リストラクチャリングとは
リストラクチャリングとは、事業の再構築・再編成のことです。略して「リストラ」とも呼ばれ、不採算部門の事業縮小や統廃合、撤退などを指します。
日本でリストラといえば「人員削減」の意味で捉えられますが、それはリストラクチャリングの一部でしかありません(人員削減のリストラクチャリングを「人事リストラクチャリング」と呼びます)。不採算事業の改善には「事業リストラクチャリング」や「業務リストラクチャリング」「財務リストラクチャリング」があり、人事リストラはこれらリストラクチャリングの手段の1つです。
実際に海外では、人事リストラクチャリングに限定せず、広義的に不採算事業の立て直しを「リストラクチャリング」と捉えています。
リエンジニアリングとの違い
リストラクチャリングと同じような意味の用語で「リエンジニアリング」があります。リエンジニアリングとは、既存の業務管理方法や業務プロセスを根本的に見直し、変更することです。
リストラクチャリングとリエンジニアリングは、どちらも事業の改革を進める点で一致していますが、リストラクチャリングは事業全体の改革を図るのに対し、リエンジニアリングは細かな業務の管理方法やプロセスを改善する点で違いがあります。
3種類のリストラクチャリングと具体的な内容
リストラクチャリングには、3つの種類があります。次から、それぞれの具体的な内容を紹介します。
①事業リストラクチャリング
事業リストラクチャリングとは、不要な事業を売却・廃止などすることにより、事業の立て直しを図ることです。事業の選択と集中により、複数の事業を行っている企業が不採算事業を見極め、各事業を改善することにより、キャッシュフローの改善を目指します。
たとえば、事業リストラクチャリングでは「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)」という手法を用います。PPMとは、企業が複数展開する製品・事業の組み合わせの位置づけを分析し、資源配分の最適化を行う手法です。PPMでは、自社の事業を「花形」「金のなる木」「問題児」「負け犬」の4つに分類して、事業ごとに追加投資や撤退などを検討します。
②業務リストラクチャリング
業務リストラクチャリングとは、売上の向上や売上原価の低減、経費の削減などによって、営業利益の拡大を図ることです。人員削減によってコストを削減し、営業利益の改善を図る「人事リストラ」も、業務リストラクチャリングに含まれます。
新規事業の開発や広告宣伝などによる売上の増加、生産体制や仕入れ先の見直しなどによる商品原価の低減、人員削減やアウトソーシングの活用などの経費削減、これらすべて業務リストラクチャリングに該当します。このように業務リストラクチャリングは、企業が常に取り組んでいる内容といえます。
③財務リストラクチャリング
財務リストラクチャリングとは、貸借対照表上の無駄な数字を削減し、効率的な財務内容への改善を図ることです。財務リストラクチャリングには、「アセット・リストラクチャリング」「デット・リストラクチャリング」「エクイティ・リストラクチャリング」の3つのリストラクチャリングがあります。
アセット・リストラクチャリング
アセット・リストラクチャリングとは、企業再生を行うために資産を整理することです。手法としては、事業譲渡や会社分割などが用いられます。
たとえば、事業に必要ない資産(遊休資産)を他社に事業譲渡することで、資金を得ることができ、かつ固定資産税など税金面のコストを削減できます。
デット・リストラクチャリング
デット・リストラクチャリングとは、債務を整理または再構築することです。主な手法としては「債権放棄」や「DDS(デット・デット・スワップ)」「DES(デット・エクイティ・スワップ)」「DPO(ディスカウント・ペイオフ)」「リスケジュール」などがあります。
たとえば、資金繰りが苦しい会社が金融機関に交渉し、返済計画を見直してもらうことで、一時的にキャッシュフローを改善できます。
エクイティ・リストラクチャリング
エクイティ・リストラクチャリングとは、事業再生などの局面で、資本構成を大きく変えることです。主な手法としては、全部取得条項付株式の発行や株式の併合、DESなどがあります。
たとえば、過剰債務に陥った会社が、債務との交換で株式を発行することで再建を図ることができます。
リストラクチャリングの目的
リストラクチャリングの手法は多岐にわたりますが、それぞれに目的があります。次から、リストラクチャリングの目的を解説します。
キャッシュフローの改善
リストラクチャリングの目的の1つに、キャッシュフローの改善があります。不動産や事業、有価証券などの資産を売却して、キャシュフローの改善を目指します。
ほかにも、人事リストラの人員削減や、仕入れ先変更などのコスト削減により、営業利益を増加させ、利益体質を改善する狙いもあります。
主力事業への集中
リストラクチャリングには、複数の事業の中から特定の事業を選択し、その事業に資金や人材などを集中する「選択と集中」という目的があります。
たとえば、一部の不採算事業の売却や撤退などによって、経営資源をより主力事業へ集中できる体制をつくることができます。業績が悪い事業を手放して、業績がよい事業のみに集中できれば、営業利益を改善できる可能性があります。
経営の効率化
リストラクチャリングの一環として、投資を抑えるために一部の業務をアウトソーシングしたり、シェアサービスを導入したりすることがあります。このような施策は、経営の効率化を図ることができます。
前述の選択と集中と被る話ではありますが、アウトソーシングやシェアサービスなどを活用することにより、人材をより重要な自社事業に専念できるのがリストラクチャリングの利点の1つです。
リストラクチャリングの3つの事例
実際に過去、日本企業でリストラクチャリングが実行された例を3つ紹介します。
①東芝
2015年の不正会計問題、その後の米原発子会社の巨額損失などの発端に、東芝はアセット・リストラクチャリングとしての会社分割を検討しています。東芝は当初、グループ全体を3分割する予定でしたが、東芝本体にインフラ事業を残しつつ、デバイス事業を分離する2分割案に修正しています。
なお、会社分割については株主の反対などもあり、実施は困難を極めています。
②日立製作所
2021年、日立製作所は資金調達や財務などの本社機能の一部を、買収した海外企業に集約するリストラクチャリングを打ち出しました。大胆なリストラクチャリングによって大幅なコスト削減を実現し、2021~25年度で累計1000億円分の収益改善を目指すとしています。
③カネボウ
カネボウは会社設立以降、化粧品や薬品、食品など多角的な事業を行ってきましたが、事業性や収益性が異なる事業が1つの企業に集中しており、競争力を失っていました。競争力が小さい企業への資金流出や赤字補填の負債、さらには粉飾決算などが重なり、2003年度決算で約3500億円の債務超過が明らかになります。
そこで、産業再生支援機構の支援を受け、化粧品事業を他の事業部門から切り離し、独立させるリストラクチャリングを実施します。そこで、新たに設立されたカネボウ化粧品に対し、産業再生支援機構が860億円の支援によって財務体質の改善を図りました。
その後、2006年に花王がカネボウ化粧品を買収し、現在に至ります。
リストラクチャリングの注意点
リストラクチャリングはメリットばかりではなく、当然注意点があります。リストラクチャリングを進める際、特に注意したい点を3つ紹介します。
従業員のモチベーションが下がる恐れがある
リストラクチャリングによってキャッシュフローや営業利益などを改善できる一方、従業員のモチベーションが下がり、退職を招く恐れがあります。
たとえば、人事リストラで従業員の解雇を実施した場合、残された従業員にとっては会社の将来性に不安を感じるものです。そのため人事リストラによって、会社が残したかった優秀な人材も流出してしまう可能性があるのです。
そのため、従業員への影響を考慮しつつ、慎重にリストラクチャリングを進める必要があります。
一時的に資産が減少する場合がある
リストラクチャリング、特に人事リストラによって一時的に資産が減少し、キャッシュフローが悪化するケースがあるので注意しましょう。
人事リストラによって社内から早期退職者を募集する場合、退職金を支払うために一時的に資産が減少する可能性があります。特に大規模な人事リストラを実行する場合は、積み立てた退職金を把握・整理したり、前もって退職金をどのように捻出するのか検討したりする必要があります。
ただし、一時的に資産が減少するものの、長期的に見れば固定支出が減るため会社にとってプラスに働くことが期待できます。
成長事業を阻害する可能性がある
リストラクチャリングによって自社の事業を切り離すということは、つまりその事業が成長する可能性を放棄することです。たしかに、自社にとって不要とも思える資産を切り離すことができ、資産を手に入れられる利点がありますが、その事業が今後成長する可能性があります。
リストラクチャリングによって自社事業を手放す際は、本当に今切り離すべきなのか、今後成長する見込みはないかなどを慎重検討する必要があります。
リストラクチャリングとは?具体的な内容やメリット・デメリットなど まとめ
リストラクチャリングとは、事業の再構築や再編成のことです。主に、不採算事業を改善する目的で使用される手法です。
リストラクチャリングには「事業リストラクチャリング」や「業務リストラクチャリング」「財務リストラクチャリング」があります。自社の課題を明確にし、最適な手法を講じるようにしましょう。