M&Aにおけるエスクローとは?メリット・デメリットを徹底解説!

会計士 加藤大典

大手自動車メーカーに入社、生産技術部にて製造工程設計業務に携わる。その後、デロイトトーマツコンサルティングに入社し、組織再編により有限責任監査法人トーマツのアドバイザリー部門に異動。製造業の法定監査業務及びIFRS導入支援、組織再編支援、事業再生支援、内部統制構築支援、決算早期化支援、経営管理体制強化支援等の様々なプロジェクトに従事。

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M&Aを行うにあたってはさまざまな方法があります。今回はその中の1つの方法で「エスクロー」について解説します。

今回解説する記事の内容を正しく理解することにより、今まで以上に安心して取引が行うことができるはずです。

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本記事のポイント

  1. 「エスクロー」について詳しく知りたい方向けの記事です。
  2. 「エスクロー」の仕組みとメリット・デメリットについて解説しています。
  3. 「エスクロー」の方法を正しく理解し、今後の取引を今まで以上に安心して行ってもらいます。

エスクローとはどのような仕組み?

エスクローとはどのような仕組み?

まずはエスクローという意味をおさらいしておきましょう。ここではエスクローの理解を深めるとともに、仕組みについて解説します。実際のサービス内容について流れを把握することで、具体的なメリット・デメリットを把握することが可能です。後々トラブルに巻き込まれないよう、リスクがどんな場面で発生するか知っておきましょう。

エスクローとは?

M&Aは、一般的には株式、事業譲渡契約等を結びます。

しかし、その株式、事業譲渡契約と別に契約当事者の間に金融機関のような第三者を仲介させて、取引の安全性を確保する仲介サービスのことを「エスクロー」といいます。多くの資金が移動する取引など、慎重を期したい時によく行わる方法です。

もともとはアメリカの不動産売買で使用されており、日本の特に中小企業のM&Aでは使用されるケースは少なかったのですが、近年では日本国内でも使用されています。

エスクローの仕組みを徹底解説

一般的にエスクローサービスは下記のように行われます。

1. 商品を購入後に代金を支払う
2. 支払った通知を受け取ったあと、商品を発送
3. 商品の代金を支払う

上から順に流れを理解しながら、どういった点で注意が必要なのか、またリスクヘッジをどのように行うのかを知っておくことでスムーズにエスクローサービスを利用することが出来ます。

1.商品を購入後に代金を支払う

何か商品を購入する際は、その商品の代金を支払う義務が発生します。

一般的に商品を購入した際はその商品の売主に対して代金を支払いますが、エスクローサービスの場合は、商品の購入にかかった代金をエスクローサービス業者に支払う流れです。

また、買主に生じる支払い義務は一般的には売主に商品の代金を支払えば義務が消えます。一方、エスクローサービスの場合は、売主ではなく、エスクローサービス業者に代金を支払うことにより、買主の支払い義務が消滅するのが特徴です。

2.支払った通知を受け取ったあと、商品を発送

売主は、買主から商品の代金をエスクローサービス業者に支払った段階で、支払いがあったことの通知をエスクローサービス業者から受け取ります。

続いて売主は、エスクローサービス業者から支払いの通知をもらったら、買主に対して商品を発送する流れです。その後、商品を無事に受け取った買主は、そのことを業者に通知します。

3.商品の代金を支払う

エスクローサービス業者は、買主から商品の受取通知をもらったのち、商品の代金を売主に支払います。これでエスクローサービスが完了です。

商品の代金はエスクローサービス業者が保持しているため、買主が代金を支払っても商品を受け取れない、といったリスクはありません。しかし、買主が商品の受取通知を業者に伝えない場合、売主が代金を受け取れないというリスクは少なからず生じます。そのため、業者任せにせず、買主に対する信用もしっかりと得ておくとよいでしょう。

M&Aを行う際のエスクローサービスについて

M&Aは多くの資金が移動するため、少しでもリスクを低くするために下記の2つの選択肢があります。

● 銀行口座を利用する
● 信託契約を行う

この2つはM&Aに限らず、さまざまな取引を行う上でも使う場面が多いため、あらかじめ覚えておくとよいでしょう。特に、信託契約は代金を受け取る上でも知っておきたいリスクヘッジに繋がります。

銀行口座を利用する

銀行口座を利用した方法では、M&A取引で生じるさまざまな代金を、口座に入金し保管します。

そのため、まずは譲渡側・譲受企業・エスクローサービス業者のいずれかの名義で口座を開設し、譲渡側から必要な代金を送金します。

エスクローサービス業者は、開設した口座をM&Aが完了するまで預かり運用します。

その後、M&Aの取引が完了したら、譲渡企業へ引き渡しが行われます。

信託契約を行う

続いて信託契約の流れを解説します。

信託契約とは、M&A取引で生じるさまざまな代金を信託で保管しておき、M&A取引が終了した時点で代金を支払います。

譲受企業は、M&A時に生じる代金を信託財産として受託者に預け、M&A取引が終了するまで預かった金銭を管理・運用します。

その後、契約に基づいて条件が達成したら、譲渡側へ代金の支払いが行われます。

エスクローを利用するメリット

エスクローを利用するメリット

ここまで、エスクローについて理解を深めるとともに、仕組みについて解説しました。気を付けておきたいポイントのほかに、エスクローサービスに関する内容も理解できたかと思います。

実際に、エスクローを利用するメリットは多く存在します。今回はその中から下記の主要なメリットを解説しましょう。

● 安心した取引が可能
● 売り手のメリット
● 買い手のメリット

安心した取引が可能

エスクローを利用する最大のメリットは売り手・買い手ともに安心して取引を行えることです。

M&Aにおけるエスクローは多額の金額が必要になるため、誰でも不安が生じます。そのような不安に対してエスクローサービス業者が介入すれば、譲渡企業にはM&A完了後は確実に代金が入金されます。

また譲受企業も、代金が入金される前にM&Aの確認や保証があるため、安心して取引を行うことができます。

売り手のメリット

譲渡側にとってのエスクローを利用するメリットは、M&Aによって生じた代金が確実に振り込まれる安心感と、過去取引実績がない企業でもM&Aに応じることができる点です。

M&Aを行うにあたって、譲渡側が一番不安な部分は、金銭の授受が確実に行われるかです。
しかし、エスクローサービス業者が介入することにより、M&A終了後には確実に代金が支払われるという安心感があります。

買い手のメリット

エスクローは譲渡側にのみメリットが生じるのではなく、譲受企業にもメリットがあります。

譲受企業のメリットは、代金を譲受企業が受け取る前に譲渡側についてやM&Aの取引内容を調査や確認ができることです。それにより、代金を支払ったにも関わらずM&Aの取引が行われないなどの問題が生じることがありません。

M&Aを進めている途中で、あまりにも契約内容と異なる場合は契約自体を見直すことも可能です。

そのため、M&Aのような失敗できない場合にも安心して進めることができます。また、エスクローサービス業者が仲介することにより、代金の支払いが完了するとともにスムーズにM&Aの取引が行われるというメリットがあります。

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エスクローを利用するデメリット

エスクローを利用するデメリット

上記のようにエスクローを利用するメリットは多く存在しますが、少なからず下記のようなデメリットも存在します。

● 手数料が発生する
● 買い手売り手ともに手間が増えてしまう

便利な反面、余計なお金や手間が発生してしまうため、メリットと比較しながら利用の可否を決めるのがよいでしょう。

手数料が発生する

サービスを利用する際、忘れずに覚えておきたいのが、費用面です。エスクローサービス業者は、M&Aを行うにあたり安心・安全性を確保するため、手数料が発生します。

この手数料はエスクローサービス業者によって異なりますが、一般的に約1〜2%かかるため、エスクローサービス業者を利用する場合は考慮しておきましょう。

買い手売り手ともに手間が増えてしまう

M&Aを行うにあたって、エスクローサービス業者が仲介するため、両者それぞれのやり取りにおける手間が増えてしまいます。そのため、早期でのM&Aを希望する場合、間に合わないなどのリスクがあるため注意が必要です。

エスクローサービス業者のような業者のおかげで安心・安全にやり取りできる反面、手間が増えてしまうため、スピーディーなやり取りは困難になる可能性があります。

エスクローを利用した事例をご紹介

エスクローを利用した事例をご紹介

上記では、エスクローの内容について詳しく解説しました。続いてここでは、実際にどのようにエスクローを利用するのか、というのを2つの事例を提示しながら解説します。特に、エスクローサービスで知っておくと便利な、アーンアウトの意味や内容を理解しておきましょう。また、口座の柔軟な使い方というのも、エスクローをする際には求められてきます。

アーンアウトを採用してリスク軽減

M&Aを行う際の金銭授受の方法で、事前に一定の条件を決め、条件の成立により金銭の授受を行う「アーンアウト」があります。
「アーンアウト」は業績が見通しにくいベンチャー企業や事業再生の局面にある企業を譲受する場合に採用されることが多いです。アーンアウトを採用する時は、追加で支払う費用をエスクローに入金し、条件が達成されたら追加の売買代金が譲渡側に入金されるため、契約時の収益はなくても次の年から収益の増加が予測される場合、エスクローを利用した条件払いすることでリスクを軽減できます。

出典:アーンアウト

エスクロー口座から分割してリリース

エスクロー口座は一気に全てリリースするだけでなく、分割してリリースする場合もあります。

M&Aにて事業譲渡にて買収する店舗が複数店ある場合、賃貸借契約の更新などを全ての店舗の家主と交渉する必要があります。

その交渉の際、全ての家主が好意的とは限らず、賃貸借契約の更新などを拒否する場合もあります。エスクロー口座から一気に全てリリースする方法だけでは、全ての家主との賃貸借契約が更新されない限りリリースできません。

そのような状況を避けるため、賃貸借契約の更新が完了した店舗から売買代金をエスクロー口座から支払う方法があります。

まとめ

まとめ

今回は、M&Aにおけるエスクローについて詳しく解説しました。エスクローは契約当事者の間に第三者を仲介させて、取引の安全性を確保する仲介サービスです。

エスクローを活用することにより、「安心した取引が可能 」などのメリットがあります。

デメリットとしては、「手数料が発生する」「買手・売手ともに手間が増えてしまう」などがあります。とはいえ、エスクローの仕組みをしっかり理解すれば、今まで以上に安心して取引が行えるなどメリットの方が多いため、M&A時には一度検討してみるとよいでしょう。

関連動画はこちら「YouTube「【解説】M&Aでも安心して取引をしたい!M&Aにおけるエスクローを学んで安心して取引をしよう!」の動画公開しました。」

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