商法とは
ここでは、そもそも商法とは何か基本的な部分について解説します。
商法とは何か
商法とは商業に関する基本的なルールをまとめた法律です。個人、企業を問わずビジネスに関する一般的な取り決めを定めた法律と考えるとわかりやすいでしょう。しかし、後述の通り会社に関するルールは商法から独立する形で2006年に定められた会社法が主に担っています。広義の商法は、商法、会社法、保険法、手形法等の関連法令を含めた法体系全般を指し、中でも商法は、広義の商法の中でも基本的なルールを定めたものです。
商法の位置づけ
商法は民法や会社法といった他の法律との関係性が深いため、商法の位置づけについて理解することも重要です。例えば、民法が一般的な事象を扱う一般法であるのに対して、商法は商行為というより狭い分野を扱う特別法となります。一方で、会社法と商法を並べると、会社法が会社に関するルールに特化した特別法であるのに対し、商法はビジネス全般を扱う一般法という見方ができます。
商法の歴史
商法の起源は明治にまで遡ることができます。しかし、明治時代以前から商業自体は存在し、法律ではなく商慣習に沿って商取引が行われていました。明治以降に近代的な企業経営の考え方が日本でも定着し、統一的なルールの必要性が認識され始めたことから、1890年にドイツの商法を参考に旧商法が公布されました。1899年には会社設立の自由化、会社の合併を始めとした改正が加えられ、新たな商法が施行されます。
その後、大正から戦後にかけて数々の改正を経て、2006年には会社に関するルールが会社法という形で新たに設けられました。それまでは、商法の中で会社に関するルールが規定されていたため、2006年の会社法施行は商法の歴史において大きな転換点といえるでしょう。
会社法との違い
先述の通り、会社法は従来の商法から会社に関わる部分を独立した法体系として整備したものです。そのため、両者の明確な違いとして商法が商行為の主体である商人全般に適用されるのに対し、会社法は会社のみに適用されることがあります。
また、企業から見た場合は商法よりも会社法が優先的に適用されることも重要な違いといえるでしょう。会社法が優先されるのは、商法が一般的な事象に幅広く適用される一般法であるのに対し、会社法がより特定の狭い分野に適用される特別法であるからです。ただし、企業も商法が対象とする商行為の主体であるため、会社法の適用が優先されるとはいえども、商法についても順守すべきであることには注意しましょう。
商法と会社法で扱う代表的な用語
ここでは、商法と会社法を理解するためには知っておくべき用語について解説します。
商法
商人
商法に限らず法律に関して知る際には法律が適用される主体について理解することが重要です。商法では、自己の名をもって商行為をすることを業とする者が商人とされ、これには個人事業主に限らず株式会社を始めとした企業も含まれます。ただし、弁護士や公認会計士といったいわゆる士業や医療法人は商人に該当しません。
商行為
商行為については商法第501条から503条にその規定があり、それぞれの条文で絶対的商行為、営業的商行為、附属的商行為について定義されています。絶対的商行為は継続的に行われず1回限り行われた場合でも商行為とされるもので投機的売買などが例に挙げられます。営業的商行為は営利を目的として反復継続して行う場合に商行為とされるものであり、1回限りの実施である場合は商行為にあたりません。附属的商行為は開業準備など、営業のためにする行為です。
会社法
社員
会社法では社員に関する定義が一般的に理解されている内容と異なるため注意が必要です。
一般的に社員というと従業員のことを指しますが、会社法では株主を始めとした会社経営に影響力を及ぼす出資者を意味します。一方で、社債の債権者はあくまで企業に貸し付けを行っているに過ぎないため出資者とはならず、社員には該当しません。
株式会社
会社法では会社の分類に関するルールも含まれており、一般的に馴染みのある株式会社についてもその定義が書かれています。まず会社は株式会社と持分会社に分類され、持分会社はさらに合同会社、合名会社、合資会社に分類されます。株式会社は株主が出資し、取締役が経営を行う企業形態です。
このように株式の保有という形で会社を所有する株主と実際の経営を担う取締役で役割を分担していることを「所有と経営の分離」と呼びます。一方で持分会社は、出資者が自ら経営に参画する企業形態であり、責任の範囲によって合名会社、合資会社、合同会社に分類されます。
株式会社 | 株主が出資し、取締役が実務上の経営を行う | |
持分会社 | 合名会社 | 出資者全員が無限責任社員である |
合資会社 | 出資者の中で無限責任社員と有限責任社員がいる | |
合同会社 | 出資者全員が有限責任社員である |
近年の商法・会社法の見直し
商法と会社法は変化の多いビジネス環境に応じて頻繁に変更が加えられています。ここでは、商法と会社法における近年の改正内容の中で代表的なものを解説します。
役員報酬の決定プロセス
2021年の会社法改正で、ストックオプション(新株予約権)を始めとした非金銭的報酬等に関する株主総会決議事項が追加されました。従来は「具体的な内容」を定めることだけが規定されていましたが、この改正で取締役に対して発行する新株予約権の数の上限、権利の行使期間など、より具体的な項目を株主総会で決議することが求められるようになりました。
株主総会資料の電子提供
数ある会社法改正の中でも、近年のデジタル化の実情に合わせたものが株主総会の電子提供に関する改正です。従来は株主総会の招集通知に株主総会資料を併せて郵送する必要がありましたが、ホームページ上に掲載するなどの形で必要な情報を開示すれば資料の添付を省略することが可能になりました。
株主提案権の制限
株主提案権の濫用を防ぐため、1回の株主総会で提案できる株主提案数は10件までになりました。しかし、10件を超えた株主提案が無効になるわけではないことに注意が必要です。また、この規定は取締役設置会社のみが対象となっています。
社外取締役設置の義務付け
近年はコーポレートガバナンスという言葉がよく知られるようになりました。コーポレートガバナンスを実現するための一つの手段として社外取締役の設置が会社法でも義務付けられました。実際に東証プライム市場では上場企業に社外取締役の設置に留まらず、その割合を3分の1以上にすることを求めています。会社法は時代の要請に沿って改正されてきましたが、社外取締役設置の義務化はまさにこのことをよく表しているといえるでしょう。
まとめ
商法は古くから存在する法体系ですが、2006年に会社法が成立して以降は企業経営のルールについては会社法が優先されるケースが増えています。しかし、企業は会社法だけではなく商法についても順守する必要があり、商法についても正しい知識を持つことが重要です。また、近年増加傾向にあるM&Aにおいても商法と会社法の理解は欠かせないため、今回の記事を通して商法と会社法について正しく理解し、今後のビジネスに役立てていただけると幸いです。
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