組織再編成における税制適格とは?
税制適格とは、税制上の要件を満たしているという意味です。ここでご紹介する組織再編のほか、様々な「税制適格」があります。税制の要件を満たしていると、課税が繰り延べられる場合があります。
本記事では組織再編税制を対象に税制適格の要件を紹介します。組織再編税制とは合併や会社分割、株式交換、現物分配などを含む組織再編成に関わる税制で、本記事において税制適格という場合は、組織再編税制の要件を満たしているかを表します。
また、原則として法人税は、移動前の資産に対しては取得価額を帳簿価額(簿価)として計上される一方で、移動後の資産は時価で評価されるため、その差額に対し課税が行われます。組織再編が実行される際に移動する資産が課税対象となると、組織再編はコストのかかる行為となり、企業の経済活動の足枷となる可能性があります。
しかし、組織再編税制の税制適格要件を満たすよう組織再編を実行することで、課税が繰り延べられます。
関連記事「組織再編とは一体?基本的な情報や種類、目的などを解説」
税制適格要件
組織再編税制の要件は、組織再編する際の企業の関係性によって異なります。税制適格の要件は大きく分けて支配・被支配にあるケースと、共同事業を行っているケースの2つのケースに大別されます。
100%支配関係にあるグループ内の組織再編成
100%支配関係にある企業が合併や株式移転などの組織再編行為をする場合、以下の要件すべて満たしているならば税制適格となります。
●金銭等の授受がないこと
●組織再編後も100%支配関係が続くこと
例えば、株式交換により100%子会社化するような場合では、交換の対価は株式等の金銭以外であることと、株式交換後の子会社株式は継続して保有する必要があります。
50%超支配関係にあるグループ内の組織再編成
50%を超える支配関係にある企業が合併や分割などの組織再編行為を行う場合、以下の要件をすべて満たしているならば税制適格となります。
●金銭等の授受がないこと
●組織再編後も50%を超える支配関係が続くこと
●主要な資産や負債を引き継ぐこと
●おおむね80%の従業員を引き継ぐこと
●移転事業を継続すること
50%超のグループ内組織再編ではそもそも第三者株主が組織再編後の自社や関連会社の株主になります。従って、税席適格要件を満たすことが明確でない場合には非適格となるリスクがあります。
共同事業を行うための組織再編成
支配関係がない場合でも共同事業を行う企業が組織再編を実施するときは、組織再編税制の適用が可能です。ただし、税制適格の要件はグループ内企業のケースと比べ多くなります。税制適格の組織再編となる場合は、以下の要件をすべて満たす必要があります。
●金銭等の授受がないこと
●主要な資産や負債を引き継ぐこと
●おおむね80%の従業員を引き継ぐこと
●移転事業を継続すること
●移転事業に関連性があること
●事業規模と売上がおおむね5倍以内であること又は双方役員が組織再編後も継続して就任すること
●発行株式総数の80%以上を継続保有することが見込まれること
共同事業を行う場合には、組織再編する合理的な理由があるのかもチェックされます。
税制適格の要件
要件 | グループ内再編 | 共同事業再編 | |
100% | 50%超 | ||
金銭その他の資産の支払いがない | ○ | ○ | ○ |
移転事業の主要な資産・負債の引継ぎがある | ○ | ○ | |
概ね80%以上の従業員の引継ぎがある | ○ | ○ | |
事業の継続が込まれている | ○ | ○ | |
事業に関連性がある | ○ | ||
関連事業の売上・従業員数等が概ね5倍を超えない | △ | ||
再編当時法人双方の役員が再編後も事業運営に参画する | △ | ||
発行済株式総数の80%以上を継続保有することが見込まれる | ○ |
※△はいずれかを満たす必要がある。
組織再編は税制非適格が原則
税法における組織再編は原則課税となる行為です。一方で、税制適格要件を満たす組織再編成については、経済的な実態に即した課税を行うべく、例外的な取り扱いを定めることによって、譲渡損益などの繰り延べや繰越欠損金の引き継ぎなどを認めています。
税制適格に該当する組織再編
税制適格を利用して、課税なしに組織再編するケースを紹介します。
合併
金銭等の授受があると税制適格とはなりません。合併の対価は金銭以外の株式などが用いられます。グループ内企業が合併する場合だけでなく、共同事業を行う企業同士が合併する場合も同様です。
また、合併後に主要な事業が継続することも税制適格の条件となります。共同事業を行う企業同士が合併する場合においても、どちらかの企業の事業が合併後も引き継がれることが求められるでしょう。
会社分割
会社分割とは、事業の一部や全部を異なる企業に継承させる行為です。会社分割も原則として非適格ですが、特定の条件を満たす場合には税制適格となります。
グループ内企業で100%の支配・被支配関係にある企業の場合は、移転した資産の対価として株式のみが用いられているならば税制適格により税金は発生しません。また、親族で100%株式を保有している場合は、分割後も持ち株配分比率が同程度に維持されることが税制適格の要件です。
分割後は、事業を承継するほうの企業が社長や代表取締役などの特定役員を経営参画者として取り決め、事業を分割するほうの企業も役員を経営に参画させます。
株式交換・株式移転
税制適格の要件を満たす組織再編の例として、株式の移動による組織再編もあります。例えばA社の株式を保有する株主Bと、C社の株式を保有する株主Dがいたとしましょう。A社はDに自社株式を渡し、DはA社にC社の株式を渡して交換したとします。これによりA社がB社の完全親法人となれば、株式交換は成立です。株式以外の対価が支払われず、支配割合や共同事業等の関係性によって事業継続や従業員等の税制適格要件を満たしている場合、課税は発生しません。
また、株式移転に関しても税制適格要件を満たしていれば課税取引となりません。株式移転とは、E社の株式を保有する株主FがE社と株主Fの間に新たにG社を設立する組織再編で、ホールディングスの設立等のケースに用いられます。また、株主FとH社の株式を保有する株主Iが、お互いに保有する株式を新設するJ社に渡してJ社の株式を保有するケースもあります。前者を単独株式移転、後者を共同株式移転といいます。この場合にも株式以外の対価が支払われず、支配割合等の関係性によって定められている税制適格要件を満たしている場合、課税されません。
現物出資
金銭以外の資産等を目的物として現物出資が行われる場合も、組織再編行為が税制適格となる場合があります。税制適格となるためには、現物出資前に完全支配関係にあり現物出資後も完全支配関係が継続する、あるいは現物出資前の支配関係が出資後も継続する、現物出資法人の事業と被現物出資法人が手掛けるいずれかの事業に関連する事業であることなどの要件を満たすことが求められます。
■現物出資の適格要件
完全支配関係 (100%グループ内) | 支配関係 (50%超100%未満) | 共同事業 | ||
株式交付要件 | 現物出資法人に被現物出資法人の株式のみが交付されるものであること。 | 〇 | 〇 | 〇 |
支配継続 / 株式継続保有 | グループ内再編の場合、現物出資法人と被現物出資法人との間の完全支配関係/支配関係の継続見込みがあること。 共同事業の場合は、現物出資法人が現物出資により交付を受ける被現物出資法人の株式を継続保有すること | 〇 | 〇 | 〇 |
主要資産負債の引継 | 現物出資事業に係る主要な資産及び負債が被現物出資法人に移転していること。 | ― | 〇 | 〇 |
従業者引継 | 現物出資直前の現物出資事業に係る従業者(出向受入者も含む)のうち、その総数のおおむね80%以上に相当する数の者が、現物出資後に被現物出資法人の業務に従事すること(現物出資法人の従業員の出向による従事も含む)が見込まれていること。 | ― | 〇 | 〇 |
事業継続 | 現物出資に係る現物出資事業が、現物出資後に被現物出資法人において引続き営まれることが見込まれていること。 | ― | 〇 | 〇 |
事業関連性 | 現物出資事業と被現物出資法人のいずれかの事業が関連性を有すること。 | ― | ― | 〇 |
規模・経営参画 | 上記の事業の売上高・従業者数等の規模に5倍超の差がないこと、または現物出資法人の役員および被現物出資法人の特定役員(常務クラス以上の取締役等)のいずれかが現物出資後に被現物出資法人の特定役員となること。 | ― | ― | 〇 |
ただし、外国法人等の現物出資には特例があり、例えば、外国法人に国内にある資産の移転を行うもの(外国法人の25%以上保有株式を除く)や、外国法人が国外にある資産の移転を行うものは、税制適格には該当しません。
関連記事「M&Aのスキーム(種類)一覧を解説」
組織再編税制の税制適格要件を満たすメリット
ここからは税制適格要件を満たした組織再編を行うメリットをご紹介します。
株主のメリット
株主が出資した金額よりも、株式の譲渡価額が高い場合は、譲渡価額から出資額を引いたものに対して譲渡所得やみなし配当が発生し課税対象となりますが、税制適格要件を満たした組織再編の場合、譲渡損益を認識しないため、上記の課税が発生せず、繰り延べられることとなります。
資産を渡す法人のメリット
合併消滅法人や分割法人のように資産を合併吸収法人や分割承継法人に渡す側の法人の場合、原則は時価で資産を譲り渡した後に会社を清算したものとして取り扱われます。一方で、税制適格要件を満たす場合には組織再編時に資産の譲渡損益を認識する必要がなくなるため、簿価と時価の差分に譲渡益がある場合でも課税されません。
資産を受け取る側のメリット
合併法人や分割承継法人などの資産を受け取る側の会社では、原則として時価で資産を購入し、対価を支払ったとして取り扱われますが、税制適格要件を満たす場合には、簿価で資産を引き継いだとみなされます。また、対価が株式であるため現金を用意する必要がありません。
更に税制適格の合併で、繰越欠損金の引き継ぎ要件を満たす場合には、被合併法人の繰越欠損金の承継が認められており、課税対象額を減らすことができる可能性があります。
2023年の税制改正の影響
令和5年度(2023年度) 税制改正では株式交付制度における特例の見直しが行われました。
株式交付とは、会社法において「株式会社が他の株式会社をその子会社とするために当該他の株式会社の株式を譲り受け、当該株式の譲渡人に対して当該株式の対価として当該株式会社の株式を交付すること」(会社法2条32号の2)と定義されており、M&Aなどにおいて他社を子会社化するために支払う対価として、自社の株式の交付を認めるという組織再編のスキームです。株式交換と似ていますが、株式交換が譲渡会社の全ての株主を対象とするのに対し、株式交付は譲渡対象の特定の株主のみを対象とできる点に相違があります。
従来は個人及び法人が、株式交付によりその有する株式(株式交付子会社株式)を譲渡し、株式交付親会社の株式の交付を受けた場合、その譲渡した株式の譲渡損益に対する課税を繰り延べることが可能でした。
しかしながら、今回の改正で株式交付後に株式交付親会社が同族会社(非同族の同族会社を除く)に該当する場合には、株式交付による課税の繰延べ対象から除外されます。
こちらの改正は令和5年10月1日以後に行われる株式交付について適用されます。
税制適格の注意点
税法上、組織再編成は時価による資産の譲渡があったとされ、課税が発生するのが原則です。その例外として、税制適格要件を満たす場合に課税が繰り延べられますので、税制適格要件を満たすかどうかの判定は非常に重要です。過去には要件を満たさないものとして、税制適格を外された事例もありますので、税制適格要件を満たすかどうかの判定は専門家に相談することをお勧めします。
特に支配関係が成立していないグループ外企業のM&Aにおける組織再編税制における税制適格の要件は多いです。厳しい要件となるためのハードルは高いと言わざるを得ません。
そのため、税制適格の要件を満たすように要件を調整してきた場合でも、税制非適格とされ、個人の場合は所得税や住民税、法人の場合は法人税や消費税が発生する可能性があります。
また、税法上では、組織再編成にかかる行為・計算の否認規定(法人税法132条の2)を定めており、「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」は課税の対象となる場合があります。
過去には、検索大手のYahooに対し、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものとして約265億円を追徴課税を認めた判例があります。
■Yahooが追徴課税となった一連の流れ
①YahooはソフトバンクからIDCSの全株式を約450億円で買い、100%子会社化
(100%グループ内の合併により税制適格要件を満たしたと判断)
②IDCSから引き継いだ約540億円の繰越欠損金をヤフー本体の損金として処理
③東京国税局が、法人税法132条の2(組織再編成に係る行為又は計算)の規定に基づき、組織再編税制を利用した租税回避行為と判断。約265億円の追徴課税を行う
④Yahooが追徴課税の取り消しを求め訴訟
⑤最終的に最高裁が税負担の減少以外に合併の合理的な理由といえるような事業目的等があったとはいい難いと判断し、Yahooの上告を棄却
まとめ
税制適格を満たす場合、組織再編を行った際にも税金が発生しません。しかし、すべての税制適格要件を正しく満たして組織再編を進める必要があります。
税制適格を満たしてM&Aを実施する場合には、M&Aや事業継承の専門家に相談することをおすすめします。専門家に依頼することで、税制適格の要件を満たすことができるか、個別の案件で整理することができる可能性があります。
M&A DXのM&Aサービスでは、大手会計系M&Aファーム出身の公認会計士や税理士、Web会社・広告代理店出身者等が、豊富なサービスラインに基づき、最適な事業承継をサポートしております。
M&Aや事業承継、組織再編でお悩みの方は、まずはお気軽にM&A DXの無料相談をご活用下さい。