企業再生と事業再生の違いとは?
企業再生と混同されやすいものとして事業再生があります。大まかな定義は似ていますが、根本的に別の取り組みです。企業再生を実施する前に、事業再生と何が違うのか、どういった場合に事業再生という言葉を用いるべきか理解しましょう。企業再生と事業再生それぞれの内容について解説します。
企業再生とは
経営を持続することが難しい状況において「何が原因か」を突き止めたうえで、その原因を排除するのが企業再生の概念です。経営が困難に陥る主な原因には、債務超過や赤字収支といったものがあります。企業再生は企業全体の取り組みや考え方を一新して回復を目指す方法ともいえるでしょう。
事業再生との明確な違いはあいまいですが、主体となる組織によってとらえ方が異なります。たとえば、債権者の立場から見ると企業再生は最終的な目標は企業全体の回復です。そのため、事業内容の変更であっても企業再生として認識されるケースもあります。
事業再生とは
企業が行う事業の内容を抜本的に見直して、売上や競争力の低下を回復させるのが事業再生です。「ターンアラウンド(方向転換)」ともいわれるように、企業の取り組みよりも事業そのものに注目した方法といえるでしょう。
倒産の危機に陥った企業がそのまま消滅する事態を避けるために選ぶ手段でもあります。債務整理を行ったりスケジュールを変更したりすることで、収益の回復や向上につなげることも可能です。
企業再生を行うために必要なこと
実際に企業を再生させるためには、さまざまな取り組みが必要になります。経営者の心持ちだけでなく、金銭面も考慮しなければなりません。事業自体が再生できない状態なら、別の方法を視野に入れることも必要でしょう。
具体的にどのような取り組みを考えるべきか、早い段階から理解することが大切です。ここでは、四つのポイントをご紹介します。
経営者のやる気、覚悟
企業再生で特に重要になるのが、経営者が精神的な自信を高め、ハードな状況を乗り切ることです。リーダーシップをとり、これまで以上にほかの管理者や従業員たちを引っ張っていく役目を担わなければなりません。「企業再生に取り組むか否か」を決める以外にも、さまざまな決断を求められます。
また、実際に取り組みを始めるには債権者の協力が不可欠です。経営者のやる気や覚悟なしでは十分な協力が得られないでしょう。再生するうえでどのような姿を目指したいのか、企業全体の目標はどこにあるのかを明確にすることも重要なポイントです。
資金繰りの正常化
資金繰りが問題なく正常化できるかどうかも明確にしなければなりません。一時的に負債をゼロにできても、その後新たな負債を抱えるおそれがあります。正常化できなければ、企業再生を行ったあとも結局は資金繰りに困る結果になるでしょう。
資金繰りを正常化するには、人件費を抑えたり新たな出資者を募ったりすることも視野に入れなければなりません。黒字化するだけでなく、その後も正常に資金を繰り出せる環境を整えることが大切です。
事業再生の可能性
事業再生を行えば必ず再生できるわけではありません。たとえば、資金繰りを正常化できない状況では、回復する見込みはほとんどないといってよいでしょう。
したがって、事業再生を成功させるにはタイミングを見計らうこともひとつの条件です。綿密な計画を立てて慎重に時期を見計らうことも重要ですが、再生できる可能性があるうちに実行したほうがうまくいく場合もあります。
債権者の同意
金融機関といった債権者の同意がない状態では事業再生を実行できません。具体的な条件は企業再生の方法により異なりますが、最低限の協力は必要と考えたほうがよいでしょう。
企業再生は法的整理と私的整理の二つに大別されます。細かい取り組み方法や条件は法律で定められているものの、債権者の協力が必要となる点は共通しています。万が一、債権者の同意が得られなかった場合、企業再生を進められる見込みはほとんどないといえるでしょう。
【企業再生の手法】法的整理のメリット・デメリット
「法的整理」は企業と債権者のほかに裁判所がかかわって手続きを進める方法です。再建型と清算型の2種類があり、さらに細かい手法に分けられます。法的なルールに則って手続きできる点がメリットですが、デメリットも存在することを留意しましょう。法的整理の基本的な概念、そして、メリットとデメリットについて解説します。
法的整理とは?
裁判所が関与して手続きを行うのが法的整理です。分類すると、以下の4種類があります。
・民事再生
・会社更生
・破産
・特別清算
民事再生は、法的整理のなかでも一般的に活用される方法です。個人でも利用できるため、企業以外でも耳にした経験がある方もいるでしょう。一方、会社更生は、株式会社の再建を図る手続であり、個人や有限会社は利用できません。
法的整理のメリット
法的整理の大きなメリットは、法律に則って手続きが進められる点です。ルールがあいまいではないので、安心度の高い手段といえるでしょう。
裁判所が監督することによって、企業や債務者それぞれに公平な権利を与えやすい点も特徴です。万が一、一部の債権者が再生計画・更生計画に反対した場合でも、多数決によって再生が進む可能性があります。公平性を重視するなら法的整理の選択が賢明です。
法的整理のデメリット
法的整理を行う場合、法的なルールを反映するために裁判所への依頼が必要になります。安心して手続きを進められる反面、費用がかさむ点はデメリットです。さらに、法的な専門知識を要する場面が多く、弁護士への依頼も必要でしょう。裁判所と弁護士に多くのコストがかかる点に注意しましょう。
また、法的な手続きを経て企業再生を行った場合、企業イメージを低下させるおそれもあります。取引先からの取引停止が相次ぐと、再生のための取り組みにも影響を及ぼすかもしれません。
【企業再生の手法】私的整理のメリット・デメリット
法的整理とは違い、裁判所が仲介しない方法が私的整理です。法的整理より安心性は欠けるものの、取引先に公表されるリスクがない点がメリットといえるでしょう。法的整理のメリット・デメリットと比較しながら、より効率的に進められるほうを選ぶことが大切です。ここでは、私的整理について詳しく解説します。
私的整理とは?
債権者と企業(債務者)が話し合って手続きを進めるのが私的整理です。法が関与しない点が特徴で、以下のような手法で回復を目指します。
・私的整理に関するガイドライン
・中小企業再生支援協議会による中小企業再生支援スキーム
・事業再生実務家協会による事業再生ADR
・地域経済活性化支援機構(REVIC)による支援事業
・企業再生ファンドの利用
・特定調停
特定調停は、裁判所での手続ですので私的整理そのものではありませんが、話し合いを基本とする手続ですので、私的整理に近い性質を有しています。
金融機関に借りたお金の返済が困難であれば、リスケジュールによって支払条件を変更する方法も選択が可能です。
私的整理のメリット
「企業再生を行うことを外部に知られたくない」という場合には、私的整理が適しています。裁判所が関与しないことで、非公開のまま進められるためです。これにより、取引先への迷惑をかけず、従来の取引関係を維持することも可能となります。裁判所へ依頼する必要もなく、コスト削減の効果が期待できます。
弁護士に専門的なアドバイスを受けるケースもありますが、私的整理は企業側の希望をもとに進められます。ただし、債権者と秘密保持契約を締結しなければならない点は覚えておきましょう。
私的整理のデメリット
法的なルールに則って行われない私的整理は、信頼性に欠ける点がデメリットです。また、裁判所の監督のもとで手続が行われるわけではないため、公平な立場を実現しにくい方法であると考えたほうがよいでしょう。
私的整理はルールが定められているわけではなく、債権者と企業の話し合いによって詳細を決めものです。多数決で決定する仕組みではないため、債権者の同意がないと協力は得られません。
企業再生のマネジメントで重要なポイント
企業再生を行ううえでは、マネジメントについて理解を深めることも重要です。やみくもに取り組むのではなく、なるべく細かく計画を立てて企業全体が同じ目標に向かえるような体制を整えましょう。
経営者がすべてを背負うことなく、コミュニケーションをとるのも企業再生成功の大切な要素です。ここでは、マネジメントで重視したい四つのポイントをご紹介します。
事業の絞り込み
企業再生を成功させるためには、事業全体で必要なものと不要なものを明確にしなければなりません。このとき行われることが多いのがリストラです。なるべく避けたい方法ですが、再生を成功させるためには避けにくい過程ともいえるでしょう。
リストラを行ったことで企業の信頼を損なわないことも重要です。一方的なリストラにならないよう、コミュニケーションを重ねましょう。慎重に進めることで、企業に残った従業員にも安心感を与えるきっかけになります。
原因の追究
悪化状態のまま時間が経てば、再生できる可能性は徐々に低下します。適切なタイミングを逃さないためにも、なるべく早く原因を追究しなければなりません。根本的な原因にたどり着けるように効率的なプロセスを実行しましょう。
原因を知るには、仮説と検証を繰り返すのもひとつの方法です。解決の糸口が見つかった時点で行動に移し、解決が見込めないようであれば次の仮説検証に進みます。リミットがあることを理解して、スピーディに追究しましょう。
会社が一丸となる
従業員同士が交流する機会が少ない場合は、全体が一丸となって協力し合えるような場を設けるのがポイントです。特に、経営者や管理者と社員では直接話すことも少ないでしょう。全体的な目標を明確にし、全員で同じゴールを目指すことで向上心育成にもつながります。
立場にとらわれることなく、さまざまな意見を取り入れて企業再生へと役立てることが大切です。なるべく濃密なコミュニケーションを心がけましょう。
自信を持ってもらう
事業に対する技術やノウハウを高めるためには、従業員の自信ややる気が欠かせません。ほかの従業員と情報を共有したり報酬に関する制度を見直したりといった対策をしましょう。
新たな取り組みによって自信を持ってもらうだけでなく、継続的な向上心につなげるのも重要な要素です。交流する場以外にも自信を与えるきっかけをつくり、技術や売り上げを上げる効果へとアプローチしていきましょう。
まとめ
企業再生は、倒産という事態に発展する前に決定すべき手段です。主に金銭的な問題で立て直しができないと判断された場合、債権者の協力も得られません。法的整理と私的整理のどちらを選ぶかによって負担の度合いも異なります。費用や安心性といった複数の観点から納得できる方法を選びましょう。
実際に企業回復を進める際には、企業全体の協力と意識改革が重要な要素となります。適切に進められるかどうか不安という方は、組織再編や事業再生に関する実績が豊富なM&A DXへご相談ください。