不動産取得を目的としたM&Aの現状
企業が所有する不動産を取得する場合、M&Aを利用する手法があります。不動産市場の先細りが懸念される中、後継者不在などの理由から廃業を考える事業者も現れています。ここでは、不動産取得のためにM&Aが行われる背景を見ていきましょう。
大手不動産企業の力が強くなり中小企業は厳しい状況に……
不動産業界は、耐震偽装事件の再発防止に向けた2007年の建築確認・検査厳格化に加え、同じ年に起こったアメリカのサブプライムローン問題、2008年のリーマンショックの影響も受けました。不動産業界は世界の金融問題の影響を受けやすく、こうした問題を乗り越えられる体力が求められています。
現在、これらの金融問題の影響は薄まりつつあるものの、少子高齢化の進展で空家問題が深刻化になるなど不動産市場の規模は縮小傾向にあります。中小の不動産会社の中には経営難に陥ったり、倒産したりするケースも増えている現状です。
事業継続や後継者問題を解決する動きの活発化
そうした危機的な状況の解決策として注目されるようになったのが、不動産M&Aです。経営者の高齢化や後継者不在で廃業を考える経営者も少なくない現状で、不動産M&Aを活用すれば不動産だけでなく、企業譲渡も円滑に進められる可能性があります。
国内の不動産業は業界再編の動きが活発化しています。そのような時流に乗って、事業や従業員ごと譲渡が図れる不動産M&Aは、譲渡側、譲受側双方にメリットの多い方法として選択されています。
不動産M&Aの基礎知識
不動産の取引を目的とする手法にM&Aを用いるのはなぜなのか、よくわからないという人も多いかもしれません。ここでは不動産M&Aとはどのようなものかということ、その対象について、不動産M&Aの基礎知識を詳しく解説します。
不動産M&Aは「不動産取得が目的のM&A」
不動産M&Aは、不動産の取得が目的であることから、企業自体や事業を対象とする一般的なM&Aと性質が異なります。
不動産M&Aでは、企業を買収し株式を取引することで、譲渡企業の不動産の権利ごと譲受企業に移転します。譲渡企業は不動産M&Aで企業を引き継いでもらえれば廃業の手間を省けるだけでなく、通常の不動産売買より税負担も軽減できます。不動産を取得することになった譲受企業も節税が可能なため、双方にメリットがある手法です。
対象は不動産以外も当てはまる
不動産M&Aは不動産を所有する企業のすべてが譲渡対象です。譲渡企業の株式、資産だけでなく、従業員も譲受会社へ引き継がれます。
ただし、譲渡企業が抱える負債なども譲受対象になるため、譲受企業は不動産M&Aの前に譲渡企業の経営状態もよく確認しておく必要があるでしょう。
不動産M&Aのメリット・デメリット【メリット編】
売り手と買い手のどちらにとってもメリットがあるのが不動産M&Aです。通常の不動産売買と比べてどのような点が有利なのか、譲渡、譲受双方の企業の観点で、さらに詳しく紹介します。
譲渡企業が得るメリット
譲受企業に事業を引き継ぐ譲渡企業にとって、手間ばかりかコストもかかる廃業手続きを避けられる恩恵は大きいといえます。また、不動産M&Aは通常の不動産売買より税制面でも優遇されます。
節税効果が大きい
通常の不動産取引と不動産M&Aでは、課税の仕組みが大きく異なります。通常の不動産取引で得た売却益には、約30%の法人税がかかります。
一方、不動産M&Aは株式譲渡益への約20%の所得税・住民税の申告分離課税で済みます。さらに、株式の譲渡益に対する法人税や消費税の課税はありません。そのため、不動産M&Aのほうが優れた節税効果を期待できます。
廃業コストがかからない
廃業コストは、設備や在庫の処分費用のほか、店舗や工場などの原状回復費などです。さらに不動産系の会社では、廃業となると不動産を低廉に処分しなければならないおそれがあります。不動産M&Aでは譲受企業に事業を丸ごと引き継ぐことも可能であるため、譲渡企業は費用をかけず事業から手を引けます。
事業の引き継ぎ手続きを省略できる
廃業を考えていた企業にとっては、不動産の売却とともに事業の清算の手続きが済ませられる点はメリットといえるでしょう。M&Aはプロに任せることも多く、全体的にサポートを受けられる点は安心感も生まれます。
譲受企業が得るメリット
不動産M&Aでは、譲受企業も不動産取引にかかる税金と取得費の削減が見込めます。大きなお金が動く不動産取引において、節税効果は小さくないといえるでしょう。
節税とコストの削減を見込める
通常の不動産取引では、登録免許税、不動産所得税、登記申請、印紙税、不動産登記にかかる費用などの経費がかかります。不動産M&Aを活用すれば、これらを支払う必要はありません。
不動産価格を抑えられる
不動産M&Aは譲渡側にとっても節税効果があるため、通常の不動産取引以上の売却益を見込めます。そのため、手取り計算を正確に実施し交渉次第では、譲渡企業が値引きに応じてくれる可能性もあるでしょう。
不動産M&Aのメリット・デメリット【デメリット編】
不動産M&Aには、譲渡企業、譲受企業の双方にデメリットが発生するケースがあります。これらを把握しておかなければ、あとでトラブルに発展しかねません。ここでは、譲渡企業側、譲受企業側に起こり得るデメリットを見てみましょう。
譲渡企業が負うデメリット
譲渡側のデメリットには取引自体が複雑になることや、条件の合う譲受企業を見つけにくいことが挙げられます。
不動産のみの売買より手続きが複雑で時間もかかる
不動産M&Aは不動産だけでなく、事業や企業などをまとめて譲渡することになるため、手間がかかります。成立までには半年~1年、場合によってはそれ以上となることもあるでしょう。売却を急いでいるケースでは、それがデメリットとなります。
買い手を見つけにくい
不動産M&Aは、譲渡企業の思いどおりの買い手がつくとは限りません。M&Aの譲受企業を見つけるのはそう簡単ではないうえ、多額の負債などを抱えている場合は譲受企業を見つけることがさらに難しくなります。
譲受企業が負うデメリット
譲受企業に想定されるデメリットは、譲渡企業の財務状況・損益状況によっては思わぬ出費を迫られるかもしれないという点です。新たな税負担が必要になる可能性も念頭に置くべき点といえるでしょう。
簿外債務などのマイナス要素を引き受ける可能性がある
譲受企業にとって必要なのは、譲渡企業の債務状況を正確に把握することです。負債や簿外債務などを含めた譲渡企業の価値を試算しておかなければ、不動産M&Aのリスクは増すことになります。
不動産含み益に対する税負担がある可能性も
取得した不動産の事業利益が多ければ、不動産から生み出されるに対して法人税、事業税などの税負担が生まれる場合があります。また、M&Aスキームとして株式譲渡以外のスキームを選択した場合、不動産の含み益に対して税負担が発生する可能性があることに注意しましょう。
不動産M&Aで発生する税金
不動産M&Aの取引では株式譲渡益課税を想定しておく必要があります。所得税などと仕組みが異なるため、税額をきちんと把握しておくことが大切です。ここでは株式譲渡益課税がどのようなものか、計算式もあわせて解説します。
不動産M&Aには株式譲渡益課税も
株式譲渡益課税の税額は、あらかじめ計算しておきましょう。株式の譲渡によって発生した所得は「上場株式等に係る譲渡所得等の金額」「一般株式等に係る譲渡所得等の金額」のいずれかに区分され、ほかの所得とは別に計算します。これが申告分離課税です。
株式の譲渡益は以下のように算定します。計算式は「総収入金額(譲渡価額)-必要経費(取得費+委託手数料等)=上場(または一般)株式等に係る譲渡所得等の金額」です。
譲渡価額は、償還、解約で発生した金銭も対象です。必要経費は株式の取得費や委託手数料を含みます。
また、株式譲渡益課税は譲渡益としての扱いで、税率は約20%(所得税15%、住民税5%)です。
(参考; 『No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)』)
詳細の額は専門家と計算しよう
株式譲渡に関係する税金の種類や計算は複雑です。「株式譲渡益×20%(所得税・住民税合計の税率)=所得税」の計算式はさほど難しくないものの、譲渡益からマイナスできる項目の確認などもしなければなりません。
また、譲渡益を想定するにも専門知識が必要になります。こうした時間的、精神的負担を軽減するためには、専門家と連携するのがおすすめです。
不動産M&Aの税金計算・仲介なら「M&A DX」がおすすめ!
不動産M&Aに関する税金計算は簡単ではなく、譲受企業がすぐに見つからないことも少なくありません。不動産M&Aにおける税金計算の専門家や仲介人をお探しのときは、株式会社M&A DXのM&Aサービスにお任せください。
さまざまな業界での実績をもつ、大手監査法人系M&Aファーム出身の公認会計士や税理士、金融機関出身者が多数在籍しています。
対象企業選定からデューデリジェンス(DD)まで一貫したサーピスを提供しているので、スムーズな不動産M&Aを実現できます。
(参考;『M&A・相続・事業承継のM&A DX』)
不動産M&Aを実施する際の注意点
不動産M&Aを実施する上では、多くの注意しておきたいことがあります。これらの点を押さえておかなければ損をする、トラブルになるなどの事態を招きかねません。ここでは譲渡企業、譲受企業の双方の観点から、不動産M&Aの注意点を説明します。
譲渡企業が注意すべきこと
譲渡企業の注意点は、会社の売却後に賠償トラブルにならないようにリスクを低減させておくことです。土地などの短期譲渡所得として約40%課税が発生することも知っておく必要があります。
賠償トラブルにならないようにリスクを低減させて手を引く
譲渡企業はのちに賠償トラブルにならないよう、リスクを低減させた上で手を引くことが大切です。会社に簿外負債があることを譲受企業に伝えていなかった場合、相手に損害を与えてしまう可能性があります。その結果、損害賠償を求められることもあるでしょう。そうした事態を回避するため、簿外債務の可能性がある場合はデューデリジェンス(DD)の段階などで早めに伝える必要があります。
短期譲渡所得としての課税の発生
不動産M&Aにおいても状況によっては土地の短期譲渡所得とみなされ、高額の税率が適用されることがあります。法人資産の70%以上が不動産の場合、または土地の所有期間が5年以下の場合です。この場合は40%の税率となることがあるため、不動産M&Aで期待するほどの節税効果は発揮されません。
譲受企業が注意すべきこと
譲受企業はデューデリジェンス(DD)を実施して譲渡企業がもつリスクを調査し、不動産M&Aの際に簿外債務等の想定していない追加的な負担を避けなければなりません。
デューデリジェンス(DD)の実施は必須
デューデリジェンスは、企業などの価値やリスクを調査することです。デューデリジェンスを実施していなければ、譲渡企業が抱えている簿外債務などに気づかないまま、それらを引き継がなければならなくなってしまう可能性があります。また、不動産M&Aの場合、取得したい不動産の収益性や時価の調査も必要です。
契約状況や未払いなど余分な支払いの発生
デューデリジェンスを行っている時点で、支払いが発生していないものの今後の多額の支払いが生じうる契約がある場合や未払いの残業代など簿外債務の支払いもありえるでしょう。これらは財務諸表には計上されていないため、きちんと調査しなければ見つかりません。
会社分割を活用した不動産M&Aの概要と流れ
不動産M&Aで利用されることが多いのが会社分割によるM&Aです。ここでは会社分割とは何か、譲渡までの流れに沿って解説します。
会社分割は組織再編手法のひとつ
会社分割とは、組織再編手法のひとつです。会社の事業の権利義務の一部またはすべてを切り離し、別の会社に承継します。
方法としては、会社を新規に設立し不動産や事業等を承継する新設分割、既存の会社に承継する吸収分割の2種類があります。会社分割の場合、条件を満たせば不動産所得税が非課税になります。この条件を満たすように会社分割をするのが一般的です。
新設分割で設立から譲渡するまでの流れ
新設分割をする場合の手順を解説します。不動産を所有させるための会社を新設します。
会社分割をする場合は、その対価を誰に対して割り当てるかで、分割型分割と分社型分割に分けられます。分割型分割とは、事業を承継した企業が対価として交付する株式を分割会社の株主に割り当てる方法です。分社型分割は、株式を分割会社に割り当てます。
会社分割で不動産所有会社となった会社を譲受会社に引き渡すことで、不動産M&Aが成立する流れです。
まとめ
不動産M&Aは不動産の取得、譲渡を目的としたM&Aで、不動産売買の手法として双方にメリットがあります。もっとも大きなメリットは節税効果といえるでしょう。
一方で、時間がかかる、マイナス要素も引き受けなくてはならないなどのデメリットもあるため、自社のケースが不動産M&Aに向いているかを判断する必要があります。
また、譲渡企業の財務状況などを適切に把握していなければ、譲受企業が簿外債務など支払い義務を負うことになってしまいかねません。
そのような不安を回避したい場合は、株式会社M&A DXのM&Aサービスにお任せください。デューデリジェンス(DD)を通し、簿外債務など財務諸表に表れないリスクも調査し、安心して実行できる不動産M&Aをサポートします。