M&Aに関わる法律とは?
M&Aに密接に関わる法律を8つ紹介します。いずれも基本的なものですが、どの法律が関係するかはケースバイケースです。法律の種類を理解し自社が進めるM&Aにはどの法律が関係するがを把握し、適切にプロセスを進めましょう。ここでは、それぞれの法律が関わるケースについて詳しく解説します。
会社法
会社法とは、会社の設立、組織、運営及び管理について定める法律と会社法第1条に定められています。会社に関するルールをまとめた法律といえるでしょう。M&Aの手法として知られている吸収合併や新設合併・株式交換・事業譲渡は、いずれも会社法が定めに従った手続きとなります。M&Aをするのであれば、ほぼ全てのケースで会社法が関係するでしょう。
また、M&Aのプロセスにおいてもほぼ全ての段階に会社法が関わっています。M&Aを実施する際には、会社法で規定された手順や債権者・労働者の保護、対抗要件に従って手続きを進めなければなりません。
税法
税法とは租税の賦課や徴収に関する規定を収めた法律の総称です。M&Aを実行すると株式の譲渡や金銭の支払などの取引が発生し、法人税や所得税、消費是が課税される場合があります。M&Aに関係する主な税法は以下の通りです。
・法人税法:株式譲渡で法人に譲渡所得が発生したケース
・所得税法:株式譲渡で個人に譲渡所得が発生したケース
・消費税法:事業譲渡で資産を譲渡したときに、譲渡する資産の価格に対して課税
・相続税法(相続税と贈与税について規定):事業承継で株式の相続や無償での譲渡が発生し、課税対象になった場合に発生
他にも、M&Aには事業承継税制に関する複雑な決まりが存在します。株式譲渡で個人に譲渡所得が課せられる際の所得税の金額の計算も簡単ではありません。M&Aに関連する税法を正確に理解して適切に手続きを進めるためにも、専門家のサポートを受けましょう。税法の認識に間違いがあると、予想より大幅に高い税金が課せられる恐れがあります。
独占禁止法
独占禁止法とは、公正かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにするための法律です。市場における競争原理が正常に働くための法律といえるでしょう。M&Aにおいては以下のケースに該当すると、独占禁止法により企業結合が認められません。
・企業結合によって特定分野の競争を実質的に制限するケース
・不公正な取引によって企業結合するケース
独占禁止法の規定では、一定規模以上のM&Aが発生する場合には事前に届け出をすることが定められています。合併や新設分割・吸収分割・事業譲受といったさまざまなケースで独占禁止法が関係します。
労働契約承継法
労働者は、労働契約法によって労働契約に関する基本的なルールをまとめられており、その結果として労働者の個別の労働関係の安定が保護されいます。M&Aにおいての労働者を守る法律は「労働契約承継法」です。労働契約承継法では会社分割時の手続きを以下のように定めています。
・労働者および労働組合へ会社分割を実施することを通知する
・承継会社は承継する事業に従事する労働者の労働契約を承継する
・承継する事業を主として従事する労働者のうち、分割計画書等に記載されていない者、もしくは承継する事業に「従」として従事する労働者のうち、分割計画書等に労働契約が承継されると記載される者は労働契約を承継することに異議申し立てできる
・労働協約のうち、分割会社と労働組合との間で締結されている労働契約を設立会社に承継することができる
・分割会社は労働者から会社分割への理解と協力を得るように努める
金融商品取引法
金融商品取引法は、有価証券の発行や売買などの金融取引を公正にし、投資家を保護や経済の円滑化を目的とした法律です。特に上場企業のM&Aでは株式公開買付(TOB)の実施が求められうことがあり、正確なルールを把握する必要があります。TOBには5%ルールや1/3ルールといった複雑な決まりがあり、、正しく理解した上で適切に手続きを進めましょう。
他にも、金融商品取引法では一定の情報開示を義務付けた「開示規制」や不公正な株式のトレード(インサイダー取引)を禁止する規定が存在します。
民事再生法
民事再生法は、債務者と債権者の権利関係を調整して債務者の再生を図ることを目的とした法律です。民事再生手続きによる法的整理を利用するM&Aは、「再生型M&A」と呼ばれ、経営環境が厳しい企業が有する優良事業を承継して事業再生を図るのが目的です。
会社更生手続きを利用したM&Aでは、更生計画に基づいて進めれば会社法で求められる手続きは必要ありません。一方、民事再生手続きを利用したM&Aは、裁判所の許可を得て手続きを進めるため一般的なM&Aとは異なります。ケースによっては株主総会の決議が不要です。
産業競争力強化法
産業競争力強化法は、日本経済を強化することを目的として制定した法律です。この法律の改正によって会社法の特例を適用できる範囲が広がり、株式公開買付(TOB)以外のM&Aでもさまざまな規制を回避できるようになりました。この法律の制定には、国内の過当競争状態の是正という目的もあります。
税法上の特例を創設し、株式の譲渡損益について課税繰延が認められたのもポイントのひとつです。これにより、特別事業再編計画の認定を受けた会社が自社株式を買収対価とするM&Aを実施しやすくなりました。したがって、十分な資金を持たない企業でもM&Aが可能となります。
その他関係する法律
M&Aには他にもさまざまな法律が関係します。関係する可能性がある法律は以下の通りです。
・有限責任事業組合契約に関する法律
・投資事業有限責任組合契約に関する法律
・外国為替及び外国貿易法
・業種ごとに特有の法律(建設業法や廃棄物処理法など)
具体的にどのような法律が適用されるのかはケースバイケースで、M&A案件ごとに異なります。許認可が必要な業種であれば、根拠となる法律が関係するでしょう。M&AのスキームによってはM&A成立後に再度許認可を受けなければならない場合があり、再度許認可を受けようとしたところ許認可が受けられないというケースもあるため、事前に確認することをおすすめします。
弁護士がサポートするM&Aの契約書
M&Aには多くの法律が関わります。また、手続きも複雑なため、弁護士のサポートを受けるとよいでしょう。ここでは、弁護士がサポートするM&Aの契約書を3つ紹介します。契約書を作成する目的や弁護士によるサポートの必要性について見てみましょう。
秘密保持契約書
M&A当事会社は第三者に情報が漏洩することを防ぐため、必要な情報を開示する前に秘密保持契約書を作成します。契約書では秘密情報の範囲や使用目的を定めましょう。作成には専門的な知識が求められるため、弁護士のサポートを受けるとよいでしょう。
基本合意書
基本合意書とは、M&Aの条件を規定した契約書です。当事会社それぞれがM&Aに対する共通認識を明確にする目的で作成します。
基本的に法的拘束力を持たせないのが一般的ですが、デューデリジェンス(DD)の実施や独占交渉期間といった一部の規定には法的拘束力があるため注意しましょう。また、譲渡価格に関する規定を盛り込むなど、法的拘束力がない項目も基本合意書も存在します。法的拘束力がある内容を含む契約書なので、どこまで法的拘束力を持たせるかは法律の専門家である弁護士によるサポートを受けながら決めていく必要があります。
最終契約書・譲渡契約書等、株式売買契約書
最終契約書・譲渡契約書等や株式売買契約書は、当事会社双方が合意に達してM&Aを実施する場合に作成します。基本合意書をベースにすつつも最終合意に至るまでに実施したDDでの発見事項やその他調整項目を加味した協議内容や交渉内容を盛り込んで作成されます。M&Aの手法によって最終契約書・譲渡契約書等、株式売買契約書など契約書の種類は異なりますが、いずれも法的拘束力を有します。法的トラブルを回避するためにも、弁護士のサポートを受けるのがおすすめです。
M&Aの手法ごとで注意する法律のポイント
M&Aでは手法ごとに適用する法律や条文が異なります。注意しなければならないポイントも異なるため、事前にチェックしましょう。ここでは、「株式交換・株式移転」「合併」「会社分割」「事業譲渡」における注意点について解説します。
株式交換・株式移転の場合
株式交換・株式移転を利用したM&Aでは、株主総会による決議が必要なことと株式の売買で発生した利益が課税対象になる点に注意しましょう。ただし、例外として簡易株式交換や略式株式交換では株主総会での決議が求められないケースががあります。他にも、債権者保護手続や各種書類の備置といった会社法が規定している手続きをしなければなりません。
合併の場合
合併の際には、対価として金銭を交付すると譲渡益に対して課税されます。一定の要件を満たした場合には適格合併に該当し、この場合には譲渡損益が生じないケースがあります。合併の場合には適格要件と照らし適格性が認められる可能性があるのかについて、検討する必要があります。また合併は包括承継に該当するため、消滅会社の権利や義務、契約は存続会社が一括して承継されます。債権者保護手続も必要なので、併せて確認しましょう。
会社分割の場合
会社分割をする際には、当事会社同士で合意した後に株主総会で承認を受けなければなりません。その後、債権者保護手続きをしてから会社分割を実行します。
何らかの許認可が必要な事業を営んでいるケースでは、許認可が引き継がれるものと、承認を受けなければならないもの、許認可が引き継がれない場合に再取得が必要なものの3通りがあるので注意しましょう。自社が受けている許認可がどれに該当するかチェックして手続きをします。
事業譲渡の場合
事業譲渡では譲渡するのは事業の全部または一部です。事業譲渡で支払う対価は課税対象となり、利益が出れば法人税が課税されます。事業譲渡では譲渡対象となる資産・負債・契約・労働者を個別に決定するのが特徴です。契約を再締結するといった手間がかかるので注意しましょう。また事業譲渡を実施するには、株主総会で承認を受ける必要があります。
M&Aで弁護士が活躍するシーン
弁護士のサポートを受ければ、M&Aのプロセスを円滑に進められるでしょう。ここでは、M&Aで弁護士が活躍するシーンを4つ紹介します。弁護士がM&Aで果たす役割を理解し、適切なサポートを受けながら自社の状況に合ったM&Aを選びましょう。
契約書の作成や確認
M&Aでは、秘密保持契約書や基本合意書、最終契約書といった書類を作成します。契約書をはじめとした書類作成には法務の専門知識が不可欠であり、弁護士が活躍する分野です。また、M&Aを成功させるには、双方の希望に沿った内容にする必要があり、双方の合意した内容が正しく各契約書に記載される必要があります。合意した内容と齟齬がある契約書となるとM&Aの破綻につながるリスクがあるため、弁護士のサポートを得てM&Aを成功にさせましょう。
法務デューデリジェンス(DD)
法務DDとは、対象会社や事業について法務上の問題点を調査することです。主に労働環境や受けている許認可や訴訟のような法的トラブルをチェックします。
未払残業代の有無や、日々行われている取引が取引契約書に基づいて行われているかなどを確認します。
法律と照らし詳細に確認をするため専門知識を有する弁護士が活躍する場面となります。
一連の交渉や手続き
基本合意書のような契約書は法的拘束力をもたない項目もあるため、M&Aの譲渡価格を最終的に確定する際にはには、法的拘束力のある契約書を作成し、弁護士に内容に問題がないかを判断してもらうとよいでしょう。
また、弁護士は交渉だけでなくM&Aに関わる手続きをサポートしてくれる場合があります。弁護士によって扱う業務は異なるため、どのような手続きをサポートしてくれるのか、事前に確認しましょう。
弁護士の役割は限られている
弁護士はM&Aを法律面で強力にサポートします。例えば、不利にならないような交渉や法的効力を発揮するためのサポートは弁護士の得意分野です。ただし、全てを一任できるわけではありません。M&Aには会計や税務も関わるため、さまざまな専門家の力を借りられたほうがよいでしょう。
M&Aをワンストップでサポートしてもらいたいと考えている方は、経験豊富で信頼できるM&Aアドバイザリーに相談するのがおすすめです。多くの専門家が在籍しているM&A仲介会社に相談してもよいでしょう。
M&Aの相談は法律にも強い専門集団「M&A DX」へ!
M&Aには非常に多くの法律が関わります。手法によって関係する法律が異なるため、自社が適用する法律を判断するのは難しいでしょう。また、M&Aには会計面や税務面のサポートも不可欠です。
M&A DXには弁護士だけでなく会計・税務・労務に精通した専門家が在籍しており、総合的なM&Aアドバイザリー業務を提供しています。M&Aについて信頼できる仲介会社に相談したい方は、ぜひM&A DXにご相談ください。
まとめ
M&Aには、会社法や税法・独占禁止法・金融商品取引法のような多種多様な法律が関係します。株式交換や合併・事業譲渡といった手法ごとに注意するポイントは異なるため、弁護士のサポートがあれば安心です。また、全てのプロセスを円滑に進めるには、会計や税務といった各分野の専門家に相談するとよいでしょう。
M&A DXには大手監査法人系M&Aファーム出身の公認会計士や税理士等が多数在籍しており、さまざまな面で手厚いサポートが受けられます。M&Aを成功させたい方は、ぜひM&A DXをご検討ください。初回相談無料なので、安心してご相談いただけます。