工務店の定義
工務店とは、設計や施工を業務とする会社です。一般的に、工務店は地域密着型で、年間数棟~数十棟の住宅を供給するものとされています。しかし、厳密に定義されているわけではありません。
工務店と比較して、ハウスメーカーは「自前で生産設備をもち、広範囲で住宅建設を請け負う会社」、ハウスビルダーは「ハウスメーカーと工務店の中間。年間数十~数千の住宅を供給」するものとされています。これらも明確に定義されているわけではありませんが、本記事では上記のように「工務店」「ハウスメーカー」「ハウスビルダー」を区分して解説します。
工務店の最新動向
工務店の最新動向について紹介します。
【2023年】持ち家の着工数は減少、貸家・分譲住宅は増加
2023年の新設住宅着工数は、総戸数80万176戸で前年度より減少しました。
持家は前年比11.5%減の21万9622戸で昨年より減少となり、貸家は前年比2.0%減の34万395戸、分譲住宅は前年比9.4%減の23万5041戸で3年ぶりに減少しています。
持ち家の減少については、米中間の貿易摩擦、ウクライナ情勢による資材価格の高騰などが原因として挙げられています。
マンション価格高騰により戸建て住宅が注目されている
株式会社不動産研究所によると、2023年度(2023年4月~2024年3月)の首都圏新築分譲マンションの平均価格は7,565万円(前期比9.5%増)で、㎡単価は115.1万円(前期比10.8%増)でした。マンション平均価格は過去最高値で、バブル期最高値6,123万円を超えました。
新築マンション価格が高騰している原因として、発売戸数の減少や人件費・資材価格の高騰、金融緩和による住宅ローン金利の低下などが挙げられます。新築マンション価格が高騰している影響もあり、近年では戸建て住宅が注目されています。
木造非住宅分野に注力
建設業界では、非住宅分野の木造構造建築物に取り組む工務店やハウスメーカーなどが増えています。SDGsやEGG投資への関心が高まっていること、自然のぬくもりが感じられる木への需要増加などを背景に、ホテルや福祉施設、保育所などで木造建設が進められています。
また、木造は鉄骨造よりも仕入コストが安いため、この先も非住宅分野での木造化の需要は高まるとみられており、工務店も注力する重要性が高まってきています。ただし、2021年には「ウッドショック」が起こり、突発的に木材価格が高騰しました(2024年は例年並みの価格に落ち着いています)。
木造建築分野の売上は調達価格に左右されやすく、市場の動向を注視する必要があります。
工務店のM&A動向
一般的に、ハウスメーカーやハウスビルダーは大量仕入や大量生産など規模を拡大することで「規模の経済」が働くため、同業種同士のM&Aは起こりやすい傾向にあります。
一方、個別注文を得意とする工務店は規模の経済が働きにくいため、同業種のM&Aはあまり行われていません。
そのため、異業種とのM&Aが実施される傾向にあります。内装業者やリフォーム業者などを工務店が買収して、事業を多角化するケースが見られます。
一方で対応地域を広げたり、腕のいい大工さんを獲得したい大手ハウスメーカーやハウスビルダーが工務店を買収するケースも見られます。工務店にとっても、大手ハウスメーカー・ハウスビルダーの資本を活用できたり、後継者不足を解消できたりする利点があります。
工務店がM&Aをするメリット
工務店がM&Aを進めるメリットは、どこにあるのでしょうか?工務店が譲受側・譲渡側の両者の視点から、それぞれメリットを解説します。
工務店が譲受側の時のメリット
工務店を譲受する側のメリットは、事業領域やエリアの拡大、大工などの人材を獲得できる点です。前述のとおり内装工事業者やリフォーム業者とのM&Aによって事業領域の拡大を図るケースが見られますが、一から新規事業で始めるよりもM&Aのほうが事業を拡大しやすくなります。また、現在は職人の高齢化や少子化による人材の確保が難しいケースが多く、人材を獲得できる点においてメリットがあります。
工務店がハウスメーカーやハウスビルダーとの差別化を図るには、提案の幅を広げることが重要です。M&Aで他業種の事業や人材を獲得し、短期間で事業を拡大できるのがM&Aのメリットです。
工務店が譲渡側の時のメリット
工務店が譲渡側の時のメリットは、まず後継者不足の解消が挙げられます。工務店は就業者の高齢化が課題となっているほか、後継者不足が常態化しています。そのまま廃業して従業員や事業資産を失うよりも、譲渡する選択肢を取ることが多くなっています。
また、工務店を譲渡することで売却益を得られる利点があります。地域に根強く密着して顧客基盤を築いている工務店は、譲受側のハウスメーカー・ハウスビルダーにとっても魅力が大きく、譲渡金額は高くなる可能性があります。
人材の確保においても、譲受先の人材獲得のノウハウや知名度を活用できるため、今以上に採用や人材の確保がしやすい環境となる可能性が高くなります。
工務店のM&Aの事例
工務店のM&A事例を3つ紹介します。
安江工務店が2024年5月14日にガーデンの全株式を取得
2024年5月14日、株式会社安江工務店は(愛知県名古屋市)ガーデン株式会社と株式譲渡契約書を締結しています。ガーデンは新築注文住宅の設計・施工やリノベーションを行っており、安江工務店が関西圏でのシェア拡大とガーデンの強みである自身の集客・顧客維持ノウハウの融合によるシナジー効果による競争力強化を図るためです。
トーキョー工務店、事業承継に向けた10億円のM&A資金を確保
2022年6月16日、株式会社トーキョー工務店(東京都渋谷区)は、建設業に特化した事業承継やM&Aに注力すべく、関係先から10億円の資金を調達しました。
トーキョー工務店は、建設業者4社の事業承継の受け皿となっており、管理部門統合によるコストや業務の圧縮、DXの導入により、既存の事業を発展してきました。建築業界の後継者不足の現状を鑑み、今回10億円を調達し、さらなるM&Aを加速させる狙いです。
金子建設が岩堀工務店を買収
金子建設株式会社(福岡県久留米市)は、老舗工務店の岩堀工務店(福岡県福岡市)を買収しました。
金子建設は、建築工事や土木工事、電気工事などを幅広く手掛ける総合建設業者です。岩堀工務店は1995年創業で、2代目の岩堀博隆氏が経営していました。しかし、岩堀氏の高齢化や後継者不足の問題からか、金子建設に譲渡しました。
本件M&Aにより、金子建設は福岡の顧客基盤を拡大し、事業を拡大することが狙いとされています。
工務店がM&Aをする際の注意点
M&Aは事業拡大や事業承継問題解決に有効な手段ですが、工務店が実施するにあたっていくつか注意点があります。
工務店が買手の時の注意点
同業種を譲受する場合、売上や顧客基盤などの、表面的な指標以外にも注意を払う必要があります。
工務店を含めた建設業界は横のつながりが強く、経済合理性でだけは成り立たないことがあります。譲受企業が無理のある納期や受注金額で工事を引きうけていないか、デューデリジェンスなどで念入りにチェックしましょう。
異業種のM&Aを実施する場合、アドバイザーに意見を伺い、譲受先の資格関係などを慎重に確認する必要があります。
工務店が売手の時の注意点
長期進行中の建設案件がある場合、引き継ぎには十分注意しましょう。譲受企業に引き継ぐのか、同業他社に引き継ぐのか、顧客との調整も踏まえて慎重に行ってください。工事の費用負担も入念に話し合い、トラブルがないように進めます。
なお、建設業許可については、M&Aによって引き継がれるので安心してください。以前は、合併や事業譲渡では、建設業許可が引き継がれませんでした。しかし、2020年秋の建設業改正により、これらの方法でM&Aが実施されても、許可が引き継がれるようになっています。
まとめ
工務店では異業種とのM&Aや、ハウスメーカー・ハウスビルダーの傘下に入るM&Aが増えてきています。また、事業承継問題の解決のため、工務店を譲渡するケースも見られます。
工務店のM&Aは建設業許可の引き継ぎや人間関係の調整など煩雑な業務が多く、プロなしではM&Aを成功させるのは困難です。M&A DXでは豊富なM&Aの実績をもとにM&Aを円滑に進めますので、事業承継や買収などを考えている工務店様はぜひ弊社までお問い合わせください。
参考:業界動向一覧