ビジネスDDの目的と概要・M&Aを成功させるためのビジネスDDの進め方

会計士 牧田彰俊

有限責任監査法人トーマツ入所、各種業務の法定監査、IPO支援に携わる。その後、ファイナンシャルアドバイザリーサービス部門にてM&A アドバイザリー業務・財務デューディリジェンス業務・企業価値評価業務等に従事。組織再編によりデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に異動し、主に国内ミドルキャップ案件のM&Aアドバイザリーとして、豊富な成約実績を収める。2018年、これまで以上に柔軟に迅速に各種ニーズに応えるべく株式会社M&A DXを設立し、現在に至る。

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昨今、後継者に事業を引き継ぐときに、M&Aを選択する経営者は少なくありません。そのM&Aにおいて、最終合意に向けて交渉をいかに進めるかの判断材料となるDD(デューデリジェンス)は非常に重要であることは言うまでもないでしょう。

本記事では、まずDDの目的や調査項目から紹介します。さらに、調査項目のなかでも事業の現状把握や将来性を見極めるビジネスDDに焦点を当てて詳しく解説していきます。M&Aを成功させるために、ビジネスDDが果たす役割や分析手法を理解することが大切です。

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DD(デューデリジェンス)行う目的とは

DDとは、投資や企業取引、M&Aなどの際に対象となる企業の価値やリスクを把握するために行われる調査のことです。ビジネスにおいて、意志決定や判断をする際の材料収集と解釈できるでしょう。M&Aにおいては、通常、基本合意書締結後最終譲渡契約書締結前に実施されます。

譲渡企業の経営状況を確認する

M&AにおけるDDの主な目的は、譲渡企業の事業や経営状況を調査し、簿外債務などのリスクが潜んでいないかを把握することです。あらゆる側面からの調査が必要なため、DDの種類は多岐にわたり、公認会計士や弁護士などの専門家がその任にあたります。

基本合意の内容を修正する

調査の結果を受けて、基本合意の内容を修正するケースがあります。買収対象となる企業や事業は、市場のなかでどれほどの価値があるのか、将来性はどうかなどを踏まえ、買収価格の妥当性を判断します。

DDの結果が予測していた内容とあまりにもかけ離れている場合は、買収スキームの変更などもあり得るでしょう。場合によっては、M&A自体を先に進めるかの再検討が必要となるかもしれません。

買収後の事業計画を立てる

DDを行うことにより、対象となる事業内容をより正確に把握することができるため、将来の事業運営の方針を立てることができます。複数の種類のDDが行われるときは、それぞれの調査結果を関連づけ総合的に判断することにより、シナジー効果を最大限に高めることが可能となるでしょう。

M&AにおけるDDの主な項目

M&AにおけるDDの主な項目

上述した通り、DDの種類は多岐にわたります。以下に、主な種類について説明していきましょう。

ビジネスDD

ビジネスDDの目的は、対象企業の経営実態を把握し将来性を見極めることです。その調査は、外部環境や内部環境、シナジー効果の3つの着眼点から行われます。

外部環境とは、買収対象となる企業や事業を取り巻く要因のことで、これらを分析することにより、その業界の将来性や競合企業などについてわかります。

内部環境とは、買収対象となる企業や事業の市場規模や市場占有率、ノウハウ、営業力のことです。内部環境を分析することで、その企業や事業における強みや弱みを把握し対策を立てることができます。

外部環境や内部環境をより正確に把握・分析し、併せて自社の経営についても見直すことで、シナジー効果を高めるための対策や統合におけるリスクについて事前に確認することができるでしょう。また、交渉中である買収価格についても、より妥当な金額に調整することが可能です。

そして、これらのビジネス分析を通じて、より精緻な事業計画の策定を行うことが出来るようになります。

財務・税務DDとは

財務DDでは、財務諸表から、業績の推移や収益性、事業計画との整合性、設備投資、簿外債務などを詳しく調査します。また、税務DDにおいては、申告計算の正確性や法人税の未払いがないかなど、過去の税務申告書の精査が欠かせません。

財務DDは主に公認会計士が、税務DDは主に税理士が担当します。

ビジネスDDは将来の事業計画に向けての調査に対して、財務・税務DDは過去の業績を中心に調査される点が異なります。いずれにしても、税務・税務DDで得られた調査結果をビジネスDDで有効に活用することが重要です。

法務DDとは

法務DDでは、企業のあらゆる契約関係を調査し問題がある契約の洗い出し、独占禁止法や外国貿易法に抵触する問題がないかどうかなど、法的なリスクを調査します。法務DDを実施することで、M&Aのスキームや価値評価、将来の事業計画を安心して決定することができるでしょう。具体的には、会社組織・株式、関係各社、許認可、契約、資産・負債、知的財産、訴訟・紛争、環境などを詳しく確認していきます。

法務DDは主に弁護士が担当します。

特に注意すべき点は、Change of control条項(COC条項)の取り扱いと法務的な許認可の引き継ぎや新規取得、特許権や商標権の保有者の確認です。
COC条項とは、株主の構成が変わったときには契約を解除したり許可を得なくてはならないとする条項のことで、内容次第ではM&Aを実施するという前提すら揺らぐことがあります。

また、許認可などの確認や取得に時間がかかれば、スキーム全体の見直しが必要です。特許権や商標権がビジネス上において欠かせないものであれば、これらについて精査しなければなりません。

人事DDとは

企業にとって人材は重要な資産の1つです。人事DDとは、人事に関する調査のことを指し、人員数や人件費などの基本的な事項から人事戦略や制度の仕組み・運用、労務関係、採用などについて詳しく調査していきます。

ITDDとは

ITDDとは、対象会社の情報システムに焦点をあてて調査することです。対象企業の情報システムは有効に活用できるかどうか、既存システムとの統合にかかる費用など、統合後の影響を分析します。

環境DDとは

環境DDとは、土壌・地下水汚染問題に特化した調査のことです。国内外において、環境問題への意識の高まりにつれて環境DDの重要性は以前より増しています。工場汚染調査や海外における汚染リスクなどを調査する企業が増えているようです。

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ビジネスDDにおける外部環境の分析手法

ビジネスDDにおける外部環境の分析手法

ビジネスにおける外部環境を調査する際には、「PEST分析」や「5フォース分析」といったフレームワークを活用します。以下に、それぞれの内容を詳しく説明していきましょう。

PEST分析

PEST分析とは、ビジネスDDにおける外部環境分析のひとつの手法です。Politics(政治的要因)、Economics(経済的要因)、Social(社会的要因)、Technology(技術的要因)の頭文字を取ってPEST分析といわれます。

Politics(政治的要因)とは、法律や条例、規制緩和などの政治的な動きの全てを指します。政治的な変化は、時として市場のルールそのものを変えてしまうこともあり、ビジネスに多大な影響をもたらします。

Economics(経済的要因)は、景気や物価、為替の動向など経済に関する全てを指します。グローバル社会において、自国だけなく各国の成長率や金利の変化、相手国の需要や供給バランスなどを調査・予測することは欠かせないでしょう。

Social(社会的要因)とは、消費者を取り巻く流行やライフスタイル、人口バランスの変化など社会全般に関することが対象です。新しい流行や人々の意識を変えるような大きな事件などは、消費者の行動を変えることがあります。2020年の新型コロナウイルス感染症による働き方やライフスタイルの変化を見れば、社会的要因の影響は非常に大きいことがわかるでしょう。

Technology(技術的要因)とは、技術の発達や革新がもたらす環境の変化が対象です。技術が進歩することにより、新しいニーズが生まれたり反対に競争力が失われたりします。いち早く技術の変化を読み取ることで、ビジネスの成功率が高まるでしょう。

5フォース分析

5フォース分析とは、アメリカの経済学者であるマイケル・ポーターが提唱するフレームワークで、業界の構造を把握するためのものです。

5フォース(5つの力)とは、新規参入の脅威、競合の脅威、代替品の脅威、サプライヤーの脅威、購入者の脅威のことを指します。これらの要素を1つずつ分析し、その力関係を見ることで業界の現状を明確にすることができます。

業界の状況を明確にできれば、収益を挙げられるところはどこか、自社が生き残るためにはどのような対処法が必要なのか、場合によっては参入を諦めるべきか、などがわかるでしょう。

ビジネスDDにおける内部環境の分析手法

ビジネスDDにおける内部環境の分析手法

ビジネスDDにおける内部環境の分析には、「VRIOフレームワーク」や「バリューチェーンモデル」などのフレームワークが使われます。

VRIOフレームワーク

VRIOフレームワークとは、経営資源や組織能力を分析する際に用いられるフレームワークのことです。このフレームワークにおいては、4つの問いにYESかNOで答えることにより、自社の強みや弱みを把握します。さらにその強みは3段階のレベルにわけられます。

ここでの4つの問いとは次の通りです。

・Value:経済価値

・Rarity:希少性

・Inimitability:模倣困難性

・Organization:組織

これらの質問に答えることで、企業の経営資源に価値があるかどうか、希少で模倣困難なのか、かつ有効に組織化されているかどうかがわかります。

バリューチェーンモデル

バリューチェーンモデルとは、文字通りバリュー(価値)とチェーン(連鎖)という意味で、価値連鎖とも呼ばれ、顧客の手に商品が届くまでにどのように価値やコストが加わるのかを表しています。

最終的にこれらの価値やコストにマージンを加えたものが、総価値(総収入)です。このフレームワークを活用することにより、どの活動が重要なのか、どこに競争優位が見られるのかがわかります。

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分析結果から財務モデリングを作成する

分析結果から財務モデリングを作成する

M&Aにおける財務モデリングとは、対象となる企業や事業についてシナリオ別の事業計画を作成し、投資採算などを把握するために行うシミュレーションのことです。一連のDDによって、対象事業の特性や収益構造、また明るみになった簿外債務などを把握した後に行われます。適切な財務モデリングを作成することにより、買収後の業績をきちんとモニタリングすることができるでしょう。

なお、財務モデリングは、損益計算書(P/L)をベースにして、キャッシュ・フロー計算書(C/S)及び貸借対照表(B/S)も連動させるようにします。これに基づき、対象会社のキャッシュ創出力をはかることや、創出したキャッシュを原資として借入金の返済をいかに行うかを検討することになります。

ビジネスDDを成功させるためのポイント

買収額に見合うビジネスDDを実施する

ビジネスDDでは、様々な項目について調査・分析を行います。調査する項目が多くなるほど専門家に依頼する必要が生じることから、専門家の稼働に応じた費用が発生します。調査が不足することも困りますが、必要以上の費用が発生しても、当初計画していたM&Aの投資額が大幅に超過することになります。ビジネスDDは、M&A後に自社で経営するために必要な調査を行うことがポイントです。対象会社の規模や買収額に応じてビジネスDDに投資する費用を見積もることをお勧めします

優先順位をつける

ビジネスDDでは、事業リスクや成長性・収益性を、事業概要やマーケットおよび業界動向の観点から、対象企業を把握し、買収後のシナジー・収益性・成長性などを分析します。しかしながら、財務DDや法務DDのように調査項目が決まったものではないため、あらかじめ調査項目を決め、優先順位をつけておかないと調査の範囲が広くなり、費用も高くなってしまいます。調査期間内に必要な情報を探し出せるよう調査する項目に優先順位をつけましょう。

チェックリストを作成する

ビジネスDDでは、まず今回のM&A方針に基づいた調査方針を決定します。その調査方針に則り、必要資料や確認事項をチェックリストにします。チェックリストを事前に対象会社側に渡すことで対象会社側の準備負担も軽減でき、調査する側も調査方針に基づいた資料を準備できることから確認事項も漏れなく対応することができます。

情報管理の方法を決める

ビジネスDDでは、対象会社の様々な情報を収集し調査しますが、M&Aに関する情報が外部に流出した場合、これまで時間と費用をかけて進めてきたM&A自体が進められなくなるリスクがあります。また、対象会社がM&Aで売却する手続きを進めていることが従業員に知られてしまうと会社に対する不信感やロイヤリティの低下が起こり、従業員が退職するリスクもあります。

まとめ

まとめ

M&Aにおいて、DDはあらゆる側面から行う必要があるため、その種類は多岐にわたります。そのなかでもビジネスDDは、事業の将来性を見極めるために非常に重要です。ビジネスDDにはさまざまなフレームワークが使われますが、専門家に依頼することで正確かつ円滑に行うことができるでしょう。

M&Aそのものの成功を左右しかねないDDは、自社で行うには難しいため、専門家に依頼することをおすすめします。

M&A DXのM&Aサービスでは、大手会計系M&Aファーム出身の公認会計士やコンサルティングファーム出身者等が多数在籍しています。ビジネスDDやM&Aでお悩みの方は、まずはお気軽にM&A DXの無料相談をご活用下さい。

関連記事はこちら「ビジネスDDとは|M&A・事業承継・相続はM&A DX ‐ madx」
関連記事はこちら「M&AにおけるDD(デューデリジェンス)の種類や目的を解説!」

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