事業承継とはどんなもの?
事業承継とは、会社の経営を後継者に引き継ぐことです。中小企業では、社長などの経営者の手腕が会社の強みや存立基盤になることが多いものです。そのため、誰を後継者にして事業を引き継ぐかは重要な問題です。
事業承継を大別すると、下記のような3種類に分かれます。
・M&Aを活用した事業承継
・親族内承継
・親族外承継
近年では、親族内承継と社員に承継する親族外承継が難しくなり、休廃業する中小企業が増えるなど社会問題となっているのです。
事業承継が必要な理由 中小企業の現状
事業承継が必要な理由とは何でしょう。マクロな視点でいえば、日本の国力低下を防ぐためです。事業承継が問題となるケースは日本の99%を占める中小企業に多いといわれています。事業承継に失敗した場合、高度な技術や特許を持った中小企業の価値そのものが失われてしまうのです。
一方、ミクロな視点でいえば、事業承継問題を抱えている企業の従業員の問題になります。会社が事業承継できず廃業してしまえば、従業員およびその家族の生活が成り立たなくなるでしょう。
取引先への影響もあります。廃業してしまった場合、その会社から製品・サービスを受けている取引企業は、新しい取引先を見つけるために余計な時間やコストが発生するでしょう。
事業承継の種類
前述のとおり、事業承継には「親族内承継」、「親族外承継」、「M&Aを利用した事業承継」の3種類があります。
近年では、親族内承継と親族外承継が困難になり、M&Aを利用した事業承継を行う傾向が多いようです。この章では、親族内承継、親族外承継、M&Aを利用した事業承継について詳しく解説していくので、参考にしてください。
親族内承継
親族内承継とは、社長の子供、兄弟といった親族へ事業を承継する方法です。親族内承継の利点は、幼少時より後継者として育てることができる点にあります。心構えや覚悟を早い段階で教えることができるのです。
さらにこんな利点もあります。親族内承継の場合、社内の従業員や社外の取引先から比較的早期に後継者として受け入れてもらえるため、引継ぎをスムーズに行える可能性が高いのです。
しかし、近年では親族内承継の数は減少傾向にあります。これは、親族の会社は親族が継ぐものという価値観が変容していることにも起因します。
親族外承継
親族外承継とは、自身が経営する会社の社員、たとえば役員や従業員のなかから経営能力を持つ優秀な人物へ事業を承継する方法です。
親族外承継の場合、従業員ならではのメリットがあります。たとえば、経営方針・事業内容・ノウハウに精通していることから、事業承継後も問題なく事業を進めることができるでしょう。
ただし、会社を買い取るための資金面の問題により、親族外承継を望んだとしても断られる可能性はあります。つまり、オーナー経営者からすると創業者利潤を獲得する機会を逸失してしまったり、役職員側からすると個人としては多額の資金を用意しなくてはならず負担になったりする、ということを指します。
M&Aを利用した事業承継
M&Aを利用しての事業承継は、親族外承継と似ているのですが、社内ではなく社外の第三者へ事業を承継する点で異なります。親族内承継、親族外承継が不可能と判断した場合に検討する場合が多い傾向にあります。
M&Aでは、会社の外に広く事業の後継者を探すことができるため、自身が育ててきた事業を存続させやすいという利点があります。また、社長は会社を売却することにより譲渡対価として現金等を得られるでしょう。
【関連記事】M&Aとは?メリットや注意点をわかりやすく解説!
事業承継を行うためのM&Aの種類
事業承継を行う際に利用できるM&Aには主に3種類あります。「事業譲渡」、「株式譲渡」、「会社分割」です。ここからはこの3種類についてくわしく解説をしていきますので、どのM&Aを利用すればよいのか参考にしてください。
事業譲渡
事業譲渡とは、会社全体ではなく会社のある事業のみを売買するM&Aの手法です。事業承継の方法として、事業譲渡を選ぶ中小企業は増加傾向にあります。ただし、手続きが株式譲渡よりも煩雑なため、株式譲渡の次に利用される手法のようです。
事業譲渡の利点は、簿外債務のような不要な資産を引き継がなくてもよい点といえるでしょう。一方で、従業員との雇用契約や許認可関係がすべて白紙化されてしまうため、従業員と再度雇用契約を結んだり、許認可関係も監督官庁から得たりする必要があります。
また、売り手側の企業には法人税に、買い手側の企業には消費税の支払い義務が発生します。法人税は譲渡益を得るために、消費税は課税資産に課税されるためです。のれん代が多額になる可能性がある場合は、あまりおすすめできない手法です。
【関連記事】事業譲渡とは?メリットや注意点を徹底解説!
株式譲渡
株式譲渡とは、会社のオーナー社長等が保有する株式を第三者へ売却して、買い手側企業に譲渡することを指します。株式を譲渡することにより、会社の経営権を承継し、会社そのものを譲渡できるのです。
株式譲渡の大きな利点は、株主と経営者が変わるだけで従業員や取引先・顧客との関係性は一切変化しない点にあります。つまり、社内のみで手続きが完結するため、事業譲渡のように煩雑な手続きは必要ありません。
株式譲渡を行った際には、税金の納税義務が発生します。譲渡対価から取得価額・取得付随費用を差し引いた譲渡益のうち、20.315%を所得税および住民税として納税しなければなりません。
手法は簡単ですが、中小企業の場合は株式に制限をかけているケースが多くあります。その場合、株式譲渡承認の請求をして取締役会設置会社の場合は取締役会、取締役会非設置会社の場合は株主総会の、承認決議を受ける必要があるでしょう。
【関連記事】株式譲渡とは一体?メリットや手続き方法は?
会社分割
会社分割とは、会社の事業に関する権利義務を全部もしくは一部を、承継会社に承継させる会社法上の組織再編行為です。すでに存在する会社に事業を承継させるときは「吸収分割」といい、新たに設立する会社に事業を承継させるときは「新設分割」といいます。
会社分割と同じような手続きを取るものには事業譲渡があります。ただし、会社法上では、会社分割とはすなわち組織再編です。承継する事業が決まったら、それにかかわる権利義務をすべて包括的に切り分けます。債権者保護がされる点と従業員の同意を求められないという点が、事業譲渡とは異なります。つまり、従業員との雇用関係をまとめて承継できるのです。
会社分割は、相続により会社を複数に相続人に引き継がれる場合は効果的といえ、事業譲渡と異なり消費税が課税されません。
【関連記事】会社分割とは?メリットや吸収分割と新設分割の違いを解説!
M&Aを活用して事業承継をするメリット
M&Aを活用して事業承継するメリットとして、
・後継者候補を効率的に探せる
・株式対価を得られ、連帯保証等を外すことが出来る
・事業の継続や発展に期待できる
この3点をあげることができます。
M&Aを活用することで得られるメリットについて、この章でくわしく解説していきます。事業承継をお考えの方は、ぜひとも参考にしてください。
後継者候補を効率的に探せる
M&Aを活用して事業承継する場合、親族や社内から後継者を探すのではなく、会社を越えて広く後継者を探すことができます。親族や社内から後継者を探すよりも、社外で後継者を探したほうが母数の面からみても効率がよいといえるでしょう。
親族内や社内に後継者としての適格者がいなくても、全国規模で探すことで、会社を承継させるにふさわしい人物や企業を見つけ出せる確率が高くなるでしょう。自力でM&Aの相手を見つけるのは困難なので、M&A専門の仲介業者やサービスを頼るといいでしょう。
株式対価を得られ、連帯保証等を外すことが出来る
会社をM&Aで売却することで、株式対価を得ることができます。また、株式譲渡により会社ごと譲渡することにより有利子負債等も併せて譲渡されることとなり、オーナー個人で行っている連帯保証や担保に供されている自宅等を外すことが出来ます。一方、事業承継をせずに廃業を選択した場合、在庫品の処分費用をはじめとする専門家への支払いや登記関連の費用が発生するでしょう。また、店舗を借りている場合は、店舗の原状回復工事費用も支払わなければなりません。
廃業を選択した場合は、想像以上のコストがかかりますが、事業承継ならまとまったキャッシュが手に入ります。
事業の継続や発展に期待できる
事業承継を行うことで、これまで築き上げた事業の継続、さらには発展を期待できます。廃業した場合、事業はそこで終わり、社員・従業員は職を失うことになります。場合によっては資産など個人の財産が失われるだけではなく、企業が築いてきた社会的な価値も失われてしまうでしょう。
特に日本の中小企業は高い技術力や特許を持っています。事業承継を行わなければそれらがすべて失われてしまうのです。まさに大きな損失ではないでしょうか。また、廃業をすることで、従業員や従業員の家族にも影響を与える可能性が高くなります。
【関連記事】M&Aを行うメリット・デメリットとは?売り手側・買い手側目線で解説!
M&Aを活用して事業承継をする際の注意点
M&Aを活用して事業承継をする際には、注意点があります。これらを理解した上で事業承継をしないと、のちのちトラブルの原因になる可能性があるでしょう。
M&Aを活用して事業承継をする際の注意点としては、
・時間とコストがかかる
・理想通りに事業承継できるとは限らない
の2点があります。
事業承継をM&Aで行う際に発生する注意点を回避するために、M&A仲介業者やサービスを利用するとよいでしょう。
時間とコストがかかる
M&Aは仲介業者へ依頼しても、最短で半年ほどかかります。最長だと年単位で時間がかかることもあるでしょう。また、仲介業者への依頼コストも考えなければなりません。
時間とコストは、どのような形であり発生するものですから、M&Aで事業承継をすることを選んだら想定しておく必要があります。価格だけで仲介業者を選んでしまうと、M&A仲介・サポートの経験が乏しく頼りなかったり、成功報酬欲しさに無理に契約をまとめようとする可能性も否定できません。そういったリスクを軽減するためにも信頼できるM&Aの仲介業者を見つけましょう。
理想通りに事業承継できるとは限らない
M&Aの注意点としては、事業承継したとしても理想と異なるケースがあることです。経営者が変わることにより、理念や経営方針が悪い方向に変わってしまう可能性があります。その場合、新体制にあわない従業員が会社を見限ることもあるでしょう。
ノウハウを持った従業員の流出は会社の価値の低下につながります。事業承継に成功したものの、結果として会社が潰れてしまっては意味がありません。
このようなことを防ぐためにも、依頼するM&A仲介業者は慎重に選ばなければならないのです。
M&Aで事業承継を行うためのポイント
M&Aで事業承継を行うためのポイントは3つあります。
・タイミングを考える
・時間をかけ過ぎない
・事業承継のプロに相談しながら進める
特に、事業承継のプロに相談しながら進めることは重要になるでしょう。信頼できる仲介業者を選ぶことは、M&Aの成否にかかわります。
タイミングを考える
事業承継はタイミングが重要です。M&Aを活用した事業承継には時間がかかります。最短で半年、長期間の場合は数年単位でかかります。そのため、親族内承継や親族外承継が難しい場合は、早めに動き出したほうがいいでしょう。事業承継問題が顕在化してから動き出すと、手遅れになってしまうこともあります。
ただ、早く動けば動くほどよいわけではないのが難しいところです。絶妙なタイミングを読むことが重要になります。
また、事業の業績が悪化している状況でM&Aを検討した場合、思うような価格で売却することができない可能性があるでしょう。売却できても、安く買い叩かれてしまう可能性も否定できません。場合によっては業績悪化が原因でまとまりかけていたM&Aがブレイクし、白紙化することもあります。
時間をかけ過ぎない
事業承継に時間がかかりすぎると、M&Aがブレイクして白紙化する可能性があります。また、自社あるいは相手会社の状況や環境が変わるリスクもあるでしょう。そのため、M&Aによる事業承継をすると決意されたら、時間をかけ過ぎずに適度なスピード感を持って取引を成立させることが重要です。
たとえば、社長が病気になったり事故にあったりして事業運営が困難になったり、業績が悪化することもあるでしょう。不測の事態によって、M&Aができなくなる可能性はゼロとはいえません。
また、M&Aは通常業務に加えて対応しなくてはならず、ほとんどのオーナー経営者にとって一生に一度のビッグイベントです。前述の通り、M&Aプロセスも中長期のプロジェクトになることもあり、オーナー経営者にとって肉体的にも精神的にも大きな負担となります。
M&Aによる事業承継は親族内承継、親族外承継と比べると時間がかかるものですが、時間をかければかけるほど状況が好転するとも言い切れません。タイミングとスピード感をもって事業承継を行うことが重要になるでしょう。
事業承継のプロに相談しながら進める
事業承継のプロとしては、事業承継に強い弁護士やM&Aの仲介会社があります。M&Aに関しては自力で進めるよりも、プロに相談しながら進めて行くほうがうまく進むでしょう。
M&Aの信頼できる業者として、M&A DXの仲介サービスがあります。M&A DXは大手監査法人系M&Aファーム出身者が在籍しており、「製造業」「サービス業」「物流会社」「商社」「外食チェーン」「IT企業」などの業種にて事業承継の実績があります。M&A DXの成立実績については、「株式譲渡」「事業譲渡」「会社分割」などのスキームがあります。
実績があり、信頼できるM&A DXの仲介サービスを利用することで、M&Aで問題となる時間的負担と精神的負担を大きく軽減させることができるでしょう。
事業承継で成功するには
着手をお早めに
親族内承継・親族外承継を進める場合、後継者の選定や育成・教育という準備段階を含めると、事業承継の完了までに10年程度を要すると言われています。
まずは、事業承継に向けた準備の重要性を十分に認識し、平均引退年齢が 70 歳前後であることを踏まえて、60 歳頃には事業承継に向けた準備に着手することがポイントです。
「いつ、誰に、どのように」事業承継するかという方針をしっかりと決め、後継者の確保を含む準備に早めに着手することで、円滑な事業承継の実現が可能となります。
相談をお早めに
事業承継の必要性は分かっていても、何から手を付けていいのか分からないという声が多いです。
親族や役員・社員への承継を考えている場合は、親族や後継者候補自身と話をしてみることも重要です。「継いでくれるだろう」という思い込みから生まれる認識の齟齬を早めに解消しておくことで、円滑な実施に繋がります。
また、後継者が未定、あるいは不在という場合は、顧問の税理士やM&Aの仲介会社に相談してみましょう。 M&Aによる事業承継にも時間がかかりますので、タイミングを逃さないためにも、早めの相談が大切です。
以上のように、事業承継に取り組んでいくにあたっては、まずは「早めの相談」がポイントです。
まとめ
事業承継は、中小企業を中心に現在問題となっている課題です。事業承継には親族内承継、親族外承継、M&Aを利用しての事業承継があります。M&Aを利用した事業承継は、事業譲渡、株式譲渡、会社分割などです。
M&Aで事業承継をする場合、タイミングを考え、時間をかけ過ぎることなく行うことが重要になります。そのためには、プロに相談して進めることがポイントです。プロとしておすすめなのは、M&A DXの仲介サービスです。M&A DXの仲介サービスでは「株式譲渡」「事業譲渡」「会社分割」で多数の成立実績を持っています。
事業承継に直面したとき、時間的負担や精神的負担を抑えて物事をスムーズに運ぶために、ぜひM&A DXの仲介サービスを検討してみてください。