種類株式について知ろう
(出典:経済産業省「エクイティ・ファイナンスに関する基礎知識」)
株式とは株主が会社との間で有する種々の法律関係の総体のことで、「普通株式」と「種類株式」があります。普通株式は、株主平等の原則に基づき、所有する株主全員が株式数に応じた同等の権利を付与されるものです。
一方、種類株式は所有する株主に対してさまざまな権利を付与したり、逆に制限を設けたりするものです。つまり、株主によって、なんらかの対応を変えたいという場合に発行されるのが種類株式です。発行する場合には会社の定款でそれぞれの株式の権利・制限の内容や発行可能種類株式総数などを規定する必要があります。
種類株式の権利・制限の種類は9種類
種類株式によって、優先または制限できる権利は、下記のとおり9種類あります。発行目的に合わせてこれらを組み合わせることも可能です。
権利・制限の種類 | 条文 | 内容 | |
1 | 優先配当権 | (会社法108条1項1号) | 配当金を普通株主よりも優先的に受領したり、高い配当金を受領する権利。 |
2 | 優先残余財産分配権 | (同2号) | 会社の解散・清算による残余財産の分配について、普通株主よりも優先的に受領する権利。 |
3 | 議決権の制限 | (同3号) | 株主総会の決議事項の全部または一部について、議決権の行使を制限すること。 |
4 | 譲渡制限 | (同4号) | 株主総会や取締役会等の承認がなければ、株式を譲渡できないように制限すること。 |
5 | 取得請求権 | (同5号) | 株主が会社に対して、自身が所有する株式を公正な価格で取得するよう請求できる権利。 |
6 | 取得条項 | (同6号) | 一定の事由が発生した場合、会社が株主の同意なしに「取得条項付株式」を取得できる権利。 |
7 | 全部取得条項 | (同7号) | 株主総会の特別決議によって、会社が「全部取得条項付株式」を全て取得できる権利。 |
8 | 拒否権 | (同8号) | 株主総会や取締役会で決議する特定の事項について、種類株主総会の決議を必要とすること。拒否権付種類株主が事実上の拒否権を持つことになり、権利の強さから「黄金株」とも言われる。 |
9 | 役員選任権 | (同9号) | 株主総会の承認を得なくても、「役員選任権付株式」を持つ種類株主総会で取締役や監査役を選任できる権利。 |
種類株式の発行手続き
種類株式は会社法で規定された手続きに従って発行することが必要ですが、ここでは発行のための手続きについて解説します。
種類株式を新たに発行するには、定款の変更手続きが必要となります。当該定款の変更には、株主総会の特別決議が必要となります。特別決議とは、株主総会において議決権を行使することができる株主のうち、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の3分の2以上の多数をもって行う決議のことをいいます。
種類株式を発行する時点で、既に他の種類株式を発行している場合には、発行している種類株主を構成員とする種類株主総会の決議も必要となります。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主がいない場合には、当該決議は不要となります。
加えて内容に応じて必要となる手続きが異なります。例えば、全部の株式につき取得条項を付した株式を発行する場合には株主総会の特別決議で事足りますが、全ての株式につき議決権を制限する株式を発行する場合には株主総会の特殊決議が必要となります。種類株式の発行の際には、事前にその内容を確認の上で手続きを進める必要があります。
活用場面ごとの種類株式のメリット・デメリット
種類株式は、使い方によっては多くのメリットをもたらします。しかし、そのメリットは、立場が異なればデメリットだと感じられることにもなります。
つまり、まず「何のために」、そして「誰に対して」発行するのかという点を、最初にしっかりと考えなければなりません。
経営の安定化を図ることが目的の場合
一般的に、株主の数が増えて、株主による経営介入の力が大きくなると、短期的な成果ばかりが重視されがちで、長期的なビジョンに基づく安定経営が難しくなります。さらに、友好関係にない第三者が株式の過半数の取得を目指す「敵対的買収」などを仕掛けてくると、当然、経営を不安定にする要因となります。
そこで、特定の種類株式を発行することによってこれらを防止し、経営の安定化を図ることが可能となります。ただし、逆に経営を不安定にするような種類株式もあるので注意しなければなりません。
株主の経営介入を抑止する種類株式
【議決権制限株式】(+優先配当権、優先残余財産分配権)
株主総会での議決権を制限することで株主の経営意志決定への関与を抑制し、経営の安定化を図る効果が期待できます。しかし、その反面、株式を保有することの魅力が低下します。そこで一般的には、経済的メリットのある「優先配当権」や「優先残余財産分配権」などを議決権の制限とセットにすることが考えられます。つまり、「経営に口出しはしないけれど、利益還元はしっかりおこなって欲しい」と考える株主のための株式です。
敵対的買収を防止する種類株式
【譲渡制限付株式】【取得条項付株式】【全部取得条項付株式】
望まない第三者による敵対的買収を防止するためには、株式の拡散を防止できる譲渡制限や、会社が株主から強制的に株式を取得できる種類株式の発行は有効な手段となります。なお、取得条項付株式は定款に定めた事由による取得の場合、株主総会、取締役会決議は不要ですが、全部取得条項付株式の場合は株主総会の特別決議が必要です。
株主の経営介入権を強くする種類株式
【拒否権付株式(黄金株)】【役員選任権付株式】
拒否権付株式を1株でも持っていると、株主総会決議への拒否権を発動できます。つまり、この株式を持っている人が同意しない限り、絶対に株主総会決議ができないという非常に強力な権利を与える株式で、「黄金株」とも呼ばれます。
例えば、仮に第三者が株式の過半数を買い占めて合併や取締役の交代を求めても、拒否権付株式の株主は拒否することができるので、オーナー経営者自身や友好関係にある会社が拒否権付株式を所有しておけば、経営の安定化につながります。
拒否権付株式と同様に、株式数が少なくても種類株主総会の決議だけで株主の意向に沿う取締役や監査役を選任できる役員選任権付株式を保有しておくことも同様の意味を持ちます。
資金調達の場合
株式による資金調達(エクイティ・ファイナンス)で最も重要なのは投資家の利益を考えることです。発行される種類株式が投資家のリスクを軽減し、あるいはメリットを与えてくれるかどうか、さらには投資目的の障害となる種類株式を第三者に発行していないかどうかがポイントになります。
資金調達をしやすくする種類株式
【配当金の優先株式】【残余財産の配分に関する優先株式】【取得請求権付株式】
各種優先株式は投資家にとって経済面でのメリットが明確であるため、出資をしやすくします。また、取得請求権付株式は、いつでも株式の取得を会社に請求できることにより、投資家のリスクを軽減できるため、資金調達を容易にしてくれます。ただし、優先株式の発行によって普通株主が受けられる配当金や分配金が減少する可能性があることは留意しておかなければなりません。
M&Aの場合
株式会社のM&Aは、事業譲渡などの場合を除けば、株式そのものを売買することがその内容になります。したがって、どんな株式を発行しているのかは、直接M&Aに影響するので、M&Aを検討する場合、種類株式の発行については慎重な検討が必要です。
スムーズなM&Aに役立つ種類株式
【譲渡制限付株式】【全部取得条項付株式】
M&Aによる会社譲渡の場合、株主が多数に分散していると、手続きが大変になります。そのため、株式の拡散を防止できる譲渡制限付株式や株主から強制的に株式を取得する、いわゆる「スクイーズアウト」を実施できる全部取得条項付株式を発行しておくことは、メリットがあります。
M&Aを実現しにくくする種類株式
【拒否権付株式】
買収されることによって資金面の安定や事業拡大などのメリットが得られる場合でも、もし、拒否権付株式を保有している株主が反対すると、M&Aは実現できません。
事業承継の場合
子などへの親族内での事業承継においては、株式をいかにスムーズに移転するのかが、重要なポイントになります。その際にも、種類株式が役立つことがあります。
子に財産権は移転しながら、経営権は親が保有しておく
【拒否権付株式】【役員選任権付株式】
事業承継での株式移転は、株価が下がったタイミングで実施するのが、課税上は有利になります。しかし、そのタイミングでは、経営経験の少ない後継者に経営権をすべて委譲してしまうことは心配だという場合もあるでしょう。その場合、1株だけを拒否権付株式にして現経営者が保有し、残りのすべての株式を後継者に移転するという方法があります。こうすれば、現経営者が実質的な経営権は保有したまま、財産権としての株式のほぼすべてを後継者に移転することができます。役員選任権付株式でも、同様の効果が得られます。
種類株式を発行する際の注意点
種類株式の発行にあたっては、自社の利益だけを考えて設計すると、投資家にとっては魅力のない株式になり、逆に株主の利益を考え過ぎると自社のリスクが増大する可能性もあります。そのため、株主の権利を縮小する場合には優先配当権などのメリットを組み合わせる、あるいは株主の権利を拡大する拒否権付株式などを発行する際にはリスク回避のために譲渡制限や取得条項を付けるなど、バランスの取れた株式設計が重要となります。
会社の利益と投資家の利益は相反することがある
会社は株式を発行することによって、返済の必要がない資金を調達し、事業に投資することができます。それに対し、投資家が出資する目的はさまざまで、例えば、VC(ベンチャーキャピタル)は出資したベンチャー企業が企業価値を高めた後、あるいは上場した後に株式を売却し利益を得るため、事業会社が自社の資金で投資活動を行うCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)は出資する会社の子会社化や本業とのシナジー効果によって事業拡大を図るためなど、出資目的はそれぞれ異なります。そのため、種類株式を発行する際には、投資家の目的を把握して慎重に検討しなければなりません。
発行手続が煩雑で時間がかかる
種類株式を発行する場合には、定款で定める必要があるため、株主総会を開催して「特別決議」で定款の変更を決議しなければなりません。特別決議は、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の多数で可決される決議で、普通決議と比べて意見をまとめるのが大変です。また、すでに種類株式を発行している場合には、利害関係のある種類株主総会の開催が必要になる場合もあります。
弁護士等、専門家の手を借りなければならないこともあり、その費用もかかります。
投資契約の方が良い場合がある
株主の権利義務については、株式の発行会社と投資家の間の投資契約でも同様の定めをすることができます。例えば、拒否権付株式の場合には当該種類株主総会の決議がなければ拒否権の行使はできませんが、投資契約で投資家の拒否権を定めてあればこの決議は必要ありません。また、会社法で定められた権利・義務以外の内容も投資契約で定めることができ、定款の変更などの面倒な手続きも必要がない点では種類株式の発行よりも自由度が高いといえます。逆に多数の株主の権利を制限したい場合などには、個別に交渉し、投資契約を締結するよりは種類株式を発行する方が発行会社の負担が少ないと思われます。
まとめ
種類株式は、事業継承、M&A、資金調達、敵対的買収の防止などさまざまな目的で活用されています。会社法で認められた9種類の内容を上手に生かし種類株式を使いこなすことができれば、会社の経営に大きなメリットがありますので、本記事をきっかけとして理解を深めてください。