその要素がある場合、買い手企業は是が非でも成功させたいと考えるでしょう。
そのため買い手企業は、プレミアム価格と呼ばれる付加価値を上乗せしてM&Aを行います。ほしいもののためには予算を惜しまないといった心理がはたらき、実際に株価総額の数倍で取引されたM&A事例もあります。
ただし、M&A後の成長や業績によっては、株価が下落する可能性もないとはいえません。買い手企業が想定していたシナジー効果が得られなかった場合は想定以下の利益額となり、投資家からの期待値が下がるため株価も下がってしまいます。
敵対的買収が行われる場合
敵対的買収が行われる場合にも、買収される企業の株価は上昇する可能性があります。敵対的買収とは、相手企業の合意を得ることなくM&Aを行うことで、相手企業に株式を売ってもらうため通常のM&Aよりも買収価格が高くなるからです。買収する企業の株式を一気に買い取る場合は、急激に株価が上昇することもあります。
しかし、M&Aの際に買収防衛策を発動すると、株価が低下するケースも出てきます。買収防衛策とは敵対的買収に対して売却対象となる企業の様々な利益を守るために用いられる対策で、例えばポイズンピルを用いると株価が下がります。
つまり敵対的買収の際には株価が乱高下する可能性があり、それによって買収される企業の株価は上昇しやすくなるといえるのです。
業績が上昇すると見込まれる場合
M&Aによって買い手企業の業績が上がることが見込まれる場合、株価は上昇します。投資家はできるだけ安い価格で株式を購入し、高い価格で売却して利益を得たいと考えています。そのため、将来的に業績アップが期待できる企業の株式は安いうちに買おうとします。
このようなことから、M&Aの良い成果が顕著によって株価が上昇する前に買い手企業の株式を購入しようと人気が高まり、株価は上昇します。そして、M&A後に業績が上がることで企業価値が高まり、株価も上昇するでしょう。M&Aによって株価が上がることで買い手企業は資金調達の幅が拡がるため、好ましい状況が生まれます。
M&Aによって業績アップが見込まれる場合は買い手企業にもメリットがあり、株価が上昇しやすいことを覚えてきましょう。
M&Aで株価が下落するケース
M&Aは企業の成長を目的とした経営戦略として積極的に取り入れられていますが、M&A後に株価が下がってしまうケースもあります。
株価には投資家からの期待値が関係するだけでなくM&A後の業績も重視され、結果を残せなければ株価の下落につながるでしょう。ここでは、M&Aによって株価が下落するケースについて見ていきます。
投資家から期待されていない場合
投資家からのM&Aに対する期待値が低い場合には、株価は下落する傾向にあります。このようなケースはいくつかありますが、最もメジャーなものはM&Aの買収価格が高額すぎる場合です。
M&Aは企業のさらなる成長を目指して行われますが、買収後に想定していた利益を得られなければ減損等の損失も大きくなります。M&Aでは無形資産やシナジー効果も加味して買収を行いますが、その際ののれんは償却によって毎年均等に処理する必要があり、時価純資産より高値で買収するほどこの費用負担も大きくなります。
投資家がそのリスクに不安を感じると買い手企業の評価も下がり、結果として株価が下落するという構図です。投資家からの期待値が株価に影響を与えることを覚えておきましょう。
M&A後に業績が悪化した場合
M&A後に業績が悪化した場合にも、株価は下落する傾向にあります。M&Aによって業績が向上し企業価値が高まれば株価は上昇しますが、その反対に業績が悪化すると企業価値が低下するため株価が下がってしまいます。
複数の企業が統合されることで、事業を単独で運営するよりもその価値が大きくなる効果をシナジー効果、または相乗効果といいます。M&Aはシナジー効果を期待して行われるケースが多くありますが、必ずしもうまくいくとは限らずディスシナジー効果が生じてしまうケースもあります。不測の事態によって、M&A後に業績がよくなるどころか悪くなってしまう可能性もあるのです。
そのような場合には、企業価値が下がり投資家からの期待値も下がるため株価が下落してしまいます。
企業の株価が上昇するメリット
M&Aにおいて多くの方が株価の変動に注目しますが、株価が上昇することで企業はどのようなメリットがあるのでしょうか。
実は、株価が上昇することで企業価値が高まり、企業買収の取引で優位になれたりとさまざまなメリットがあるのです。ここでは、株価の上昇によって企業が得られるメリットについて詳しく解説します。
企業としての価値が上昇する
株式は企業の資産価値を表すひとつの指標です。企業の時価総額は発行済株式数に比例するため、株価が上昇することで企業の時価総額が上がります。つまり、株価が上昇することは企業としての価値が上がることも意味するのです。
さらに企業価値が高まることで、企業に対するイメージや信用度の向上にもつながります。企業イメージが上がれば業務提携を進めやすくなったり、信用度が上がることで資金調達なども行いやすくなったりするでしょう。
企業の安定につながる
株式の価格が上がることで、新株を発行して得られる資金が多くなります。1株で得られる資金が増えるため、株価が上がる前よりも資金調達が容易になったり、新しい事業に着手しやすくなったりするでしょう。
また株価が高くなれば、株主が長期的に株式を保有する可能性が高くなります。価値が上がる株式を手放す理由はないからです。長期にわたって株式を保有する株主が増えることで、企業の安定にもつながるでしょう。
企業買収の取引で優位になれる
株価が高くなると、株式交換による買収においてより少ない対価で買収できるようになります。買収する企業に対して株式を現金で買い取るのではなく、対価を自社の株式で支払えるからです。
また自社の株価が上がると、敵対的買収を狙う企業のコスト負担が増大します。そのため、敵対的買収のリスクを下げることにもつながります。このように、株価が上がると企業買収の取引において優位になれるというメリットがあります。
M&Aによる株価変動事例
M&Aによって、株価は上昇することもあれば下落することもあります。買収や売却によって、将来性に期待されるかネガティブなイメージを持たれるかによって株価に影響が出ますが、その実例を知ることで理解を深められるでしょう。
ここでは、M&Aによって株価が変動した事例をご紹介します。
NEC
M&Aによって株価が上昇したケースとして、2016年にNECが中国のパソコン大手レノボ・グループにパソコン事業を譲渡した事例があります。NECが保有する4万9,000株のうち4万4,100株を約200億円で譲渡し、結果的にNECは日本国内のパソコン市場から撤退することになりました。
しかしNECは社会インフラ事業などを強化するために資金を必要としており、そのためにパソコン事業を譲渡するというM&Aを決断したのです。その将来性を期待され、M&A後NECの株価は上昇しました。
NECの社会インフラ事業の拡大は日本の発展にもつながります。一見するとネガティブに思えるM&Aですが、将来性のある企業という認識が高まり株価が上昇するという結果になりました。
ダイキン工業
ダイキン工業は2010年末から2012年にかけてアメリカの空調機器大手のグッドマン社を買収しました。そして2013年以降、ダイキン工業の株価は上昇しています。その上昇率は日経平均の上昇率を大きく上回っており、グッドマン買収後の事業拡大が影響しているといえるでしょう。
2013年3月期と2018年3月期を比較すると、売上高は1兆円の増加、経常利益は約2.5倍、税前利益は約4倍となっています。これらの実績によって企業価値が向上し、株価も上昇していることから、M&Aによって株価の上昇に成功した例といえるでしょう。
今後も売上高や利益額の増加が見込まれており、株価はさらに上昇を続けると予想されています。
RIZAPグループ
フィットネス事業で有名なRIZAPグループも、積極的なM&Aによって株価が上昇した企業です。
2017年には印象的なM&Aをいくつも実施しており、2月には株式会社ジーンズメイトの株式公開買付と第三者割当増資の引受を、3月には株式会社ぱどの第三者割当増資の引受を行ったほか、6月には堀田丸正株式会社の第三者割当増資の引受を行いました。
事業を拡大した結果、2017年3月31日の株価は211円でしたが2017年11月30日には1,474.5円となり、わずか8か月で約7倍に上昇するという成長を遂げました。
しかし、売上高の増加が業績予想を下回った影響等で株価は下落傾向にあり、2020年1月31日時点では253円と2017年3月31日の株価とあまり変わらない株価まで下落してしまい、今後に期待が高まっています。
日立製作所
M&Aにて株価が下落したケースもあります。日立製作所は2016年3月に、子会社の日立物流の株式の一部をSGホールディングスへ譲渡すると発表し、2016年5月には日立キャピタルの株式の一部を三菱UFJファイナンシャルグループへ譲渡すると公表しました。
日立物流は、日立製作所が注力する情報インフラ事業や社会インフラ事業を行っていませんでしたが、日立キャピタルとともに利益を常に計上していたため、日立製作所の子会社事業を分離する姿勢が不安視されました。その結果、日立製作所の株価は事業譲渡後一時的に下落しました。
企業にとっては前向きなM&Aのつもりが、投資家から見るとネガティブに捉えられることもあります。M&A後の業績が不安視されて、株価の下落につながった例といえるでしょう。
パナソニック
パナソニックもM&Aによって株価が下落した企業のひとつです。2009年12月に三洋電機を連結子会社化、2011年4月に完全子会社化しました。
しかし三洋電機との重複ビジネスの統廃合などにより追加コストが発生したり、三洋電機から取得したソーラー事業や民生用リチウムイオン電池事業などに関連するのれんによって減損損失を計上したりしたことが影響し、株価が下落する結果となりました。
2009年12月に1,325円だった株価は、2012年12月には522円まで下がっています。日経平均は2009年12月から2013年6月にかけて約30%上昇していますが、パナソニックはそれに逆行するように約40%下落しました。M&A後の業績悪化が株価の下落につながった例といえます。
まとめ
現在多くの企業が経営戦略として行っているM&Aと株価は密接な関係にあり、企業の価値を高め株価を上昇させることもできます。M&Aの前後には株価が変動するため、買収側になる場合も売却側になる場合も、株価について理解を深めておくことが大切です。
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M&Aによって自社の株価にどのような影響があるか予測できない、不安があるという方も多いでしょう。そのようなときは、M&Aサービスを利用しましょう。専門家に相談することで、時間的負担と精神的負担を軽減できます。
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