インボイス制度とは?
インボイス制度は、正式には「適格請求書等保存方式」と言い、現行の「区分記載請求書等保存方式」に代わって導入される制度です。インボイス制度では、消費税の「仕入税額控除」を行うためには、インボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)だけが発行できるインボイス(適格請求書)が必要になります。
インボイス発行事業者となるためには、課税事業者が事前に申請し登録を受ける必要がありますが、免税事業者の場合には原則として「消費税課税事業者選択届出書」を提出し、課税事業者となってからでなければ登録は受けられません。
インボイスには一定事項の記載が義務付けられており、インボイス発行事業者以外の者がインボイスと誤認されるおそれのある書類を交付することや、インボイス発行事業者であっても偽りの記載をしたインボイスを交付することは法律で禁止され、違反した場合には1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます。
以上を整理すると、現行制度の「区分記載請求書等保存方式」では、請求書を発行するのに事業者の登録は必要なく、免税事業者が発行する請求書なども消費税の「仕入税額控除」に利用できましたが、インボイス制度の導入後に消費税の「仕入税額控除」を行うためには、原則として登録を受けたインボイス発行事業者が発行するインボイスしか利用できなくなります。
仕入税額控除のしくみ
(出典:国税庁「適格請求書等保存方式の概要」 令和4年7月)
消費税は、商品やサービスを提供する際に課せられる税金で、上の図のように最終的には消費者が負担し、当該商品やサービスが販売されるまでに関わった中間事業者がそれぞれ納付します。消費税には事業者が原材料などを仕入れるときに調達先に対して支払う仕入れにかかる消費税と、製品やサービスを販売するときに顧客から徴収する売上にかかる消費税の2種類があります。
事業者が売上にかかる消費税の全てを国に納付すると原材料などの売り手に支払った仕入にかかる消費税との二重負担となるため、事業者は売上税額から仕入税額を差し引いた消費税額を納税する仕組みになっており、これを「仕入税額控除」と言います。
インボイスと簡易インボイス
インボイスは、売り手が買い手に対し正確な税率や税額を伝えるための手段で、次の事項の記載が義務付けられています。ただし、様式については法令等で定められていないため必要事項の記載があれば様式に関わらずインボイスに該当します。
<インボイスの記載事項>
・取引年月日
・取引内容(軽減税率8%の対象となる場合にはその旨を明記)
・税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜き又は税込み)及び適用税率
・税率ごとに区分した消費税額等
・書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
上記のインボイスに対し、不特定多数の者に対して販売等を行う「小売業」「飲食店業」「タクシー業」「旅行業」「駐車場業」等については、簡易インボイス(適格簡易請求書)の交付が認められています。
<簡易インボイスの記載事項>
・取引年月日
・取引内容(軽減税率8%の対象となる場合にはその旨を明記)
・税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜き又は税込み)
・税率ごとに区分した消費税額等又は適用税率
インボイス制度における売り手の義務
インボイス制度における売り手、つまりインボイス発行事業者には原則として次の4つの義務が課せられます。
・買い手に返品や値引きにより売上金の返還等を行う場合には「返還インボイス」を交付する
・買い手に交付した適確請求書に誤りがあり修正した場合には「修正インボイス」を交付する
・買い手に交付した「インボイスの写し」を、課税期間の末日の翌日から2月を経過した日から7年間保存する
(注)上記「買い手」は課税事業者に限ります。
なお、「インボイス」「返還インボイス」「修正インボイス」「インボイスの写し」は、デジタルインボイス(電子インボイス)で交付・保存することが可能です。
インボイス制度の開始日
インボイス制度は2023年10月1日からスタートしますが、同日からインボイス発行事業者となるには、原則として2021年10月1日から2023年3月31日までに登録申請をしなければなりません。ただし、2023年3月31日までに登録申請書を提出できなかった場合には、同年9月30日までに「期限までに申請できなかった事情を記載した登録申請書」を提出しインボイス発行事業者の登録を受けたときは、2023年10月1日に登録を受けたものとみなされます。
インボイス制度の経過措置
インボイス制度が開始した後は、免税事業者等からの課税仕入れに対しては、原則として仕入税額控除の適用を受けることができなくなりますが、経過措置として次の期間は一定の割合が控除可能となります。
・2026年10月1日 〜 2029年9月30日 免税事業者等からの課税仕入の50%
この経過措置の適用を受けるには、①免税事業者等から受領した区分記載請求書と同様の内容が記載された請求書等の保存、②経過措置の適用を受ける旨を記載した帳簿の保存が必要になります。
インボイス制度を導入するメリット
複数税率に対応するために導入されるインボイス制度ですが、インボイス発行事業者の登録やデジタルインボイスの普及などによるメリットがあります。
デジタルインボイスへの移行がしやすくなる
デジタルインボイスは、インボイスを電子データ化したもので、2023年10月1日からスタートするインボイス制度では紙のインボイスと同様に交付や保管が認められています。デジタル庁が普及を促進しているデジタルインボイスの標準仕様「JP PINT」を利用すると統一された様式でやり取りできるので、異なるシステムの取引先から交付されたインボイスでも内容の自動取り込みや仕入税額控除の自動計算などが可能になり経理業務の効率化が期待できます。
複数税率への対応がしやすくなる
現行制度で仕入税額控除の適用を受けるためには、取引を税率ごとに区分した帳簿の作成と請求書の保存が必要です。しかし、請求書の金額は支払対価(税込対価)しか義務付けられていないため、消費税額が記載されていない場合には買い手が消費税額を計算し記帳しなければならずミスや不正が発生する問題がありました。これに対し、インボイス制度では「消費税率」と「消費税額」の記載が義務付けられているため、買い手はインボイスを集計するだけで正確な消費税額を求めることができます。
インボイス制度導入後の取引に有利
インボイス制度導入後に「仕入税額控除」を受けるためには、インボイス発行事業者の登録を受けている取引先から原材料などを仕入れる必要があるので、買い手は現状の取引先が登録を受けていなければ登録を受けている別の取引先に変更する可能性が出てきます。そのため、インボイス発行事業者の登録を受けている事業者にとっては、新たな取引先を開拓する上で有利となります。
インボイス制度の導入で変わること
ここまでインボイス制度について説明してきましたが、インボイス制度の導入によって大きく変わるのは次の3点です。
請求書の記載内容が変わる
現行制度から「インボイス制度」に移行すると、従来の請求書の記載事項に加えて、①インボイス発行事業者の登録番号、②適用税率、③税率ごとに区分した消費税額等を追加しなければインボイスとは認められず仕入税額控除に利用できません。
請求書の保存方式が変わる
インボイス制度において仕入税額控除を行うためには、以下のインボイス等の保存が必要となります。
②買い手が作成する仕入明細書等(インボイスと同等の記載事項があり、売り手の確認を受けたもの)
③卸売市場において委託を受けて卸売の業務として行われる生鮮食料品等の譲渡及び農業協同組合等が委託を受けて行う農林水産物の譲渡について、受託者から交付を受ける一定の書類
①から③の書類に係るデジタルデータ
上記に関わらず、インボイス等の交付を受けることが困難な以下の取引は、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。
・自動販売機・自動サービス機により行われる課税資産の譲渡等 (3万円未満)
・郵便切手を対価とする郵便サービス (郵便ポストに投函したもの)
・簡易インボイスの記載事項(取引年月日を除く)を満たす入場券等が、入場の際に回収される場合
・古物商、質屋または宅地建物取引業者がインボイス発行事業者以外から、古物、質物または建物を当該事業者の棚卸資産として取得する場合
・インボイス発行事業者以外から再生資源・再生部品を棚卸資産として購入する場合
・従業員等に支給する出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当等に係る課税仕入れ
仕入税額控除を受ける要件が変わる
インボイス制度における仕入税額控除の適用要件の主な変更点を整理すると、次のようになります。
インボイス等(デジタルデータを含む)、および帳簿の保存期間は、課税期間の末日の翌日から2月を経過した日から7年間。ただし、簡易課税制度を選択した場合は現行制度と同様にインボイス等の保存は必要とされません。
現行制度においては、「3万円未満の課税仕入れ」及び「請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由があるとき」は、一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められますが、インボイス制度がスタートした後は認められなくなります。
現行制度では、仕入先から受領した請求書等に「軽減税率の対象品目である旨」や「税率ごとに区分して合計した税込対価の額」の記載がない場合には、これらの項目に限り買い手が追記することが可能ですが、インボイス制度では買い手の追記は認められません。
インボイス等に誤りがあった場合には売り手が発行する「修正インボイス等」の保存が必要になりますが、買い手が誤りを修正した仕入明細書を作成し売り手の確認を受けて保存することもできます。
インボイス制度における注意ポイント
インボイス制度の導入によって請求書等のデジタル化が進み経理業務の効率化が期待できる反面、新たな負担が増加するなどの懸念もあるので、以下の注意ポイントを理解し対応策を考えておきましょう。
経理業務の負担が大きくなる
経理担当者は、インボイス制度が導入されるまでの期間に、①インボイス発行事業者の登録申請、②自社の請求書等の様式や記載事項の変更、③デジタルインボイスを利用する場合にはインボイス制度に対応したシステムの構築などが必要になります。
インボイス制度がスタートした後は、買い手においては①取引先がインボイス発行事業者の登録を受けているかどうかを国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で確認、②インボイス、簡易インボイス、その他の請求書の仕訳、③経過措置の適用期間中は免税事業者の控除割合の計算、④帳簿への記載、⑤インボイス等の保管などが必要となるので経理担当者の負担が増大します。
対応策として、インボイス制度に対応した会計システムや請求書作成ソフトの活用や、売上が5,000万円以下の中小企業の場合には「簡易課税制度」を選択することで大幅に経理担当者の負担を軽減することができます。「簡易課税制度」では、仕入税額控除を「売上税額 − 仕入税額」で求めるのではなく、「売上税額 − (売上税額 × みなし仕入率)」で求められるので各取引先に支払った仕入税の計算は不要です。また、簡易課税制度を選択した場合には前述したように、インボイス等の保存は仕入税額控除の要件にはならないため、経理担当者にとってはさらに負担が軽減します。
仕入税控除額が減少する可能性がある
インボイス制度導入後に仕入税額控除を受けるには、インボイス発行事業者の登録を受けている事業者のインボイスが必要なので、消費税の課税期間に係る基準期間において、課税売上高が1,000万円に満たない個人事業主や小規模事業者等の免税事業者との取引で支払った消費税は控除対象とはならないため仕入税控除額が減少する可能性があります。ただし、前述したインボイス制度の経過措置により2029年9月30日までは段階的に一定の割合が控除可能です。
免税事業者が敬遠される可能性がある
免税事業者はインボイスを発行できないため、取引金額が大きくなると取引先の仕入税控除額への影響が増大するので、課税事業者となってインボイス発行事業者の登録を受けなければ取引先から敬遠される可能性があります。
免税事業者がインボイス発行事業者の登録を受けるためには、最初に「消費税課税事業者選択届出書」を提出し課税事業者となる必要がありますが、経過措置として2023年10月1日から2029年9月30日までに免税事業者がインボイス発行事業者の登録を受けると、「消費税課税事業者選択届出書」を提出しなくても登録を受けた日から課税事業者となることができます。
まとめ
2022年12月23日に「令和5年度税制改正の大綱」が閣議決定され、個人事業主や小規模事業者などの免税事業者がインボイス発行事業者(課税事業者)となった場合の税負担や事務負担を軽減するための支援措置、各種補助金の拡充、少額取引におけるインボイス保存要件の緩和などの見直しが行われます。今後、本稿で紹介した内容が改正案の実施によって一部変更されるため、財務省などWEBサイトをチェックし自社にメリットがある制度は積極的に利用することが重要となります。