株主総会の概要
株主総会とは、株式を発行している企業が株主と会社に関する諸項目を決議する最高意思決定機関です。株主総会は、通常毎年開催され、企業の取締役や監査役など経営陣が出席し、企業の業績報告や決算報告書の承認、取締役や監査役の選任、資本政策の決定など、重要な決定が行われます。
株主総会開催の根拠法令は会社法第295条であり、「株主総会は、この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる」と定められています。
取締役会設置会社の場合
取締役会が設けられ、その存在が法的に必要とされている企業を取締役会設置会社と呼びます。公開会社(全ての株式が譲渡制限を受けていない会社)、監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社といった種類が存在します。
取締役会設置会社では、「所有と経営の分離」原則に基づき、日々の運営は取締役会に委任されています。株主総会は、会社法で定められている事項や定款で指定されている事項についてだけ議決します。
取締役会設置会社における株主総会の権限は、会社法の規定や定款で規定された範囲に限定されています。これは、取締役会という運営・経営に関する決定機関が設置されているため、会社の実質的な所有者である株主による株主総会との役割分担を明確にし、所有と経営を分離しているからです。
取締役会非設置会社の場合
取締役会非設置会社では、株主総会は、会社に関わる全ての重要事項について決定する万能の機関となります(会社法295条1項)。新会社法の制定以前、株式会社には必ず取締役会を設置する必要があり、株主総会の権限は制限されていました。この制度下では、株主総会を招集する手続きは厳格で、非効率的であったことが指摘されていました。
新会社法の制定により、取締役会を設置しない会社の運営が簡素化され、中小企業の経営が容易になりました。これにより、取締役会非設置会社の株主総会は、運営や管理に関する事項をはじめとする、会社に関する全ての重要事項を決定する権限が与えられました。
つまり、取締役会非設置会社の株主総会は、組織の運営、管理、その他の会社に関連する全ての事項を決定するための万能な組織であると言えます。このことは、取締役会非設置会社において、株主総会が企業の重要な意思決定機関であるという点を強調しています。
取締役会との違い
株主総会と取締役会は企業の運営において重要な役割を果たしますが、それぞれの職務と権限は異なります。取締役会は業務の実行に関する決定を行い、一方で株主総会は会社の基本的な運営方針や重大事項について決定を行います。
会議の開催回数についても差異があります。取締役会は法令により、年に少なくとも4回、3カ月ごとに開催することが求められています(会社法363条2項)。一方、株主総会は年に1回以上開催すれば十分です(会社法296条)。
決議事項の観点では、取締役会設置会社では、取締役会が業務執行に関する決定を行い、一方で株主総会はより基本的な重大事項について決議します。決議要件においては、株主総会では「普通決議」「特別決議」「特殊決議」の3つの種類が存在しますが、取締役会では、全ての事項が「過半数出席で出席取締役の過半数の賛成」で決定されます。
招集手続きについては、株主総会は取締役会により決定され、代表取締役が招集します。しかし、取締役会の招集権は原則として各取締役にありますが、しばしば定款等の規定により招集する取締役が決められています。
株主総会の種類
株主総会は、定時株主総会と臨時株主総会の2種類に分けられます。
ここからは、それぞれの株主総会の特徴を解説します。
定時株主総会
定時株主総会は、毎事業年度が終了した後に行われる株主総会です。通常、決算が終わってから3ヵ月以内に開催されます。会社法296条1項「定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない」の文言に基づき、毎年1回は開催しなければなりません。
定時株主総会の主な議題としては、当期事業年度の決算報告・承認、事業報告の内容の報告、剰余金の配当などが挙げられます。
臨時株主総会
臨時株主総会は、必要に応じて臨時開催する株主総会です。会社法296条2項「株主総会は、必要がある場合には、いつでも、招集することができる」の文言に基づいて開催されます。
臨時株主総会の主な議題としては、補充取締役の選任、非公開会社の第三者割当の承認、新株予約権の発行などが挙げられます。
株主総会における主な決議事項
株主総会で話し合うべき項目は、以下のとおりです。
・会社の経営上重要な事項
・役員などに関する事項
・株主の重要な利益に関する事項
一つひとつ解説します。
会社の経営上重要な事項
会社経営を進めるうえで重要な事項は、株主総会において決議されます。特に、組織形態や事業のあり方などについて変更をする際には必ず株主総会を通さなければいけません。具体的な内容としては、下記が挙げられます。
・定款の変更(会社法466条)
・事業譲渡(会社法467条)
・合併その他の組織再編行為の承認(会社法783条1項など)
役員などに関する事項
株主総会における主要な決議事項の一つに役員の選任と解任があります。これには取締役、会計参与、監査役、そして会計監査人の選任および解任が含まれます(会社法329条1項、339条1項)。しかし、代表取締役や執行役の選任および解任については、取締役会設置会社では取締役会が行います(会社法362条2項3号、402条2項、403条1項)。
また、役員報酬の決定も株主総会の決議事項となります。特に、取締役、会計参与、監査役の報酬は、定款で特別に定めがない場合、株主総会の決議によって決定する必要があります(会社法361条1項、379条1項、387条1項)。ただし、それぞれの役職に2人以上の人がいる場合は、個々の報酬を定めるのではなく、役員全体の報酬の総額を決定することが可能です。
株主の重要な利益に関する事項
株主総会では、株主の利益に直接影響を及ぼす事柄に関する決議が行われます。これには、剰余金の配当、新株の発行、自己株式の取得、役員報酬の決定などが含まれます。これらは全て、株主の経済的利害に大きく関わる事項とされています。
たとえば、役員報酬の決定については、役員が自身の報酬を無制限に設定できてしまうと、業績に関係なく高額な報酬が設定され、それが会社の利益に影響を及ぼす可能性があります。そこで、このような株主の利益に直接関係する事項は、株主総会で決議されることが一般的です。
また、株主の経済的利益を直接に左右する決議事項としては、資本金の減少(会社法447条1項)や剰余金の配当(会社法454条1項)などが挙げられます。これらの事項も、株主総会で決定されるべき重要な事項とされています。
さらに、譲渡制限株式の譲渡承認についても株主総会での決議事項ですが、取締役会設置会社では取締役会での決議が許されています(会社法139条1項)。これらの決議は、株主の権利に直接関わる重要な事項となります。
株主総会での決議方法
ここからは、株主総会での決議方法と成立要件について解説します。
決議の種類 | 決議内容 |
---|---|
普通決議 | 一般的な事項についての決議 |
特別決議 | 重要な事項についての決議 |
特殊決議 | 運営に大幅な変更をもたらす事項についての決議 |
普通決議
普通決議は、株主総会で一般的に行われる決議方法です。この決議方法では、出席可能な議決権を持つ株主の過半数が出席し、さらに出席した株主の議決権の過半数が賛成することが必要とされています(会社法309条1項)。特に指定がない限り、決議はこの方式で行われます。なお、定款により出席要件(定足数)を無効化することも許可されています。
原則として、役員の選任・解任や役員報酬の決定など、株主総会で審議される議案は、特別決議や特殊決議といった特殊なケースを除き、普通決議によって行われます。そのため、普通決議は株主総会の主要な決議形式となっています。
普通決議を成功させるためには、「出席要件」(定足数)と「決議要件」(表決数)の2つを満たす必要があります。「出席要件」は、議決権を持つ株主の過半数が出席することを求め、「決議要件」は、出席した株主の議決権の過半数が賛成することを求めます。しかし、定款による規定により、出席要件は省略可能となっています。
【普通決議の決議事項】
・自己株式の取得(会156条1項)
・総会検査役の選任(会316条1項)
・業務財産検査役の選任(会316条2項)
・延期・続行決議(会317条)
・役員の選解任(会329条1項、341条)
・会社と取締役との間の訴えにおける会社の代表者の選定(会353条)
・会計監査人の出席要求決議(会398条2項)
・計算書類の承認(会438条2項、441条4項)
・減少額が分配可能額より少ない場合の資本金の額の減少(会447条1項)
・準備金の額の減少(会448条1項)
・資本金の額の増加(会450条2項)
・準備金の額の増加(会451条2項)
・剰余金の処分(会452条)
・剰余金の配当(会454条1項)
特別決議
特別決議は、会社の基本的な体制や事業内容を大きく影響させるような重要な事項に対する決議方法です。例えば、資本金の減少、定款の変更、事業譲渡、合併などの組織再編行為は特別決議によって決定されます(会社法309条2項)。
特別決議を行う際の要件は、「出席要件」(定足数)と「決議要件」(表決数)の二つがあります。これらは会社法によって定められており、出席する議決権を持つ株主の過半数が出席し、その出席した株主の議決権の三分の二以上が賛成する必要があります(会社法309条2項)。このことから、普通決議に比べて特別決議のハードルは高いといえます。
また、定款によっては、出席要件は議決権を持つ株主の三分の一まで緩和可能となっています。
【特別決議の決議事項】
・譲渡制限株式の買取(会140条2項)
・特定株主からの自己株式の取得(会156条1項、160条1項)
・全部取得条項付種類株式の取得(会171条1項)
・譲渡制限株主の相続人に対する売渡請求(会175条1項)
・株式の併合(会180条2項)
・募集株式・募集新株予約権の発行における募集事項の決定(会199条1項、238条2項)
・募集事項の決定の委任(会200条1項、239条1項)
・株主に株式・新株予約権の割当を受ける権利を与える場合の決定事項の決定(会202条3項4号、241条3項4号)
・累積投票取締役・監査役の解任(会339条1項、342条)
・役員の責任の一部免除(会425条1項)
・資本金の額の減少(会447条1項)
・現物配当(会454条4項)
・定款の変更(会466条)
・事業譲渡の承認(会467条)
・解散(会471条3項)
・解散した株式会社の継続(会473条)
・吸収合併契約・吸収分割契約・株式交換契約の承認(会783条1項、795条1項)
・新設合併契約・新設分割計画・株式移転計画の承認(会804条1項)
特殊決議
特殊決議は、会社の組織や運営に大幅な変更をもたらす極めて特殊な事項についての決議方法です。これらの事項は、すべての発行株式に対する譲渡制限を設ける定款の変更、新設合併契約の承認などを含みます。
特殊決議の要件は会社法により規定されており、これらの決議を行うためには特定の条件を満たす必要があります。会社法309条3項によれば、特殊決議を成立させるためには、議決権を行使可能な株主の半数以上が出席し、さらに出席した株主の議決権の三分の二以上が賛成する必要があります。さらに、会社法309条4項に定める 株主ごとに異なる取扱いを行う旨の定款変更については、総株主の半数以上が出席し、総株主の議決権の四分の三以上の賛成が必要です。
【特殊決議の決議事項】
・公開会社から非公開会社への変更(定款変更)
・人的属性に基づき株主の権利を取扱う定款の変更(会309条4項、109条2項)
株主総会の流れ
株主総会の大まかな流れは下記のとおりです。
・議長の就任
・開会宣言
・出席株主数と議決権数の報告
・監査報告
・事業内容の報告
・議案の提出
・審議方法の確定
・議案の審議
・質疑応答
・決議
・閉会宣言
上記に挙げた株主総会の流れは、一括審議方式によるものです。一括審議方式では、すべての議題を一通り説明したうえで、後からまとめて審議・質疑応答・決議を行います。個別審議方式を採用する場合には、議題それぞれに対して審議・質疑応答・決議を行います。
株主総会の開催時期
株主総会の開催時期は、会社によって異なります。会社法で株主総会を開催すべき時期は定められていません。定款に「事業年度末日の翌日から3ヶ月以内に開催する」といった記載があれば、その内容にしたがって開催時期を決定します。会社によって決算月や定款などが異なるため、会社によって開催時期は変わってきます。
日本において一般的に定時株主総会は、決算月の3か月後に開催されます。特に、3月を決算月としている会社が多いため、6月に開催が集中する傾向です。
株主総会当日の準備事項
株主総会当日は、以下の準備を行います。
・会場の最終確認
・議事進行の最終確認
・受付準備
まず済ませておくべきは、株主総会を行う会場の最終確認です。株主がスムーズに入場できるよう、参加人数にあわせて会場セッティングをする必要があります。また、備品の確認や警備体制のチェックなども重要な事柄です。
議事進行についても、開始前に最終確認を行います。進行を務める人だけではなく、出席する役員も流れを見失わないようデータや書類を忘れず用意します。受付時には、出席資格の確認や議決権数の集計を正確に行えるよう準備を整えておくことも大切です。
株式会社における株主総会とは?概要や種類、決議事項などをわかりやすく解説 まとめ
この記事では、株主総会の概要や株主総会の種類、決議事項などについて解説しました。
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