総論として、M&A(エムアンドエー)価格はどのように決定されるか
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冒頭の通りメディアでは、華々しいM&Aに関するニュースをしばしば目にします。
大手製薬会社による海外製薬会社のM&Aや国内コンビニエンス業界の再編等、皆様もメディアで目にされたことがあるのではないでしょうか。
そこでは、公表される案件・公表されない案件はあるものの、M&A価格が記載されているケースがあります。
特に譲受側(買い手側)が上場会社の場合は、M&A情報に関して開示義務がある場合があり、この場合はM&A価格も開示されます。
しかし、M&A価格がどのように決定されたかを目にしたり当事者となる機会はあまりないため、皆様は決定されたものをメディアで目にするだけかと思います。
皆様がメディアで公表されるニュースはどれも、その裏で多くの当事者・関係者による長きに渡るプロジェクトや交渉の結果であるといえます。
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総論
前述の通り、M&A価格は長きに渡るプロジェクトや交渉の結果、決定されます。
詰まるところ、譲渡側(売り手側)と譲受側(買い手側)の交渉(話し合い)の結果で、M&A価格が決定されます。
これを聞くと皆様の中には「当たり前でしょ」と思われる方もいらっしゃると思いますが、何を伝えたいかというと、当事者同士が納得すればM&A価格はどのようにも変化するということです。
冒頭の100億円のM&Aでは、100億円で双方が合意したということですが、10億円でもいらないという会社もあれば、150億円でも買いたいもしくは売らないというケースがあるということです。
10億円で対象会社を取得することが出来れば非常にお得に感じるかもしれませんが、本業に関係ないM&Aをしない場合もあれば、将来性を感じることが出来ない等、取得に踏み切らないケースがあります。また、対象会社の事業や財政状態に非常に関心がある等、150億円払ってでも取得に踏み切りたいケースがあります。
さらには、仮に150億円を提示されたとしても、譲渡側(売り手側)が今後の対象会社の発展を懸念することや譲受側(買い手側)の属性等により、譲渡に踏み切らないケースがあります。
これは極端な例になりますが、双方の当事者の様々な状況により、M&A価格はどのようにも変容するということです。
妥当なM&A価格
もちろん、妥当なM&A価格という概念はあります。
弊社でも妥当なM&A価格を算定する業務や簡易的なM&A価格を算定するWebサービスを提供しております。
しかし、前述の通り、妥当なM&A価格が最終的なM&A価格になるとは限りません。
妥当なM&A価格をベースとしつつも譲渡側(売り手側)と譲受側(買い手側)の思惑や交渉力等により、妥当なM&A価格よりも高くなるケースも低くなるケースも双方あります。
なお、妥当なM&A価格については、以下をご参照下さい。
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M&A(エムアンドエー)プロセス初期におけるM&A価格の考え方
M&Aプロセスは、非常に長きに渡り、また様々なイベントを経ることになります。
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最終的なM&A価格はプロセスに伴い生き物のように変化していきます。
ここでは、M&Aプロセス初期において、M&A価格に対し、どのような考え方をするか解説します。
M&Aプロセス初期の状況を説明
まず、M&Aプロセス初期がどのような状況かを説明します。
M&Aプロセス初期では、譲渡側(売り手側)が対象会社を譲渡するか悩むことが一般的です。
そもそも会社(事業)を譲渡することが譲渡側(売り手側)にとってベストな選択肢なのか、また会社(事業)を譲渡することで譲渡側(売り手側)にいくらが入るのか、は誰もが大なり小なり悩む点です。
その他にも、M&Aをすることによって社員や取引先からどのように思われるか、譲渡側(売り手側)がオーナー経営者である場合は自身の去就などに思いを馳せることになります。
その中でも最大の関心事が、M&A価格がいくらになるかという譲渡側(売り手側)も少なくありません。
それでは、M&Aプロセス初期におけるM&A価格の考え方を記載します。
M&A価格はプロセスによってその意味合いも変わるため、M&Aプロセス初期におけるM&A価格をM&A価格(初期)とここでは呼ぶことにします。
M&Aプロセス初期では、まだまだ譲渡側(売り手側)と譲受側(買い手側)とで最終的な価格の合意がなされているわけではなく、譲渡側(売り手側)がいくらで対象会社を譲渡したいかということがM&A価格(初期)になります。
M&A価格(初期)の考え方
M&Aプロセス初期では、まずは譲渡側(売り手側)がいくらで対象会社を譲渡したいかという希望や目線が重要になりますし、M&Aプロセスのスタートといえます。
この希望や目線をM&A価格(初期)となりますが、M&A価格(初期)は「①譲渡側(売り手側)の思いによるM&A価格」と「②妥当なM&A価格」のバランスで構成されます。
そして、このバランスに伴うM&A価格(初期)に基づいて、譲受側(買い手側)候補に、対象会社のM&Aが打診されることになります。
ここで、このバランスが悪いと、なかなか譲受側(買い手側)にて初期的な関心をひくことが出来なくなります。
すなわち「②妥当なM&A価格」を大きく上回る「①譲渡側(売り手側)の思いによるM&A価格」がM&A価格(初期)となると、M&A価格(初期)が相場よりも非常に高くなることを意味し、譲受側(買い手側)にてM&Aの入口として取り組みを行うことが難しくなります。
そのため、専門家を利用して「②妥当なM&A価格」を理解したうえで、「①譲渡側(売り手側)の思いによるM&A価格」」を検討し、M&A価格(初期)を決定していくことが肝要です。
①譲渡側(売り手側)の思いによるM&A価格
譲渡側(売り手側)は対象会社に思い入れや愛着があるケースがほとんどです。
譲渡側(売り手側)が個人であれ法人であれ、老後やアーリーリタイアメントのための理想や現実的な資金需要がある場合があります。そのため、「②妥当なM&A価格」がいくらだとしても、譲渡側(売り手側)の思いとしていくら欲しいという発想が生まれてきます。
これが「①譲渡側(売り手側)の思いによるM&A価格」です。
②妥当なM&A価格
M&Aプロセス初期における妥当なM&A価格を算定することは、非常に専門的な領域となります。
妥当なM&A価格を算定する際に重要となるのは、決算データや将来計画になります。
しかし、多くの対象会社が非上場会社であることから、実際の決算データと対象会社の真の正常収益力がイコールしないケースが多いといえます。
これは、実際の決算データはオーナー特有のコストが計上されていたり、事業に関連しない商取引が行われているケースが多いため、実際の決算データが真の対象会社の経営成績及び財政状況を反映していないケースがあるためです。また、将来計画(事業計画)が策定されていないケースもあります。
以上より、M&Aプロセス初期における妥当なM&A価格を算定することは、非常に専門的な領域となります。
M&A(エムアンドエー)プロセス中期におけるM&A価格の考え方
まず、譲渡側(売り手側)の思いを中心としたM&A価格(初期)を解説しました。
ここでは、M&Aプロセス中期におけるM&A価格の考え方を解説します。
M&Aプロセス中期の状況
M&Aプロセス中期では、初期的に譲渡側(売り手側)が譲受側(買い手側)へ提案したM&A価格(初期)を含むM&A条件に基づき、双方が一定の合意がなされた場合、基本合意を締結することが一般的です。
もしくは、譲受側(買い手側)が譲渡側(売り手側)に提出するM&A条件が記載された意向表明書を、譲渡側(売り手側)が承諾することで、基本合意の代替とするケースもあります。
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この基本合意もしくは意向表明でのM&A価格を、ここでは「M&A価格(中期)」と定義します。
なお、基本合意等はM&Aプロセス中期における双方の目線を合わせることを目的としていることから、その多くは法的拘束力がない形で締結されます。
そのため、M&A価格(中期)は、M&A価格(初期)に比べ最終的なM&A価格に近付いていることは間違いないものの、まだ法的拘束力をもったM&A価格ではないケースが多いといえます。
M&A価格(中期)の考え方
M&A価格(中期)は、M&A価格(初期)を参考に、初期的な検討や面談を通じて、双方で一定の合意がなされた価格になります。
そのため、M&A価格(中期)はM&A価格(初期)の金額そのままの場合もあれば、前後するケースがあります。
M&A価格(中期)がM&A価格(初期)から前後した場合であっても、それは双方が合意出来るとした価格であるため、M&Aプロセスが進捗することになります。
対象会社の魅力(決算データ、業種、将来性等)が想定以上に高い場合、M&A価格(中期)がM&A価格(初期)より高くなるケースがあります。また、オークション形式でのM&Aプロセスを採用し、かつ対象会社の人気が高い場合も、同様に価格が高くなるケースがあります。
反対に、譲渡側(売り手側)のM&A価格初期設定が高過ぎる場合、M&A価格(中期)はM&A価格(初期)より低くなります。
基本合意を締結するまでに、対象会社の資料を一部閲覧したり、対象会社経営者へのインタビューやQ&Aを行い、対象会社への理解を深める作業をします。
その結果、当初想定していない思わぬグッドニュースや、反対にバッドニュースが出てくる場合があり、この結果M&A価格(中期)はM&A価格(初期)から上下することになります。
そのため、経験則としてはバッドニュースは早めに理解し、譲受側(買い手側)には早めに伝達することで、サプライズを出来る限りなくすことが肝要です。
このように理屈上は説明出来るのですが、対象会社がどのような状態であったとしても、M&A価格(中期)が高くなったり安くなったりします。
少なくとも言えるのは、M&A価格は理屈で動かない部分がある以上、理屈で動く部分をいかに整えるかということがM&Aで重要になります。
M&A(エムアンドエー)プロセス後期におけるM&A価格の考え方
いよいよM&Aプロセス後期における、M&A価格の考え方を説明します。
後期つまり最終ということで、冒頭で記載した、皆様も目にする機会があるM&A価格に関する説明となります。
M&Aプロセス後期の状況を説明
M&Aプロセス中期では基本合意を締結し、その後M&Aプロセス後期では、DD(デューデリジェンス)プロセスに進みます。DD結果とこれまでのM&A交渉を踏まえて、譲渡側(売り手側)と譲受側(買い手側)にて最終的な交渉が行われます。
この最終的な交渉で双方合意することによって、最終譲渡契約を締結することになります。
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この締結される最終契約書に記載されるM&A価格が最終的な価格となり、これを本記事ではM&A価格(最終)と定義することにします。
このM&A価格(最終)は最終という名前の通り、法的拘束力をもった形で締結されます。
M&A価格(最終)の考え方
M&A価格(最終)では、最終的なM&Aにて譲渡側(売り手側)と譲受側(買い手側)で合意された価格になります。
これはM&A価格(中期)にて一旦双方で合意した価格をベースとして、その後行われたDD結果を踏まえてM&A価格(最終)が交渉されます。
当然DD結果次第で、M&A価格(中期)のままM&A価格(最終)となるケースもあれば、M&A価格(中期)よりもM&A価格(最終)が下がるケースも多いです。
対象会社が非上場会社の場合、M&Aプロセス初期から中期にかけて、ある程度対象会社を把握したとしても、DDプロセスにて大なり小なりのマイナスニュースが発見されることが一般的です。
このマイナスニュースが財務的な検出事項であれば、理論的にはM&A価格(中期)から下落することになります。
このマイナスニュースが非常にインパクトがある場合、やはりM&A価格をM&A価格(中期)から下落させて譲受側(買い手側)は譲渡側(売り手側)に最終交渉をしてきます。
しかし、マイナスニュースが軽微な場合や、たとえどのようなマイナスニュースが出てきたとしても、M&A交渉の過程・経緯や譲受側(買い手側)の対象会社に対する優先度合いによって、最終的なM&A価格(最終)に影響を及ぼさないこともあります。
このように、M&A価格(最終)では、たんに理論的な要素だけではなく、これまでの交渉の過程・経緯や対象会社に対する思い等、数値化することが難しい要素を踏まえて長い交渉の過程で決定されます。
M&A価格の理解に役立つM&A事例
【事例】「ニトリホールディングス」による「島忠」の買収
売手の「島忠」と買手の「ニトリホールディングス」のM&Aは、現金を対価とするTOB(株式公開買い付け)にて実施されました。同社のFAである大和証券の株式価値算定書によれば、一株当たりの株式価値の範囲は「市場株価法① 2,849円~2,945円」、「市場株価法② 3,157円~4,890円」、「類似企業比較法 2,329円~4,114円」、「DCF法 2,964円~5,763円」と算定されています。「DCM」が提示したTOB価格4,200円に対し、「ニトリホールディングス」が提示したTOB価格は5,500円と大きく上回るものでした。「ニトリホールディングス」は買収によるシナジー効果を想定し、M&A価格に反映させた事例となっています。
まとめ
このように、大きく分けてM&Aプロセスでは3つの大きな分岐点があります。
この分岐点によって、譲渡側(売り手側)と譲受側(売り手側)の思惑が交差することによって、各フェーズのM&A価格が形成されます。
このようにM&A価格は理論的な部分と情緒的な部分のバランスにより決定されます。
ここで重要な部分は専門家を起用することにより、理論的な部分をしっかりと理論武装すること、さらにM&Aの当事者である譲渡側(売り手側)と譲受側(買い手側)だけではなかなか冷静になれない部分をバランスをもって交渉を心掛けることが肝要です。
この時専門家選びで重要なのは、理論武装だけ出来ても片手落ちといえますし、クライアント利益のバランスを取れる専門家を起用することです。
クライアント利益の種類は様々あり、M&A価格だけを追求することが、時にはクライアント利益とならない局面も存在します。
このようにM&Aでは、専門家と共にM&A価格を醸成し、最善のM&Aを追求していきましょう。
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