事業承継には費用や税金がかかる
事業承継とは、事業に関わる経営資源(人・資産・知的資産)を「承継」する取り組みです。現在、日本では中小企業経営者の高齢化が進んでおり、後継者不在状況も深刻であるため、企業の廃業を防ぐために事業承継を検討しておかなければなりません。
中小企業庁が策定した事業承継ガイドラインでは、事業承継を親族内承継、役員・従業員承継、M&Aなど社外への引き継ぎの3つの類型に区分しています。親族内承継は現経営者の子供など親族に承継させる方法、役員・従業員承継は「親族以外」の社内へ承継させる方法、社外への引き継ぎは株式譲渡や事業譲渡といったM&Aにより承継する方法です。
いずれの方法で事業承継するにしても、専門家への報酬や税金が発生します。詳しく確認していきましょう。
専門家への報酬
事業承継には専門知識が求められることや、手続きが複雑なことから、専門家へ相談する場合があります。事業承継の相談先は、弁護士や税理士、公認会計士です。
事業承継において、弁護士は相続に関するトラブル回避、契約書類の作成・チェックといった役割を果たします。税理士・公認会計士の役割は事業承継前後の税金アドバイスや自社の企業価値を算出などです。
社外への引き継ぎを検討している場合には、スケジュールの策定やマッチング先選出をサポートするM&A仲介会社やファイナンシャル・アドバイザー(FA)に相談します。M&A仲介に関する報酬で参考になるのがレーマン方式です。レーマン方式では、以下のようにM&Aの取引金額に応じて報酬が決まります。
● 取引金額が5億円までの部分ー5%
● 取引金額が5億円を超え10億円までの部分ー4%
● 取引金額が10億円を超え50億円までの部分ー3%
● 取引金額が50億円を超え100億円までの部分ー2%
● 取引金額が100億円を超える部分ー1%
相続税
親族内承継の場合、経営者が亡くなり株式などを相続すると相続税が発生するケースがあります。以下の図表のように、相続税は相続財産が大きければ大きいほど税率が高くなる累進課税である点が特徴です。
2015年1月1日以降の場合の相続税速算表 | ||
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
なお、相続税の計算では基礎控除額が設けられているため、課税される遺産の合計(課税価格の合計額)が(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)を下回る場合には相続税がかかりません。
贈与税
オーナー経営者が亡くなった際に事業を承継するのではなく、生前に株式などを贈与することも可能です。ただし、生前贈与では財産を受け取った側(後継者)に贈与税が発生します。兄弟間・夫婦間・親から子への贈与で子が未成年の場合の税率(一般税率)は以下の通りです。
一般贈与財産用(一般税率) | ||
基礎控除額(110万円)を差し引いた後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | – |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
祖父母や父母など直系尊属からその年の1月1日に20歳以上の子や孫に贈与する際には、特例税率として以下の表に基づき計算します。
特例贈与財産用(特例税率) | ||
基礎控除額(110万円)を差し引いた後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | – |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
出典:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」
60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の子又は孫に対して贈与する場合、相続時精算課税制度も選択可能です。相続時精算課税の要件を満たせば、贈与額2,500万円まで贈与税が控除されます。2,500万円を超えた部分には一律20%の税率が課されます。
なお、相続時精算課税を選択した場合は、通常の贈与税(暦年課税)の制度を利用できないため、贈与時に基礎控除額110万円は控除されません。
そのほかにかかりうる税金
相続税や贈与税以外にも、登録免許税や不動産取得税がかかる場合があります。
登録免許税は、不動産を登記する際にかかる税金であり、事業承継においても相続や贈与で不動産を取得する場合にかかることがあります。
不動産取得税は、生前贈与やM&Aなどで不動産を取得した場合にかかる税金です。東京都の場合、土地や家屋(住宅)の課税標準額×3%、家屋(非住宅)の課税標準額×4%がかかります。
事業承継税制は税負担軽減につながる税制
事業承継では、後継者に対して相続税や贈与税が課されることがあります。そこで、税負担を抑制するために事業承継税制の利用を検討する方が増えています。
事業承継税制とは、円滑化法に基づく認定のもとで会社や個人事業の後継者が取得した一定の資産について、相続税や贈与税の納税を猶予する制度です。制度の概要を詳しく解説します。
一般措置と特例措置がある
事業承継税制には、一般措置と特例措置の2つの制度が存在します。2009年から始まった事業承継税制(一般措置)に対し、特例措置は2018年に平成30年度税制改正において10年間限定の措置として設けられたものです。
出典:中小企業庁「中小企業事業承継ハンドブック 26問26答 平成21年度税制改正対応版、中小企業庁「平成30年4月1日から事業承継税制が大きく変わります」
2つの制度は、猶予の対象となる非上場株式等の制限や納税猶予割合において異なります。一般措置と特例措置の詳しい比較については、後ほど図表を用いて詳しく比較します。
個人事業主向けの制度も存在する
事業承継税制には、会社の株式等を対象とする「法人版」だけでなく、個人事業者の事業用資産を対象とする「個人版」も存在します。
個人版事業承継税制は、青色申告に係る事業を営んでいた事業者の後継者として円滑化法の認定を受けた者が個人の事業用資産を贈与又は相続等により取得した場合に、一定の要件下でその事業用資産に係る贈与税・相続税の納税を猶予もしくは免税される制度です。
本記事では、「法人版」を前提に解説していきます。
事業承継税制一般措置と特例措置を比較
事業承継税制は、2009年から始まった制度を「一般措置」、2018年の税制改正時に10年間の時限措置として開始した制度を「特例措置」として区別されています。それぞれの措置の特徴をまとめたのが以下の表です。
項目 | 一般措置 | 特例措置 |
事業の計画策定など | 不要 | 5年以内の特例承継計画の提出 (2018年4月1日〜2023年3月31日) |
適用期限 | 無 | 10年以内の贈与・相続など (2018年4月1日〜2027年12月31日) |
対象株数 | 総株式数の最大2/3まで | 全株式 |
納税猶予割合 | 贈与は100%、相続は80% | 100% |
承継パターン | 複数の株主から1人の後継者 | 複数の株主から最大3人の後継者 |
雇用確保要件 | 承継後5年間、平均8割の雇用維持が必要 | 弾力化 |
事業の継続が困難な事由が生じた場合の免除 | 無 | 有 |
相続時精算課税の適用 | 60歳以上から20歳以上の推定相続人(直系尊属)・孫への贈与 | 60歳以上の者から20歳以上の者への贈与 |
特例承継計画の策定 | 不要 | 要 |
親が経営者で会社の全株式を保有しているケースで一般措置と特例措置の違いを比較してみましょう。
親が亡くなり、子が全株式を相続した場合、一般措置で猶予が適用されるのは約53%まで(総株式数最大2/3×猶予割合80%)です。それに対して、特例措置では全株式が対象な上、相続の猶予割合も100%なので、全額猶予できる可能性があります。
出典:国税庁「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし」
相続税・贈与税の猶予が事業承継税制全般のメリット
事業承継税制全般のメリットは、株式を承継する際にかかる相続税や贈与税の納付を猶予できる点です。
また、特定のケースにおいて、猶予されていた相続税や贈与税の納付が免除されます。
贈与税の納税猶予中に贈与者が死亡した場合や相続税の納税猶予中に後継者が死亡した場合に、税金の納付を免除されることがあります。特例措置で免除されるケースについては、後ほど詳しく紹介します。
事業承継税制全般のデメリット
事業承継税制は、事業承継に関する相続税や贈与税が猶予・免除されうるので魅力的な制度にみえます。しかし、デメリットもいくつか存在するため、制度を利用する前に理解しておかなければなりません。
事業承継税制全般のデメリットは、取り消しリスクが存在する点、制度や手続きが複雑な点です。それぞれ解説していきます。
取り消しリスクの存在
事業承継税制を適用してから5年間、相続税や贈与税を猶予させておくためにさまざまな要件があります。要件をひとつでも満たさなくなると、猶予が取り消されてすぐに国税庁に納税しなければならないという取り消しリスクの存在がデメリットです。
適用から5年後に要件は緩和されますが、後継者の死亡など免除要件を満たすまで取り消しリスクは消えません。猶予期間中に取り消し事由が発生した場合には、猶予していた期間の利子税もあわせて課されます。
利子税を計算する際の割合は、税の申告期限の翌日から納税猶予の期限までの日数に応じ、年3.6%です。ただし、各年の特例基準割合が7.3%に満たない場合、利子税が減額される場合があります。
出典:国税庁「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし(参考)利子税の計算方法」
制度や手続きが複雑
概要を国税庁がパンフレットにまとめていますが、事業承継税制に関する制度は複雑な点がデメリットです。また、特例承継計画の策定・提出、都道府県知事の円滑化法の認定、継続届出書の提出などさまざまな手続きがあります。そのため、単独で事業承継税制を活用するのは難しく、税理士などの専門家への相談を検討しておかなければなりません。
そのほか、要件を満たすために後継者が株式の過半数を保有することに不満を持つ相続人が現れ、トラブルにつながる可能性も事業承継税制の負の側面として挙げられます。さらに、事業承継税制の対象となるのが親族内承継や従業員承継などに限られており、M&Aのように第三者へ売却する際は対象外の点もデメリットです。
事業承継税制(特例措置)で相続税を猶予する要件
事業承継税制(特例措置)で税金を猶予するためには、会社・先代経営者・後継者がそれぞれ要件を満たしていなければなりません。猶予の要件は、相続税の場合と贈与税の場合で異なります。
ここでは、相続税の各要件を説明した上で、相続税納付が免除されるケースや猶予していた相続税を納付しなければならないケースを解説します。
会社の要件
相続税で制度の適用を受けるためには、以下のいずれにも該当しないことが要件です。
1. 上場会社
2. 中小企業に該当しない会社
3. 風俗営業会社
4. 資産管理会社(ただし、一定の要件を満たすものを除く)
中小企業とは、中小企業基本法で以下のように定義されています。
業種分類 | 中小企業基本法の定義 |
製造業その他 | 資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社、または常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人 |
卸売業 | 資本金の額又は出資の総額が1億円以下の会社、または常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人 |
小売業 | 資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社、または常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人 |
サービス業 | 資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社、または常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人 |
資産管理会社とは、有価証券や自ら使用していない不動産や現金・預金など特定資産の保有割合が7割以上の会社、特定資産からの運用収入が総収入金額の75%以上の会社を指します。
先代経営者の要件
被相続人にあたる先代経営者の要件は以下の通りです。
1. 会社の代表権を有していた
2. 相続開始直前に、被相続人一族で総議決権数の50%超の議決権を保有しており、後継者以外の中で最も多くの議決権を保有していた
なお、相続開始直前において、すでに事業承継税制の適用を受けている方がいる場合には、上記の要件が不要です。
後継者の要件
相続人となる後継者の要件は以下の通りです。
1. 相続開始日の翌日から5ヶ月経過後に会社の代表権を有している
2. 相続開始によって、後継者一族で総議決権数の50%超を保有することになる
3. 後継者が1人の場合、後継者一族で最も多くの議決権数を保有することになる
後継者が2人または3人の場合、総議決権数の10%以上を保有し、他の後継者を除く後継者一族で最も多くの議決権数を保有することになる
4. 相続開始直前に、会社の役員である(被相続人が60歳未満で死亡した場合除く)
相続税が免除されるケース
以下のケースでは、猶予中の相続税納付が免除されます。
1. 後継者が死亡した場合
2. 経営承継期間にやむを得ない理由で、会社の代表権を有しなくなった日以降に「免除対象贈与」をおこなった場合
3. 経営承継期間経過後に、「免除対象贈与」をおこなった場合
4. 経営承継期間経過後に、会社について破産手続き開始の決定があった場合
5. 経営承継期間経過後に、事業の継続が困難な事由が生じ、会社を譲渡・解散した場合
経営承継期間とは、相続税の申告期限翌日から以下いずれか早い日と、後継者の死亡日前日の早い日までの期間のことです。
● 後継者の制度適用にかかる最初の相続税申告期限以降5年を経過する日
● 後継者の制度適用にかかる贈与税の申告期限の翌日以降5年を経過する日
免除対象贈与とは、制度の適用を受けている非上場株式が後継者に贈与され、後継者が免除の適用を受ける場合の贈与を指します。また、5は一般措置での適用はなく、特例措置のみが適用となるケースです。
猶予していた相続税を納付しなければならないケース
以下のケースに該当した場合、猶予されている相続税全額と、利子税をあわせて納付しなければなりません。
1. 経営承継期間内に、制度適用を受けた非上場株式の一部を譲渡した場合(免除対象贈与除く)
2. 経営承継期間内に、後継者が会社の代表権を有しなくなった場合(やむを得ない理由を除く)
3. 会社が資産管理会社に該当した場合(一定の要件を満たす会社を除く)
「やむを得ない理由」とは、以下いずれかの事由に該当する場合を指します。
1. 精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた
2. 身体障害者手帳の交付を受けた
3. 要介護認定を受けた
4. 1〜3までの事由に類すると認められる
また、経営承継期間経過後に、制度適用を受けた非上場株式の一部を譲渡した場合も相続税と利子税を併せて納付しなければなりません。ただし、譲渡した部分に対応しない相続税は引き続き猶予が継続されます。
事業承継税制(特例措置)で贈与税を猶予する要件
贈与者(先代経営者)から全部もしくは一定数以上の非上場株式の贈与を受けることが、事業承継税制(特例措置)を利用して贈与税を猶予するための条件です。取得しなければならない非上場株式数は、以下のように後継者の人数によって異なります。
1. 後継者が1人のケース
区分分け | 取得する株式数 |
[贈与の直前に先代経営者が有していた会社の非上場株式の数]≧[贈与の直前の会社の発行済株式総数×2/3-後継者が贈与の直前に有していた会社の非上場株式数] | [贈与の直前の会社の発行済株式総数×2/3-後継者が贈与の直前に有していた会社の非上場株式数]以上の株数 |
[贈与の直前に先代経営者が有していた会社の非上場株式の数]<[贈与の直前の会社の発行済株式総数×2/3-後継者が贈与の直前に有していた会社の非上場株式数] | 贈与の直前に先代経営者が有していた会社の非上場株式の全ての株数 |
2. 後継者が2人または3人のケース
[贈与後に後継者が有する会社の株式数≧贈与の直前の会社の発行済株式総数×1/10]かつ[贈与後に後継者が有する会社の株式数]>[贈与後に先代経営者の有する非上場株式数]を満たす株数の取得が要件です。
また、会社・先代経営者・後継者それぞれがいくつかの要件を満たさなければなりません。各要件を紹介した後、相続税が免除されるケースや猶予中の相続税を納付しなければならないケースも解説します。
会社の要件
事業承継税制(特例措置)の贈与税を猶予するためには、以下のいずれにも該当しないことが要件です。
1. 上場会社
2. 中小企業者に該当しない会社
3. 風俗営業会社
4. 資産管理会社(ただし、一定の要件を満たすものを除く)
中小企業の定義や資産管理会社の定義については、上記の相続税を猶予する要件を参考にしてください。
先代経営者の要件
贈与者となる先代経営者の要件は以下の通りです。
1. 会社の代表権を有していた
2. 贈与の直前に、贈与者一族で総議決権数の50%超の議決権数を保有し、後継者以外で最も多くの議決権数を保有していた
3. 贈与時には、会社の代表権を保有していない
ただし、贈与直前にすでに特例措置の適用を受けている方がいる場合、1と2の要件は不要です。
後継者の要件
受贈者となる後継者には、贈与時点において以下の要件が定められています。
1. 会社の代表権がある
2. 20歳以上
3. 役員就任後、3年以上経過
4. 贈与を受けることで後継者一族で総議決権数のうち50%超を保有
5. 後継者が1人の場合、後継者一族の中で最も多くの議決権数を保有
後継者が2人か3人の場合、総議決権数の10%以上を保有かつ他の後継者を除く後継者一族の中で最も多くの議決権数を保有
役員就任後3年以上経過が要件であること、事業承継税制(特例措置)の期限が2027年12月末であることを踏まえると、後継者は遅くとも2023年12月末までには役員に就任していなければなりません。
贈与税が免除されるケース
納税猶予期間中に、以下のケースが発生した場合には猶予中の贈与税の全部もしくは一部の納付が免除されます。
1. 贈与者である先代経営者が亡くなった場合
2. 受贈者である後継者が亡くなった場合
3. 経営贈与承継期間内に、止むを得ない理由で会社の代表権を有しなくなった日以降に免除対象贈与をおこなった場合
4. 経営贈与承継期間後に、免税対象贈与をおこなった場合
5. 経営贈与承継期間後に、事業の継続が困難な事由が生じ、会社を譲渡・解散した場合
経営贈与承継期間とは、贈与税の申告期限翌日から以下いずれか早い日と、後継者もしくは先代経営者の死亡日前日いずれかの早い日までの期間のことです。
● 後継者の制度適用にかかる最初の贈与税申告期限以降5年を経過する日
● 後継者の制度適用にかかる相続税の申告期限の翌日以降5年を経過する日
相続税のケースと同様、免除にあたり「免除届出書」「免除申請書」を提出しなければなりません。
猶予していた贈与税を納付しなければならないケース
以下に該当する場合、猶予していた贈与税と利子税全額を納付しなければなりません。事業承継税制の制度適用自体も終了します。
1. 経営贈与承継期間内に、制度適用を受けた非上場株式の一部を譲渡した場合(免除対象贈与除く)
2. 経営贈与承継期間内に、後継者が会社の代表権を有しなくなった場合(やむを得ない理由を除く)
3. 会社が資産管理会社に該当した場合(一定の要件を満たす会社を除く)
経営贈与承継期間経過後に、制度適用を受けた非上場株式の一部を譲渡した場合も贈与税と利子税を納付しなければなりません。ただし、譲渡した部分に対応しない贈与税は引き続き猶予が継続されます。
事業承継税制(特例措置)手続きの流れ
事業承継税制における取り消しリスクを軽減するためにも、順を追って漏れなく手続きを進めなくてはなりません。手続きのプロセスは以下の通りです。
1. 申請時期の制度内容を事前に確認しておく
2. 特例承継計画作成
3. 特例承継計画提出
4. 事業承継実行
5. 特例認定申請書提出
6. 相続税もしくは贈与税申告
7. 年次報告書・継続届出書を毎年提出(申告期限後5年間)
8. 特例承認計画に関する報告書提出(5年経過後)
各ステップに分けて詳しく解説していきます。
申請時期の制度内容を事前に確認しておく
贈与税で猶予を受ける際の受贈者の要件に「20歳以上であること」がありますが、2022年4月1日以降は「18歳以上」です。このように、時期によって手続き方法が少し異なることがあるため、あらかじめ以下の会社の主たる事務所が所在する都道府県の担当窓口に確認してください。
また、「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし」や「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)に係る災害等に関する措置の概要」といった最新の制度内容は、以下国税庁HPから確認可能です。
特例承継計画作成
続いて、特例承継計画を作成しなければなりません。計画には、会社概要や代表者・後継者名、承継時期や承継後5年間の経営計画を記載します。
計画を策定しないと、特例措置を適用することができません。経営計画をわかりやすくまとめるのが難しいと考えた場合、事業承継に詳しい専門家へ相談しましょう。
なお、特例承継計画のフォーマットは、以下より取得できます。
中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)の前提となる認定に関する申請手続関係書類」
特例承継計画提出
特例承継計画が仕上がったら、税理士・商工会・商工会議所などの認定経営革新等支援機関に計画に対する所見を記入してもらいます。機関の一覧は以下で確認可能です。
続いて、所見が記入された特例承継計画を会社の主たる事務所が存在する都道府県知事に提出し、確認を受けます。提出期限は2023年3月31日です。
なお、相続後・贈与後であっても、円滑化法の認定申請までなら計画を提出できます。
事業承継実行
都道府県知事から特例承継計画の確認を受けた後に、事業承継を実行します。事業承継の実行とは、相続税の適用を受ける場合には非上場株式等の相続開始し、贈与税適用の際には先代経営者である贈与者から全部又は一定数以上の非上場株式等の贈与を受けることです。
また、後継者への代表者交代もこのタイミングでおこないます。
特例認定申請書提出
都道府県知事に特例の認定申請書を提出し、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」に基づき各要件を満たしていることの認定を受けます。期限は相続税の場合に相続開始後8ヶ月以内、贈与税の場合に贈与を受けた年の翌年1月15日までです。
フォーマットは、特例承継計画と同様に以下からダウンロードできます。
中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)の前提となる認定に関する申請手続関係書類」
相続税もしくは贈与税申告
猶予の旨を記載し、相続税・贈与税を国税庁に申告します。また、納税が猶予される相続税額及び利子税の額に見合う担保を税務署に提出しなければなりません。
相続税の申告期限は、相続開始があったことを知った日(通常、被相続人が死亡した日)の翌日から10ヶ月以内です。また、贈与税は贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに申告しなければなりません。
年次報告書・継続届出書を毎年提出(申告期限後5年間)
猶予が適用されてからも、毎年都道府県知事に年次報告書、所管の税務署に継続届出書を提出しなければなりません。フォーマットはそれぞれ以下からダウンロードしてください。
中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)の前提となる認定に関する申請手続関係書類」
国税庁「[手続名]非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予の継続届出手続(特例措置)」
承継期間経過後は、年次報告書の提出は不要です。ただし、継続届出書は一定の書類を添付して、3年ごとに所管の税務署に提出しなければなりません。
特例承認計画に関する報告書提出(5年経過後)
事業承継税制特例措置では、事業承継から5年間で雇用の8割を維持するという努力目標が定められています。達成できなかった場合、認定支援機関から所見や指導及び助言を記入してもらい、特例承認計画に関する報告書を都道府県知事と所轄の税務署に提出しなければなりません。
特例承認計画に関する報告書のフォーマットも、以下より取得してください。
中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)の前提となる認定に関する申請手続関係書類」
事業承継税制(特例措置)で猶予される金額の計算
納税が猶予される相続税の計算方法は以下の通りです。
1. 課税価格の合計額に基づいて算出した相続税総額から、後継者の課税価格総額に対応する相続税を算出
2. 後継者が取得した財産が特例措置の適用を受ける非上場株式のみと仮定した上で、相続税総額から対象株式における後継者の相続税を算出
3. 2の算出結果が猶予される相続税額となる(1の算出結果から2を差し引いた金額は、申告期限までに納付しなければならない)
贈与税の場合は以下の通りです。
1. 1年間に贈与された全財産の合計額から、贈与税額を算出
2. 贈与されたのが制度の適用を受ける非上場株式のみと仮定した上で、贈与税額を算出
3. 2の算出結果が猶予される贈与税額となる(1の算出結果から2を差し引いた金額は、申告期限までに納付しなければならない)
事業承継税制で意識しておくこと
事業承継税制の特例措置を利用し、事業承継にかかる負担を軽減可能です。ただし、上手く利用するためには、いくつか意識しておかなければならないことがあります。
特に「事業の期間や申請期限に気をつける」「M&Aや事業承継の実績がある専門家に相談する」といった点を心がけるようにしましょう。各ポイントを詳しく解説していきます。
事業の期間や申請期限に気をつける
最低でも5年間(経営承継期間内)は、「株式の保有継続」「代表権を有する」ことにより事業継続することが求められています。要件を満たさなくなると、猶予が取り消される点を十分に把握しておかなければなりません。
また、特例措置において特例承継計画の提出は2023年3月31日まで、適用期限は2027年12月31日までです。期限を超過して適用を受けられなくならないように気をつけましょう。
M&Aや事業承継の実績がある専門家に相談する
事業承継税制は、複雑かつ専門的知識が求められるものです。猶予が認められてから取り消されるリスクを軽減するためにも、慎重に手続きしなければなりません。
事業承継税制の利用は、事業承継そのものにも密接に関係します。スムーズな事業承継を進めるためにも、M&Aや事業承継の実績がある専門家に相談するようにしましょう。
事業承継税制以外の資金対策
事業承継税制の利用を検討する主な目的は、税負担を抑えてコストを軽減し、事業承継時の資金繰りを安定させることです。事業承継税制以外にも、資金対策はいくつか存在します。
「納税資金確保のために経営者生命保険に加入」「自社株の買取」「事業承継・引継ぎ補助金の利用」「低利・信用保証制度融資で資金調達」といった資金対策を紹介します。
納税資金確保のために経営者生命保険に加入
契約者を会社、被保険者を経営者とする経営者生命保険に加入しておけば、経営者が亡くなった際に会社が生命保険金を受け取れます。受け取った死亡保険金から、後継者を含む遺族に死亡退職慰労金を支払えば、相続税納付の原資にできるでしょう。
また、経営者が退任した場合、解約返戻金を退職慰労金として支払えば、将来後継者が相続する際の相続税支払い資金として残しておけます。
自社株の買取
会社が相続人が相続した株式の一部を買い取る方法もあります。相続人は、株式売買代金を受け取るので、相続税支払いに充てることが可能です。
ただし、買取時には株主総会または取締役会の承認を得なければならないことがある点に気をつけましょう。また、純資産額が300万円を下回る場合には剰余金支払いができないため(第458条)、自社株の買取りができません。
事業承継・引継ぎ補助金の利用
事業承継を契機として新しい取り組み等を行う中小企業や事業再編・事業統合に伴う経営資源の引継ぎをおこなう中小企業を支援する制度として、事業承継・引継ぎ補助金があります。「M&A 支援機関登録制度」に登録されたM&A仲介業者による仲介費用支払いなどが本制度の補助対象です。
2021年度の公募申請受付は終了していますが、今後も継続が予想されるので政府の発表を確認するようにしましょう。
出典:事業承継・引継ぎ補助金事務局「令和3年度当初予算 事業承継・引継ぎ補助金」
低利・信用保証制度融資で資金調達
会社や後継者が事業承継で資金調達しようとしている場合、日本政策金融公庫や沖縄振興開発金融公庫の低利融資制度も検討しましょう。円滑化法に基づく認定を受けた会社の代表者個人が、自社株式や事業用資産を買い取る際、相続税や贈与税の納税などをおこなう際に利用できます。
また、円滑化法の認定を受けた会社が事業承継資金を借り入れる際、信用保証協会の通常の保証枠とは別枠を利用可能です。
まとめ
事業承継税制は、相続税や贈与税を猶予・免除できる制度なので、事業承継にかかる税負担を抑えることができます。特に、2027年12月31日まで適用できる特例措置は、相続も贈与も納税猶予割合が100%の制度です。
ただし、制度は複雑なため、利用する際には専門家を利用することを検討しましょう。スムーズに進めるためにも、事業承継やM&Aの実績が豊富な専門家に相談することがポイントです。