株価算定とは
まず、株価算定とは企業価値(EV)を判断する際にも重要な指標となる株価を算出することです。そこで、まず株価算定がなぜ必要なのかを解説し、株価算定報告書についても説明します。
株価算定する目的
ビジネスの現場では、様々な局面で株価算定が必要になります。会社法や税法上からも、株価算定が不可欠な場合があるのでしっかり把握しておきましょう。
M&A時の株価決定
M&Aの場合は、最終的には当事者間で合意に至った条件にて取引を進めることになりますが、その条件を決める上でのベースとなるのが、この株価算定によって算定された水準になります。M&A時には、その企業価値が買い手、売り手双方の決断に大きな影響を及ぼします。上場企業の場合にはマーケットで価格が出ています。
しかし、非上場企業の場合にはそのような客観的な数字が存在しないため、専門家による株価算定が重要な意味を持つのです。
事業承継のため
中小企業経営者は、自社の株価算定を行うことではじめて自社の客観的な価値を把握することになるでしょう。事業承継を検討する場合、この算出された株価水準次第でその方向性が大きく変わってくる可能性のある、とても重要な数字です。引き継ぐ側にとっても、その価値を把握することで、その後の心づもりもしやすくなるでしょう。
相続税申告のため
故人の被相続財産に株式が含まれていると、相続税の申告が必要になります。上場株式であれば、「相続開始日の株価終値」、「相続開始日の月の取引日ごとの株価終値の平均額」、「相続開始日の月の前月の取引日ごとの株価終値の平均額」、「相続開始日の月の前々月の取引日ごとの株価終値の平均額」の中で一番低いものに、保有株式数をかけて計算します。
しかし、非上場株式の場合はその基準となる市場価格がありません。そこで、類似業種比準方式、純資産価額方式、配当還元方式といった評価方法で株価算定されます。
株価算定報告書(株価算定書)が必要な場合もある
企業の株価算定結果をまとめたものとして、株価算定報告書(株価算定書)があります。記載内容は、評価の前提となる株価の算定方法や具体的な計算方法、そしてその評価結果です。
株価算定報告書は、M&A、事業承継、ストック・オプションの発行、第三者割当増資といった場面で必要になります。いずれにおいても、正当な算出がされていないと後に支障が出る恐れがあるため注意が必要です。
税理士監修で作成される
株価算定報告書はその客観性に重要な意味があります。そこで、作成する際には会計事務所や税理士事務所などの第三者に依頼する点がポイントです。
M&A時の株価算定①コストアプローチ
ここからは、M&A時に採用される株価算定の手法を紹介します。大きく3つのアプローチがあります。
最初に紹介するのがコストアプローチです。評価会社が保有している資産を再調達すると仮定した場合に、それに要するコストに注目した方法です。この方法では、対象会社の純資産から価値を評価します。
代表的なものとしては、簿価純資産法、時価純資産法といった方式があります。客観的なデータをもとに算出する手法なので、誰がみても納得しやすい点はメリットです。
一方、あくまでその時点での判断なので、将来性が反映されない点はデメリットと言えましょう。清算を前提とした評価によく使われるもので、M&Aの判断基準としては馴染まないとも言えますが、わかりやすいという観点から中小企業のM&Aでは比較的よく使われる手法です。
簿価純資産法
簿価純資産法では、その名の通り対象企業の貸借対照表に記載された純資産額をそのまま株式価値ととらえます。純資産額とは、簡潔に説明にいうと資産から負債を控除したものです。
純資産額は貸借対照表を見るだけですぐにわかるため、そこから発行済株式総数で除すると株価を算出することができます。比較的簡単に算出ができるのがメリットです。
ただし、この方式は多額の含み損益が発生していないことが条件になります。もし多額の含み損益が発生していた場合は、それを加味した修正簿価純資産法が取り入れられます。
この際に修正を加えられるのは、有価証券や不動産などといった時価評価による影響が大きい項目です。
時価純資産法
時価純資産法は、全ての資産や負債を一度時価に換算した上で純資産を算定する方法です。企業が保有する資産を全て売却し、負債を全額支払って清算した場合の企業価値を表す場合は、清算価値法と呼ばれることもあります。
時価換算される点がポイントで、簿価純資産法よりも実態に即した評価をできることがメリットです。その一方、高度な専門知識なしにブランド力や独自のノウハウなどの無形資産を評価することは困難だというデメリットがあります。
M&A時の株価算定②インカムアプローチ
続いて、企業のこれから期待される利益やキャッシュフローにスポットをあてたのがインカムアプローチです。他の手法とは異なり、企業の将来性に重きを置いているので、M&Aでの企業判断に役立つ方法と言えます。
ただし、事業計画が妥当であるかについては、それぞれの解釈により異なる場合もあり、恣意的になりやすいという問題点が指摘されることもあります。そのため、この算定は利害関係にない第三者が行うことがポイントです。
また、将来の判断になるため、継続企業の前提(ゴーイングコンサーン)から今後も事業が続いていくことが原則となります。このアプローチの代表的なものに、DCF法、収益還元法がありますので、ここで見ていきましょう。
DCF(割引キャッシュフロー)法
割引キャッシュフロー法とも呼ばれるDCF法は、将来期待されるフリーキャッシュフローを予測し、将来における不確実性(リスク)を反映した割引率により将来期間のフリーキャッシュフローを割り引いた現在価値をもって株式価値を計算する方法です。ちなみに、フリーキャッシュフローとは、全ての資金拠出者に分配可能なキャッシュフローを指し、計算式は「税引前利息支払前利益-法人税等+減価償却費等の非現金支出費用-設備投資額±運転資本の増減額」です。フリーキャッシュフローは事業計画に基づき算出します。
DCF法は理論的かつ合理的なところがメリットで、M&Aでよく使われる手法です。ただし、専門的知識を要するので、専門家への相談が必要になるでしょう。
収益還元法
他方、収益還元法はDCF法に比べると簡単に算出できるところがメリットです。具体的にいうと、将来の期待される利益を永久還元して計算された現在価値をもって株式価値を計算する方法です。
DCF法では事業計画に基づき計算しますが、事業計画がない場合に収益還元法を用いて計算することが一般的です。
こちらもDCF法同様に、将来の予測という点に関して不確定要素を含むところはデメリットです。専門的知識を要しますので、専門家への相談をお勧めします。
M&A時の株価算定③マーケットアプローチ
他の2つのアプローチと異なり、相対的な価値判断なのがマーケットアプローチです。これは株式市場やM&A市場における株価や取引価格に基づき株価を算定します。
対象企業に着目するだけでなく、他の企業も参考にするため、市場の情勢を反映した上で客観性を保つことができる点がメリットです。しかし、株価は国際情勢の変化や天災から、突如として激しい値動きを見せる時もあり、必ずしも信頼性が高いとも言い切れません。
理論値と乖離が生じることもある点に注意が必要です。ここでは、M&Aで使われる取引事例価額法と類似会社非準法の2つを紹介します。
取引事例価額法
取引事例価額法とは、対象となる会社の株取引が以前にあった場合、その価額を参考に評価する方法です。以前に行われた売買をそのまま参考にすれば良いので、わかりやすい方法ではありますが、その際の取引価額が必ずしも合理的に算出されているとは限らない点に注意が必要です。
この方法による場合は、必ず採用する事例が合理的に算出されたものであったかを検証するようにしましょう。ちなみに、過去にいくつも取引事例がある際には、原則直近に行われた売買の取引価額を使用します。
類似会社比準法(マルチプル法)
それに対し、類似会社比準法では、対象企業と事業内容が類似する企業の財務指標を比較します。類似会社の選定が株価算定に大きな影響を及ぼすので、選ぶ際には慎重な判断が必要です。
類似会社を選ぶ基準としては、類似業種であるか、事業の成熟度、地域性などの経済環境、事業規模、成長性などを参考にすると良いでしょう。この際、より客観的な判断をするために3社〜10社程度を選ぶのが望ましいです。
さらに、より客観的な指標を確保するために、上場企業を選ぶことがポイントです。比較する企業を選出した後はそれぞれの評価基準の比準割合を計算し、その割合を類似会社の株価にかけることで対象企業の株価を算定できます。
そのほかの株価算定
ここまで紹介した方法以外にも、各アプローチにはいくつかの株価算定方法があります。ここでは、インカムアプローチの一種として分類されることもある配当還元法を紹介します。
配当還元法
配当還元法は、非上場企業の相続で活用される手法です。相続時に取引相場のない株式を評価する際の特例的な評価方法であることに気をつけましょう。少数株主が株式を相続したり贈与したりする場合にこの手法を採用して良いという位置づけです。
配当還元法による評価額は、原則的評価方式による評価額よりも一般的に低くなるという点がポイントです。
株価算定の必要な費用・料金
株価算定に必要な費用・料金の目安はバリュエーションを行う対象企業の規模や業種、算定方法等により異なりますが、50万~200万が目安となります。また、依頼するM&A仲介会社や専門家によっても料金体系が異なるため、事前に報酬の範囲がどこまで含まれているのか、追加費用のかかる項目の事前確認や見積書の内訳の確認を行い、理解した上で契約を行うことが大切です。
株価算定のプロセス・手続きの流れ
ここまで述べてきた通り、株価算定には様々な方法があります。M&Aや事業承継、資金調達などの目的によって算定方法が異なりますので、算定する目的を確認します。目的の確認後、どの方法が算定に適しているか決定します。複数の方法を用いて算定することが望ましいですが、本来の目的に適している方法にて株価算定を行います。
その後、株価算定に必要な事業計画や決算書類等の資料提出を行い、株価算定を行っていきます。
株価算定書の作成について
株価算定書は株価が公開されていない非上場企業の株取引の売買金額の目安となる算定書であり、一株あたりの評価額を報告する書類となっています。事業承継やM&A、資金調達やIPOなどに使用され、試算が終わり次第株価算定書を作成します。
ただし、株価算定書はあくまで株取引を行うための参考資料や判断材料としての位置づけのため、その算定書を元に取引を実行する責任は取引実行者にあることに留意が必要です。
まとめ
以上、株価算定に使われる3つの算定手法を主に解説してきました。株価算定は、M&Aや事業承継などビジネスの様々な局面で重要な意味を持ちます。
それにより、M&Aの行く末も左右されるので、株価算定は慎重に行わなくてはなりません。そこで、まずはどの方式が自社にとって最適なのかを検討していく必要があるでしょう。
中には算出が複雑な方式や、時価のように専門家の意見も要するものがありますので、まずは一度公認会計士などの専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
M&A DXには、大手会計系M&Aファーム出身の専門家や大手コンサルティング会社出身の公認会計士や税理士が多数在籍しています。株価算定をはじめ事業承継にお悩みの方や、M&Aプロセス、PMIをご検討の方は、お気軽にM&A DXまでご相談下さい。