デュー・ディリジェンスに必要な資料は?基礎知識も合わせて解説

会計士 加藤大典

大手自動車メーカーに入社、生産技術部にて製造工程設計業務に携わる。その後、デロイトトーマツコンサルティングに入社し、組織再編により有限責任監査法人トーマツのアドバイザリー部門に異動。製造業の法定監査業務及びIFRS導入支援、組織再編支援、事業再生支援、内部統制構築支援、決算早期化支援、経営管理体制強化支援等の様々なプロジェクトに従事。

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M&Aを実行するプロセスの一つに、デュー・ディリジェンスと呼ばれるプロセスがあります。しかし、デュー・ディリジェンスと聞いても、具体的にどのようなことをするのかイメージできない方もいるのではないでしょうか。

そこでこの記事では、デュー・ディリジェンスの目的や必要な資料、具体的な流れをご紹介します。あらかじめこれらの情報を確認すれば、スムーズに資料を集めて円滑に進められるでしょう。

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デュー・ディリジェンスとは?

デュー・ディリジェンスとは?

デュー・ディリジェンスとは、M&Aにおいて対象となる譲渡企業(以下、譲渡企業)の事業の収益性やリスク等を詳細に調査するプロセスです。主に以下の目的で実施します。

・企業価値の算定
・M&A手法の決定
・M&Aに伴う問題点のピックアップと対処
・M&A実行後の経営戦略の策定

ビジネス・財務・税務・法務・の4種類の情報を調査するのが基本です。また、譲渡企業のリスクに応じて人事・IT・環境等の調査を実施します。これらの情報を総合的に考え、譲受予定企業がM&Aをどのように進めるか、統合した後にいかに経営していくのかを判断します。

デュー・ディリジェンスに必要な資料

デュー・ディリジェンスに必要な資料

デュー・ディリジェンスでは多方面から譲渡企業を調査するので、多種多様な資料をチェックすることとなります。一般的なデュー・ディリジェンスにおいて必要とされる主な資料を例示列挙することでご紹介します。デュー・ディリジェンスにおいて必要とされる資料は譲渡企業の状況や、譲受予定企業が希望する調査の深度によって変化するため注意しましょう。なお、以下で紹介する資料は例示であり、実際には、以下で紹介する資料よりも細かい資料の提出を要求されます。

売手から買手に提供する資料

基本的に、譲渡企業(売手)が譲受予定企業(買手)に対して多くの資料を提供します。主な資料は次の通りです。

・決算書および確定申告書(直近3年分等)
・直近の試算表および財務情報(総勘定元帳などの帳簿類)
・登記事項証明書(商業登記・不動産登記)
・定款
・意思決定機関記録(株主総会議事録、取締役会議事録など) 等

これらの資料を提供するため、譲渡企業の詳しい情報が譲受予定企業に伝わります。必要に応じて各種契約書や許認可に関する資料、知的財産に関する資料が求められるケースもあるでしょう。資料を集めるには手間がかかるので、必要な書類を把握したら速やかに収集することをおすすめします。

ビジネスデュー・ディリジェンスに必要な資料

ビジネスデュー・ディリジェンスは、譲渡企業の経営状況、事業性などを詳細に調査し評価することが目的です。したがって、譲渡企業のビジネスモデルや収益力、M&A後のシナジー効果を評価するための資料が求められます。具体的には、以下のような書類を提供するのが一般的です。

・貸借対照表(B/S)
・損益計算書(P/L)
・セグメント別損益計算書(商品別、得意先別、地域別等)
・キャッシュフロー計算書(C/F)
・中長期事業計画書
・取引先一覧 等

譲受予定企業はこれらの資料をベースに当該事業の将来性を予測し、M&A対応方針を検討します。

財務・税務デュー・ディリジェンスに必要な資料

財務・税務デュー・ディリジェンスは、譲渡企業の財務状況や正常収益力、税務リスクを詳細に調査し把握することが目的です。財務・税務デュー・ディリジェンスで調査している財務数値はビジネスデュー・ディリジェンスのベースとなるため、財務資料や事業計画書が同様に求められます。他に必要な資料は以下の通りです。

・雇用関係資料
・不動産関連資料
・各種契約書
・税務関連資料(法人税・消費税申告書など)

雇用関係資料や不動産関係資料、各種契約書は計上されている財務数値が正確であるか、計上されている項目以外に計上すべき簿外債務がないかを調査するために使用します。税務関連資料は追徴課税などの税務リスクの有無を判断する資料です。

法務デュー・ディリジェンスに必要な資料

法務デュー・ディリジェンスでは、譲渡企業の会社組織、人事労務、資産、契約、許認可関係、訴訟紛争等を詳細に調査します。締結した契約による譲渡企業の権利や負っている義務を調査し、法律面のリスクを抱えているか判断しなければなりません。

したがって、実施するには現存する権利義務関連の契約書一式が必要です。契約書が存在しないケースでは、関係者にヒアリングして情報を聞き出します。許認可が必要な業種では、適切に許認可を受け、その業法を準拠しているかも確認するポイントです。

ITデュー・ディリジェンス

ITデュー・ディリジェンスでは、譲渡企業のシステムの現在の状況、今後必要な更新投資や譲受予定企業のシステムとの統合に係る投資を調査します。ITが経営において不可欠であるケースや、運用しているシステムが古くて更新が必要になる可能性が高いケースではM&Aの譲渡価格にも影響を与えるため、実施するプロセスです。

したがって、譲渡企業は使用しているシステムの一覧及びそのシステムの仕様書や連携図などが求められるでしょう。M&A後に情報システムの更新やメンテナンスにどの程度の手間やコストがかかるのか、それが損益構造やキャッシュフローにどのように影響するのかを判断します。

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デュー・ディリジェンスを行う目的

デュー・ディリジェンスを行う目的

デュー・ディリジェンスを実施する目的は、大きく5つに分けられます。M&Aを検討するときは、これらのポイントを総合的に考えて実行するか判断しなければなりません。M&Aを実施してもよいか判断するだけでなく、その後の経営の見通しを考えることも目的のひとつです。

企業価値の評価

企業価値を評価するときは、現状の財務諸表からではなく、存在する場合には簿外債務も含め算定します。中小企業で簿外債務となりうる項目として以下の項目が例示列挙されます。

・賞与引当金
・退職給付引当金
・リース債務
・偶発債務
・粉飾決算 等

実際には賞与や退職金を支払っており、給与規定などにも定められている場合にも、引当金が計上されていないケースがあります。これらの項目を正しく認識したうえで、企業価値を総合的に評価しなければなりません。企業価値を正しく評価することは、適正な価格を付けるために必要なプロセスです。

M&Aの手法の確認

デュー・ディリジェンスの調査結果によってはは、当初想定していたM&A手法を変更することもあり得ます。変更の内容によっては譲渡企業が希望しているM&A手法とは違う方法で実行することもあるでしょう。

一例として、譲渡企業が株式譲渡による包括承継を希望しているケースを考えます。デュー・ディリジェンスの結果、潜在的なリスクや債務が明らかになった場合に包括承継では譲受予定企業にとって大きなリスクがあると判断した場合は、株式譲渡という手法から事業譲渡で個別に譲受する可能性もあるでしょう。

このプロセスは、譲渡企業をM&Aを実施することで享受できるメリットとリスクを考慮し、適切なM&A方法を選ぶために欠かせません。

ステークホルダーへの説明の準備

デュー・ディリジェンスを実施すれば譲渡企業の事業内容を詳しく理解でき、想定していたM&Aのメリットやリスクに対して外部の専門家による調査結果が裏付けとなり客観的性が増します。

これによって株主や債権者、従業員などのステークホルダーに対してM&Aを実施するメリットを説明しやすくなるでしょう。

M&Aすることにステークホルダーの理解を得ることで、その後の事業を円滑に進められます。納得する説明をするためにも、多種多様なデータを分析して事業内容や財務状況などを精査しましょう。

契約書の作成

デュー・ディリジェンスを実施すると、これまで見えていなかった課題が明らかになるケースがあります。もし、未認識の問題が発覚した場合にどのように対処するか判断しなければなりません。

対処法が決まったら契約書にて課題を補う条項を加えることで対応します。適切に修正して問題を解決するか、責任負担を明確し、双方にとって適切な条件でM&Aを実行しましょう。場合によっては、予定していたものとは異なる条件で進める可能性もあります。

統合後の方向性を決める

M&Aが成立した後は、PMI(Post Merger Integration)と呼ばれる統合プロセスを実施してM&Aの目的を達成しなければなりません。客観的な情報をきちんと収集していれば、適切に進められるでしょう。

PMIでは、社内のシステムや業務プロセスを調整する「業務面の融合」と従業員の相互理解を深める「意識面の融合」が求められます。円滑にPMIを実行し、統合した後の経営をより良いものにしましょう。

デュー・ディリジェンスの流れ

デュー・ディリジェンスの流れ

デュー・ディリジェンスは基本合意契約の締結後に実施することが多く、その流れは4つのステップに分かれています。ここからは、資料収集から報告書の作成までの流れを詳しく見ていきましょう。

ステップごとにやるべきことを理解しておけば、実際にどのように進めればよいのかイメージできます。

1.資料の依頼・収集

譲受予定企業の業務委託している売手サイドのファイナンシャルアドバイザーもしくは両者の仲介をしているファイナンシャルアドバイザーが譲渡企業に対して資料の開示を依頼するのが最初のステップです。資料を受け取ったら事前分析し、事業の構造や財務状況をチェックします。ここで、おおよその問題点などが見えてくるでしょう。

譲渡企業の経営者は、M&Aを検討する段階で公認会計士や税理士に相談するのがおすすめです。またビジネスモデルや技術を説明する会社案内資料はあらかじめ自社で準備しておいたほうが、資料開示が楽になります。

資料の開示を依頼するときには秘密保持契約を締結しているので、開示したことで何らかの情報が外部に漏れるリスクは少ないでしょう。

2.資料の分析

開示を受けた資料を細かく分析して譲渡企業の経営状況や潜在的なリスクの有無を判断します。この作業をすることで、当初想定していたM&Aのメリットやシナジー効果はどれくらい期待できるのか、リスク対策をどのようにすればよいのか見えてくるでしょう。譲渡企業は多種多様な資料を開示するので、多くの手間がかかるプロセスです。

シナジー効果をはじめとしたメリットの大きさやリスクの有無は、いずれも譲渡価格に大きく影響します。契約書の内容にも影響するので、精緻な分析を実施し譲渡企業を正しく把握しましょう。

3.経営者などへのインタビュー

経営者との面談はマネジメントインタビューと呼ばれ、資料だけでは分からないポイントを理解するのに役立つプロセスです。

ここでは企業理念や経営方針、事業に対する考え方からデュー・ディリジェンスの中で出てきた疑問点までヒアリングにより確認します。より具体的に譲渡企業の経営状況やリスクが見えてくるでしょう。

当初想定していなかったM&Aによるメリットやリスクが明らかになれば、譲渡価格に影響する可能性もあります。譲渡企業の経営者に直接質問できる貴重な機会なので、事前準備をし確認もれがないよう心がけましょう。

4.報告書の作成・報告会

デュー・ディリジェンスによって集めた多数の情報は、報告書として譲受予定企業に報告及び提出します。報告書を受領したら内容をチェックし、M&Aを実行するか最終的に判断しなければなりません。

報告書の内容によってはM&A手法の変更や譲渡価格の見直しを実施することや時にはM&Aを取りやめるケースもあります。契約書を修正しなければならない可能性もあるでしょう。

M&Aでは多種多様な観点で譲渡企業を評価するので、膨大な量の報告書を作成することもあります。

まとめ

まとめ

デュー・ディリジェンスはM&Aを実行してもよいか判断するのに必要なプロセスです。ビジネス・財務・税務・法務・ITなどの多くの面から企業を精緻に調査するので、数多くの資料が求められます。譲渡企業はそれらの資料を収集して開示しなければなりません。

M&Aのプロセスを円滑に進めたい方は、プロに相談するのがおすすめです。株式会社M&A DXには大手監査法人系M&Aファーム出身の公認会計士や税理士等が多数在籍しており、知見を生かした総合的なM&Aアドバイザリー業務を提供しています。M&Aを成功させたい方は、ぜひ一度株式会社M&A DXにご相談ください。

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