不動産管理とは
ここでは、不動産管理とは何かという基本的な部分を始めとして、実際の仕事内容についても解説します。
不動産管理とは何か
不動産管理とは既に建築された物件(主にマンションやアパート)の管理を担う仕事です。具体的な業務内容は多岐に渡り、物件の清掃やメンテナンス、入居者やオーナーからの問合せ・クレーム対応などが挙げられます。一見地味な業務が多いですが、入居者とオーナー双方の満足度を高めるためになくてはならない業務といえるでしょう。
不動産管理の仕事内容
入居者対応
物件の入居者からは設備に関する要望や賃貸契約の更新・解約など様々な問合せが寄せられます。また、入居者同士のトラブルや設備に関するクレームなど対応に苦慮する案件も扱わなければなりません。特に入居者同士のトラブルは管理業者が介入しても沈静化するケースは少なく長期的な懸案事項として対応する必要があるでしょう。
物件の管理
入居者の快適な住環境を確保するため、物件の管理を行うことも不動産管理業者の重要物件の管理に関わる業務としては、清掃や設備のメンテナンスなど定期的に実施するものから、破損した設備の修繕、退去後のクリーニングなど多岐に渡ります。これらの業務は入居者のよりよい住環境を実現すると同時に、物件の資産価値を高めるという観点でも重要なものです。
客付け
マンションやアパートであれば物件の買い手や借り手を募るための客付けも不動産管理業者が担います。
具体的にはWEBサイトへの掲載、チラシの配布などを通して潜在的な入居者にアプローチし、入居者の獲得につなげていきます。客付けは定型的な業務が多い不動産管理業界でも特に企業間の違いが出る部分であり、競争力を左右する要素といえます。
オーナー対応
不動産管理業では入居者だけではなく、オーナーへの対応が求められることも忘れてはなりません。
オーナーとは物件の修繕や客付けなどに関する折衝の他、家賃などの入居者と利害が対立する事柄についても調整していく必要があります。不動産管理業者にはオーナーと入居者の双方の意見を尊重しながら、慎重に合意形成をしていくスキルも求められます。
不動産管理業界の現状と動向
ここでは、不動産管理業界が置かれている現状と昨今の動向について解説します。
業界規模での人手不足と高齢化
不動産管理業界では管理スタッフの高齢化や人手不足の問題に直面しています。特に住民のクレームを受ける可能性のある管理業務は敬遠される傾向にあります。また、大手系列の管理会社が好待遇でスタッフを雇い、低価格で管理を請け負うケースもあり、中小の管理業者にとっては苦しい状況が続いています。
将来的に続く人口減少
長年続く少子高齢化により、国内の不動産市場は縮小していくことが予想され、不動産管理業においても避けられない問題となっています。国内市場が縮小すれば、減少する顧客を取り合うために他社との競争が激化し、経営体力の弱い業者は淘汰されていく運命にあるでしょう。生き残りを図るためには、従来の管理業務以外にも他社と差別化するための経営戦略が求められます。
デジタル活用における格差
業界内では昨今の急激なデジタル化に伴い、デジタル活用における格差が広がっています。例えば、大手の不動産会社系列の管理会社であれば入居者の利便性を考え、専用のアプリで手続きが進められるようになっている一方で、デジタル化に投資する余力のない管理会社では未だに紙ベースの手続きが行われているなどの現状があります。また、小規模な業者であればデジタルの知見がある人材を確保することも難しいため、そのことがより格差を広げています。
不動産管理業界でM&Aによる買収を行うメリット
ここでは、不動産管理業界でM&Aによる買収を行うメリットについて解説します。
他の商圏に進出できる
ある地域で大きなシェアを持っている不動産管理業者を買収することができれば、新たな商圏を開拓することが可能になります。不動産管理業は不動産売買などの業態と違い、短期間で大きな売上が見込めないため、管理する物件を地道に増やす必要があります。他の地域で展開する企業を買収できれば、既存の顧客基盤が手に入るだけではなく、新たな顧客にも営業がかけられるようになり、同業他社に対して大きなアドバンテージを得ることができるでしょう。
迅速に事業規模を拡大できる
M&Aによって他社を買収することで、ビジネスの迅速な拡大が可能になります。先述の通り不動産管理業界は薄利多売のビジネスであり、いかに早く新規顧客を獲得できるかが競争力に直結します。ゼロから新規顧客を開拓していくのは決して容易ではなく、多くの時間がかかります。そのため、M&Aによって適切な企業を買収できれば、短期的にはコストがかかったとしても、早期のビジネス拡大により投資対効果が得られるでしょう。
優秀な人材を獲得できる
M&Aによる買収の大きなメリットの一つに、優秀な人材を獲得できることが挙げられます。不動産管理業界においては客付けの分野が競合他社との差別化要素となるため、客付けにおいて高いスキルを持つ人材が在籍している企業の価値は高くなるでしょう。M&Aによってこのような人材を獲得できれば、営業力の大幅な向上が期待できます。
不動産管理業界でM&Aを行う際のポイント・注意点
ここでは、不動産管理業界でM&Aを実施する際のポイント及び注意点について解説します。
買い手の視点
優良な物件を保有しているか
買い手にとっては、買収候補となる企業が管理する物件について事前に知っておく必要があります。
不動産管理業において安定的にビジネスを継続するには、優良な物件を多数管理していることが重要です。もしモラルの低い住民が多い物件を抱えてしまうと、トラブル対応に費やす時間が増えることで業務がひっ迫し、結果的にM&Aが失敗に終わってしまうことも考えられます。
財務面での問題を抱えていないか
不動産管理業は物件を長い間管理していくことが求められるため、長期的にビジネスを継続できるだけの経営体力が必須です。そのため、M&Aの買収候補となる企業の財務状況には特に注意を払う必要があるでしょう。もし買収した企業が多額の負債を抱えていた場合には買い手企業の財務状況も悪化させる可能性があります。事前に財務諸表を確認したり、与信調査を実施するなどして財務面のリスクを見極めるようにしましょう。
売り手の視点
妥当な金額で売却できるか
一般的にM&Aは買い手が有利とされており、売り手の納得のいく形で売却価格が決まるケースは少ないといわれています。しかし、優良な物件を保有している、客付けに強みがあるなど他社にはない強みをアピールすることで価格交渉を有利に進められる可能性があります。M&Aにおける売却に当たっては、事前に自社の強みやアピール要素を棚卸しすることが重要です。
従業員の安定的な雇用につながるか
売り手としては残された従業員の雇用が買収後も確保されるのかについて気を配る必要があります。従業員がM&Aに対して不安を持ったままだと離職やモチベーションの低下につながるため、従業員に対しては買収によって働きやすい環境が実現されることなどを丁寧に説明する必要があるでしょう。
不動産管理業界のM&A事例3選
ここでは、不動産管理業界におけるM&A事例について、「商圏の拡大」、「新領域への進出」、「デジタル競争力の向上」という3つの観点で紹介します。
ハウスドゥによる京葉ビルドの買収(商圏の拡大)
不動産管理業者のハウスドゥは2018年に千葉県を拠点に展開する京葉ビルドをM&Aによって買収しました。これは同業種での買収であり、ハウスドゥにとっては千葉県内に新たに展開する足掛かりとして、京葉ビルドへのM&Aを実施したことになります。これによって、ハウスドゥは京葉ビルドの千葉県での顧客基盤を活用し、新たな商圏を獲得することとなりました。
フォーサイドによる日本賃貸住宅保証機構(新領域への進出)
投資用不動産を手掛けるフォーサイドは2017年に日本賃貸住宅保証機構をM&Aによって買収しました。フォーサイドにとっては、今回のM&Aを通して同じ不動産業界でも新たに不動産管理業に進出したことになります。日本賃貸住宅保証機構が持つ不動産管理のノウハウを活用し、迅速に新領域に進出することが可能になりました。
AMBITION(現・アンビションDXホールディングス)によるPC-DOCTERSの買収(デジタル競争力の向上)
東京都心のデザイナーズマンションの管理を中心に手掛けるAMBITIONは2018年にシステム開発事業を展開するPC-DOCTORSを買収しました。近年は入居者向けのアプリなど不動産管理の業界でもDXの波が押し寄せており、デジタル人材の確保が企業の競争力に直結するような状況となりつつあります。AMBITIONは、PC-DOCTORSの買収を通して迅速にデジタル分野での競争力を確保し、今後の事業拡大につなげていくものと予想されます。
まとめ
不動産管理業は入居者とオーナーの間に立って、住環境の整備と物件の資産価値向上を担う重要な仕事です。しかし、昨今は大手系列会社の台頭、後継者不足、人手不足により、中小事業者には苦しい状況が続いています。一方で、近年は後継者不足の解決手段としてM&Aが一般的になりつつあり、不動産管理業界でも事例が出てきており、今後もM&A件数が増えることが予想されます。本記事を通して、不動産管理業界におけるM&Aに関心を持っていただけると幸いです。