学習塾・予備校業界におけるM&A動向は?メリット、注意点を含めてわかりやすく解説

MBA 髙橋義博

国立大学卒業後、2008年に日本イーライリリー株式会社に入社しプライマリーケア領域のMRとして首都圏を担当し、2015年上期に全国1位の販売目標達成率を獲得。2015年にアストラゼネカ株式会社へ転職、2018年上期に全国1位の営業成績を獲得。製薬会社に在籍しながら名古屋商科大学大学院へ進学し2017年にMBA取得。経営者により近い立場で仕事がしたいという思いから2019年にM&A仲介会社へ転職し、製造業における事業承継型M&Aや建設業における異業種マッチング型M&Aなど複数の成約に携わる。

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学習塾・予備校業界は少子高齢化という逆境にある一方で、オンライン指導やプログラミング教育など新たな業態も現れつつあり、変化の最中にある業界といえるでしょう。今回は学習塾・予備校業界の概要からそのM&A動向、M&Aを行う際のメリット、注意点を含めて解説します。また、学習塾・予備校業界におけるM&A事例についても紹介しますので、直近の事例を知りたい方にも有益な内容となっています。ぜひ最後まで読んでいただき、学習塾・予備校業界のM&Aについて詳しく知るきっかけとなれば幸いです。

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学習塾・予備校業界とは

ここでは、学習塾・予備校業界とは何かという基本的な部分を始めとして、業界におけるM&A動向を含め解説します。

学習塾・予備校業界の現状

学習塾・予備校業界は少子高齢化が進んでいる現状にありながら、近年の市場規模として拡大傾向にあります。コロナ禍にも関わらず、2020年から2021年にかけては、売上高が20%近く増加しているのです。その理由は、子ども一人当たりの学習塾費が増えているためとされています。

一方で、学習塾・予備校業界は労働集約的な産業とされています。塾で働く講師の業務は、日々の授業に加え、保護者対応、教材作成、教育指導要領の研究などと多岐に渡ります。それにも関わらず、全業界における給与水準は高くないことから、慢性的な人手不足に陥っています。

図1 学習塾の売上高推移
学習塾の売上高推移
経済産業省より作成「特定サービス産業動態統計調査(2023年2月公表)

アフターコロナを見据えた学習塾・予備校業界の今後

コロナ禍においては、学習塾・予備校業界に限らず、対面でのビジネスを主とする業界は大きな変化を強いられました。

従来、学習塾・予備校業界では基本的に対面での授業を行っていましたが、コロナ禍によってタブレットやPCを用いたオンライン授業にも対応することが求められました。また、学校教育においてもGIGAスクール構想によって、生徒に一人一台のPC端末が配布され、社会的にも教育分野でのDX(デジタルトランスフォーメーション)が認知されつつあるといえます。さらに、小学生の英語学習やプログラミングなどの新たな教育分野が生まれており、塾や学習塾に求められる役割も変わってきているのです。

少子高齢化という逆風が吹く中で、変わりゆくビジネス環境に迅速かつ柔軟に対応できる企業が生き残っていくと予想されます。

学習塾・予備校業界のM&A動向

近年で成立している学習塾・予備校業界のM&Aには、大きく二つの傾向があります。

一つ目は、事業規模拡大や新たな地域への進出を目指して同業他社に対してM&Aを行うケースです。少子高齢化が続く中、生き残りを図るためには事業を拡大し市場でのシェアを高める必要があります。また、人件費の上昇や人手不足が顕著となる中で、比較的好待遇で雇用できる大手企業の方が働き手となる講師からも選ばれやすくなるでしょう。

二つ目は、異業種の企業が当事者となるM&Aです。これに該当するのは、異業種の企業が学習塾・予備校業界へ進出する場合と、学習塾・予備校業界の企業が新たな領域に展開する場合です。特に近年は、教育の分野においてもDXに向けた取り組みが行われるようになり、IT企業が教育分野に進出する事例が増えています。

学習塾・予備校業界でM&Aを行うメリット

ここでは、学習塾・予備校業界のM&Aにおける譲受企業と譲渡企業のそれぞれの立場で期待できるメリットについて解説します。

譲受企業のメリット

人手不足の解消

学習塾・予備校業界は労働集約型の産業とされています。正社員の平均年収は350万円程度と業務量に見合うものではなく、正社員の就職先として魅力的とは言えないのが現状です。また、個別指導の形態が一般化したことから、必要な講師の数が増え、大学生のアルバイトに依存する状況が続いています。

もしM&Aによって同業他社を買収することができれば、譲渡企業の講師を迎えることができ人手不足の状況を改善できる可能性があります。

未進出の地域に事業展開できる

学習塾・予備校業界においては、地域でのシェアも競争力を向上させるための重要な要素になります。

これまで進出していなかった地域で生徒や保護者からの信頼を確立することは決して容易ではありません。
M&Aを活用することで、既に顧客基盤を獲得した状態で事業をスタートできることから、事業拡大のスピードアップが図れるでしょう。

新たな業態に進出できる

近年は学習塾・予備校業界においても、オンライン指導やプログラミング教育など従来の塾とは異なったサービスを展開するケースが増えています。

新たな業態にチャレンジするためには、本来ならば必要な人材の確保、設備投資など中長期での取り組みが必要です。しかし、M&Aによって既にノウハウを持った企業を買収することで、迅速に新領域への進出が可能になるでしょう。

譲渡企業のメリット

後継者の確保

東京商工リサーチの調査では、2022年時点で経営者の平均年齢は60歳を超えており、個人経営の小規模塾などでも塾長の高齢化が進んでいると考えられます。

中小規模の学習塾でかつ経営者が高齢である場合には、後継者問題を解決する上でM&Aが有効な打ち手になる可能性があります。学習塾・予備校業界は、生徒や保護者と長年築き上げた信頼や進学実績などが競争力の源泉です。

そのため、長年積み上げたノウハウを受け継げる後継者を育成することは決して容易ではないでしょう。短期での後継者育成にこだわらず、M&Aによって事業を承継できる企業を探すことも後継者問題の解決につながります。

経営の安定化

中小あるいは零細の塾では、大手企業と比べ少子高齢化により縮小する市場への対応が難しくなる可能性があります。また、激化する生徒の獲得競争や事業環境の変化に耐えられるだけの経営資本を備えていないケースもあるでしょう。

このことから、中長期的な経営と従業員の雇用を安定させるためには、M&Aによる売却や事業承継が有効な打ち手といえます。

デジタル化の進展

近年は学習塾・予備校においてもDXの波が押し寄せており、オンライン指導やAI教材の活用などが進んでいます。

しかし、DXに向けた設備投資は、中小規模や零細の塾にとって資金とノウハウの両面で非常にハードルが高いものです。

一方で、DXの知見がある大企業がM&Aの譲受企業となれば、譲渡企業に対するDXのノウハウ継承や設備投資によりデジタル化が進展する可能性があるでしょう。

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学習塾・予備校業界でM&Aを行う際の注意点

ここでは、学習塾・予備校業界のM&Aにおける譲受企業と譲渡企業のそれぞれの立場で注意すべき点について解説します。

譲受企業の視点

スキルのある講師が所属しているか

学習塾・不動産業界においては、顧客である生徒や保護者からの信頼及び評価が得られるかどうかがビジネスを進める上での生命線です。そのため、優秀な講師が所属しているかどうかが企業の競争力に関わってきます。

譲受企業としては、M&Aで買収しようとしている塾について、売上、利益率、進学実績といった目に見える指標だけではなく、口コミなどのあらゆる手段を活用して在籍している講師の評価を知る必要があるでしょう。

生徒や保護者への影響

学習塾・予備校業界でのM&Aにおいては、譲渡企業の従業員は当然として、在籍する生徒や保護者に対するケアが必要なことにも注意が必要です。

生徒や保護者はM&Aによって経営主体が変わることでこれまでの教育方針や品質が変わってしまうのではないかという懸念を抱きます。特に受験シーズンなどの敏感な時期にM&Aが行われた場合には、生徒や保護者への影響について特に注意すべきです。

譲渡企業の視点

自社の強みが正しく把握できているか

M&Aによる売却を成功させるためには、譲受企業が求めるニーズや目指す姿に対して、自社の強みがどのように刺さるかを正しく把握することが重要です。

例えば、特定の地域において生徒や保護者から高い評価を得ている、これまで大手が進出していなかった分野で優れたノウハウがあるなどといった、他社との差別化につながる独自の強みを全面に押し出す必要があります。

自社の強みを正しく把握することは、M&Aの過程で譲受企業と交渉をする上でも役立ちます。一般的にM&Aにおける売却価格の交渉は譲受企業の方が有利と考えられています。しかし、譲受企業が進出していない地域での評価やノウハウなどの差別化要素があれば、強い姿勢で交渉に臨むことができ、納得のいく価格で売却につなげることができるかもしれません。

従業員の安定的な雇用につながるか

M&Aが実施される際、多くの従業員は自身の雇用が安定的に継続されるのかという不安を抱きます。不安を払拭するためには経営者が従業員に対してM&Aによって何が変わるのかを正しく説明し、納得してもらわなければなりません。もし納得のいく説明ができない場合、M&Aそのものが従業員の不安を煽る形となり、モチベーション低下や大規模な離職につながるリスクがあります。

M&Aを行う際には、譲受企業が中長期的にビジネスを発展させるだけの経営基盤とノウハウを持っているか、事業を承継するにふさわしい社会的信頼があるかなどについて事前に調査することが重要です。

学習塾・予備校業界でのM&A事例

ここでは、学習塾・予備校業界におけるM&A事例について代表的なものを紹介します。

ベネッセコーポレーションによるUdemyの日本事業取得

国内で教育サービスを幅広く展開するベネッセコーポレーション(以降、ベネッセ)は、グローバルにオンライン教育サービスを提供するUdemyに対して2020年に出資を行いました。これにより、ベネッセはUdemyの日本における共同運営の独占権を取得しました。

従来は若年層や学生向けのサービスを主に扱っていたベネッセですが、このM&Aによって社会人向け教育という新たな領域への展開が可能になったといえるでしょう。

ナガセによるサマデイの事業取得

「東進ハイスクール」など小中学生や高校生向けの学習塾を運営するナガセは、関東地方で現役高校生を対象に学習塾を展開するサマデイの全株式を2014年に取得しました。

従来、学習塾業界で存在感を持つナガセですが、今回のM&Aによってグループ全体の総合力を高め、より一層の競争力向上を目指しています。

ヤマノホールディングスによるマンツーマンアカデミーの子会社化

美容事業などを運営するヤマノホールディングスは、2019年に個別指導塾の「スクールIE」を運営するマンツーマンアカデミーを子会社化しました。

美容事業以外にも多角的な経営を行っているヤマノホールディングスは、今回のM&Aで教育事業を新たな分野として取り込み、グループ全体での事業規模拡大を目指しています。

まとめ

学習塾・予備校業界には、国内の少子高齢化や人口減少による市場縮小に加え、人件費上昇や人手不足などの乗り越えるべき課題があります。また、文部科学省の方針やIT技術によって、今後も大きな変化が予想される業界であり、生き残るためには変わりゆく環境に適応する力が必要です。そのような中で、M&Aは柔軟かつ迅速に変革を進めるための有効な手段となりえます。中長期的にビジネスを拡大するための選択肢としてM&Aを検討してみてはいかがでしょうか。

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