会社を譲渡(M&A)しようと思った時、誰に相談するとよいか

会計士 牧田彰俊

有限責任監査法人トーマツ入所、各種業務の法定監査、IPO支援に携わる。その後、ファイナンシャルアドバイザリーサービス部門にてM&A アドバイザリー業務・財務デューディリジェンス業務・企業価値評価業務等に従事。組織再編によりデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に異動し、主に国内ミドルキャップ案件のM&Aアドバイザリーとして、豊富な成約実績を収める。2018年、これまで以上に柔軟に迅速に各種ニーズに応えるべく株式会社M&A DXを設立し、現在に至る。

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後継者不在等で会社を譲渡(M&A、エムアンドエー)しようと思っても、皆様なかなか誰に相談したらよいかわからず悩まれるようです。オーナー経営者様の周りで懇意にされている方に相談するケースが多いと聞きますが、それではどのような人に相談するのが適切でしょうか。今回は、M&Aしようと思った時、誰に相談するのがよいか解説します。

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M&Aの相談先にはどんな人がいるか

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M&Aの相談先にはどんな人がいるか

オーナー経営者様が、自社の譲渡を考えた時、まずは身近な知り合いにM&Aの相談をすることが一般的です。
身近な知り合いにM&Aのプロがいればいいのですが、多くの方は身近にM&Aのプロがいないケースがほとんどです。
そのため、オーナー経営者様の身近な方でM&Aを知っていそうな方に相談することが多く、多くは以下のような方に相談しているようです。

・①顧問税理士・会計士
・②顧問弁護士
・③銀行や証券会社といった金融機関

これらの方々がM&Aに精通していれば、自社への理解も深いので話が早いと思います。
しかし、これらの方々が必ずしもM&Aに精通しているわけではなく、M&Aに精通している方として以下のような方がいます。

・④M&A専門会社

④M&A専門会社は、元々知っている仲ではなかったとしても、連絡をすれば多くの会社が親身にあなたの相談に乗ってくれるはずです。
ただ、残念ながら全ての会社が親身なわけではなく、時には自社の会社譲渡・会社売却という秘密情報すら守れない会社も目にします

相談前に注意すること

相談先を検討する前に、まず会社の譲渡や売却をする際に注意しておくべきことを確認しましょう。

① 競業避止義務

競業避止義務というのは一般的に、「譲受企業の許可が無い限り譲受企業が属する同一の自治体において譲渡事業を一定期間行ってはならない」というもので会社法第二十一条に定められています。
そのため、将来的に再開したいと考えている事業については譲渡・売却をする際には注意が必要です。

② 株主総会や特別議決が必要

事業を譲渡する際、事業の全部を譲渡する場合や、事業の重要な一部を譲渡する場合には、株主総会の特別決議が必要です。こちらについても会社法第四百六十七条に定められています。
ここで、事業の重要な一部とは、「総資産額の5分の1(定款で下回る割合を定めた場合はその割合)」を超えるものが該当します。
そのため、事業の全て、または一部を譲渡する際には対象事業がどの程度の規模かを事前に確認しておくことが重要です。

③ 通知義務

事業を譲渡する場合、株主に対して事業譲渡の法的な効力が発生する20日前までに株主に対して通知または公告を行わなければなりません。
これにより、事業譲渡に賛同しない株主に対して株式買取の機会(株式買取請求権)を提供することができます。

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最初にどのようなことを相談するか

それでは、どのようなことを相談したらいいでしょうか。

最初にどのようなことを相談するか

まず大事なことは、後継者問題や廃業等を考える時に、最初からM&Aに踏み切ろうという方はほとんどいないということです。
そのため、後継者問題や廃業等を考える時には、M&Aのことは一旦置いてまずは相談してみることが重要です。

一部を除き、多くのM&A会社や金融機関等では、まずは無料で相談にのってくれます
そのため、お気軽に電話やメールで問い合わせてみましょう。

そして、相談相手と面談や電話をすることになったら、以下のようなことを聞いてみましょう。
こちらは、多くのオーナー経営者様が質問してきたり、プロから見てこのようなことを聞いてみるのが良いというものをまとめたものです。

✓ 廃業 or 親族内で承継 or 親族外へ承継(M&A)のどの手法がいいか
✓ そもそも自社がM&Aの対象となるのか(買い手が見付かるのか)
✓ 自社の価値(株価)はいくらになるのか
✓ どのようなスケジュール感で進むのか
✓ どのような実施事項(to do)があるのか
✓ 役員・従業員・取引先にM&Aのことがバレないか
✓ どのようなアドバイザーを起用するのがいいか

この辺りの質問はM&Aに携わる方ならすぐに納得する答えが返ってくると思います。
反対にこの辺りの質問に明確な回答がない場合は、その方にどなたかご紹介していただくか、別の方を探されることをお勧めします

「①顧問税理士・会計士」に相談する良い点・悪い点

どのような会社でも税務申告をしなくてはいけないため、顧問税理士・会計士がついているかと思います。

「①顧問税理士・会計士」に相談する良い点・悪い点

顧問税理士・会計士は長年会社の記帳・決算・税務申告等を行ってきているため、会社の数字面や事業面に精通しているケースがあります。
オーナー経営者様の中には、自社の相談だけではなく、家庭のことや健康面のことまで相談されている方もいると思います。
そのため、公私に渡り長年の付き合いがある顧問税理士は、あなたの最適な相談相手になることでしょう。
また、顧問税理士は税務の専門家であることから、M&Aだけではなく親族内で相続した場合や廃業した場合等のメリット・デメリットまで言及してくださる可能性があります。
さらには、公認会計士は法律で守秘義務を負っており、税理士の方も職業柄守秘義務に対する意識が高く、不用意に情報が漏洩するリスクは低いといえます。

一方、M&Aは特殊で、M&A専門会社があるぐらいの領域となります。
そのため、M&Aは特殊性・専門性が高く、税務以外にも検討しなくてはならない項目が多岐に渡ることから、必ずしも顧問税理士がM&Aに精通しているとは限りません。

また、M&Aに進む場合は相手先(買い手)を探す必要があり、たまたま顧問税理士の関与先等が相手先になればいいものの、実際は相手先を探索する作業(マッチング)は難航するケースがあります。
これは、自社の業績が良いか悪いか、借金(有利子負債)が多いか少ないか等に影響されるものの、それだけではなく業種や時流、希望するM&A価格(株価)等、様々な要因に影響されます。
その場合、近隣だけではなく広く地域を広げて極端なことをいえば日本全国から最適な相手先を見付けることになります。
このような時は、なかなか広域なネットワークを有する税理士の方は少なく、相手先が見付からない事態もありえます。

最後に、M&Aにおける契約書作成等の法務的な分野には、弁護士や司法書士といった法律の専門家によるサポートが必要になります。

「①顧問税理士・会計士」に相談する良い点

✓ 自社の数字面や事業面等に精通しているため、細かな自社の説明を必要としない
✓ 顧問税理士とは長年の付き合いになりがちで、既に信頼関係が出来上がっている
✓ M&Aだけではなく、親族内承継や廃業等と比較したアドバイスをしてくれるケースがある
✓ 情報漏洩のリスクが低い

「①顧問税理士・会計士」に相談する悪い点

✓ 全ての税理士が、M&Aに精通しているわけではない
✓ M&Aの相手先(買い手)を探索するのに広域なネットワークを要する場合があり、そのようなネットワークを税理士が有しているのは稀である
✓ 法務面のサポートは別途必要となる
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「②顧問弁護士」に相談する良い点・悪い点

顧問弁護士に相談する良い点・悪い点は、顧問税理士のケースとほぼ同じになります。
顧問税理士が数字面に強いのに対して、顧問弁護士は法務面に強いという点が異なります。

「②顧問弁護士」に相談する良い点・悪い点

また、ほとんどの会社で顧問として税理士を起用しているのに対して、弁護士を顧問としているかは会社次第になります。
さらには、顧問税理士とは業務柄接点が多いので会う機会も増えますが、顧問弁護士とは稀にしか会わないオーナー経営者様も多いと思います。

また、M&Aでは様々な専門的要素が必要になるため、M&A価格(株価)の計算や財務諸表分析等の数字面のサポートには、公認会計士や税理士等の数字面の専門家が必要となります。

「②顧問弁護士」に相談する良い点

✓ 自社の法務面や事業面等に精通しているため、細かな自社の説明を必要としない
✓ 顧問弁護士とは長年の付き合いになりがちで、既に信頼関係が出来上がっている
✓ M&Aだけではなく、親族内承継や廃業等と比較したアドバイスをしてくれるケースがある
✓ 情報漏洩のリスクが低い

「②顧問弁護士」に相談する悪い点

✓ 全ての弁護士が、M&Aに精通しているわけではない
✓ M&Aの相手先(買い手)を探索するのに広域なネットワークを要する場合があり、そのようなネットワークを税理士が有しているのは稀である
✓ 数字面のサポートは別途必要となる

「③銀行や証券会社といった金融機関」に相談する良い点・悪い点

銀行や証券会社といった金融機関では、大手や一部地域金融機関において専門のM&Aチームを有しているケースがあります。
金融機関のM&Aチームは、M&Aに関する専門的な知見やノウハウが蓄積されており、財務面・法務面においても専門的なサービスを受けることが出来ます。

「③銀行や証券会社といった金融機関」に相談する良い点・悪い点

また、大手は全国に支店網を有しており、全国的なネットワークをもって、M&Aの相手先を探索することが可能です。
一部地域金融機関も、所属地域での圧倒的なネットワークと、他の地域金融機関との連携により広範なネットワークを有しているケースがあります。

ただし、金融機関は一般的に報酬(オーナー経営者様からみる費用)が高額になるケースが一般的です。
特に、大手では一定水準以上の報酬となる案件しか手掛けることが出来ないため、質の高いサービスを受けられる反面、M&A価格に比して費用割合が高くなるケースがあります。
また、オーナー経営者様の中には、メインバンクや融資を受けている金融機関には、融資の引き上げ等がちらつき話しづらいと仰る方もいます。
さらに、金融機関は大きな組織になるため、しっかりとしている反面スピード感に欠ける場合があります。

「③銀行や証券会社といった金融機関」に相談する良い点

✓ 一部金融機関ではM&Aチームを有しており、質の高い専門的なサービスを受けることが出来る
✓ 広範なネットワークにより、M&Aの相手先を探索することが出来る

「③銀行や証券会社といった金融機関」に相談する悪い点

✓ M&A規模によっては、費用負担が重くなるケースがある
✓ しっかりとしたサービスを受けられる反面、大きな組織であるためスピード感に欠ける場合がある
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「④M&A専門会社」に相談する良い点・悪い点

株式会社M&A DXや日本M&AセンターといったM&A専門会社が、近年増加しております。
M&A専門会社には、株式会社M&A DXや日本M&Aセンター等の独立系の他に、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー等の会計系(監査法人系)ファーム等があります。

「④M&A専門会社」に相談する良い点・悪い点

M&A専門会社の特徴としては、M&Aサポートを専門的に行っていることから、知見やノウハウが蓄積されているだけではなく、自社だけではなく他社とも連携出来るネットワークを構築している会社が多い点です。
そのため、 信頼出来るM&A専門会社に相談すれば、あなたの最善の相談相手になるでしょう

また、M&A専門会社によって多少の違いはあれど、一般的には③銀行や証券会社といった金融機関に比べて費用(M&A報酬)は、割安になるケースがほとんどです。

さらには、多くのM&A専門会社では、M&Aでは適度なスピード感が重要である認識のもと行動しているため、スピード感をもった対応が期待出来ます。

しかしながら、私共も実務して感じているのは、昨今の事業承継M&Aブームにより、様々なバッグボーンの方がM&A業務をしているということです。
例えば昨日まで不動産売買をしていた方が今日から急にM&Aのプロのふりをして実務を行っているなんて事例を目にしました。
そのため、担当者のバックボーンやこれまでの実績には十分注意された方がいいでしょう

また、M&A専門会社の中には、仲介式で業務を行う会社と、売り手・買い手のどちらかにたってサポートを行う(FA形式)会社の二種類があります。
どちらにも一長一短があるものの、仲介式では高く売りたい売り手と安く買いたい買い手の当たり前ともいえる構造的な利益相反関係が内在しており、これをうまく取り仕切っていただきたいものです。
また、どちらかにたってサポートする場合も、片側の利益を部分最適するあまり全体最適から逸脱し、結果として案件の長期化やしなくてはいいM&Aの破断を招くケースがあります。

「④M&A専門会社」に相談する良い点

✓ M&Aを生業としていることから、専門的なサービスが期待出来る
✓ 自社だけではなく豊富なネットワークを有している会社が多い
✓ 金融機関等に比べて、費用(M&A報酬)が低廉な会社が多い

「④M&A専門会社」に相談する悪い点

✓ 様々なプレーヤーがおり、担当者の能力のバラツキが大きい
✓ 仲介形式の場合、売り手と買い手の利益相反問題が内在している
✓ FA形式の場合、不必要に案件が長期化したり破断になるケースがある

どのような相手先であれば信頼出来るか

それでは、信頼出来そうな人と話してみて、本当に信頼出来る人はどんな人でしょうか。

どのような相手先であれば信頼出来るか

今後、M&Aを進めるに際して、その人と進めていけるか、その参考にしていただければと思います。

M&Aのサポート経験は豊富か

M&Aプロセスは多岐に渡ります。
【関連記事】M&Aのスケジュールを解説!

その中で、この段階から最後の株式譲渡(資金決済)までを通じて、M&Aのサポートが必要になります。
このプロセス全体を通じて、経験が豊富な相談相手であるか確認しましょう。
中にはプロセスの一部分のみ経験がある方もいますが、重要なのはプロセス全体をサポート出来るかです。
プロセス全体を通じて必要となる、マッチング能力・財務会計税務の知見・法務の知見・調整力等が総合的にある方を見極めましょう。

担当とソリが合いそうか

M&Aプロセスは長期に渡ることが一般的で、通常6~12ヶ月、早くても3ヶ月、長いと一年を超えるケースもあります。
それだけの期間を、しかも自社の売却という人生の一大イベントを、二人三脚で行うことになるため、担当者とソリが合うかは非常に重要になります。

M&Aプロセスはオーナー経営者様にとっては初めての実施事項もたくさん出てくるため、担当に質問しやすいか(話しやすいか)というのは、M&Aの成否やスピード感に大きく影響を与えることになります。

報酬体系

報酬体系が明瞭になっているかも重要です。
報酬の種類としては主に、①着手金(案件化手数料)②中間報酬③リテーナー報酬④成功報酬、の組み合わせになります。
多いケースとしては①着手金+②中間報酬+③成功報酬であり、大手M&A専門会社や証券会社ではこれに③リテーナー報酬が追加されるイメージです。
報酬例としては、④に近づくに連れて高くなり、これをテールヘビー(な報酬体系)といいます。
また、多くの事業者が最低報酬(ミニマムフィー)を設定しているため、こちらも確認しましょう。

✓ 報酬例(移動時価総資産が約5億円であったケース)

着手金:1百万円
中間報酬:3百万円
(リテーナー報酬:月額1百万円)
成功報酬:20百万円

最近は成功報酬のみで、着手金・中間報酬なしというM&A専門会社も増えてきております。
ただ、着手金なしのM&A専門会社が必ずしもいいわけではなく一長一短があることを覚えておきましょう。
着手金がないと最初にお金を払わなくていいため一見するとユーザーに優しいように感じますが、M&Aプロセスが長期(数か月から1年)に渡ることからその間全く報酬がないため、成功報酬を得るためにとにかく無理やりにでもM&Aを成立させようというインセンティブがわきます。
また、売り手もそのサポートをする仲介・FAもM&A途中で金銭のやり取りが発生しないため、真剣にM&A・M&Aサポートに取り組まない事例も目にすることがあります。

まとめ

最近では、M&Aが活発になってきたことに伴い、M&Aをサポートする会社も増加しております。
そのような環境の中、M&Aありきではなく親族内承継や相続も見据えた相談相手が見付かることを祈念しております。

まとめ

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M&Aや事業承継は英語を使うケースが多く、初めて聞くと意味が分からないまま会話が進み、後で急いで意味を調べるような経験がある方もいらっしゃると思います。M&Aの用語に関しては、一度理解してしまえばその後の会話で使えるようになるため、辞書代わりにご利用下さい。
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