そもそもファンドとは
ファンドは本来「基金」を意味します。しかし、日本のビジネスシーンでは投資信託や金融商品を運用する会社(投資ファンド)を指す際に使われるのが一般的です。
この記事では、金融商品を運用する会社として「ファンド」という言葉を使用します。
投資ファンドの種類
投資ファンドには投資対象によってさまざまな種類が存在します。たとえば、投資信託は上場株式、債券、デリバティブ、短期金融商品等に投資するものです。投資信託は不特定多数の投資家を対象とする「公募型」と投資家を限定した「私募型」に分けられます。
近年メディアを通じて話題になることも多いのがアクティビストファンドです。「物言う株主」としても知られるこのファンドは、株主の立場から経営者に対して、株主還元の要求や株主総会における株主提案などを積極的に進めます。
続いて、PEファンド(プライベート・エクイティ・ファンド)は未上場企業に投資し、経営支援を行うなど経営に関与する点が特徴です。成熟産業の企業をターゲットにした「バイアウトファンド」がPEファンドに当てはまります。
投資ファンドが買収する際の流れ
一般的に、投資ファンドは投資家から資金を調達し、株式や不動産などの資産を取得、一定期間運用した後に投資した資金を回収して投資家に分配するという流れで成り立っています。また、企業を買収する際の流れは以下の通りです。
1.ターゲット企業を選定
2.候補企業と接点を持ち、基礎情報の提供を受ける
3.情報をもとに分析し、企業価値算定や買収方法を検討する
4.対象企業と交渉した上で基本合意
5.財務デューデリジェンスや法務デューデリジェンスなどを実施
6.双方で条件面の折り合いがつけば最終契約(クロージング)
PEファンドによる譲受が労働者に及ぼす影響
いずれの投資ファンドも基本的に投資家から預かった資金を運用して増やし、投資家に還元する仕組みです。
近年特に話題となることが多いのが、事例がPEファンドによる買収事例です。
実際に企業がPEファンドへと譲渡された場合、従業員や経営陣の処遇はどのようになるのでしょうか。
PEファンドによる譲受後の処遇
ここからは、PEファンドによる譲受後の対象企業の従業員や経営者に対する扱いを解説します。
従業員はリストラされる?
そもそも、買収後の従業員の雇用条件は買手と売手との合意によって決定されることにります。つまり、PEファンドではなく、例えば自社と同業種の企業による買収であっても人員整理を余技なくされるケースがある一方、PEファンドによる買収であってもリストラされるとは限りません。
一般的に、PEファンドが買収した際は今まで以上にコスト削減が徹底されたり、実力重視の登用にシフトしたりするケースはありますが、人員を削減する等というドラスティックな方法は取られないケースが多いのが特徴です。
役員や経営者はどうなるか
PEファンドが対象企業の経営陣の手腕やノウハウを評価している場合などは、PEファンドによる譲受後も従来と同じポストにつくこともあります。ただし、その場合には今まで以上に効率的な経営を求められることを想定しておく必要があります。
その一方で、PEファンドから経営陣を送り込むケースもあります。
PEファンドへの譲渡のメリット・デメリット
PEファンドが買収する際、対象企業にはどのようなメリット・デメリットがあるのかを解説します。
メリット1:資金支援やビジネスマッチングで立て直し可能
譲渡前に資金調達に苦労していた企業の場合、PEファンドによる譲受に伴い、投資ファンドにより多額の資金投入がなされるケースがあります。この場合、財務内容の改善がが期待できます。また、PEファンドの投資先同士との連携や同ファンドが持つネットワークの活用によるビジネスマッチングも実現する可能性があります。
メリット2:経営ノウハウ獲得
PEファンドが送り込む経営者は、企業経営のプロであるケースが多いです。そのため、今まで自社では見過ごされていた問題点への気づきや新たな経営手法による業務効率化をはじめとする経営改善が期待できます。
デメリット1:過度なコスト削減策をとる可能性
効率化が期待できる反面、過度なコスト削減を要求されることもあります。そのため、創業時から進めている自社の伝統的事業であっても、採算が合わないと判断されると事業の縮小・廃止を余儀なくされる可能性があります。
デメリット2:数年後にEXITする
ファンドという特性上、譲受後、企業価値を高め、数年で第三者へ持分を売却するケースが一般的です。これをEXIT(イグジット)と言います。
ファンドがEXITすることで、新たな株主に経営権が移ります。その際に経営陣が交代するケースも多く、従業員のモチベーション低下につながる可能性もあります。
デメリット3:LBOの場合財務内容悪化
PEファンドはLBO(レバレッジドバイアウト)という手法を活用して買収するケースがあります。LBOとは、対象企業の資産や今後のキャッシュフローを担保として金融機関から買収資金の融資を受けることです。
融資は最終的に対象企業の負債になることから、対象企業の財務内容が悪化することになります。譲渡を交渉している相手が投資ファンドであり、当該投資ファンドがLBOを活用した譲受を検討している場合には、本件後に結果としてどのような財務体質になるのかを確認しておくと良いでしょう。
ファンドによる譲受事例
最後に、日本国内でPEファンドが関与した案件を3つ紹介します。
ベインキャピタルによる買収
ベインキャピタルは外資系の投資ファンドですが、大手広告代理店のADKホールディングスや温浴施設を運営する大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツなど積極的に日本企業の買収を手がけています。ベインキャピタルは対象企業に対して効率化を求めることでも知られており、2011年に買収した「すかいらーく」は不採算店のリストラやターゲット層の転換を進め、2014年12月期決算で過去最高益を達成しました。
KKRによる買収
同じく、外資系ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)も電動工具メーカーの日立工機(現工機ホールディングス)や自動車部品メーカーのカルソニックカンセイ(現マレリ)などを買収しています。
2020年には、アメリカの大手スーパー・ウォルマート傘下にある西友の株式を65%取得することを発表しました。同時に楽天も20%出資し、ウォルマートは引き続き15%保有しています。KKRは小売業での投資で培ったノウハウを西友に提供し、楽天はEC面で西友と協力していきます。
企業再生支援機構による買収
企業再生支援機構(現地域経済活性化支援機構)は2009年に官民共同出資で設立されたファンドです。企業再生支援機構は、2010年1月に会社更生法を申請した日本航空を買収したのちに子会社やグループ会社の削減に尽力し、2012年には日本航空を再上場させています。
まとめ
PEファンドの譲受後は、経営効率化の徹底から人員削減等のリストラが進められる場合がありますが、必ず行われるというものでもありません。事例からもわかるように、PEファンドによる譲受は企業の再生に貢献するケースも多いです。
後継者不足など日本の企業が抱える課題を解決するためには、M&Aが有効な解決策の一つとして挙げられます。PEファンドにはこれまで述べたような特徴がある為、自社にとって最良の譲渡先を選定する上では、事業会社のみならずPEファンドも買手候補の一つとして検討すると良いかもしれません。M&Aは契約書の締結やデューデリジェンスなど専門的な内容が多く、特に譲渡先がPEファンドである場合には手続がより煩雑なケースも多いため、知識と経験に長けた専門家に相談の上で進めることをお勧めします。
M&A DXのM&Aサービスでは、大手会計系M&Aファーム出身の公認会計士や金融機関出身者等が多数在籍しており、PEファンドが関与する案件の成約事例も多くあります。事業承継でお悩みの方は、まずはお気軽にM&A DXの無料相談をご活用下さい。