メザニンファイナンスとはどのような手法?
資金調達というと、銀行融資・社債や出資のイメージがあるかもしれません。欧米では銀行融資・社債と出資の中間に当たるメザニンファイナンスの活用が盛んで、日本でも活用事例が増えている状況です。ここでは、銀行融資・社債や出資とメザニンファイナンスの違いを解説します。
ミドルリスク・ミドルリターンが特徴
資産 | 負債 |
純資産 |
「メザニンファイナンス」は、銀行融資・社債と出資の中間的な性質を持つ資金調達手段です。優先株式・劣後ローン・劣後債といった種類がありますが、特定の金融商品を指す名称ではありません。
銀行融資や社債はローリスク・ローリターン、出資はハイリスク・ハイリターンな資金調達手段で、メザニンファイナンスは相対的にミドルリスク・ミドルリターンであることが特徴です。
貸借対照表の構造で見ると、1階部分の純資産と2階部分の負債の中間にあることから、「中2階」を意味する「メザニン」と呼びます。
借入・債権型「デット(シニアローン)」との違い
資産 | シニアローン(負債) |
メザニン | |
エクイティファイナンス(純資産) |
「シニアローン(デットファイナンス)」は、貸借対照構造のデット(負債)に当たり、金融機関が提供する一般的なローンのことです。シニアローンはメザニンファイナンスより返済順位が高く、他の債権よりも優先的に弁済されます。資金提供者で見ると、メザニンファイナンスはメザニンファンドやリース会社、シニアローンは銀行や信用金庫です。
企業が破綻した際にはシニアローンから弁済されるため、メザニンファイナンスは一部しか回収できないケースが考えられます。シニアローンもメザニンファイナンスも元本と金利を回収しますが、シニアローンよりハイリスクなメザニンファイナンスは金利が高く、投資倍率は高くなる仕組みです。
株式型「エクイティファイナンス」との違い
資産 | シニアローン(負債) |
メザニン | |
エクイティファイナンス(純資産) |
「エクイティファイナンス」は、公募増資や第三者割当増資によって「エクイティ(株主資本)」の増加をもたらす資金調達手段です。エクイティは貸借対照構造の純資産に当たります。資金提供者は株主や親会社です。
エクイティファイナンスはメザニンファイナンスより返済順位が低く、企業が破綻した際には一切回収できないケースが考えられます。ただし、シニアローンやメザニンファイナンスを回収した後の残余資産全てを回収できるため、回収可能額が大きければ投資倍率は最も高くなる仕組みです。
メザニンファイナンスに向いている状況
新規事業や新規設備投資の資金供給を考える際、「融資で調達するのはリスクが高く、出資を募るとリターンが低い」という状況があり得るでしょう。ミドルリスク・ミドルリターンのメザニンファイナンスを活用すれば、円滑な資金供給が可能です。
事業再生に取り組む企業であれば、既存の銀行融資や社債をメザニンファイナンスにリファイナンス(借り換え)することで、より資本性の高い資金で事業再生を支えられます。
メザニンファイナンスを利用するメリット
デットファイナンスとエクイティファイナンスの中間的な性質を持つメザニンファイナンスは、従来の資金調達手段より柔軟な設計ができます。資金調達の手段が広がることや議決権を維持できることもメリットです。ここでは、メザニンファイナンスを利用する4つのメリットについて解説します。
資金調達の手段を広げられる
資金調達の手段は、銀行融資や社債といったデットファイナンス、公募増資や第三者割当増資といったエクイティファイナンスが一般的です。
さらに、さまざまな種類があるメザニンファイナンスを利用することで、企業は資金調達の手段を広げられるというメリットがあります。投資家からすれば、株式よりリスクを抑え、債権より大きなリターンを期待できるのがメリットです。
既存株主の議決権が希薄化する事態を回避できる
デットファイナンスによる資金調達が難しい場合、エクイティファイナンスを選択するのが一般的です。資本性の資金調達を選択すると、通常は既存株主の議決権が希薄化します。議決権の希薄化は、後継者に全ての自社株式を承継したい場合やM&Aによって自社を完全子会社化したい場合にネックとなるでしょう。
しかし、メザニンファイナンスは資金提供者に議決権を与える必要がありません。資金調達を行いつつ議決権を維持できるのは、事業承継においては大きなメリットです。
資金提供者への柔軟な償還ができる
メザニンファイナンスは個別の事情に合わせて設計するため、エクイティファイナンスほど経営を制限せず、デットファイナンスよりリスク許容度が高い資金を調達できます。調達目的を達成してリファイナンスできるのであれば、期限前に償還するのが一般的です。
また、メザニンファイナンスはデットファイナンスより返済順位が劣後し、エクイティファイナンスより配当支払いが優先されます。資金提供者へ柔軟な償還ができるのもメリットのひとつです。
EXIT方法の設定ができる
メザニンファイナンスは、EXIT方法(投資回収の方法)を選べることもメリットです。主に以下の3種類のEXIT方法が選択できます。
・約定通りに返済・償還する
・リファイナンスによって期限前に返済・償還する
・トレードセールによる譲渡
メザニンファイナンスの返済・償還期限はデットファイナンスの後に設定します。約定通りの返済・償還もできますが、リファイナンスによる早期返済・償還も可能です。また、譲受側(買い手側)企業に普通株式やメザニンをトレードセールで譲渡できます。
メザニンファイナンスを利用するデメリット
メザニンファイナンスは資金調達手段に悩む企業にとって有力な選択肢ですが、デットファイナンスよりコベナンツの内容が厳しいことや比較的高コストであることが注意点です。ここでは、メザニンファイナンス特有のデメリットについて解説します。
コベナンツ
メザニンファイナンスは相対的にミドルリスクのため、ローリスクなデットファイナンスに比べて「コベナンツ」の内容が厳しくなる傾向があります。コベナンツとは、資金調達側の義務・制限に関して契約書に記載する特約条項です。
情報開示義務・財務制限・事業維持といった条項があり、設備投資やM&Aに対して義務・制限が課されるケースもあります。コベナンツの他に全資産の担保が求められる場合もあり、経営の自由度が低下するのはデメリットです。
高コスト
メザニンファイナンスはデットファイナンスよりハイリスクのため、資金提供者はより高いリターン(利回り)を求めます。需要主体にとっては、資金調達手段の拡大や議決権の維持といったメリットもありますが、比較的高コストであることはデメリットです。
メリットとデメリットを十分に検討し、デットファイナンス・メザニンファイナンス・エクイティファイナンスの最適なバランスを模索しましょう。
メザニンファイナンス3つの資金調達スキーム
銀行融資・社債と出資の中間に当たる金融商品は多く、メザニンファイナンスに分類される資金調達スキームは多彩です。よく利用される資金調達スキームにはどのようなものがあるのでしょうか。メザニンファイナンスの代表的な資金調達スキームを3つ紹介します。
優先株式による方法
「優先株式」とは、剰余金の配当や残余資産の分配を普通株式より優先的に受けられる種類株式です。議決権に制限を設ければ、資金調達をしつつ経営の自由度を維持できます。優先株式によって得た資金は資本金になるため、自己資本比率を上げられることもメリットです。
ただし、優先株式は日本国内での認知度が低く、資金調達手段として利用する際には資金繰りが悪化した企業だと誤解される恐れがあります。発行に当たっては株主総会と種類株式総会の開催を要するため、普通株式より手間がかかることもデメリットです。
劣後ローンによる方法
「劣後ローン」とは、シニアローンに比べて返済順位が低く、金利が高いローンです。資金調達側の企業が倒産すると、シニアローンを優先的に弁済してから残余資産を劣後ローンの返済に充てます。貸借対照表における区分は負債です。
債務超過の場合は返済されないケースもあり、株主資本に近いという考えから、金融機関は自己資本の一部とみなします。負債ではなく自己資本とみなされるため、融資を受けやすいことがメリットです。一方、シニアローンより金利が高く返済期間も比較的長いため、財政を圧迫しやすい点には注意しなければなりません。
ハイブリッドファイナンスによる方法
ハイブリッドファイナンスは、資本と負債の中間的な性質を持つ資金調達手段の総称です。種類が豊富で、代表的なスキームに「劣後債」が挙げられます。劣後債は、一般的な債券より弁済順位が低く、優先株式や普通株式より残余資産の支払い順位が高い債券です。債務不履行のリスクは高い反面、一般的な社債より利率は高く設定されています。
金融機関が発行する劣後債は、一定の条件を満たせば自己資本への参入が認められることがメリットです。一方、取引市場は小さく売買の自由度が低いため、価格の振れ幅が大きいことがデメリットといえるでしょう。
業績悪化時のメザニンファイナンス
業績悪化によって負債の比率が高い状況では、シニアローンや普通社債によって追加で資金を調達することは困難です。また、このような企業価値評価額が低いタイミングでの新株の発行(増資)は希薄化の影響が大きくなる懸念があり、エクイティファイナンスも選択しづらいといえるでしょう。
そこで選択肢となるのが、劣後ローンや劣後債、優先株式の発行といったメザニンファイナンスによる資金調達です。メザニンファイナンスは通常の借り入れや社債よりも元本回収順位を劣後させる結果として高い利回りが設定されるため、支払利息の負担が増えることに注意が必要ですが、事業再建に向けた取り組みによって業績が回復して来れば、利益剰余金の蓄積により、自己資本比率が増えていきます。
こうして、足元の業績・財務状況と今後の見通しが改善されることによって、企業価値評価額も回復しますが、この状態であれば希薄化の影響を抑えられるため、普通株式の発行による増資も考えられるようになるでしょう。また、銀行や債券市場からの評価が回復すれば、シニアローンの利用も視野に入ります。
このように、業績悪化の局面ではメザニンファイナンスが効果的な資金調達手法になり得ます。
2020年新型コロナウイルス対策でも活用される
新型コロナウイルス感染症の影響を受ける業界は多種多様で、財務の健全化やM&Aを求める企業も増えています。このような状況下で、有効な資金調達手段として注目を浴びているのがメザニンファイナンスです。日本政策金融公庫が提供する劣後ローンやメザニンファイナンスの活用事例を紹介します。
新型コロナ対策資本性劣後ローン
「新型コロナウイルス感染症対策挑戦支援資本強化特別貸付(新型コロナ対策資本性劣後ローン)」は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた法人や個人事業主を対象に、日本政策金融公庫が提供する劣後ローンです。融資後3年間の利率が低い上、金融機関は自己資本と見なします。概要は以下の通りです。
対象者 | 新型コロナウイルス感染症の影響を受けた法人または個人事業主のうち、次のいずれかに該当する方 1.J-Startupプログラムに選定された企業または中小企業基盤整備機構が出資する投資ファンドから出資を受けた方 2.中小企業再生支援協議会の支援を受けて事業の再生を図る方 3.原則として認定支援機関の指導を受けて事業計画を策定し、民間金融機関等との協調支援により事業の発展または継続を図る方 |
限度額 | 7,200万円以内 |
返済期間 | 5年1か月、10年、20年 |
利率(年) | 融資後3年間は1.05% 3年経過後は税引後当期純利益額により異なる 0円未満なら利率据え置き 0円以上なら5年1か月・10年は3.40%、20年は4.80% |
返済方法 | 期限一括返済(利息は毎月払い) |
その他 | ・法的倒産手続きがなされた場合、償還順位は全ての債務に劣後する ・原則として、融資後5年間は期限前返済ができない |
(参考: 『新型コロナウイルス感染症対策挑戦支援資本強化特別貸付(新型コロナ対策資本性劣後ローン)|日本政策金融公庫』)
事例1.ソフトバンク
2006年、ソフトバンクはボーダフォン日本法人の買収に当たって、LBO(レバレッジド・バイアウト)のスキームを活用しました。デットファイナンス・メザニンファイナンス・エクイティファイナンスを組み合わせ、総額1兆8,800円を調達した事例です。
ソフトバンクは自己資金から3,200億円を出資し、ノンリコースローンにより1兆1,600億円を調達しました。さらに、英ボーダフォンから優先株式による3,000億円の出資を受け、劣後ローンによって1,000億円を借り入れています。
ボーダフォン本体に入る買収金額は1兆7,500億円と高額でしたが、高く買う代わりに4,000億円を引き出しました。少ない自己資金をカバーした事例といえるでしょう。
事例2.ANAホールディングス
2020年10月27日、ANAホールディングスは総額4,000億円の劣後特約付シンジケートローン契約を締結すると発表しました。
新型コロナウイルス感染拡大を受けて航空需要は低迷しており、厳しい経営環境に直面した状況下での判断です。固定費削減による収支の改善や設備投資の抑制による資金流出の防止、コロナ禍の収束を見据えて成長軌道に戻すことを目指します。成長投資のために長期性資金を確保し、財務の健全性を維持・向上することが目的です。
なお、借入額に対して50%の資本性が認められる見込みで、株式を希薄化することなく財務の健全化を図れるとしています。
逆境に挑戦する「イオン株式会社」
2020年10月30日、日本政策投資銀行はイオン株式会社に対して、「新型コロナリバイバル成長基盤強化ファンド」による劣後特約付ローンを実行しました。
小売業界が新型コロナウイルス感染症の影響に苦しむ中、イオン株式会社は次世代ネットスーパー事業の展開を加速させる方針です。最先端のAIやロボティクス機能を導入した中央集約型自動倉庫を活用し、新鮮な食材や日用品をより広域の消費者に素早く届けることを目指します。
新型コロナウイルス感染症の影響を受けながらも、新規事業開拓や異分野連携を実施する企業であれば、メザニンファイナンスを有効活用できる事例です。
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M&A DXには大手監査法人系M&Aファーム出身の公認会計士や税理士が多数在籍しており、M&Aに関するあらゆるサービスをワンストップで提供しています。経験豊富な専門家による大手水準のサービスを割安で提供できることが強みです。資金調達に関するお悩みもご相談ください。
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まとめ
メザニンファイナンスはデットファイナンスとエクイティファイナンスの中間的な性質を持ち、議決権を希薄化させない資金調達手段として活用できます。新型コロナウイルス感染症の影響もあって、支援事業として劣後ローンを利用できる環境整備が進んでいることも見逃せません。
M&Aの専門家集団であるM&A DXは、業種実績やM&Aの成立実績が豊富で、資金調達のお悩みにもきめ細やかに対応できます。M&Aや資金調達をお考えの方はM&A DXにご相談ください。