土地の相続税評価額が最大8割も減る!小規模宅地等の特例とは
「小規模宅地等の特例」(以下、本記事では「小規模宅地特例」と略記)とは、相続税の計算上、宅地などの評価額を最大8割減にすることができる特例です。
たとえば、相続に際に、特例を適用しない場合には1億円と評価される土地が、特例を最大限適用できれば、2,000万円の評価に下げられるということです。
仮に、相続財産がこの土地だけの相続だとすると、特例を適用しなければ、基礎控除を上回り相続税が課せられる可能性が高い(相続人の人数などによる)ですが、特例が最大限適用できれば、基礎控除の最低額である3,600万円以下となるため、相続税は非課税になります。
前編の記事で見たように、相続税申告をしている人の相続財産に占める金額のトップは、土地です。そのため、本特例が適用できるか否かは、相続税課税という観点からは、非常に重要なポイントになります。
ただし、強力な効果を持つ特例だけに、適用できる要件などは細かく定められています。本記事でしっかり学んでください。
小規模宅地特例の対象となる土地には、3種類がある
まず、本特例の対象となるのは土地と、借地権など土地の上に存する権利(これらをあわせて「宅地等」といいます)のみで、建物には適用されません。
そして、小規模宅地特例の対象となる土地には、次の3種類があります。まずは、それぞれの宅地等の要件について確認しておきましょう。
①特定居住用宅地等(主に自宅の土地)
②特定事業用宅地等(店舗や工場など事業に使っていた土地)
③貸付事業用宅地等(賃貸アパートや貸駐車場などに使っていた土地
①特定居住用宅地等
もっとも多くの人に関係するのが、この特定居住用宅地等でしょう。以下のような土地のことです。
・被相続人の居住の用に供されていた宅地等
(被相続人が死ぬまで住んでいた家などです。)
・被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の居住の用に供されていた宅地等
(たとえば、被相続人であるお父さんの持っている土地が2箇所あって、相続人である子が、無職でお父さんに家計を頼りながら、お父さんが住む土地とは別の土地の家に住んでいたというような場合です。)
特定居住用宅地は、要件を満たせば、最大330平米までの部分について80%減で評価することが可能です。
なお、誤解されやすいところですが、最大330平米というのは、適用を受けられる最大面積のことで、これ以上の広さの土地だと適用できないという意味ではありません。この面積以上の広さの土地、たとえば400平米の土地でも、330平米までは適用可能です。そして、残りの70平米部分は、通常通りの評価計算がされるというわけです。
②特定事業用宅地等
要件を満たせば特定事業用宅地等に該当しうるのは、次のような土地です。
・被相続人の事業の用に供されていた宅地等
(被相続人が経営していた店舗や工場などの土地です。)
・被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業の用に供されていた宅地等
(被相続人であるお父さんの土地で、お母さんが店舗を経営していたような土地です。)
要件を満たすことで、最大400㎡までの部分について80%減で評価することが可能です。
なお、ここでいう「事業」からは、不動産貸付業や駐車場業、貸駐輪場業などの貸付事業に該当するものは除かれます。それらは次の項目に該当するためです。
③貸付事業用宅地等
要件を満たすことで貸付事業用宅地等に該当しうるのは、次のような土地です
・被相続人の貸付事業の用に供されていた宅地等
(被相続人が経営していた賃貸アパートなどの土地です。)
・被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の貸付事業の用に供されていた宅地等
(被相続人であるお父さんの土地で、お母さんが賃貸アパートを経営していたような土地です。)
要件を満たすことで、原則として最大200㎡までの部分について50%減で評価することが可能です。
なお、ここでの貸付事業には、不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業などが含まれます。
小規模宅地特例を受けるための要件
小規模宅地特例の適用を受けるためには、宅地等の種類に応じて異なる要件があります。
なお、いずれの場合であっても、原則として、相続税の申告期限までに申告をしなければ適用を受けることはできません。これについては、後ほど改めて解説します。
特定居住用宅地等の要件
特定居住用宅地等について小規模宅地特例の適用を受けるための要件は、その土地をだれが取得(相続)したのかによって、異なります。
①配偶者が取得した場合
配偶者が取得(相続)した場合には、特に要件はありません。
②被相続人の同居親族が取得した場合
配偶者以外の相続人(子など)で、被相続人と同居していた人が取得した場合は、以下の要件になります。
・相続開始の直前から相続税の申告期限まで引き続きその建物に居住していること
(相続の前から、相続税申告期限までに引っ越しをしてしまったらダメだということです。)
・その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること
(相続された後から相続税申告期限までに、売ってしまったらダメだということです。)
③その他の親族が取得した場合
①、②以外の親族ということなので「同居していなかった子」などがあてはまります。この場合、かなり条件は厳しくなります。原則として次の要件をすべて満たすことが必要です。
・被相続人に配偶者がいないこと
(お父さんが被相続人で、お母さんが存命の場合はダメだということです。)
・被相続人と同居していた相続人がいないこと
(お父さんが被相続人で、兄と弟が相続人で、兄は別居、弟がお父さんと同居していた場合は、兄はダメだということです)
・相続開始前3年間、日本国内にあるその人自身やその人の配偶者、その人が実質的に支配していると認められる法人などの所有する家屋に居住したことがないこと
(相続が発生する3年以内に、相続人本人が実質的に自己所有する家に住んだことがあったらダメだということです。)
・相続開始時に取得者が居住している家屋を、相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないこと
(相続人本人が実質的に自己所有する家に住んでいる場合において、この特例を利用するために第三者に売却したり、親族等に贈与した場合することにより名義変更してもダメだということです。上の要件の抜け道を防いでいます。)
・その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること
(相続した土地を相続税の申告期限前に手放したらダメだということです。)
特定居住用宅地等の場合には、要件が複雑であるため、表でも確認をしておきましょう。
●図表1 特定居住用宅地等の要件
区分 | 特例の適用要件 | ||
取得者 | 取得者ごとの要件 | ||
被相続人の居住の用に供されていた宅地等 | 1 | 被相続人の配偶者 | なし |
2 | 被相続人の同居親族 | ・相続開始の直前から相続税の申告期限まで引き続きその建物に居住していること ・その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること | |
3 | 上記以外の親族 | ・被相続人に配偶者がいないこと ・被相続人と同居していた相続人がいないこと ・相続開始前3年間、日本国内にあるその人自身やその人の配偶者などの所有する家屋に居住したことがないこと ・相続開始時に取得者が居住している家屋を、相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないこと ・その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること ・相続開始の時に日本国内に住所を有しているか日本国籍を有していること | |
被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の居住の用に供されていた宅地等 | 1 | 被相続人の配偶者 | なし |
2 | 被相続人と生計を一にしていた親族 | ・相続開始の直前から相続税の申告期限まで引き続きその建物に居住していること ・その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること |
出典:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例) 国税庁
(2)特定事業用宅地等と、貸付事業用宅地等の要件
特定事業用宅地等で特例の適用を受けるには、「事業継続要件」と「保有継続要件」の2つの要件があり、両方を満たすことが必要です。
・事業継続要件:被相続人から引き継いだ事業または相続開始の前から親族が営んでいる事業を、申告期限まで営んでいること
・保有継続要件:その宅地等を相続税の申告期限まで有しているこ
要するに、相続税申告期限までは、相続した人がその土地で、その事業を続けなさい、ということです。
また、貸付事業用宅地等の場合は、以下のように少し文言は異なりますが、ほぼ同じ要件になっています。
・事業継続要件:被相続人から引き継いだその宅地等に係る貸付事業または相続開始の前から親族が営んでいるその宅地等に係る貸付事業を、申告期限まで行っていること
・保有継続要件:その宅地等を相続税の申告期限まで行っていること
小規模宅地特例は二世帯住宅や、施設入所の場合も受けられる
小規模宅地特例の適用が受けられるかどうか、判断に迷ってしまうケースは多く存在することでしょう。ここでは、よく問題とされる2つのケースについて、解説します。
二世帯住宅で暮らしていた場合は登記の形態による
被相続人と子の世帯とが二世帯住宅に住んでいた場合はどうなるのでしょうか? 二世帯住宅の敷地となっている土地を相続した子が、その土地に小規模宅地特例を適用できるかどうかは、その建物の登記が区分所有の形態となっているかどうかによって異なります。
これは、登記の形態によって子が被相続人と同居していたと考えられるかどうかが異なるためです。
区分所有とは、マンションなどのように区分ごとに売買などができる形の登記形態です。区分所有建物かどうかはその建物の実物だけを見てもわかりませんので、法務局で建物の全部事項証明書を取得する必要があります。建物の全部事項証明書に「一棟の建物の表示」や「敷地権の表示」などの言葉が掲載されていたら区分所有建物、このような言葉がなければ区分所有建物ではないと判断できます。それぞれの場合で、次のような違いがあります。
区分所有建物ではない場合は、原則として適用可能
二世帯住宅として使用している建物が区分所有となっておらず一般の戸建てと同じような登記になっている場合には、子がその敷地を取得した場合に、小規模宅地特例を受けることが可能です。
区分所有となっていないのであれば、外階段で親子の住居の玄関が別にあるなど、建物の構造上建物内部では行き来ができない場合であっても、被相続人と子が同居していたと考えられます。
区分所有建物である場合は、原則として適用できない
一方で、建物の登記が区分所有となっている場合には、原則として子が小規模宅地特例の適用を受けることはできません。
たとえばマンションの隣同士の部屋に住んでいることを、通常は同居とはいわないでしょう。これと同じで、同じ建物に住んでいたとしてもそれぞれが登記上区分されているのであれば同居とは考えられず、小規模宅地特例も受けられないこととなるのです。
被相続人が老人ホームなどの施設に入所していた場合
被相続人が老人ホームなどの施設へ入所し、晩年は自宅から離れて暮らしていた場合でも、一定の要件を満たすことで過去に居住していた自宅について小規模宅地特例を適用することが可能です。
この場合に特例の適用を受けるための要件は、次のとおりです。
・被相続人が要介護認定や要支援認定を受けて施設などへ入所したこと
・入所先の施設が老人福祉法に規定する特別養護老人ホームなど一定の要件を満たす施設であること
・被相続人の居住の用に供されなくなった後に、その宅地を他の用途で使用していないこと
小規模宅地特例の適用を検討する際の、ポイントと注意点
小規模宅地特例の適用を検討する場合、次の4点が注意すべきポイントになります。
小規模宅地特例を受けるには相続税の申告が必須
小規模宅地特例の適用は、相続税の申告が要件となっています。
本来、遺産総額が相続税の基礎控除以下であれば、原則として相続税の申告をする必要はありません。しかし、本記事の冒頭で示したように、小規模宅地特例を使った結果として遺産総額が基礎控除額を下回った場合には、相続税の課税がなくても、相続税の申告は必須になります。「小規模宅地特例を使えば税額がゼロになるのだから申告も不要だろう」などと勝手に判断をして申告しないでいると、税務調査で無申告を指摘されることにもなりかねません。
この場合には、期限内に申告をしなかった以上、もはや小規模宅地等の適用を受けることも不可能です。
期限までにきちんと申告をしてさえいれば相続税はゼロであったにもかかわらず、申告をしなかったことにより結果的に税額が生じてしまい、場合によっては更に無申告加算税や延滞税などが加算されてしまう危険があるので、十分に注意してください。
遅くとも相続税申告期限から3年以内に、遺産分割協議をまとめる
遺言書がない場合には、遺産となった土地をだれが取得するのかを、相続人間の話し合いである遺産分割協議により定めます。
小規模宅地特例の適用を受けるためには、その土地について取得者が確定していなければならないため、遺産分割協議がまとまっていないと、適用が受けられないのです。
相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内ですが、話し合いが難航するなどして、この期限までに遺産分割協議がまとまらない場合もよくあります。
その場合、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付のうえ、期限内にいったん仮の申告と納税を行います。その時には、小規模宅地特例は適用できないので、減額のない評価額で課税されます。
その後、分割がまとまり次第、まとまった協議の内容に合わせて修正申告や更正の請求などをするのです。更生の請求をすることで、小規模宅地特例も遡って適用を受けることができ、当初納付した相続税が過分となった場合には、払いすぎた税金の還付を受けることが可能です。
ただし、小規模宅地等の適用を受けるための更生の請求は、本来の申告期限から3年以内という期限があります。この期限を過ぎても協議がまとまらない場合にはもはやその相続について小規模宅地特例の適用を受けることはできなくなります。
嘘の申告は税務署にバレる可能性が高い
上で解説をしたとおり、小規模宅地特例の適用を受けるには、厳しい要件があります。
申告時には、この要件を満たしていることを証する書類を添付書類として提出します。たとえば同居要件を満たすことを証するためには、住民票を添付することが一般的です。
なかにはこれを利用して、実際は同居していなかったにもかかわらず、あらかじめ住民票だけを実家に移しておいて、同居していたことにしようとする方もいます。
しかし、税務署はこのような虚偽申告には慣れており、たとえば、その住所で郵便物を受け取っていたかどうかなどで生活実態を必ず確認します。
そのため、ウソはまず確実にばれると考えましょう。そうなると、小規模宅地特例の適用が取り消されるのみならず、過少申告加算税や、意図的な課税逃れだと判断されれば重加算税が課される可能性があります。くれぐれも正直な申告を心がけましょう。
どの土地から優先的に適用を受けるのか専門家に相談しよう
土地を複数所有している方が亡くなった場合、適用要件にあてはまる土地で、上限の範囲内なら、どの土地でどれだけ特例を適用するのかは、自由です。たとえば、A土地で100平米分適用、B土地で230平米分適用、などとしてもよいのです。
ただ、土地の評価額がそれぞれ異なるため、どの土地でどれだけ適用するのがもっとも課税上有利になるのかを判断するには、複雑なシミュレーションが必要です。
そもそも土地を複数所有している方の相続税申告を自分で行うケースはほとんどないかとは思いますが、相続税にあまり詳しくない税理士に依頼をしてしまったりすることで大きな損をしてしまう危険もありますので、相続税に詳しい専門家に相談するのがベターです。
まとめ
小規模宅地特例は、適用できればかなり効果が大きな特例です。しかし、適用のための要件は複雑で、仮に要件を満たせず適用を受けられない場合には、相続税額にも大きな影響が生じます。
そのため、小規模宅地特例の適用を検討している場合には、生前から税理士さんに相談し、要件を確認しておくことが望ましいでしょう。