MBOによる買収の特徴とは
MBOによる買収の特徴としては現経営陣が会社の株式を取得し経営権を取得するという点が挙げられます。親族内承継が行えず、後継者不足に陥った会社の解決策として有効という点も特徴になります。事業や従業員を守るための親族外承継方法としてMBOを利用されるケースが多くなります。まずはMBOの特徴について、何を略した言葉なのかという基礎から詳しく知っておきましょう。
MBOとは経営陣買収のこと
MBOは「Management Buyout」の略称で、日本語では「経営陣買収」という言葉が当てはまります。経営陣自らが自社の株式を既存株主から買取り、経営権を取得します。この場合の資金は金融機関からの融資やファンドからの投資で賄われることが一般的です。
MBOを実施する対象企業が上場企業の場合は非上場企業へと変更することで、経営の自由度が高まります。中小企業においては、事業承継においてMBOを活用するケースが多く、親族内の後継者不在という状況を改善する対策の一種になります。
MBOという手法を執る目的は4パターン
続いて、MBOが具体的にどのようなケースで使われる手法なのかをお伝えします。MBOが行われるケースは、主にこれからご紹介する4つのパターンです。いずれも特徴や目的が異なりますが、それらを理解することで、MBOを有効に実施することができます。MBOは上場する大手企業をはじめ中小企業に至るまで、幅広い企業で実践される手法です。これらのMBOを検討する際にはそれぞれの手法の特徴や目的を理解したうえで検討しましょう。
経営権を確保または強化する
自社の経営権を確保、あるいは強化するために、経営者や取締役が自社株を買い集めてMBOを行います。この場合には、買収を目的とした新会社を経営陣が設立し、TOBなどの手段で既存株主から株式を取得したのちに、2社を合併させてMBOを完遂させます。
注意すべきなのは、利益相反の可能性があることです。経営陣としては株主に対してより高く株式を売却する機会を提供する義務負っている一方で、自社株をできるだけ安く買い集めたいというインセンティブがはたらきます。これでは株主利益の最大化という原則を果たせませんので、適正価格を割り出すことがポイントになります。
「のれん分け」(親会社から独立)
親会社から独立を目指す子会社や、親会社から見てグループの一部を別会社へと切り離したい場合にもMBOが行われます。子会社は少額の予算で子会社の独立が可能になること、親会社は株式をキャッシュ化できることがMBOのメリットです。
のれん分けを行う場合は、親会社との関係性を良好に維持することがポイントになります。とくに社名あるいはブランドの扱いなど親会社からの独立後について明確化させましょう。
中小企業で多く見られる事業承継
中小企業ではオーナーから親族への事業承継が頻繁に行われます。MBOにおいては親族外の現経営陣への事業承継をする場合に利用され、後継者不足を解消するための切り札として活用されます。
この場合のポイントとなるのは、現経営陣の誰に、いつまでに継承させるのかという点や、MBOを実施する際の資金をどのように調達するかを決めておくことが重要です。
非上場企業になる
MBO実施後に非上場企業へと変更することで、短期的な利益を要求する株主を排除することができます。中長期的な経営を実現させることを目的に、現経営陣により経営権を取得し上場企業から非上場企業に変更することがあります。非上場企業へ変更することにより市場から株式を取得し株主に入ってくることを阻止することができ、現経営陣の経営権が強化されます。
MBOを伴うTOBを実施することにより、経営陣側で経営権を取得し、自在な経営を目指すことが可能になります。これにより既存株主の影響を受けることなく非上場化を実現させられ、その後の経営のコントロールも容易です。
MBOと類似点のある3つの手法
M&Aにはさまざまな手法があり、中にはMBOとの類似点や共通点のあるM&A手法も存在します。シチュエーション次第では、MBOよりも優先して取り入れるべき手法が見つかることもあります。
ここからは、それぞれの手法の特徴や目的について、項目ごとにご紹介します。経営者を送り込む方法、従業員に自社株式を取得させる方法など、代表的な4つの手法を確認しましょう。
経営者を送り込んで経営の立て直しを行う「MBI」
「Management buy-in」の略称であるMBIは、企業買収を行った投資家が、買収した企業に向けて外部の経営者を投入するという手法です。外部の血を入れることにより経営改善を図り、企業価値を向上させた後に株式売却による利益を生み出します。
とくに高い技術力などのポテンシャルを秘めているにもかかわらず、経営戦略の乏しさにより力を発揮できていない企業が実施すると有効です。MBOとの違いは、現在の経営陣がそのまま経営権を握るか、外部からの経営者に経営再建を委ねるかの違いです。
従業員が自社株式を取得して経営権を獲得する「EBO」
「Employee Buyout」の略称であるEBOは、従業員が自社株式を買い集めることによって、自ら経営権を取得するという手法です。主に中小企業において、親族経営から従業員が主権を持つための経営へと変更を図る際に用いられます。
MBOでは経営陣がそのまま残って経営を持続させますが、EBOは経営権を自社の従業員へと引き継がせます。後継者不在という状況において会社を存続させるための手法のひとつとして、MBOとは異なるアプローチで経営方針の刷新になるのです。
買収先企業の資産や将来性を担保とした資金調達を行う「LBO」
「Leveraged Buyout」を意味するLBOは、まず買収先のターゲットを絞り、その企業のキャッシュフローやその他資産・対象株式を担保とする等して資金調達を行い、買収するというM&Aの手法です。この場合における借入金は買収先企業の負債として扱われます。
LBOのメリットは、自社が持つ資金以上の投資を行えることであり、通常は買収できないような株式価値を有する企業買収を成立させられる点です。買収先企業の業績を高めて利益を生み、そこで得た収益を使ってLBO実施時の負債を返済することを目指します。
買付けを公表して、既存株主の株式を証券取引所に通さず買付ける「TOB」
「Take Over Bid」の略称であるTOBは、買付期間や買付価格、買付予定数を公表し、証券取引所を介さずに買付けるというM&Aの手法です。これを達成することにより、買収する企業の1/2超の議決権を取得することで経営権を取得、あるいは2/3以上の議決権を取得することで特別決議の否決権を取得できます。
MBOでは現経営陣がそのまま株式を獲得しますが、TOBはまったく無関係な第三者の企業が株式を取得して買収を目指します。企業の意思や希望とは無関係に買収が行われる場合もあり、このような特性から「友好的買収」・「敵対的買収」とTOBでも表現が分けられることが特徴的です。
MBOの5つのメリット
MBOを実践することにより、企業にはどんな利点が生まれるのでしょうか。これまでにご紹介してきたMBOの基礎の部分のご紹介からもメリットが見え隠れしましたが、この項目でさらに細かく解説します。
期待できる主なメリットは、経営の効率化から後継者問題の解決までさまざまです。従業員のモチベーション向上に直結する手法としても、活用する価値は十分あります。
長期的視点の経営
株主は会社の成長性と自身の利益のバランスを見定めている傾向がります。株主の中には短期的な利益を求める人もいます。そのため、株主の多い企業は、長期的な成長を求める株主と短期的な利益を求める株主で意見が対立し、長期的な経営がしにくい場合があります。 その点、企業がMBOを行うと経営が企業成長を求める株主に集中する傾向がるため、経営戦略を長期的な視点でたてることが可能となり、より会社の成長につながる可能性があります。
従業員から理解が得られやすい
通常のM&A(第三者による企業買収)と比べると、従業員が経営陣となるMBOによる買収の方が従業員からの理解を得やすい傾向があります。通常のM&Aを実施して第三者に買収された場合、従業員からすると、見ず知らず第三者が経営陣となるため不満が生まれる可能性があります。
MBOであれば現経営陣が引き続き経営陣に留まるので、従業員の目線からみても安心でき、場合によっては従業員のモチベーションアップも期待できます。
意思決定が自由で迅速になる
株主が多い企業は、経営に関する意思決定について、株主から承認を得るためにかかる時間が長い傾向があります。一方で、MBOによる事業承継においては、株主と経営陣が集中するため、意思決定における承認プロセスがスピーディーとなります。
事業承継による後継者問題の解決
後継者不足により、親族などに経営権を譲渡できないという場合に、信頼できる既存の経営陣や従業員に事業を継承させられることで、従来の環境を維持したままの事業を継続できます。
後継者問題は、現代の中小企業にとって頭痛のタネともいえる重大な問題です。ベストな解決策とは言えなくても、ベターな解決策を見出すためにMBOは優れた選択肢になります。MBOは後継者問題解決のために活用されることがとくに多い手法です。
上場維持コストの削減
上場企業は監査やIR(投資家向けの活動)など、目に見えにくい管理コストがかかります。
MBOを実施することで、上場を廃止し、ある程度のコストが削減できる可能性があります。
MBOの4つのデメリット
上記でご紹介したメリットがある一方で、MBOには覚えておくべき4つのデメリットがあります。このデメリットに目をつぶったままMBOを進めると、トラブルの元になるため要注意です。金銭的なデメリットのほか、人間関係に関連する難点、そして実施前よりも状況が悪化する可能性にも配慮が必要になりますので、実行前に注意点を確認しましょう。
利益相反による株主との対立
株主はできるだけ高値で株式を売却したい一方、経営陣は安値で株式を買いたい関係が成り立ちます。MBOにおいては、高く売りたい側と安く買いたい側が同じ人となるため、利益相反になるケースがあり、既存の株主と対立が生じる可能性があります。
仮に、MBOについて利益造反を懸念した既存株主が拒否すると、MBOが失敗します。失敗を回避するためにも、MBOの際には既存株主が納得する公正な価格で買収することが大切です。
経営変革が起こりにくい
MBOにより経営権が集中することにより、既存経営の延長となるため企業に変化が起こらない傾向があります。株主が経営陣と分散すると、所有と経営が分離することで多様な意見を取り入れることができます。
企業が変化しない場合、環境の変化に適合できず経営が悪化する恐れがあります。
資金調達が必要となる
経営陣個人の資金には限界があり、株式を買収するための資金を自力で捻出できない可能性があります。金融機関からの融資やファンドによる共同出資を受けることで必要な資金を創出場合が生じます。
ここで受けた融資・出資は、会社合併後のそのまま会社の負債として残りますので、これが元で経営が苦しくなる恐れが生じます。また、資金調達に失敗すると、MBOの実施自体が困難になります。
上場廃止による資金調達源の喪失
上場企業の場合、MBO実行により上場廃止になります。したがって証券市場から資金を調達できなくなります。資金調達源を失うことにより資金繰りが苦しくなる場合があるので、上場企業がMBOを実施する際は十分注意しましょう。
MBOを実施する3つの手順
それでは、MBOを実施するために必要となる3つの手順をご紹介します。MBOを成立させるためには、大きく分けて3つのステップを経る必要があり、事前準備にも気を抜けません。一般的なスキームとしては、まず買収目的の特別目的会社(SPC)を設立し、株式の取得を行います。その後に合併の手続きを行うというのが基本的な流れです。これから、それぞれの詳細を解説します。
1.買収目的の会社を設立する
最初に行うのは、買収目的の特別目的会社を経営陣だけもしくは経営陣と投資ファンドが出資する形で設立します。買収したい会社の株式を購入するためだけに設立する会社のことを「SPC(特別目的会社)」と呼び、SPCが買収対象会社を吸収することになります。
SPCは、MBOを実施するためだけでなく、資金調達を伴うさまざまなシチュエーションで活用されます。たとえば出資者から集めたお金を使って不動産を購入し、それを運用・売却することで確保した利益を出資者に分配するという使われ方もあるようです。
2.買収目的の会社が株式の取得を行う
続いて、SPC(特別目的会社)が、買収対象会社の株式取得を行います。この場合に必要となる資金は会社の規模によってまちまちですが、自社のみで資金を用意することが不可能という場合には、実質的に買収対象事業の資産やキャッシュフローを担保とする形で金融機関から融資を受けます。これにより、買収対象の株式を取得することで、現株主から新会社の所有物へと変換されることになるのです。
3.買収対象会社と買収目的会社の合併を行う
最後のステップとなるのが合併です。買収された企業とSPC(特別目的会社)が合併することにより、MBOを完成させます。新しい株主は新会社の株式を保有することとなり、新会社のオーナーの座につけるのです。MBOというシステムの特性上、現経営陣のメンバーそのままに、理想どおりの経営を目指せます。
MBOの事例を紹介
MBOのスキームを見るとシンプルな内容であることはわかりますが、実際にMBOを成功させている企業が存在するのかどうかは気になるポイントといえるのではないでしょうか。最近行われた著名な事例としては、ニチイ学館とリミックスポイントの2社を挙げられます。それぞれの企業が何を目的にMBOを実現させたのかを詳しく解説します。
ニチイ学館の事例
介護事業大手のニチイ学館では、2020年8月に米国投資ファンドのベインキャピタル社と経営陣・創業者一族でMBOを実践し、TOBを成立させています。このTOBでは発行済み株式のうち82.27%の応募が集まりました。
これは創業者の寺田会長が死去したことによる、多額の相続税対策として実施されたMBOの事例です。ベインキャピタル社が270億円を出資してSPCを設立し、親族がTOBによって株式を売却することで、相続税の支払いを済ませています。
親族はその後もSPCの大株主の経営陣として新会社に残留しています。結果的に会社を手放すことも、相続税の支払いに苦慮することもありませんでした。現在のニチイ学館は非上場となったものの、健全な経営を持続させることに成功しています。
リミックスポイントの事例
2019年9月27日に株式会社リミックスポイントの連結子会社である株式会社アナザーの全株式を株式会社アナザー代表取締役社長の安藤健志氏が取得することでMBOを成功させています。
リミックスポイントグループは金融関連事業のほかにも旅行関連事業を株式会社アナザーと株式会社ジャービスの2社で展開していました。
今回のMBOによりリミックスポイントグループは金融関連事業における目まぐるしい事業環境に対応すべく事業ポートフォリオの再構築を進める中で、宿泊施設の運営を行う株式会社アナザーを独立させることで、財務上のスリム化を図るとともに株式会社ジャービスのみに特化することで資本効率の高い事業を目指しました。
MBOを検討しているならM&A DXのM&Aサービスへ!
株式会社M&A DXでは、M&Aの専門家として幅広いサービスを提供しています。基本合意締結から各種調査、最終合意締結、クロージング、そしてPMIプロセスに至るまでワンストップでご提供できるところが強みです。
とくに後継者問題の解決を目指すM&Aにも、M&A DXでは自信を持って対応しています。株式の売買を巡ってトラブルが起こりやすいMBOに関しても、豊富なノウハウを持って円滑に進めることが可能ですので、ぜひ、M&A DXまでご相談ください。
まとめ
MBOは、経営陣自らが自社の株式を既存株主から買取り、経営権を取得するM&Aの手法です。ニチイ学館やリミックスポイントなどの企業でも実施事例があり、双方の企業がそれぞれの目標を達成しています。
MBOを実施する際は、後継者問題の解消を得意とする株式会社M&A DXにご相談ください。これまでに培ったノウハウを生かし、既存株主との対立が多いMBOを平和的かつ円滑に進め、スムーズな成立を目指す上で全面的なサポートを実施します。