不動産を譲渡した際の譲渡所得税とは
所得税法では、所得は10種類に分類され、それぞれの所得に対して異なる税の計算方法が定められています。
一般的に、なにかを他者に譲渡(売却など)した際に得られる所得を「譲渡所得」といいます。ここでは、不動産(土地、建物)を譲渡した場合の譲渡所得(不動産譲渡所得)と、それに対する所得税(不動産譲渡所得税)について解説します。
不動産の譲渡所得税は誰が払う?
不動産譲渡所得に対する所得税は、不動産を「売却した(側」が支払います。土地や建物といった不動産を売って所得(儲け)が生じた際に、その所得に対して課税されるイメージです。
なお、購入や相続などによって「不動産を取得した側」の人は、原則として「不動産取得税」や「登録免許税」などの税金が課せられます。
ここで、「所得税」と「取得税」の字面や発音が似ているため混同してしまう人がたまにいますが、意味がまったく異なるので注意してください。
・不動産取得税:不動産を得た人が支払う
不動産譲渡所得税は誰が計算する?
不動産譲渡所得税は、不動産を手放した人が、自分で(もしくは税理士など専門家に依頼して)計算をして、申告書を提出する必要があります。
つまり、固定資産税などのように、市や県が計算して納付書を送ってくれるものではありません。
不動産譲渡所得税はいつ支払う?
所得税の確定申告期間と納税の期限は、不動産を譲渡した日の属する年の翌年の2月16日から3月15日の間です。
期限に遅れた場合には無申告加算税などペナルティの対象となる可能性があるほか、申告すれば受けられたはずの特例の適用が受けられなくなるリスクがあります。
なお令和3年から令和5年までの確定申告では、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた人については、申告期限を延長できる特例措置が設けられています(2024年以降の措置は未定)。
不動産譲渡所得税の計算方法
不動産の譲渡所得税額は、「不動産にかかる課税譲渡所得額」×「税率」で求められます。
(2)課税譲渡所得金額×税率=不動産譲渡所得税額
まず、課税譲渡所得額を求め、次に税率を求めます。
(1)不動産にかかる課税譲渡所得額の求め方
まず、所得税の計算には、他の所得とまとめて計算するもの(総合課税)と、独立して計算するもの(分離課税)とがあります。
不動産譲渡所得は、原則として給与所得や事業所得などの、ほかの所得とは合算されず、分離して計算する分離課税となっています。
また、「譲渡所得」とは、「売った金額」のことではなく、売った金額から取得費(買った金額など)等を差し引いた残り、つまり“儲けの金額”のことです。
不動産の場合、譲渡所得税額は、次の式で算定されます。
「収入金額」とは
不動産譲渡所得税の計算における「収入金額」とは、通常、不動産を売ったことによって買い手から受け取る金銭の額です。ただし、金銭以外のモノや権利で対価を受け取った場合には、そのモノや権利の「時価」が収入金額となります。
また、離婚に伴う財産分与や法人への贈与など一定の場合には、実際には対価を受け取っていないとしても、時価で不動産を売却したものとみなして(これを「みなし譲渡」と呼びます)不動産譲渡所得税を計算しなければならず、課税対象となります。この場合における「収入金額」は、時価となります。
また、法人に対して時価の2分の1未満の価額で不動産を譲渡した場合にも、時価で譲渡したものとみなされます。
「取得費」とは
不動産譲渡所得の計算における「取得費」とは、その不動産を取得するのに要した価額です。代表的な取得費には、次のものがあります。
・売った建物の建築代金や購入代金から減価償却費を控除したもの
・購入手数料
・設備費、改良費
また、次の費用なども取得費に算入することが可能です。ただし、事業所得などの必要経費にすでに算入されたものは、取得費に含めることはできません。
・借主がいる土地や建物を購入するときに、借主に支払った立退料
・土地の埋立てや土盛り、地ならしをするために支払った造成費用
・土地の取得に際して支払った土地の測量費
・所有権などを確保するために要した一定の訴訟費用
・建物付きの土地を購入してその後おおむね1年以内に建物を取り壊すなど、当初から土地の利用が目的であったと認められる場合の建物の購入代金や取り壊しの費用
・土地や建物を購入するために借り入れた資金の利子のうち、その土地や建物を実際に使用開始する日までの期間に対応する部分の利子
・すでに締結されている土地などの購入契約を解除して、他の物件を取得することとした場合に支出する違約金
なかでも、「1 不動産の取得にあたって納めた登録免許税、登記費用、不動産取得税、印紙税など」は、ほとんどのケースで支払っていると考えられます。
取得費をきちんと計上すれば、結果として譲渡所得税を減らすことにつながりますので、計上を漏らさないよう注意しましょう。
不動産の取得費がわからないときはどうするか
相続で取得した不動産の場合や、自分で購入した不動産でも、購入時の資料を紛失してしまった場合などは、取得費がわからないことがあります。
そのような場合には、不動産の売却金額の5%相当額を取得費として計上することが可能です。例えば、2,000万円で売却した不動産の取得費がわからない場合には、取得費を100万円(2,000万円×5%)として計上することとなります。
「譲渡費用」とは
不動産譲渡所得の計算における「譲渡費用」とは、土地や建物を売るために直接かかった費用のことです。
例えば、次の費用などがこれに該当します。
・印紙税のうち、売主が負担したもの
・貸家を売るため、借家人に支払った立退料
・土地などを売るためにその上の建物を取り壊したときの取り壊し費用と、その建物の損失額
・すでに売買契約を締結している資産をさらに有利な条件で売るために支払った違約金
・借地権を売るときに地主の承諾をもらうために支払った名義書換料など
一方、空き家などを売却するまで管理するのにかかった費用や、建物の修繕費などの費用は、譲渡費用に算入することができません。また、買い手が購入対価を契約した期限までに支払わず取り立てなどをした場合であっても、この取り立てに要した費用は譲渡費用には該当しないとされています。
「特別控除額」とは
不動産譲渡所得税の計算では、ケースに応じてさまざまな「特別控除額」が用意されています。例えば、マイホームを売却した際の特別控除額は、最大3,000万円です。
代表的な特別控除は、後ほど紹介します。
(2)不動産を譲渡した際の税率の考え方
不動産譲渡所得税の税率は、「15%」と「30%」の2パターンが存在します。これらのいずれが適用されるのかは、その不動産を取得してから譲渡するまでの期間(所有期間)によって次のように変わります。
不動産の所有期間 | 税率 |
5年超(長期譲渡所得) | 15% |
5年以下(短期譲渡所得) | 30% |
ここで気をつけたいのが、「5年超か5年以下か」の判断は、譲渡した年の1月1日現在で判定する、という点です。実際の譲渡日時点で判定するわけではない点に注意してください。(後で詳しく説明します)。
なお、令和19年までは、復興特別所得税として、算定した税額にそれぞれ2.1%が上乗せされます。また、所得税のほかに住民税(長期譲渡所得:5%、短期譲渡所得:9%)も課税されます。
これらをまとめると、不動産譲渡所得にかかる所得税、復興特別所得税、住民税の合計は、それぞれ以下のようになります。長期譲渡になるか、短期譲渡になるかにより、課税に大きな差が生じることがわかるでしょう。
所得の種類 | 所得税 | 復興特別所得税 | 住民税 | 合計 |
長期譲渡所得 | 15% | 0.315% (15%×2.1%) | 5% | 20.315% |
短期譲渡所得 | 30% | 0.63% (30%×2.1%) | 9% | 39.63% |
不動産譲渡所得税を節税する方法(1)取得費
ここからは、不動産譲渡所得税を抑える方法を、譲渡所得税の計算要素ごとに紹介します。まず、「取得費」に着目します。
先の計算式で見たとおり、課税譲渡所得は収入金額から取得費を差し引いて求めるものであるため、取得費が大きければ、課税譲渡所得は小さくなり、結果として課税も少なくなります。
資料をしっかり保存する
基本的なこととして、不動産購入時の資料をしっかりと保存しておくことが重要です。なぜなら、仮に資料を紛失して、実際の取得金額が不明となってしまうと、売却収入金額の5%しか取得費として計上できないためです。
先祖代々継承してきた不動産など、よほど古いものなどでない限り、実際の取得費が「収入金額の5%」以下であることは稀でしょう。しかし、資料が残っていなければ、5%分しか取得に計上することができないルールです。
一方、きちんと資料が残っていれば、実際の取得費を計上することが可能となります。
また、購入対価のわかる資料のみならず、取得費に計上できる登録免許税や仲介手数料などの資料も、しっかり保管しておきましょう。これらも収入から差し引くことができます。
相続した不動産を売るなら3年10か月以内に売却する
相続で取得した不動産を売却する場合、相続税の申告期限の翌日後3年以内(相続開始から数えれば、相続開始の翌日から3年10か月以内)に売却すると、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」という特例制度の適用が受けられます。
この適用により、譲渡所得税が節税できる可能性があります。
相続財産を譲渡した場合の取得費の特例とは、その不動産を相続したことで支払った相続税を、取得費として加算することができる特例です。
取得費として加算できる相続税額は、次の式で算定されます。
式にすると複雑に見えますが、簡単にいえば、不動産を譲渡した者が支払った相続税額のうち、譲渡した不動産にかかった分を按分して算定した額を、譲渡所得税計算上の取得費として算入できるということです。
ただし、この特例の適用が受けられるのは、期限内に譲渡所得税の申告をした場合に限られます。そのため、申告期限に遅れないように注意しましょう。
また、相続により不動産を取得していたとしても、相続財産全体の評価額が相続税の基礎控除額以下となるなどによって相続税を支払っていない場合には、この特例の適用を受けることはできません。
不動産譲渡所得税の節税方法(2)特別控除
不動産譲渡所得税を節税するためには、特別控除の適用を漏らさないことも重要です。特別控除には多くの種類が存在しますが、代表的なものは次のとおりです。
マイホームを譲渡した場合の3,000万円控除
譲渡した不動産が、マイホーム(自分の住む自宅)であった場合には、取得から売るまでの期間に関係なく、最高3,000万円の特別控除が可能です。これを、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」といいます。
この特例を利用できれば、マイホームの所得が3,000万円までであれば、譲渡所得税はかからないこととなります。
マイホームを売って3,000万円を超える「儲け」が出るケースはさほど多くないでしょう。そのため、売却した不動産がマイホームであれば、この特例を使って税額がゼロとなる可能性が高いといえます。
ただし、この特例の適用を受けるには、期限内申告のほか、下記のような要件を満たさなければなりません。
・住まなくなった日から、遅くとも3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
・家屋取り壊し後に売る際には、取り壊しから1年以内に譲渡契約を締結し、かつ譲渡契約締結までに貸駐車場などその他の用に供していないこと
・売り手と買い手が、親子や夫婦など特別な関係でないこと
・他の一定の特例を受けていないこと
特に、家屋を取り壊す時期によっては控除が受けられなくなってしまうため、注意が必要です。いずれにしても、マイホームの売却に際してこの特例の適用を検討する場合、税理士のアドバイスを受けたほうがいいでしょう。
平成21年、平成22年に取得した土地等を譲渡した場合
個人が、平成21年1月1日から平成22年12月31日まで間に取得した土地等(土地と、借地権などの土地上の権利)を譲渡した場合には、最高1,000万円の控除が可能です。
この特例の適用を受けるためには、確定申告に際して平成21年1月1日から平成22年12月31日まで間に取得した土地等であることを証明する必要があるほか、次の要件などを満たさなければなりません。
・親子や夫婦など特別な間柄にある者から取得した土地等ではないこと
・相続、遺贈、贈与などで取得した土地等ではないこと
・他の一定の特例を受けていないこと
こちらも申告が要件となっていますので、特例の適用を受けたい場合には、忘れずに期限内に申告をしましょう。
不動産譲渡所得税の節税方法(3)税率
不動産譲渡所得税の税率は2種類あり、当然低い税率が適用されたほうが課税額は少なくなります。
短期譲渡所得に該当しないよう注意する
不動産の所有期間が短く「短期譲渡所得」に該当してしまうと、譲渡所得税率は30%の高率となってしまいます。そのため、よほどやむを得ない事情があるのでない限り、最低でも5年間は所有したうえで売却をするとよいでしょう。
その際、5年超の長期譲渡であるかどうかの判断が、譲渡日時点ではなく、譲渡日の属する年の1月1日時点でおこなわれる点は、特に勘違いしやすいところなので、十分注意してください。
例えば、平成30年4月1日に購入した不動産は令和5年4月1日で5年超になるのではなく、令和6年1月1日以後に売却しないと、長期譲渡所得になりません。
相続の場合には取得時期を引き継げる
譲渡する不動産を相続や贈与で取得していた場合には、亡くなった人(「被相続人」といいます)や贈与をした人(「贈与者」といいます)の取得時期を引き継ぐことが可能です。
例えば、昭和60年4月1日にA土地を購入した被相続人X氏が令和3年4月1日に亡くなり、その土地を相続した相続人Y氏が、令和5年3月31日にA土地を売ったとします。この場合、相続人Y氏自身は2年間しかA土地を所有していません。しかし、相続で取得した土地であるため、被相続人X氏が取得した1985年4月1日を引き継いで取得期間を算出できるので、短期譲渡所得ではなく長期譲渡所得で計算できるということです。
不動産譲渡所得税の節税方法(4)その他の特例
不動産譲渡所得税やその他の税金の節税につながるその他の特例には、次のものが存在します。
特定のマイホームを買い換えたときの特例
特定のマイホームを令和5年12月31日までに売って、別のマイホームに買い換えたときは、一定の要件を満たすことで、「特定の居住用財産の買い換えの特例」の適用が受けられます。
これは、買い換えをした時点では譲渡所得税を課税せず、新たに取得した別のマイホームを売却する時点まで、課税を繰り延べる特例です。ただし、あくまでも「繰り延べ」の制度であり、単純な非課税ではない点に注意が必要です。
例えば、1,000万円で取得したマイホームAを5,000万円で売却し、新たに7,000万円のマイホームBを購入したとします。この場合、本来であれば、マイホームAの売却によって4,000万円(=5,000万円-1,000万円)の譲渡所得が発生し、これに対して譲渡所得税がかかるはずです。しかし、この特例を使えば、最初の売却時点では課税されません。
その後に、マイホームBを売却することとなった際、仮にこれが8,000万円で売れれば、譲渡所得は1,000万円(=8,000万円-7,000万円)となるはずです。しかし、繰り延べられていたマイホームAの譲渡益4,000万円が加算された計「5,000万円」が不動産譲渡所得税の課税対象となります。これが、「特定の居住用財産の買い換えの特例」です。
マイホームAを譲渡した時点で資金が不足しており、税負担を避けたい場合などには、この特例の適用が選択肢の1つとなるでしょう。
ただし、上で紹介した「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」とは異なり、単純な非課税制度ではありません。この特例を使った場合には将来マイホームBの譲渡をした際の税負担が重くなることを、よく理解しておく必要があります。
そのため、マイホームの譲渡によって生じる譲渡所得が3,000万円以下である場合や3,000万円を多少超える程度であれば、上で紹介をした「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」の適用を受けたほうがよいかもしれません。こちらは、「繰り延べ」ではなく、3,000万円まで「非課税」となる制度だからです。
そのため、特例の適用を検討している場合には、あらかじめ税理士などの専門家へ相談したうえで、本当にこの特例の適用を受けることが得策であるのか、慎重に検討することをおすすめします。
なお、この特例の適用を受けるには期限内に申告をしなければなりません。
また、売却代金が1億円以下であることや居住期間が10年以上であることなど、売却するマイホームと購入するマイホームそれぞれについて、さまざまな要件を満たす必要があります。
住宅ローンが残っているマイホームを売却した場合の譲渡損失の特例
不動産の譲渡では、利益が出ることもある一方で、損失が生じる(購入金額よりも売却金額が低くなる)ケースも少なくありません。
最後に、不動産の譲渡で損失が出た際に使える特例を紹介します。
「住宅ローンが残っているマイホームを売却した場合の譲渡損失の特例」とは、マイホームを売って損失が生じた際に、その損失を給与所得や事業所得など他の所得から控除できる特例です。また、給与所得などと通算してもなお損失が残った場合には、残った損失を3年間繰り越すことが可能です。マイホームを売って生じた損失を他の所得と通算することで、他の所得にかかる所得税を減らす効果が期待できます。
この特例の適用を受けるためには、期限内に申告するほか、次の要件などを満たさなければなりません。
・住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡すること
・譲渡の年の1月1日における所有期間が5年を超える資産であること
・家屋取り壊し後に売る際には、次の要件をすべて満たすこと
・家屋と敷地が、家屋を取り壊した日の属する年の1月1日において所有期間が5年を超えるものであること
・取り壊しから1年以内に譲渡契約を締結すること
・譲渡契約締結までに貸駐車場などその他の用に供していないこと
・譲渡の年の前年の1月1日から売却の年の翌年12月31日までの間に、家屋の床面積が50平方メートル以上である新たなマイホームを取得すること
・新たなマイホームを取得した年の翌年12月31日までの間に居住の用に供すこと
・新たなマイホームを取得した年の12月31日において、新たなマイホームについて償還期間10年以上の住宅ローンを有すること
・一定の特例の適用を受けていないこと(住宅ローン控除との併用は可能)
ほかにもさまざまな要件がありますので、適用を検討している際には、あらかじめ税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。
まとめ
不動産を譲渡して所得(儲け)が発生すると、不動産譲渡所得税の対象となる可能性があります。しかし、不動産譲渡所得税にはさまざまな特例が存在し、特例の適用を受けることで大きな節税ができることも少なくありません。
ただし、特例には種類があり、またそれぞれの特定の適用には異なる要件が定められているので、自分の場合はどんな特例を適用するのがもっとも節税につながるのか、判断が難しいことも多いでしょう。
不動産の譲渡所得は、数百万円から、場合によっては、1億円を超えるような金額になることもあり、課税額もそれに応じて高額になります。適切に特例を適用し、正しい納税をするためにも、税理士などの専門家に相談しておくことをおすすめします。