デュー・デリジェンスの支払い先とタイミング
M&Aのサポートを仲介会社に依頼する場合、M&A仲介会社が設定する仲介手数料を支払います。仲介手数料の内訳や相談料・着手金の有無は、M&A仲介会社ごとにさまざまです。
譲渡側(売り手側)・譲受側(買い手側)間で基本合意書締結後に、デュー・デリジェンスを実施します。M&A全体の流れを通じて発生する費用及び資金支払が発生するタイミングは以下の通りです。
・M&A業務委託前:相談料
・M&A業務委託時:着手金
・基本合意書の締結時:中間報酬
・M&A成立前:デュー・デリジェンスにかかる費用
・M&A成立時:譲渡側(売り手側)に渡す譲渡対価
・M&A成立後:成功報酬
各手数料費用はM&A仲介会社やM&Aのスキームにより異なるため、あくまで一例です。デュー・デリジェンスの費用は、弁護士や税理士、公認会計士といった専門家に支払います。
種類別デュー・デリジェンスの特徴と費用相場
譲渡側(売り手側)企業に対する調査の総称であるデュー・デリジェンスには、調査する領域によってさまざまな種類があります。まずはデュー・デリジェンスの特徴や費用相場を種類別に把握しましょう。ここでは、主な6種類のデュー・デリジェンスについて、それぞれの特徴や費用相場について解説します。
法務DDの特徴と費用相場
企業は事業活動の中で、株主や取引先や金融機関、また従業員等といったステークホルダーと様々な契約行為を行います法務デュー・デリジェンスは、譲渡側(売り手側)が実施した契約行為や、規程内容等について法律上の観点で問題点を調査するデュー・デリジェンスです。契約内容・許認可や会社法・労働法・知的財産権法・独占禁止法との関係、債務不履行や不法行為による訴訟リスク等を詳細に調査します。
弁護士や司法書士に対する報酬は、1時間当たり2万円~5万円程度が相場です。1日の実働が7時間~8時間とすれば、1日当たり14万円~40万円程度かかります。
財務DDの特徴と費用相場
財務デュー・デリジェンスは、譲渡側(売り手側)企業の財務状況・正常収益力等を詳細に調査し、適正な企業価値等を算定する基礎情報を調査するために実施します。貸借対照表・損益計算書を調査する中で、簿外債務・偶発債務の洗い出しも実施します。
専門家に対する報酬は法務デュー・デリジェンスと同じく、1時間当たり2万円~5万円程度が相場です。1日当たり14万円~40万円程度かかります。
税務DDの特徴と費用相場
M&Aのスキームには株式譲渡・事業譲渡・吸収合併等があり、スキームごとに税務上の取り扱いが異なります。税務デュー・デリジェンスは、譲渡側(売り手側)企業の納税状況や確定申告書の内容を確認し税務リスクの有無についてて調査し把握するために実施します。
対象会社の税務ポジションを判断する他、追徴課税のリスクを回避するためにも不可欠なデュー・デリジェンスと言えます。専門家に対する報酬は、1時間当たり2万円~5万円程度が相場です。
ビジネスDDの特徴と費用相場
ビジネスデュー・デリジェンスは、譲渡側(売り手側)企業の経営状況、事業性について詳細に調査し把握することで、収益性・成長性・安全性・効率性やシナジー効果などを分析します。ビジネスデュー・デリジェンスの結果からM&Aの対応方針やM&Aのシナジー効果を検討します。
譲受側(買い手側)企業が主体となるケースもありますが、M&A後の事業統合を加味することが重要であるため、M&Aアドバイザリーと連携するケースも珍しくありません。専門家に支払う報酬は、1時間当たり2万円~10万円程度が相場です。
ITにおけるDDの特徴と費用相場
一般的に、譲渡側(売り手側)と譲受側(買い手側)は異なるITシステムを運用しているため、ITシステムの統合を目指す場合にはITデュー・デリジェンスを実施します。ITデュー・デリジェンスは、ITシステムの適合性・保守管理体制・売買価値、IT投資は適正かどうかを精査するデュー・デリジェンス(DD)です。
ITベンダーやITストラテジストといった専門家と連携して実施します。ITデュー・デリジェンスは依頼先やシステムの規模によって費用が大きく異なるため、明確な相場はありません。
労務DDの特徴と費用相場
労務デュー・デリジェンスは、譲渡側(売り手側)企業の人事・労務面を調査するデュー・デリジェンス(DD)です。特に労務が問題となる可能性が大きい場合等に実施します。事業の人員構成やキーパーソン、人事制度や人件費、労務管理や企業文化といった内容を総合的に調査します。M&Aを実施すると従業員の退職リスクが生じるため、経営統合後の企業価値を維持・向上するためにも大切なデュー・デリジェンス(DD)です。
多くの場合、労務デュー・デリジェンスは法務デュー・デリジェンスに含まれます。専門家に支払う報酬は、1時間当たり2万円~5万円程度が相場です。
各DDの外注先候補
それぞれのデュー・デリジェンスは専門知識を要するため、依頼する専門家が異なります。外注先の候補は以下の通りです。
・法務デュー・デリジェンス:法律の専門家である弁護士
・財務デュー・デリジェンス:財務の専門家である公認会計士や税理士
・税務デュー・デリジェンス:税務の専門家である税理士や公認会計士
・ビジネスデュー・デリジェンス:経営統合後のシナジー効果も重視するため、経営コンサルティング会社・ITデュー・デリジェンス:ITベンダーやITストラテジストといった運用中のITシステムに精通した専門家
・労務デュー・デリジェンス:法務デュー・デリジェンスに含まれるケースが多いですが、個別に社労士に実施する場合もあります。
デュー・デリジェンスを別々の専門家に依頼すると、M&Aの業務が停滞したり費用が肥大化したりするケースが考えられます。M&Aの専門家集団であるM&A DXに依頼すれば、各デュー・デリジェンスの一括サポートが可能です。
デュー・デリジェンス費用の会計処理上の扱い
デュー・デリジェンスにかかる費用は、基本的に譲受側(買い手側)企業が負担します。デュー・デリジェンスは譲受側(買い手側)企業が指定した外部の専門家に依頼し、譲渡側(売り手側)企業を総合的に調査するためです。ここでは、デュー・デリジェンス費用の会計処理上における扱いについて解説します。
税法及び会計上のルール
2013年9月13日改正前の企業結合会計基準では、取得の対価性が認められる費用のみを取得原価とし、それ以外の支出額は発生した事業年度の費用とすると定めていました。
改正後の企業結合会計基準では、連結財務諸表上の取得関連費用は一律で発生した事業年度の費用として処理すると定めています。個別財務諸表上の付随費用に関しては、改正前の企業結合会計基準に従うことに注意しましょう。
税法上、有価証券の取得価額には購入に要した付随費用も含めることが原則です。支出した事業年度は損金参入ができません。ただし、通信費と名義書換料は少額であるため、例外的に取得価額から除くことが認められています。
国税不服審判所裁決事例の考え方
2010年2月の国税不服審判所裁決では、購入する有価証券を特定せずに行う調査にかかる費用は、有価証券の取得価額に含めないとしています。ただし、購入する有価証券を特定して行う調査にかかる費用は、有価証券の取得価額に含める考えです。
この裁決事例では、取締役会で購入する有価証券を決議してから調査を行う場合、調査にかかる費用は有価証券の取得価額に含まれるとしています。
また、2014年4月の裁決事例も同様の判断です。特定の企業の株式取得を目的として実施する調査は、その費用を当該株式の取得価額に含めるとしています。
いずれも「デュー・デリジェンスの実施時点で購入する有価証券が決定している場合、調査にかかる費用は取得価額に含める」という考え方です。
実務上の処理
原則、デュー・デリジェンスはM&Aの基本合意締結後、M&A成立を目的として実施する調査です。つまり、譲渡側(売り手側)企業の株式を取得するために行う調査で、デュー・デリジェンスにかかる費用は有価証券の取得価額に含まれます。
ただし、株式取得の意思決定後に発生する費用でも、全てを取得価額に含めなくても構いません。有価証券の購入に要した費用でなければ、一時の損金として処理するのが合理的です。
例えば、法務デュー・デリジェンスを弁護士に依頼する場合、有価証券の購入に直接関係しない交渉や契約締結を依頼するケースもあるでしょう。こういった付随契約にかかる費用は、一時の損金として処理できます。ただし、一時損金は否認されるケースもあるため、税務当局と交渉を要する場合もあるでしょう。
デュー・デリジェンス費用を抑える際の注意点
デュー・デリジェンスは法務・財務・税務・ビジネスといった領域別に実施するため、全てを行うと費用は高額となります。総額を試算した結果、デュー・デリジェンスの費用を抑えたいと考える方もいるかもしれません。
しかし、デュー・デリジェンスの費用を過剰に抑えると調査の範囲や期間が不十分になり、譲渡側(売り手側)企業の実態を適正に把握することができません。M&A成立後、トラブルの元になる恐れがあるため、必要な費用感に関しては専門家としっかり相談することをおすすめします。
デュー・デリジェンスに必要な3つの手順
デュー・デリジェンスの実施は最終契約締結前の意思決定に大きな影響を及ぼします。実施にあたっての手順を把握しておくことで、M&Aをスムーズに進行できるよう心構えをしておきましょう。
1.デュー・デリジェンス実施のための準備
デュー・デリジェンスは譲渡側(売り手側)企業の実態を把握し、譲受側(買い手側)企業にとって最適な形でM&Aを成立させるために実施します。
デュー・デリジェンスを依頼する専門家と事前にコミュニケーションを取り、調査に当たって特に重視する内容や項目、譲受側(買い手側)企業としてのニーズを伝えておきましょう。
2.M&Aの最終契約締結前にデュー・デリジェンスを実施
デュー・デリジェンスはM&Aの基本合意締結後、最終契約締結前に実施します。デュー・デリジェンスによって譲渡側(売り手側)企業の実態を把握し、税務リスクや法務リスクが明らかになるケースもあるでしょう。
想定したシナジー効果が期待できないと分かり、M&A後の事業計画やそれを踏まえM&Aの計画事態の修正・検討が求められるケースも考えられます。専門家と連携して軌道修正を図りましょう。
3.デュー・デリジェンス結果に基づいたM&Aの検討
デュー・デリジェンスの結果を受け、M&A実施の可否や適正な買収価格を検討します。譲渡側(売り手側)企業の潜在リスクや期待できるシナジー効果を踏まえ、成功と呼べるM&Aになるかどうかを判断するプロセスです。
譲受側(買い手側)は譲渡側(売り手側)の企業価値を算定しますが、最終的には譲渡側(売り手側)企業との交渉によってM&Aの最終契約を締結します。
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まとめ
譲渡側(売り手側)企業の実態は譲受側(買い手側)企業にとって未知の部分が多く、企業価値や潜在リスクを精査するにはデュー・デリジェンスが不可欠です。ただし、多角的なデュー・デリジェンスを行うには複数の専門家への依頼と報酬を要します。デュー・デリジェンスに精通したM&A仲介会社と連携してM&Aを成功に導きましょう。
M&A DXはデュー・デリジェンスの経験豊富な専門家が多数在籍し、あらゆるスキームのM&Aに柔軟な対応が可能です。M&Aを成功させたい方は、M&Aの専門家集団であるM&A DXにご相談ください。