黒字倒産とは
黒字倒産とは、毎期行う決算の結果として損益計算書上で利益が計上されている黒字の状態にもかかわらず倒産してしまうことです。ここでは、黒字倒産の現状や「黒字」と「倒産」そのものの意味について説明していきます。
利益黒字なのに倒産
2021年に発表された東京商工リサーチの調査で、2020年倒産企業340社のうち赤字企業率(当期純損失の企業)が53.2%(181社)であったと発表しました。倒産企業の赤字企業率は、2018年が37.3%、2019年が44.1%という点を考慮すると、業績悪化に歯止めがかからない企業がますます倒産しやすい傾向にあることがわかります。
その一方で、倒産企業の半分近く(46.8%)を当期純利益が黒字だった企業で占めている点も注目ポイントです。さらに、生存企業のうち23.3%は赤字企業であることから、赤字であっても生き残る企業が多数あることがわかります。
出典:東京商工リサーチ「2020年「倒産企業の財務データ分析」調査」
では、なぜ黒字なのに倒産する企業と赤字でも生存する企業があるのでしょうか。これについては後ほど詳しく解説します。
関係する用語を整理
黒字倒産を理解するため、日常でも使用している「黒字」と「倒産」という用語をここでおさらいしておきましょう。
黒字と赤字の違いは何か
財務三表のひとつ、損益計算書の利益がプラスであることを黒字、マイナスであることが赤字といいます。ただし、損益計算書には「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「税引前当期純利益」「当期純利益」と5種類の利益が記載されています。
・売上総利益 [売上高-売上原価]
・営業利益 [売上総利益-販売費及び一般管理費]
・経常利益 [営業利益+営業外収益-営業外費用]
・税引前当期純利益 [経常利益+特別利益-特別損失]
・当期純利益 [税引前当期利益-法人税等(法人税+法人住民税+法人事業税)]
上記の通り算出されるものです。それぞれ算出式が異なるため、「売上総利益が黒字であっても営業利益は赤字」のように同一企業で黒字の利益と赤字の利益が混在することはよくあります。
一般的に黒字倒産の場合、営業利益や当期純利益が黒字であるにもかかわらず倒産するケースを指すことが多いです。
倒産の定義とは
実は「倒産」は正式な法律用語ではありません。一般的に、企業が債務の支払不能に陥る場合や経済活動を続けることが困難な状況のことです。
具体的には、私的整理に関するガイドラインを利用したり、会社更生手続き開始を申請したりした際に「企業が倒産した」とされます。倒産の種類は細かく分類されており、大きく分けると「法的倒産」と「私的倒産」の2つに分類されます。
さらに、「法的倒産」には再建型の「会社更生法」と「民事再生法」、清算型の「破産」と「特別清算」があり、「私的倒産」には、「私的整理に関するガイドラインの利用」と「内整理」があります。「私的整理に関するガイドラインの利用」は金融機関との協議により、債務の弁済猶予・一時免除を得て再生を目指すことで、、「内整理」は支払不能や債務超過に陥った企業が債権者と任意で話し合いをし整理した上で清算することです。
なぜ黒字倒産するのか
黒字倒産するのには、主に2つの理由が考えられます。
理由1 入金サイクルと支払いサイクルの問題
実は、商品売上時点ですぐに現金を受け取ることができるとは限りません。その理由が信用に基づく後払い取引である「掛取引(売掛金・買掛金)」の存在です。
売掛金は貸借対照表で左側(借方)の資産の部に記載され、買掛金は右側(貸方)の負債の部に記載されます。商品受け渡しやサービス提供時に現金を受け取らない場合に、後日受け取る権利を「売掛金」、商品を購入した際やサービスを受けた際に現金を支払わずに後日支払う義務を「買掛金」といいます。
売掛金を回収するタイミングや買掛金を支払うタイミングに、基本的には法的な決まりはありません。これらのタイミングは取引先との契約や取り決めで入金日や支払日を決定します。そのため、買掛金100万円を1ヶ月以内にA社に支払うという条件なのにもかかわらず、売掛金100万円が取引先B社から入金になるのは2ヶ月後の場合、手元に運転資金がない限りA社へ買掛金分を支払うことができません。
つまり、どれだけ売上を計上し利益を獲得したとしても、入金・支払いサイクルのズレから現預金が不足した場合、倒産につながります。また、本来支払いに間に合うサイクルの取引条件になっていたとしても、取引先企業の支払いが滞ったり倒産したりすると当初予定した時期に現金が手に入らなくなってしまいます。
いずれにしても、鍵を握るのは企業のキャッシュフローです。キャッシュフローがどのようなものなのかは後ほど解説します。
理由2 後継者難による廃業
中小企業庁の発表によると、中小企業経営者で70代以上が占める割合が増加する一方で40代以下の構成が減少傾向にあります。そのため、年齢を理由に現経営者が今後引退していくことが予想されます。しかし現状では、60代の現経営者では約半数、70代では約4割、80代の約3割で後継者が不在です。このような経営者の高齢化や後継者不足の理由から休廃業を決断する企業も少なくありません。
ちなみに、2020年に休廃業や解散した企業のうち6割超は当期純利益が黒字でした。このことから、業績が悪くない企業であっても後継者不在に伴い、休廃業せざるを得ないケースが多くあるといえるでしょう。
出典:東京商工リサーチ「2020年「休廃業・解散企業」動向調査」
なお、厳密には倒産と廃業は意味が異なりますが、いずれも営業を取りやめるという点に違いはないためここで理由として取り上げています。
キャッシュフローをわかりやすく解説
資金の入出金のタイミング次第では黒字企業も倒産の可能性もでてきます。そして、財務分析の際によく用いられる貸借対照表と損益計算書だけではその流れを把握するのに手間がかかります。
そこで財務三表のひとつで、現金の増減や理由を示すキャッシュ・フロー計算書が役に立ちます。
3つのキャッシュフローをおさらい
キャッシュ・フロー計算書の中には1「営業活動によるキャッシュ・フロー」、2「投資活動によるキャッシュ・フロー」、3「財務活動によるキャッシュ・フロー」の3つがあります。この3つで会社の事業活動におけるお金の流れを分析することが可能です。
1では本業の資金の動きを把握することができます。ここがマイナスだと本業で資金をを獲得できていないことになるので、プラスが望ましいです。
2は将来に向けてどれだけ投資したのかを示しています。設備投資をおこなえばマイナス、設備を売却すればプラスになります。ただし、投資は会社の成長にもつながることなので、マイナスが必ずしも問題なわけではありません。
ここまで紹介した2つのキャッシュフローを足し合わせたものがフリーキャッシュフローといわれます。フリーキャッシュフローがプラスで大きいと、自由に使える資金が手元に確保できていることを意味します。そのため、フリーキャッシュフローを最大化することが企業の事業活動目標のひとつです。
3では、企業が営業や投資活動を維持するため、どのように資金を調達してどれほど返済したかを把握できます。たとえば、プラスであれば金融機関への返済額以上に借入を実施している状態であり、マイナスであれば金融機関からの新規の借入以上に返済をしている状態ということとなります。
なお、ここまで紹介した1から3を合計することで現預金の増減が算出できます。貸借対照表の直近2期分を取り出し、当期の「現金及び預金」-前期の「現金及び預金」を計算してみると1から3の合計額と同じことがわかるでしょう。1年間の現金及び預金の変動の内訳がキャッシュ・フロー計算書となります。
キャッシュフロー改善方法
キャッシュ・フロー計算書の仕組みを踏まえると、フリーキャッシュフローを増加させることが、キャッシュフロー全体を改善することに繋がります。そして、フリーキャッシュフローを増やす方法は、営業活動によるキャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローの合計をプラスにすることです。
まず、大まかに税引前当期純利益を増加させれば営業活動によるキャッシュ・フローを増やすことができます。また、稼働していない不動産(遊休資産)があれば処分することで投資活動によるキャッシュ・フローを増やすことが可能です。
財務三表を見る
先ほど、損益計算書や貸借対照表だけではお金の流れをつかみにくいことを説明しましたが、この2つの書類にも黒字倒産のヒントになる項目があります。そこで、財務三表のそれぞれどこに注目すればよいかをみていきましょう。
①損益計算書を見る
損益計算書を見ると、収支を把握することができます。また、冒頭で紹介した5つの利益に注目すると現在本業でどれだけ稼ぐことができているのかを把握することができます。また損益計算書を数期分比較することで、売上の増減などが一過性のものなのかを把握することが可能です。
さらに、損益計算書の損益に減価償却費を加えると精緻ではないものの、おおよその獲得したキャッシュフローを認識することができます。損益計算書を確認しながら、獲得しているキャッシュフローがどれだけあるのかを予測することができます。また、損益計算書に記載されている費用を固定費と変動費に分ければ、固定費÷{1―(変動費÷売上高)}の数式で損益分岐点を算出することができます。損益分岐点がわかれば、いかに利益を最大化して営業キャッシュフローを大きくすることができるかのヒントになるでしょう。
②貸借対照表を見る
過度の借入金を計上している企業は財務の健全性が低く、倒産に至る可能性が高まります。ここでリスクを確認するための指標の一つとして自己資本比率があります。
自己資本比率は、貸借対照表に記載されている「純資産(自己資本)」を総資本(負債(他人資本)+純資産(自己資本))で割り、100をかけることで計算できます。この数字が高ければ高いほど企業の健全性が高いといえます。
目安は業種によっても異なりますが、50%以上であると良好であるといわれ、一般に20%以下となると安全性が低いため、倒産のリスクが高まっているといえるでしょう。
③キャッシュ・フロー計算書を見る
キャッシュフローの解説でも述べたように、フリーキャッシュフローが特に鍵を握ります。もしフリーキャッシュフローがマイナスであれば、最後に解説する「黒字倒産を避けるための方法」を参考に財務内容を改善していかなければなりません。
なお、非上場の中小企業にはキャッシュフロー計算書の作成義務がありません。しかし、ここまで説明したように損益計算書や貸借対照表だけでは見えないお金の流れを把握することができるため、作成することをお勧めします。
黒字倒産での税金
黒字倒産する企業の中には資金繰りがショートするだけでなく、納税を理由に倒産する企業が存在します。黒字経営しているため利益に対応した法人税等を納付する必要がありますが、企業に現金が不足しているため納税資金がなく黒字倒産してしまうケースがあります。税金は支払を遅らせることも可能ですが、延滞税が発生してしまうため結果的には納税額が増加してしまうリスクがあるため、有効な選択肢とは言えません。納税によるキャッシュフローの悪化を回避するためには、税務の専門家である税理士に任せることも重要な選択肢となりえますので、実績のある税理士を選ぶことをおすすめします。
黒字倒産した企業の事例を紹介
ここからは、大手企業や上場企業にもかかわらず黒字で倒産に至った事例を紹介します。
大手企業でも黒字倒産
株式会社アーバンコーポレイション(以下「アーバンコーポレイション」)は、不動産業の大手企業で倒産する直近の損益計算書でも黒字利益を計上していました。それにもかかわらず、2008年に負債総額2,558億円を抱えて民事再生法の適用を申請してしまいました。
ここで注目したいのが、利益は黒字であっても営業キャッシュフローはマイナスだったという点です。損益計算書上では在庫となる棚卸資産は販売されるまで費用計上されません。一方で営業キャッシュフローでは仕入に対して支払ったことによるキャッシュフローの減少が反映されるため、このような状況もおこりえます。
つまり、アーバンコーポレイションは販売できる水準を大きく上回る仕入れを続けていたため多くの棚卸資産を抱えてしまい、資金不足に陥りました。結果的にこのことが黒字倒産の要因のひとつとなります。
上場企業でも黒字倒産
染料などのケミカル関連商材を取り扱っていた福井県の老舗企業、江守グループホールディングスも上場企業で黒字倒産した事例です。倒産以前に江守グループホールディングスは海外進出を果たし、順調に売上を向上させていました。
しかし、売上高を計上した中国取引先企業に対する売掛金の回収が困難になったことで債権を資金化することができなくなりました。その後、中国のグループ会社でコンプライアンス違反があったことも影響し、2015年4月に民事再生法の適用を申請しました。
黒字倒産を避けるための方法
ここまで解説した内容を踏まえ、黒字倒産を避けるための4つの方法を紹介します。
売掛金・買掛金回転期間を工夫する
取引先と交渉の余地がある場合には、売掛金の回収サイトを短くしたり買掛金支払サイトを長くしたりするなど売掛金・買掛金回転期間を工夫することも重要となります。また、売掛金については回収可能性について留意し、取引前・途中での与信や滞留債権がないかもチェックしておきましょう。
金融機関からの借入を検討する
キャッシュフローの改善について、ここまでフリーキャッシュフローに主に焦点をあててきました。しかし、財務活動によるキャッシュフローをプラスにすることもキャッシュを確保する上で大切です。
過度な借入は返済不能の状態を招いたり、金利負担が重くなる可能性があるため注意が必要ですが、売掛金と買掛金の入金・支払いサイクルのズレによる資金不足を解消するためにも金融機関からの借入を検討しておきましょう。さらに、状況が悪化している際にはメインバンクに融資の返済期間を延長する(リスケ)ための交渉をすることも有効となりえます。
在庫管理・資金繰り管理を徹底する
事例でも紹介したように、棚卸資産を大量に抱えることはフリーキャッシュフローを圧迫する要因につながります。過剰な在庫を保有しない様、適正在庫を心がける必要があります。
また、入金サイクルと支払いサイクルのズレから黒字倒産に陥ることを防ぐため、取引先ごとの入金日や支払日、給料及び賞与の支払のタイミングがいつなのかを意識して資金繰り管理を徹底してください。
M&Aを活用する方法もある
M&Aを活用することも、倒産を回避する方法のひとつとして有用です。社内に売れる事業があれば、事業譲渡をすることで獲得した資金を各種支払いに充てることができ、支払い不能による倒産を回避することができます。また会社のすべてを譲渡することで、資金力のある譲受企業が債務の支払いをしてくれることにより、支払不能に陥ることなく完済することができます。
また、近年は中小企業の後継者不足による休廃業も深刻です。M&Aはこのような課題を抱える経営者にとっても、思い入れのある企業と大切な従業員の雇用を確保する有効な手段となりえます。
まとめ
倒産を防ぐためには、本業でしっかりと稼いでいくことが大前提です。しかし、本業でしっかり売上を出して黒字を計上していたとしても、さまざまな事情から資金を確保できずに黒字倒産に陥るケースがあります。
黒字倒産を防ぐには、キャッシュフローをしっかりと把握しておくことが大切です。そこで、自社に存在する経営問題を把握して財務内容を見直すためにも、信頼できる専門家に相談するようにしてください。
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