事業承継・引き継ぎ補助金とは?制度の概要とポイントを解説

MBA 清水淳史

阪和興業株式会社、株式会社紀陽銀行を経て、2018年フロンティア・マネジメント㈱に入社。紀陽銀行では、法人営業業務を経て、本部部署にて、事業承継・M&A業務を担当。フロンティア・マネジメントでは中堅・中小企業向けの事業承継型M&A業務、事業承継支援業務、組織再編業務に従事。製造業、飲食業、卸売業、小売業、不動産業など幅広い業界の事業承継型M&Aを多数経験。

この記事は約37分で読めます。

事業承継を進める際には金銭面のコストが多くの場合で発生します。そこで、事業承継補助金を活用することが有効です。

本記事では、2021年度の事業承継・引継ぎ補助金の概要や流れを紹介します。公募期間はすでに過ぎていますが、翌年度以降の申請で参考になるでしょう。

*補助金制度は都度変わるため、不明点については事業承継・引継ぎ補助金事務局などにお問合せください。

事業承継・引継ぎ補助金事務局
経済産業省
中小企業庁

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本記事のポイント

  1. 事業承継・引継ぎ補助金について知りたい方向けの記事です。
  2. 事業承継・引継ぎ補助金の要件や申請から交付までの流れを説明しています。
  3. 事業承継の基本や補助金活用以外で検討すべきことも紹介しているので、まだ事業承継を決めかねている方向けの記事にもなっています。

事業承継とは会社の経営を後継者に引き継ぐこと

事業承継とは会社の経営を後継者に引き継ぐこと

「事業承継」とは、会社の経営権や理念、資産、負債など、事業に関するすべてのものを次の経営者に引き継ぐことです。ただし、用語が明確に定義されているわけではなく、「後継者確保」のことと捉えられることもあれば「相続税の問題」と捉えられることもあります。

事業承継に関する補助金を理解する前に、事業承継が注目されている理由や、進める際の流れと費用を確認しておきましょう。

出典:中小企業庁「2017年版小規模企業白書の概要」

事業承継が注目される理由

事業承継が注目される理由のひとつが、日本の少子高齢化です。

日本では、社長の平均年齢が年々上昇しています。帝国データバンクの「全国社長年齢分析」によると、2020年の社長の平均年齢は60.1歳で1990年の調査開始以降初めて60歳を上回る結果でした。

出典:帝国データバンク「特別企画:全国社長年齢分析」
また、中小企業庁は「中小企業白書 2017」で経営者の引退時期を68〜69歳と推察しています。社長の平均年齢や引退時期から、今後数年間で多くの中小企業が事業承継のタイミングを迎えることが想定できるでしょう。

出典:中小企業庁「中小企業白書 2017」

それにもかかわらず、まだ後継者が決まっていないという企業が少なくありません。2020年に帝国データバンクが実施した「全国企業「後継者不在率」動向調査」によると、全体の約65.1%に当たる約17万社が「後継者不在」と回答しています。

出典:帝国データバンク「全国企業「後継者不在率」動向調査(2020 年)」

10年先を見据えた事業の持続的な発展のためにも、いかに自社の事業承継をスムーズに進めていくかが今後の中小企業の課題です。

事業承継を進める際の流れ

2016年に策定された「事業承継ガイドライン」では、事業承継を現経営者の子など親族に承継する「親族内承継」、社内で働いてきた従業員などに引き継ぐ「役員・従業員承継」、株式譲渡や事業譲渡を通じて外部に引き継ぐ「M&Aなど社外への引継ぎ」の3類型に区分しています。

出典:中小企業庁「事業承継ガイドライン」

親族内承継や役員・従業員承継の場合、以下のように事業承継が進んでいきます。

1. 経営者と支援機関との対話・相談
2. 経営状況や経営課題の把握
3. 事業承継に向けた経営改善
4. 事業承継経営計画の策定
5. 事業承継実行

また、社外への引き継ぎの場合の流れは以下の通りです。

1. 経営者と支援機関との対話・相談
2. 経営状況や経営課題の把握
3. 事業承継に向けた経営改善
4. 譲渡候補先とのマッチング実施
5. M&Aなどの実行

1〜3までは親族内承継や役員・従業員承継と同じ内容ですが、社外への引き継ぎではマッチング先を吟味しなければなりません。M&Aを実施するまでには、仲介業者の選定や秘密保持契約の締結、デューデリジェンスの実施などさまざまなプロセスを踏んでいきます。

出典:中小企業庁「経営者のための事業承継マニュアル

事業承継でかかる費用

事業承継・引継ぎ補助金制度が存在するのは、事業承継には、さまざまな費用が発生するためです。事業承継でかかる費用は、相続税や贈与税などの「税金」と専門家などへの「報酬」に分類することができます。

費用は、事業承継の類型によっても異なります。税金面と報酬面で具体的にどのような費用が発生するのか、詳しく確認していきましょう。

税金面

事業承継にかかる税金面で理解しておきたいのが、「相続税」「贈与税」「登録免許税・不動産取得税」「法人税」「消費税」の5種類です。

相続税は、経営者が亡くなり親族が株式などの財産を相続する際に発生します。また、贈与税は現経営者が存命中に後継者に財産などを贈与する際に課される税金です。

登録免許税や不動産取得税は、後継者が事業承継にあたり不動産を取得した際に課されます。ただし、親族が不動産を相続した場合には不動産取得税は課されず(死因贈与、特定遺贈、相続時精算課税制度を利用した際は不動産所得税がかかる場合があります)、基本的には登録免許税のみです。

法人税は、事業譲渡時に譲渡価格から譲渡資産の簿価との差額に対してかかります。事業譲渡とは、譲渡側(売手側)の事業の全部又は一部を譲受側(買手側)に承継させることです。消費税も、事業譲渡時に課税資産が含まれていれば発生します。

出典:M&A DX「事業譲渡とは」

報酬面

特に親族承継の場合、事業承継にあたり遺産相続トラブルにつながるおそれがあります。そこで検討しておきたいのが、弁護士など法律の専門家への相談です。

また、自社の評価価値を算出する際には公認会計士、事業承継で発生する税金面を把握する際には税理士に相談します。さらに、第三者への売却を検討する場合には、譲渡候補先を探すために金融機関やM&A専門会社に依頼することもあります。

いずれも、相談にあたり数万円〜数百万円の報酬が発生する可能性があることを理解しておきましょう。

まず類似する用語を整理しておく

まず類似する用語を整理しておく

本記事のメインテーマである事業承継・引継ぎ補助金を理解するためには、まず類似する用語の区別をつけておかなければなりません。特に混同しやすいのが、「事業承継」と「事業継承」や「補助金」と「助成金」の違いです。

各用語は、法律や利用する機関によって区別できます。4つの用語の意味や区別の仕方について確認していきましょう。

事業承継と事業継承の違い

まず、「承継」には「前代からの人(精神・身分・仕事・事業など)を受け継ぐこと」という意味があり、「継承」には「前代からの人(義務・財産・権利など)を受け継ぐこと」という意味があります。そのため、「承継」と「継承」の意味自体には大きな違いはありません。

「事業承継」と「事業継承」も明確に区別することはできませんが、「中小企業経営承継円滑化法」や「事業承継税制」のように法律用語で「承継」を用いるため、本記事でも「事業承継」を使用しています。

補助金と助成金の違い

「補助金」は、不足を補うために出す金銭のことです。国または地方公共団体が、特定の事業・産業や研究の育成・助長など行政上の目的・効果を達成するために、公共団体・企業・私人などに対して交付します。

一方、「助成金」は研究・事業などの遂行を助けるために支給する金銭です。「補助金」は審査など給付までのハードルが高いのに対し、「助成金」は原則として要件さえ満たしていれば受けられます。

なお、経済産業省で主に使用される用語が「補助金」であるのに対し、厚生労働省で使用されているのは「助成金」です。

出典:経済産業省「よく見られている補助金・給付金」、厚生労働省「各種助成金・奨励金等の制度」

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中小企業庁の事業承継・引継ぎ補助金を活用できる

中小企業庁の事業承継・引継ぎ補助金を活用できる

今後数年間で、事業承継を進めなければならない中小企業は増えていく見込みですが、税金や報酬といった費用がかかるため、なかなか積極的になれないケースもあります。そこで、検討したいのが事業承継・引継ぎ補助金の活用です。

事業承継・引継ぎ補助金とは、事業承継を契機として新しい取り組み等を行う中小企業等及び、事業再編、事業統合に伴う経営資源の引継ぎを行う中小企業等を支援する中小企業庁の制度です。制度の特徴を説明します。

支援対象者は主に中小企業

事業承継・引継ぎ補助金で支援対象となるのは、事業承継やM&Aを契機として経営革新等に挑戦する中小企業・小規模事業者やM&Aにより経営資源を他者から引継ぐ、あるいは他者に引継ぐ予定の中小企業・小規模事業者です。対象者は企業に限らず、個人事業主も含まれます。

ただし、次に説明する申請類型によって支援対象者の細かな要件が異なります。

出典:中小企業庁「令和3年度当初予算「事業承継・引継ぎ補助金」の公募要領を公表します」

申請類型は「経営革新」と「専門家活用」の2種類

補助金は、「経営革新」と「専門家活用」の2種類で構成されています。

経営革新は、新しい商品の開発やサービスの提供を行いたい方や新たな顧客層の開拓に取り組みたい方向けです。また、専門家活用はM&Aの成約に向けて取組を進めている方やM&Aに着手しようと考えている方向けとされています。

経営革新の対象となる経費は設備投資費用、人件費、店舗・事務所の改築工事費用で、専門家活用の対象経費はM&A支援業者に支払う手数料、デューデリジェンスにかかる専門家費用などです。経営革新は「Ⅰ型経営者交代型」と「Ⅱ型M&A型」、専門家活用は「Ⅰ型買い手支援型」と「Ⅱ型売り手支援型」にさらに区分されます。

出典:中小企業庁「令和3年度当初予算「事業承継・引継ぎ補助金」の公募要領を公表します」

今までの補助金の採択率は?

今までの補助金の採択率は?

「令和2年度第3次補正予算 事業承継・引継ぎ補助金」は、2021年6月11日から2021年7月12日までの公募で「経営革新」の申請総数335件のうち167件、「専門家活用」の申請総数412件のうち346件に対して補助金交付を決定しています。

また、2021年7月13日から2021年8月13日までの公募で採択されたのは、「経営革新」の申請総数375件のうち187件、「専門家活用」の申請総数420件のうち330件です。

出典:事業承継・引継ぎ補助金事務局「令和2年度第3次補正予算 事業承継・引継ぎ補助金」

さらに、「令和3年度当初予算 事業承継・引継ぎ補助金」では、2021年9月30日から2021年10月26日までの公募で「経営革新」が申請総数136件のうち75件、「専門家活用」は申請総数270件のうち236件に対して交付を決定しています。

出典:事業承継・引継ぎ補助金事務局「令和3年度当初予算 事業承継・引継ぎ補助金」

直近の採択率をまとめた表が以下の通りです。

年度一次・二次類型申請数採択数採択率
令和2年度第3次補正予算一次公募経営革新33516749.9%
専門家活用41236488.3%
二次公募経営革新37518749.9%
専門家活用42033078.6%
令和3年度当初予算一次公募経営革新1367555.1%
専門家活用27023687.4%

経営革新の採択率が5割前後であるのに対し、専門家活用の採択率は8割〜9割前後となっています。

なお、専門家活用で交付が決定した事業者は非公表ですが、経営革新の交付決定事業者は以下のサイトで確認可能です。参考にしてください。

出典:事業承継・引継ぎ補助金事務局「令和3年度当初予算 事業承継引継ぎ補助金 経営革新(M&A型)交付決定一覧【25件】」「令和3年度当初予算 事業承継引継ぎ補助金 経営革新(経営者交代型) 交付決定一覧【50件】」

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2021年度事業承継・引継ぎ補助金のポイント

2021年度事業承継・引継ぎ補助金のポイント

2021年度(令和3年度)の事業承継・引継ぎ補助金は、前年度(令和2年度第3次補正予算)の制度と比較していくつかの変更点があります。例えば、前年度制度では「経営革新」に新たに創業支援型が加わり3類型になったのにもかかわらず、2021年度では再び経営者交代型とM&A型の2類型になりました。

また、「一部補助対象を認定業者が支援したケースに限定」「表明保証保険契約に係る保険料も対象」「一部の要件がなくなる」点も以前の制度との違いとして理解しておきたいポイントです。2019年12月より運用されているjGrantsと併せ、補助金申請のポイントを説明していきます。

jGrantsを利用して申請

「jGrants(Jグランツ)」とは、経済産業省が運営する補助金の電子申請システムです。事業承継・引継ぎ補助金を申請するためには、jGrantsを利用しなければなりません。

また、jGrantsの利用にはgBizIDプライムのアカウントが必要ですが、発行までには1〜2週間要します。あらかじめ、以下でアカウントを発行しておくようにしてください。

出典:デジタル庁「gBizIDへようこそ」

一部補助対象を認定業者が支援したケースに限定

「事業承継でかかる費用」で紹介したように、事業承継において第三者への売却を想定している際には、M&A仲介業者やFA(ファイナンシャル・アドバイザー)への相談を検討します。その際、相談料・着手金・成功報酬といったM&Aの手続進行に関する総合的な支援に関する手数料は、専門家活用で補助対象経費とすることが可能です。

ただし、補助の対象となるのは「M&A支援機関登録制度」に登録されたFAやM&A仲介業者による支援に限定されます。登録機関を確認する際には、以下のサイトを利用してください。

出典:中小企業庁「登録機関データベース」

なお、M&A仲介費用の経費は事務局が認めたものが対象となります。

表明保証保険契約に係る保険料も対象

一般的に、M&Aでは最終契約段階で「表明保証」に関する条項を含めます。表明保証は最終契約の契約相手方に契約目的物の内容等に関して、真実かつ正確であることを表明し、契約相手方に保証することです。

表明保証に違反すると当事者が被る損害を賠償しなければならないため、損害をカバーする保険が存在します。「令和3年度 当初予算事業承継・引継ぎ補助金」では、売手も買手も自分が手配した表明保証保険にかかる保険料が補助の対象です。

出典:M&A DX「表明保証とは」

一部の要件がなくなる

令和2年度第3次補正予算事業承継・引継ぎ補助金の「経営革新」で経営者交代型やM&A型に申請する際には、新事業展開等または生産性向上が要件でした。

新事業展開等要件は新商品の開発又は生産や新役務の開発又は提供、もしくは事業転換による新分野への進出のいずれかの内容を伴う事業計画であることです。また、指定期間において従業員数を1名以上増加させる計画でなければなりません。

生産性向上要件は、指定期間内に本補助事業において申請を行う事業と同一の内容で「先端設備等導入計画」又は「経営革新計画」いずれかの認定を受けていることでした。

出典:事業承継・引継ぎ補助金事務局「令和2年度第3次補正予算 事業承継・引継ぎ補助金創業支援型 経営者交代型 M&A 型【公 募 要 領】(一次公募)」

しかし、令和3年度当初予算事業承継・引継ぎ補助金の経営革新では、新事業展開等または生産性向上の要件がなくなりより幅広く利用することができるようになりました。

事業承継・引継ぎ補助金「経営革新」の概要

事業承継・引継ぎ補助金「経営革新」の概要

補助金の種類によって、細かな類型も異なります。令和3年度当初予算事業承継・引継ぎ補助金の「経営革新」の場合、類型は【Ⅰ型】経営者交代型と【Ⅱ型】M&A型の2種類です。

Ⅰ型もⅡ型も、以下1と2の要件を満たさなければなりません。

1. 事業承継を契機として、経営革新等に取り組んでいる
2. 産業競争力強化法に基づく認定市区町村又は認定連携創業支援事業者により特定創業支援事業を受けているなど、一定の実績や知識等を有している

まず各類型の特徴を紹介した上で、補助上限額がいくらなのか、補助の対象者や対象となる事業承継にはどのような要件があるのかを詳しく解説していきます。

【Ⅰ型】経営者交代型とは

【Ⅰ型】経営者交代型は、事業承継を契機として経営革新等に取り組む者を支援する類型です。Ⅰ型で補助の対象となるためには、冒頭で紹介した1と2のほかに以下3の要件を満たさなければなりません。

3. 地域の雇用をはじめ、地域経済全般を牽引する事業等創業を契機として、引き継いだ経営資源を活用して経営革新等に取り組む

【Ⅱ型】M&A型とは

経営革新のもうひとつの類型である【Ⅱ型】M&A型は、事業再編・事業統合等を契機として、経営革新等に取り組む者を支援する制度です。Ⅱ型で補助の対象となるためには、冒頭で紹介した1と2のほかに以下3の要件を満たさなければ該当しません。

3. 地域の雇用をはじめ、地域経済全般を牽引する事業等の事業承継を契機として、経営革新等に取り組む

補助上限額

補助金の上限額は、類型によって異なります。Ⅰ型の上限額が250万円以内であるのに対し、Ⅱ型は500万円以内です。また、少なくとも1つの事業所又は事業の廃業・廃止を伴い(事業転換)、廃業登記費や解体・処分費などが発生する場合に限り、いずれも最大200万円までの上乗せがあります。

Ⅰ型もⅡ型も補助金の下限額は100万円で、補助率は補助対象経費の2分の1以内です。補助額が下限額を下回る場合には補助対象となりません。

補助の対象者の要件

補助の対象者となるには、以下10個の要件を満たさなければなりません。

1. 日本国内に拠点や居住地を構えて、日本国内で事業を営んでいる
2. 地域経済に貢献している
3. 反社会的勢力に該当しない
4. 法令遵守上の問題を抱えていない
5. 事務局から質問及び追加資料等の依頼があった場合に対応できる
6. 補助金の交付申請ほか各種事務局による承認及び結果通知に係る事項につき、必要に応じて修正を加えて通知することに同意する
7. 補助金の返還等の事由が発生した際、交付にあたり負担した各種費用について、事務局が負担しないことに同意できる
8. 経済産業省から補助金指定停止措置又は指名停止措置が講じられていない
9. 補助対象事業に係る情報について匿名性を確保しつつ公表される場合があることに同意できる
10. 事務局が求める補助対象事業に係るアンケート等に協力できる

対象となる事業承継の要件

指定期間内に中小企業者等間における被承継者と承継者の間でM&A等を含む事業の引き継ぎを行うことが対象となる事業承継の要件です。被承継者は、中小企業者等(個人事業主の場合は青色申告者)でなければなりません。

実質的に事業承継が進んでいない場合や、Ⅱ型(M&A型)にもかかわらず親族内承継であると事務局に判断された場合には対象外となります。

出典:事業承継・引継ぎ補助金事務局「令和3年度当初予算 事業承継・引継ぎ補助金公募 要領】」

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事業承継・引継ぎ補助金「専門家活用」の概要

事業承継・引継ぎ補助金「専門家活用」の概要

令和3年度当初予算事業承継・引継ぎ補助金の「専門家活用」の場合、【Ⅰ型】買い手支援型、【Ⅱ型】売り手支援型の2種類があります。いずれも「経営資源」の引継ぎ(譲渡)がポイントですが、不動産売買のみの引継ぎは「経営資源」の引継ぎに該当しません。

各類型の特徴を整理した上で、補助上限額がいくらなのか、補助の対象者や対象となる事業承継にはどのような要件があるのかを確認していきましょう。

【Ⅰ型】買い手支援型とは

【Ⅰ型】買い手支援型は、事業再編・事業統合等に伴う経営資源の引継ぎを行う予定の中小企業・小規模事業者を支援する類型です。対象となるには、以下2点の要件を満たさなければなりません。

1. 経営資源を譲受後、シナジーを活かした経営革新等を行うことが見込まれる
2. 経営資源を譲受後、地域経済全体を牽引する事業を行うことが見込まれる

【Ⅱ型】売り手支援型とは

【Ⅱ型】売り手支援型は、事業再編・事業統合等に伴い、自社が有する経営資源の引継ぎが行われる予定の中小企業・小規模事業者を支援する類型です。対象となるには、以下の要件を満たさなければなりません。

● 地域経済全体を牽引する事業等を行っており、事業再編・事業統合することで第三者により事業が継続されることが見込まれる

補助上限額

Ⅰ型もⅡ型も補助上限額は250万円以内です。Ⅱ型には廃業費で上限200万円以内の上乗せ額がありますが、関連する経営資源の引継ぎが補助事業期間内に実現しなかった場合の廃業費は対象外となります。

いずれも、補助下限額は50万円で補助率は補助対象経費の2分の1以内です。交付申請段階で、補助額が補助下限額を上回っていなければなりません。

補助の対象者の要件

補助の対象者となるには、以下10個の要件を満たさなければなりません。

1. 日本国内に拠点や居住地を構えて、日本国内で事業を営んでいる
2. 反社会的勢力に該当しない
3. 法令遵守上の問題を抱えていない
4. 事務局から質問及び追加資料等の依頼があった場合に対応できる
5. 補助金の交付申請ほか各種事務局による承認及び結果通知に係る事項につき、必要に応じて修正を加えて通知することに同意する
6. 補助金の返還等の事由が発生した際、交付にあたり負担した各種費用について、事務局が負担しないことに同意できる
7. 経済産業省から補助金指定停止措置又は指名停止措置が講じられていない
8. 補助対象事業に係る情報について匿名性を確保しつつ公表される場合があることに同意できる
9. 事務局が求める補助対象事業に係るアンケート等に協力できる
10. FA・M&A仲介費用を補助対象経費とする場合、内容について、M&A支援機関登録制度事務局に対し実績報告されることに同意する

対象となる事業承継の要件

指定期間内に経営資源の被承継者と承継者の間で事業再編・事業統合が着手もしくは実施予定であるか、廃業を伴う事業再編・事業統合が行われる予定であることが要件です。実施予定とは、相手方と基本合意書や最終契約書が締結されていることを指します。

実質的に事業再編・事業統合が行われていないと事務局が判断した場合、対象外となります。

補助金申請から交付までの流れ

補助金申請から交付までの流れ

事業承継・引継ぎ補助金を受けるには、いくつかの手続きを踏まなければなりません。補助金交付までの流れは、「経営革新」と「専門家活用」のいずれに申請するかによっても異なります。

最初に令和3年度当初予算事業承継・引継ぎ補助金の申請期間について説明してから、各種類の手続きの流れや必要書類を解説していきます。

補助金の申請期間

令和3年度当初予算「事業承継・引継ぎ補助金」の申請受付期間は、2021年9月30日~10月26日です。すでに受付期間は終了していますが、次年度手続きの参考になるように本記事では今年度の補助金概要を説明しています。

出典:中小企業庁「令和3年度当初予算「事業承継・引継ぎ補助金」の公募要領を公表します」

なお、令和元年度補正予算「事業承継補助金」は2020年4月10日~2020年5月29日、令和2年度第3次補正予算「事業承継・引継ぎ補助金」は2021年6月11日~7月12日、2021年7月13日~8月13日が申請期間でした。

出典:中小企業庁「令和元年度補正予算「事業承継補助金」の公募要領を公表します」「令和2年度第3次補正予算「事業承継・引継ぎ補助金」の公募要領を公表します」「令和2年度第3次補正予算「事業承継・引継ぎ補助金」の2次公募の公募要領を公表します」

「経営革新」の手続きの流れ

事業承継・引継ぎ補助金「経営革新」で交付申請の流れは以下の通りです。

1. 「gBizIDプライム」アカウント取得
2. 認定経営革新等支援機関による確認書をダウンロード
3. 認定経営革新等支援機関で本補助金に係る確認書を取得
4. 必要書類を準備
5. jGrantsに必要事項記入
6. jGrantsで必要書類添付の上、申請
7. 適宜申請状況を確認

「認定経営革新等支援機関による確認書」は以下の事務局サイトより取得してください。

出典:事業承継・引継ぎ補助金事務局「資料ダウンロード」

「経営革新」の必要書類

「経営革新」で共通して必要な書類は以下の通りです。

● 補助金交付申請書(jGrantsで対応)
● 認定経営革新等支援機関による確認書
● 資格要件を満たしていることを証明する後継者の書類
● 交付申請日以前3カ月以内に発行された履歴事項全部証明書
● 交付申請日以前3カ月以内に発行された住民票
● 承継時の申請内容が確認できる履歴事項全部証明書(発行から3カ月以内のもの)
● 税務署受付印のある承継直近期の確定申告書 (別表一、別表二、別表四)
● 税務署受付印のある承継直近期の確定申告書B第一表・第二表と所得税青色申告決算書
● 承継直近期の決算書(貸借対照表・損益計算書)

ただし、各類型によって一部異なる部分があるため、以下の事務局サイトから「必要書類チェックリスト:経営革新」を取得して確認してください。

出典:事業承継・引継ぎ補助金事務局「資料ダウンロード」

「専門家活用」の手続きの流れ

続いて、事業承継・引継ぎ補助金「専門家活用」で交付申請の流れは以下の通りです。

1. 「gBizIDプライム」アカウント取得
2. 必要書類を準備
3. jGrantsに必要事項記入
4. jGrantsで必要書類添付の上、申請
5. 適宜申請状況を確認

「経営革新」のケースと異なり、「専門家活用」では「認定経営革新等支援機関による確認書」取得などのやり取りがありません。

「専門家活用」の必要書類

「専門家活用」で共通して必要な書類は以下の通りです。

● 補助金交付申請書(jGrantsで対応)
● 履歴事項全部証明書(交付申請日以前3 カ月以内に発行されたもの)
● 税務署受付印のある直近の確定申告書 (別表一、別表二、別表四)の写し
● 直近分の決算書(貸借対照表、損益計算書) の写し 
● 住民票(交付申請日以前3カ月以内に発行されたもの)の写し
● 税務署の受付印のある直近3期分の確定申告書B第一表・第二表と所得税青色申告決算書(P1~P4)の写し
● 常時使用する従業員1名の労働条件通知書
● 株主名簿(代表者の原本証明付き)

「専門家活用」の場合も、各類型によって一部異なる部分があるため、以下の事務局サイトから「必要書類チェックリスト:専門家活用」を取得して確認してください。

出典:事業承継・引継ぎ補助金事務局「資料ダウンロード」

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経営資源引継ぎ補助金の事例

経営資源引継ぎ補助金の事例

事業承継・引継ぎ補助金の概要をなかなか理解できない場合でも、実際の事例を確認すると自社でどのように活用できるかイメージしやすくなります。令和2年度補正「経営資源引継ぎ補助金」(現在の事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用))は事務局が事例を公開しているのでサイトで確認可能です。

「買い手支援型」と「売り手支援型」の事例をそれぞれ2つずつ紹介します。

「買い手支援型」事例1

A社は、近畿地方でITサービスの提供や広告代理店(HP制作含む)事業・Web集客の支援事業を行い、豊富な集客ノウハウを有していました。そこで、学習塾を営むもIT化する教育に対応できず、引継ぎ先を探していた企業をM&Aすることになりました。

A社はM&A未経験のため税務・法務面での留意事項を単独では把握できていませんでしたが、補助金制度を利用することで外部専門家に相談できたとのことです。補助金は、外注費(M&A成立までの事務業務請負費)とシステム利用料(システム利用に係るM&A成約手数料)に充てています。

出典:事業承継・引継ぎ補助金事務局「令和2年度補正 経営資源引継ぎ補助金 No1. 買い手支援型 -経営資源の引継ぎを実現させるための支援-」

「買い手支援型」事例2

B社は、北海道で保育園を6園運営しており今後も拡大発展を目指していました。そこで、保育園向け助成金や補助金の対象外であり、運営状況の苦戦を強いられている「認可外保育園」を買収し、B社が有する「認可保育園」「家庭的保育園」「企業主導型保育園」への転換ノウハウを活用することを検討しました。

本ケースで、補助金の使途は外部専門家への委託費です。外部専門家から提示のあった買収候補から、買収の交渉先を選定しています。

出典:事業承継・引継ぎ補助金事務局「令和2年度補正 経営資源引継ぎ補助金 No9. 買い手支援型 -経営資源の引継ぎを促すための支援-」

「売り手支援型」事例1

C社は北陸地方で土木建築工事の施工業を営む企業です。新型コロナウイルス感染拡大の影響で受注減少傾向でしたが、75歳を超える代表には後継者がいませんでした。

そこで、従業員の全員雇用や既存取引先との取引継続を前提に経営資源を引き継げる先を探し始めます。補助金を委託費(M&A成功報酬)に使い、外部専門家から交渉全般のサポートや最終契約書締結に関するアドバイスを受け、C社全従業員の雇用が確保された状態で経営資源を引き継ぐことができたとのことです。

出典:事業承継・引継ぎ補助金事務局「令和2年度補正 経営資源引継ぎ補助金 No5. 売り手支援型 -経営資源の引継ぎを実現させるための支援-」

「売り手支援型」事例2

九州地方で清酒の醸造および販売を実施していたD社は、飲食業界の消費激減の煽りを受けて既存客との取引が減少傾向にありました。醸造文化の維持発展、ブランド継続、中長期的な従業員雇用を図るためには国内の同業他社に事業を託さなければならないと考え、M&A仲介会社から協力を受けることを決めます。

補助金は候補先の発掘費用や基礎資料作成の着手金・企業評価料に充て、買い手候補先へのアプローチを実施しているとのことです。

出典:事業承継・引継ぎ補助金事務局「令和2年度補正 経営資源引継ぎ補助金 No10. 売り手支援型 -経営資源の引継ぎを促すための支援-」

各自治体でも事業承継支援が進む

各自治体でも事業承継支援が進む

事業承継は、日本全国の中小企業が抱えている課題です。国は、各都道府県に公的相談窓口「事業承継・引継ぎ支援センター」を設置し、中小企業の事業承継に関する相談に対応しています。

また、各自治体独自でも事業承継支援が進んでいます。今回は、東京都と大阪府と愛知県でどのような事業承継支援策があるのかを確認していきましょう。

東京都の取り組み

東京都では、一般社団法人東京都信用金庫協会及び一般社団法人東京都信用組合協会が都の補助金を活用して地域金融機関による事業承継促進事業を実施しています。

事業の特徴は、都内に事業展開する信用金庫・信用組合・地方銀行の営業店ネットワークを活用している点や専門家の無料派遣(8回まで)などで承継計画の策定から実行までを経営・資金面からパッケージで支援している点です。

出典:東京都産業労働局「地域金融機関による事業承継促進事業」

大阪府の取り組み

大阪府では、商工会・商工会議所等を通じて経営指導員による相談対応や事業承継診断などの事業承継支援を実施しています。また、事業承継に関する意識啓発等を目的に事業承継セミナーやワークショップ等も開催しています。

さらに、若手後継者が先代から受け継ぐ有形・無形の経営資源を活用して新たな領域に挑戦する「ベンチャー型事業承継」を支援している点も特徴です。

出典:大阪府「事業承継支援の推進」

愛知県の取り組み

愛知県では、地元の士業団体・金融機関・商工会・商工会議所等と「愛知県事業承継ネットワーク」を構築・運営し、承継の準備段階から切れ目ない支援を行っています。愛知県内の中小企業・小規模事業者であれば、弁護士・税理士・公認会計士・中小企業診断士等で構成される専門家チームの支援を最大5回まで無料で受けることが可能です。

出典:愛知県「愛知県事業承継ネットワーク」

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2022年度の事業承継・引継ぎ補助金

2022年度の事業承継・引継ぎ補助金

「補助金の申請期間」で説明した通り、すでに令和3年度当初予算「事業承継・引継ぎ補助金」の申請期間は終了しています。2022年度(令和4年度)の補助金制度概要については、まだ発表されていません。

ただし、令和4年度 中小企業・小規模事業者関係の概算要求で事業承継・引継ぎ・再生支援事業に47.1億円計上していることから、今後も政府が事業承継関連の支援に力を入れていくことが考えられます。

出典:経済産業省「令和4年度 中小企業・小規模事業者関係の概算要求等のポイント」

補助金以外の資金面で検討すること

補助金以外の資金面で検討すること

事業承継時には、税金や報酬に加え、後継者が相続等で分散した自社株式や事業用資産を買い取るための資金や、役員や従業員が株式や事業の一部を買い取って事業の承継を行うための資金なども用意しなければなりません。

補助金だけでは対応できない資金面をカバーするため、「低利融資や信用保証制度を利用しての資金調達」や「事業承継税制の検討」についても簡単に解説します。

低利融資や信用保証制度を利用して資金調達

日本政策金融公庫と沖縄振興開発金融公庫では、事業承継での資金調達を検討している後継者に対して低利融資制度で支援しています。また、経営承継円滑化法に基づく認定を得た会社・個人事業主が事業承継に関する資金を金融機関から借り入れる場合、信用保証協会の通常の保証枠とは別枠が用意されているため、資金調達がしやすいです。

出典:中小企業庁「事業承継における融資・保証制度」

事業承継税制も検討

法人版事業承継税制は、後継者が非上場会社の株式等を贈与又は相続等で取得した場合、一定の要件の下で相続税・贈与税の納税が猶予あるいは免除される制度です。法人版事業承継税制には、一般措置と特例措置があります。

特例措置には事前の計画策定等や適用期限が設けられている分、一般措置と比べて納税される猶予割合が80%から100%に引上げられている点が特徴です。

出典:国税庁「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし」

まとめ

まとめ

事業承継を進める際、税金や株式取得費用以外にM&A仲介業者や外部専門家への報酬などの費用もかかります。事業承継・引継ぎ補助金を活用すれば、M&A支援業者に支払う手数料も補助金の対象となりうるので、事業承継を検討している方は2022年度以降の補助金公募をチェックしておいてください。

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