種類株式とは
会社は通常の株式(普通株式)と異なる種類株式を例外的に発行することができます。そもそも種類株式とはどういったものなのか、どのような種類があるのか、ここで確認しておきましょう。
権利内容の異なる株式
種類株式とは、権利や内容の異なる株式のことです。株式は権利内容が同一であることが原則ですが、平成18年に施行された会社法では、2種類以上の株式を発行できることを定めています。
種類株式を発行することで、後継者以外の株主から株式を強制的に取得したり、後継者が議決権を行使したりできるようになり、スムーズな事業承継と安定した経営を実現できます。
ただし、実際に種類株式を導入するときは、株主総会の特別決議による定款変更が必要です。また、種類株式を発行する際に、株主総会の特別決議や株主全員の同意が要件とされている場合もあります。
種類株式は9種類ある
会社法で認められている種類株式は、以下の9種類です。
議決権制限株式
議決権を行使できる事項に一定の制限を加えて発行された株式のことです。すべての事項に議決権が行使できない無議決権株式も含まれます。
役員選任解任権付株式
委員会設置会社および公開会社でない会社において、取締役・監査役の選任解任ができる株式のことです。
拒否権付株式(黄金株)
株主総会または取締役会において、重要議案を否決できる権利(拒否権)を与えられた株式のことです。敵対的な買収の防止にも役立ち、「黄金株」とも呼ばれています。
譲渡制限株式(金庫株)
株式を譲渡する場合に、取締役会または株主総会の承認を要する株式のことです。株式にどの程度の譲渡制限をかけるかは、定款に定めます。
取得請求権付株式
株主が会社に対して保有する株式の買い取りを請求できる権利がついた株式のことです。 取得の際に支払う対価は金銭、株式、社債、新株予約権、新株予約権付社債などです。会社が予め決められた対価で買い取りを保証することによって、株主は将来の制約なく会社に出資できるというメリットがあります。
取得条項付株式
株主の相続や解散など、一定の事由が生じたことを条件として、すべての株式または一部の株式を、会社が株主の同意なしに強制取得できる株式のことです。取得条項付株式を発行することで、会社が意図していない人へ株式が渡ることを防ぐことができます。
全部取得条項付種類株式
株主総会の特別決議によって、会社が株主のもっている株式すべてを取得することができる株式のことです。スクイーズアウトと呼ばれる少数株主の排除や、敵対的買収の防衛などに役立ちます。
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剰余金の配当(配当優先(劣後)株式)
剰余金の配当について、他の株式より優先または劣後させる株式のことです。
残余財産の分配(残余財産優先(劣後)株式)
会社清算を行なった場合の残余財産の分配について、他の株式より優先または劣後する株式のことです。
複数組み合わせることも可能
上記9種類の株式を組み合わせて、会社独自の株式を発行することも可能です。会社の状況に応じて種類株式をうまく活用すれば、事業承継時の問題を解消して、安定した経営を実現できます。
事業承継において種類株式が活用される理由
そもそもなぜ事業承継の場面において種類株式が活用されるのでしょうか。その理由は、起こりうる問題を事前に回避することにあります。
ここでは、種類株式によって得られる具体的なメリットを紹介します。
自社株式の分散リスクを回避できる
自社株式が分散すると、後継者の議決権を確保できず、事業承継だけではなく会社運営もスムーズに進みません。分散した株式は株主との個別合意によって回収できますが、合意が必ず成立するとは限りません。
そのようなリスクを防ぎ、安定した事業承継を実現できるのが種類株式です。万が一株式発行後に不都合が生じたとしても、種類株式なら株式を強制的に回収できます。
重要事項の決定権限を後継者に集中できる
後継者以外の相続人に種類株式を取得させることで、一定事項のみ議決権を制限したり、議決権の行使条件を定めたりすることができます。
無議決権株式を活用すれば、経営権を集約させることも可能です。
経営権移転のタイミングを計れる
経営権をいつ移転するかは、会社にとって大きな問題です。後継者が若く未熟である場合は、経営権移転に慎重になることもあるでしょう。
そのような場合に、現経営者のもとに決定事項の拒否権限を残しておけば、経営権を移転するタイミングを慎重に見極められます。
事業承継に役立つ種類株式の活用法
事業承継において活用されることの多い種類株式として「議決権制限株式」「拒否権付株式」「全部取得条項付種類株式」があります。これら3つの種類株式を用いてスムーズな事業承継を行う具体的な手法を紹介します。
後継者に議決権を集中させる(議決権制限株式)
株主は、株主総会における議決権を有します。安定した経営を実現するためには、誰が株式を保有しているかがポイントになります。会社の経営を阻害する恐れのある者が議決権を行使する事態を防ぎたいときは、議決権制限株式が役に立ちます。
後継者の経営にブレーキをかける(拒否権付株式)
現経営者が拒否権付株式を保有した場合、過半数が賛成したとしても、種類株主総会の決議で否決可能です。
例えば、後継者が若く経営者として未熟な場合に、拒否権付種類株式を一定期間保有することで経営を監視し、状況に応じて経営にブレーキをかけられます。他の株式の大部分を後継者に移していても、現経営者が会社の実権を保有し続けることが可能です。
少数株主を排除する(全部取得条項付種類株式)
親族などへ分散された株式を後継者が買い取りして集中させたい場合、株主との個別交渉をしなければならず、手続きが煩雑になります。株式の買い取りに反対されてしまうと、株式集約やM&Aが頓挫する恐れもあるのです。
万が一、株主からの合意が得られない場合は、全部取得条項付種類株式を発行することで少数株主から株式を全て買い取り、新たに後継者に新株を割り当てる事で後継者に経営権を集中させることができます。
まとめ
種類株式を活用することで自社株式の分散リスクを回避できるとともに、後継者に経営権を集約することが可能です。
種類株式には9種類ありますが、どの株式をどのタイミングで発行するかは、会社の事情によって異なります。今回紹介した活用法はあくまでも一例です。種類株式をむやみに発行すると、かえって経営を混乱させてしまうこともあるので注意しましょう。
種類株式の発行は経営者一人の決定ではできません。後継者や経営陣とよく話し合うとともに、事業承継に精通した専門家のアドバイスも受けながら、早めの対策を行うことが大切です。自社に最も適した種類株式の発行を行い、スムーズな事業承継を実現しましょう。
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