EBITDAとは?
EBITDAとは、税引き前の利益に支払利息と特別損益、減価償却費を足したものです(※)。損益計算書だけで算出できるため、簡単に企業価値を知りたいときなどに使用されます。
●EBITDA=税引き前の純利益+支払利息+特別損益+減価償却費
例えば、特定の業種内で企業を比較するときや、企業に融資を実行する際、M&Aを実施する際などに用いられることが多いです。
EBITDAから何が分かる?
企業価値を評価する指標には様々な種類があります。その中でも EBITDAは、より企業の実情に近い姿を示す指標として用いられることが一般的です。
例えば、A社とB社が同じ金額を用いて同じ利益を上げているならば、企業の価値は一見同じに見えるかもしれません。しかし、A社は事業資金や設備資金のほとんどを銀行から融資を受けており、一方、B社は自己資金のみで運営していたとします。見かけの利益や利益率は同じでも、企業の実情としてはA社のほうが苦しいということは容易に想像できるでしょう。
EBITDAならば 支払利息を加味して算出するため、金融機関等への返済が多い企業は数値が低くなります。より企業の財務状況に合わせた数値を算出することが可能なのです。
また、設備投資額が大きい企業は減価償却費の負担により、営業利益に影響が出てしまうことがあります。。EBITDAでは減価償却費を加味して算出するため、固定資産の多寡とは無関係に財務状況を知ることが可能です。
EBITとの違い
EBITとは税引前当期純利益に支払利息を加え、受取利息を差し引いたものです(※)。そのため、借入や貸出によらない財務状況を知る指標といえます。
●EBIT=税引前当期純利益+支払利息-受取利息
例えば起業したばかりの企業は、銀行等からの借入額が大きく、支払利息の発生により利益が少なく見える傾向にあります。しかし、EBITを用いて財務状況を示すなら、借入による支払利息を除いた、事業そのものの利益や利益率を知ることができます。
将来的にも有望な事業を手掛けているのかを推測する基準のひとつとしても活用できることもあります。
一方、EBITDAは利息だけでなく減価償却の影響も排除して算出するため、借入が多い企業だけでなく固定資産が多い企業の財務状況を推し量る際に用いることができる指標です。
起業したばかりの企業と年数がある程度経った企業、また、固定資産が多い企業とそうでない企業を比較する際などに用いることができます。
フリーキャッシュフローとの違い
フリーキャッシュフローは、
「営業活動によるキャッシュフロー」 + 「投資活動によるキャッシュフロー」
という式で表され、企業が主たる事業活動を通じて得た資金の中から投資活動に要した支出を除いた、「自由に使える金額(お金)」を意味します。
企業が利益を生むためには、運転資金を確保して、それを的確に投下したり、
設備投資に現金を投入したりといった作業が不可欠です。
しかし、EBITDAは単に営業損益に非現金支出費用である減価償却費を足しこんだ正常なキャッシュ創出力のみを表す側面が強いことから、企業活動のために欠かせないコストが考慮されていません。この点が「フリーキャッシュフロー」とは異なります。
EBITDAはキャッシュ創出の目安の指標とはなるものの「この会社にどれほどの『利益を生み出す力』があるか」を断定することまではできないため、このような前提を踏まえた上で評価することが大切です。
営業利益との違い
EBITDAから減価償却費を差し引いたものが営業利益です。減価償却費とは経年により変化する固定資産の価値を金額で示した数値(※)ですが、実際には減価償却費という費用が発生するのみで、お金が動いているわけではありません。
●営業利益=EBITDA-減価償却費
EBITDAでは減価償却費を加えているので、営業利益よりも実際のお金の流れ(キャッシュフロー)に即した数値と言えます。
EBITDA有利子負債倍率とは?
借入金から現預金を差し引いた数値をEBITDAで割ったものが「EBITDA有利子負債倍率」です。 事業から得られる利益の何倍の借入を行っているかを示す指標(※)で、数値が高いと有利子負債が多く、数値が低いと有利子負債が少なく安定性が高い財務状況であると判断できます。
●EBITDA有利子負債倍率=(借入金-現金・預金)÷EBITDA
※参照元:EBITDA有利子負債倍率
EBITDAの求め方
EBITDAは様々な方法で計算することが可能であり、計算方法によっては値が異なります。M&Aの買収先としていくつかの企業を検討しているケースなどでは、同じ方法で計算するようにしましょう。利用されることが多い2つの方法を紹介します。
営業利益からEBITDAを計算する方法
もっともシンプルに計算する方法は以下の通りです。
●EBITDA=営業利益+減価償却費
営業利益は支払利息や特別損益を考慮前の数値なので、2つの要素だけで簡単に求められます。単純な計算のため企業比較の際もミスが少なくなり、実務で利用されるケースが多い方法です。
経常利益からEBITDAを計算する方法
一方、経常利益から計算する場合には、経常利益の算出にあたり銀行等への支払利息が含まれることから、EBITDA算出に不要な要素とされる支払利息を加算することで求めることができます。
●EBITDA=経常利益+支払利息+減価償却費
EBITDAはどう評価する?
EBITDAから、企業価値や収益性の高さを判断ことができます。具体的な評価方法について見ていきましょう。
収益性の高さを把握する
EBITDAを売上高で割って求める数値が「EBITDAマージン」です(※)。「EBITDAマージン」は収益性が高いと算出した数値も高くなり、収益性を比較する場合に用いることができます。
●EBITDAマージン=EBITDA÷売上高
収益性が高いと判断されるためには、経費を削減して純利益を高めるか、売上増以上に純利益を増やす効率の良い運営が求められるでしょう。
通常、起業時には設備等に多額の初期投資を行うため、経常利益は銀行への支払利息や減価償却により低く評価されることになります。そのため、毎年収益性が高まっていても、それが収益性の改善によるものなのか、初期投資によって発生した支払利息や減価償却費の減少によるものなのかが判明しにくいことがあるでしょう。
「EBITDAマージン」を使えば支払利息と減価償却の影響を受けずに純粋な収益性の変化だけを評価できるので、経年により収益性がどう変化したのかを判断できます。
企業価値を把握できる
EBITDAを使って企業価値の高さを把握することもできます。企業価値を算定する場合は、「EV/EBITDA倍率」を計算しておきましょう。EVとは企業価値(enterprise value)の略(※)で、株式の時価総額に有利子負債を加え、現金資産を差し引いて求めます。
●EV/EBITDA倍率=(株式時価総額+有利子負債-現金資産)÷EBITDA
EV/EBITDA倍率が低い企業は、買収しても比較的短期間で買収にかかるコストを回収できると判断できます。そのため、EV/EBITDA倍率が低いと割安、高いと割高と考えることができるでしょう。
※参照元:証券用語解説集 EV
EBITDAを活用する具体例
EBITDAは計算が簡単で、しかも売上高や企業価値と絡めて新たな評価を生むことも可能なため、様々な場面で使用されます。その中でも特に融資審査とM&A、海外企業の評価の場面で使用されることが多いです。それぞれにおける具体例を見ていきましょう。
融資審査において
銀行等が融資審査を行うにあたって、融資を希望する企業の返済能力を調べることは必要不可欠です。返済能力とは毎月返済金額以上の収入を生み出せるかを指し、固定資産等を持っているかよりも現金収入があるのかがポイントになります。
EBITDAは固定資産を評価せずに数値を算出する指標です。EBITDAが大きいということは現金収入が大きいということを示し、返済能力が高いと判断することができます。
M&Aにおいて
M&Aの際には、EBITDAが高ければ現金収入が多い企業だと判断する目安になり、また、EV/EBITDA倍率を用いることで、買収価格が適正あるいは割安・割高かを判断する目安になるでしょう。
なお、業種が同じ企業間や特定の類似性を持つ企業間で価値を比較する方法を「マルチプル法」と呼び、EV/EBITDA倍率もマルチプル法の一種です。
海外企業の評価において
海外では税率が異なるため、異なる国どうしの企業価値を比較することは困難です。また、金利や減価償却に対する計算方法も異なるので、企業価値を算出する際に含めてしまうと同じ条件で比較したとは判断しづらいでしょう。
しかし、EBITDAならば税金や支払利息、減価償却費も含めないで算出するため、異なる税制・異なる金利の企業でも評価しやすくなります。海外企業とのM&Aを進める際には、EBITDAを用いて企業を評価することが有効といえるでしょう。
EBITDAを活用するメリットとデメリット
どのような指標でもメリットとデメリットがあります。活用の前にメリットとデメリットを押さえておきましょう。
【メリット1】異なる条件の企業が評価可能
支払利息を含めて企業価値を評価する場合、起業したばかりで借入が多い企業は価値を低くみられる傾向にありますが、EBITDAならば収益性だけに基づいて評価することが可能です。
また、税金や減価償却に対する評価方法が異なる国の企業でも、EBITDAを使えば比較的公平に評価することができます。 設立年数や国、固定資産の多さなどの条件が異なる企業を比較したいときは、EBITDAが有効な方法になるでしょう。
【メリット2】簡単にキャッシュフローを把握
EBITDAは減価償却費といった実際には動いていないお金に関しては考慮しないため、簡単にキャッシュフローを把握することができます。融資を行う際やM&Aをして短期間に買収コストを回収したい際には、EBITDAを用いてキャッシュフローに注目した企業評価をすることが可能です。
【メリット3】中長期的な企業価値を評価
金融機関等への支払利息や減価償却費は、起業したばかりは高額になりやすく、徐々に減額されていきます。そのため、何年か分の利益に関する指標を比較する場合には、単に経年によって財務状況が改善されているのか、収益性が高まって財務状況が変化しているのかが判断しにくくなるでしょう。
EBITDAでは利息や減価償却といった経年変化を受ける要素を含めずに計算するので、現在の企業価値だけでなく中長期的な企業価値も評価しやすくなります。
【デメリット1】設備投資が評価されない
EBITDAでは設備投資に関する要素を含めずに計算するため、設備投資を多くしている企業をマイナスに評価することができません。適切に設備投資をしているかどうかを調べるためには、EBITDAだけでなくEBITなどの減価償却を考慮した方法で評価することも検討が必要でしょう。
【デメリット2】計算式が統一されていない
EBITDAの計算方法は紹介した方法以外にも、いくつか計算式があります。そのため、判明している数値が限られている場合でも算出可能というメリットがあります。
しかし、異なる計算式でEBITDAを求めると評価方法にもズレが生じるため、適切な比較ができなくなるというデメリットが発生してしまいます。企業比較の際には、必ず同じ計算式で計算するようにしましょう。
EBITDAの留意点
ここからはEBITDAを活用する際に押さえておくべき留意点を解説します。
留意点① 会計基準に基づいていない指標であること
EBITDAは会計基準に基づいて算出された指標でないため、正確さがやや欠けている場合がございます。例えば、EBITDAから算出されるキャッシュフローと財務諸表から算出されるキャッシュフローが異なる場合がある点や、前述した通り財務会計の経営指標とは違って統一された計算式がないため算出者によって結果にバラツキが出る等が挙げられます。そのためEBITDAを用いる際には参考指標として理解することが大切です。
留意点② 「投資対効果」の「効果」しか表さない
EBITDAは企業の収益力を投資後の効果を評価するには有用ですが過剰な設備投資やM&Aの損失を、マイナス要因として反映できないことが問題です。例えば実態の営業利益が赤字でも、減価償却費が大きければ表面上のEBITDAはプラスになります。そのためEBITDAだけを判断指標とすると投資の失敗が見えなくなる可能性があります。加えて設備投資などの投資額や運転資金など、今後発生し得る営業以外の資金や資金繰り(キャッシュフロー)が考慮されていません。そのためEBITDAだけで企業の精緻な収益力やキャッシュフローを評価するのは困難です。
中小企業のM&AにおけるEBITDA
中小企業のM&Aでは様々な場面でEBITDAを活用した財務分析が行われます。
EBITDAがよく利用される場面の1つとして、M&Aを行う際の最適な株価の簡易測定ができることがあげられます。上場企業同士のM&Aでは、ファイナンス理論といった難しい手法を使ってM&Aに最適な株価を算出しますが、中小企業同士のM&Aでは、ファイナンス理論を用いた最適な株価というものがあまり意味を持ちません。しかし、いくら精緻な適正株価が必要ないといってもM&Aを実行するにあたり、適正な価格をある程度決めておく事は重要になります。
EBITDAを利用してM&Aに適正な株価を知る簡便な評価方法として、類似業種比較法(EBITDAマルチプル法)が挙げられます。類似業種比較法では類似上場会社の企業価値がEBITDAの何倍になっているのかを基準に、中小企業の事業価値を算出する方法です。類似上場企業のEBITDA倍率は業種別で評価倍率が異なるため、業種毎に株式市場の評価を反映させる事が可能になり適正な株価測定が可能になります。
他にも、設備投資などで多額の減価償却費を計上している中小企業の正常収益力はEBITDAを基準に譲受企業は評価し、投資回収の期間を検討する財務指標とされています。
まとめ
EBITDAを活用することで、シンプルな計算で企業価値を求めたり、異なる国や異なる条件の企業を比較したりしやすくなります。設備投資を考慮する際にはEBITなどの異なる指標も用い、複合的に評価するようにしましょう。
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