TOBの手続きを行う4つの手順
最初に、TOBを行う際の4つの手順を確認します。TOBの手続きの流れを知るにあたって、提出すべき書類に焦点を当ててじっくりと確認していきましょう。また、TOBを中止する場合の手続きについてもお伝えします。
1.公開買付開始公告と公開買付届出書の提出を行う
TOBの実施にあたり、買付側の企業名や代表者名、企業所在地、買付の目的と買付予定価格、買付予定株式数、買付の期間、買付終了後に株主がもつ所有比率などをまとめて公開する必要があります。これを「公開買付開始公告」といい、金融庁が管理する電子情報開示システム「EDINET」を使った電子公告、あるいは新聞掲載という形で告知することが決まりです。
公開買付開始公告を行うと、その公告日に買付側の企業は内閣総理大臣に向けて、公開買付届出書及び添付書類を提出することとなります。公開買付届出書には、公開買付の目的、価格、買付予定株式数、期間のほか内閣府令で定める事項を記載します。管轄財務局及び証券取引所等において公開され、EDINETでも閲覧できます。
2.対象会社は意見表明報告書の提出と回答を行う
買付対象企業の経営陣は、公開買付公告日から10営業日の間に、内閣総理大臣に向けてTOBに対する意思表明報告書を提出する義務が生じます。また、報告書の内容は金融庁の電子開示・提出システムEDINETを通じて電子提出することが義務づけられており、一般投資家も閲覧できるようになります。同書類は、その写しを買付側企業へ送付します。
この書類では、買付に対して賛同するか否かという会社の方針を示すことが可能です。買付側に対してTOBに関する質問を記入することもでき、買主はこれに対して5営業日以内に内閣総理大臣へ回答を提出する義務があります。これは買付をされる株券等の発行者による、TOBに関する意見の開示をすることで、双方の立場と意思を明確にし、株主を保護するとともに、証券市場の信頼性を確保することに意義があると言えます。
3.公開買付説明書の交付をする
買付側の企業は、公開買付届出書をベースにし、それに公益あるいは投資家保護という観点で、応募株主等に対して「公開買付説明書」を作成し、交付します。
株主は、公開貸付説明書の内容を確認しながら、当該株式を買主側企業に売却するかどうかを検討することもあります。また、この書類は株主や関係者以外にも広く公開されます。証券会社などでは過去の公開貸付説明書を無料で公開していますので、どのような内容か実際に確認してみることもおすすめです。
4.公開買付報告書を提出する
買主側は、公開買付期日最終日の翌日中に、公開買付の成否、買付等を行った株式数などを報告書に記載し、EDINETを通じて内閣総理大臣宛に電子提出する義務があります。また、この報告書をもって、TOBの結果を外部へ公表することになるのです。
公開買付を撤退したい場合は公開買付撤回届出書の提出を行う
すでに公開買付開始を公示した後にTOBを中止しなければならなくなった場合、公開買付撤回届出書を提出しなければなりません。
公開買付撤回届出書が受理されると公開買付そのものを白紙に戻せますが、撤回が認められるためには金融商品取引法に定められた事由でなければなりません。(法定の撤回事由には、公開買付開始公告及び公開買付届出書に撤回をする条件を記載していた場合に撤回事由となるものと、記載していなくとも撤回事由となるものがあります。)公開買付の撤回は自由に行うことができないのです。
撤回理由として認められるものの例として、買付を前に対象会社が倒産したり、災害など不測の事態が起きたことが原因で多大な損害を受けたりした場合などが挙げられます。
既存株主のTOB応募手続き
TOBは買付をする側の企業と対象企業間だけではなく、対象企業の株主も含めたM&Aになります。TOBの対象となった企業の株主はその株式をどのように扱うべきか対応を決めなければなりません。既存株主がTOBへの応募を行う場合にはどのような手続きを行うのか、証券会社の口座がない場合なども例に挙げて詳しく解説します。
TOBへの対応を決める
TOBが行われる場合、株主にはTOBに応じて株式を売却するか、通常の取引市場で株式の売却を行うか、あるいは株式の保有を継続するかという3つの選択肢があります。TOBに応じる場合は、公開買付応募申込書の提出が必要です。
TOBでは市場の株価に対してプレミアム(付加価値)が付けられて買い付けることが多いため、株式市場で売却するよりも高値で手放せることがあります。市場で売却する場合はTOBへの反対を表明することはできますが、売却価格は市場の株価と同値となります。
対象企業の株式を、売却せずに保有するという選択もあります。ただし、TOBが実行されると対象企業は上場廃止となる場合もあり、そうなった場合には市場で売買することはできなくなり、スクイーズアウトを用いた換金となる可能性がある点は認識しておきましょう。
買付先証券会社の口座を保有状況次第で対応が変わる
TOBに応募する場合は、まず公開買付代理人である証券会社に口座開設を行います。指定された証券会社の口座をもっている場合は、特別な手続きの必要はありません。口座を開設すると、証券会社から公開買付応募申込書と公開買付説明書を受け取ります。公開買付応募申込書に必要事項を記し、期日までに提出しましょう。
TOBが必要となる仕組みとツール
株式を取得する際にはいくつかのルールがあり、これを守らなければなりません。TOBに関してとくに覚えておくべきなのは、義務的公開買付・5%ルール・1/3ルールと呼ばれる3つの条件です。この項目では、これらの条件について解説します。TOBに臨む際の注意点として把握しておくべきことばかりですので、確認しておくことをおすすめします。
公平性を保つための義務的公開買付が定められている
一定規模の株式等の買取りにおいて、法律により公開買付け(TOB)の実行を義務付けられる買付のことを、「義務的後悔買付」といいます。
膨大な量の株式が一気に売買されると、会社の支配権や経営権、株価などに大きな影響が生じる可能性があります。特定の株主のみを優遇したり、不透明な取引が行われたりする危険性もあります。そこで金融商品取引法では、情報の適切な開示と株主間の取扱いの平等性を確保するため、公開買付を行うよう求められます。
5%ルールに該当する場合
株式の買付によって、対象企業の発行済株式のうち5%を超過する場合には、原則としてTOBによって買付を行わなければなりません。これが「5%ルール」と呼ばれるものです。これ以上の株式が一気に動く場合は、株価や経営そのものにおよぶ影響が大きいとみなされます。
ただし例外として、著しく少ない株主からの買付を行う場合は、5%を超過する株式を買付する場合でも、TOBによらなくても買付を行うことができます。すなわち、買付けを行う相手方の人数と、買付実施日前の60日以内に証券市場外にて買付けを行った相手方の人数を合わせた人数が合計10人以下の場合には、TOBを行う義務はありません。
1/3ルールに該当する場合
株式の買付後に、対象企業の株式所有割合が1/3を超える場合も、TOBを行わなければなりません。これが「1/3ルール」と呼ばれています。たとえば、著しく少ない人数の者からの買付であっても、株式所有割合が1/3を突破するケースでは公開買付が必要です。これは、株主総会の特別決議は3分の2の賛成で可決されるので、3分の1以上株式を保有すると特別決議をいつでも否決するのが可能になるためです。
立会外取引などにおいても同様であり、所有割合が1/3以上になる場合は公開買付が必須となります。株式を大量に取得する際には所有割合に十分な注意を払い、ルールに則った売買を行うことが大切です。
TOB手続き前の2つの注意点
TOBにおいてとくに注意しておいたほうが良いのは、前述した5%ルールと1/3ルールの2点です。ただし、それ以外にもいくつか注意を払うべきポイントがあります。具体的な注意点を2つ取り上げて解説を行いますので、TOB実行前に、確認しておきましょう。
持ち株比率の高さによる影響を考慮する
持ち株比率が高くなるにつれて、株主の発言権が強くなることに加え、会社の重要な事項を決定する力も強まります。そのため、持ち株比率の高さを考慮して実行しましょう。基準となる株式持ち分比率は以下のようになります。
・1/3以上(特別決議の単独否決が可能になる)
・1/2以上(普通決議への単独可決が可能になる)
・2/3以上(特別決議への単独可決が可能になる)
51%以上、あるいは33.4%以上の買付を目指すTOBが多い理由は、こういった事情があるためです。
友好的TOBでも失敗となることも
敵対的買収は双方の経営陣と株主を巻き込んだ騒動となる場合が多く、スムーズに決着させることが困難です。それでは相思相愛の友好的TOBならば確実に成立するのかというと、失敗するケースもあるという点に注意しなければなりません。
双方の思惑が一致していたとしても、この動きを見た競合他社が参入し、対象会社のTOBを成立させてしまう場合もあります。TOBを成立させるためには、あらゆる点で気を抜かず、信頼のおけるM&Aアドバイザーの活用がおすすめです。
ディスカウントTOB
ディスカウントTOBとは、「ディスカウント」という名の通り、市場価格よりも低い価格でTOBを実施することです。経済合理性が無いディスカウントTOBが成立する理由についてお伝えします。
市場価格より低い価格でTOBをすることにより、特定の株主から株式を買取ることができます。あらかじめ株式の売買について双方合意している場合がほとんどです。
買収側A社が被買収側B社の親会社C社からディスカウントTOBでB社株式を買い受ける事例を考えてみます。C社には市場価格より安くなるかわりに確実にB社株式を手放せるメリットがあり、A社には市場より安く株式を取得できるメリットがあります。この事例では、一般株主も株式を持ち続けるため、B社は上場廃止となりません。
以上の理由からディスカウントTOBは少数株主の排除、上場基準の維持をするためには非常に有効な手段となっています。
TOBが実施された事例
最後に、過去に実際に実施されたTOBの事例をご紹介します。TOBは意外にも身近なところで活発に行われているM&A手法であることを改めて認識しておきましょう。この項目では、近年注目の集まったTOB事例について、各企業が買収に打って出た理由や結末について簡単に解説していきます。
コロワイドによる大戸屋ホールディングスへの敵対的TOB
外食大手の「コロワイド」は、大手飲食チェーン「大戸屋ホールディングス」の株式を19%保有する大株主でした。大戸屋は業績不振が続いており、コロワイド側からセントラルキッチンの導入を提案され、これを拒絶したことを機にTOBが実施されることになります。
TOBは2020年7月10日から行われ、8月25日までに全株式の45%以上の取得が目的とされてきました。目標の株式数に届かず、買付予定数の下限を40%に引き下げた上で9月8日までTOBの延長を行い、市場価格よりも46%高い提示価格で買付を続けた結果、47%程度の株式取得に成功したのです。
大戸屋側の反発は強く、従業員の退職も相次いでいるとの噂もあります。しかし約47%の株式を握るコロワイドに対抗することは難しい状況であり、典型的な敵対的買収の成功例となる見込みです。
伊藤忠商事によるファミリーマートへのTOB
大手総合商社の伊藤忠商事は、大手コンビニチェーンであるファミリーマートへのTOBを2020年7月に開始、翌月に成立しています。これにより伊藤忠商事はファミリーマートが発行する全株式を取得し、65.7%を保有することに成功したのです。
この合意にともない、グループ企業間による連携や、伊藤忠商事が得意とするJAグループとの連携により、革新的な商品開発が行われることが期待されています。
ZホールディングスによるZOZOへの友好的TOB
大手ITソフトバンク傘下のZホールディングスは、2019年9月、大手衣料品通販サイト「ゾゾタウン」を運営するZOZOへのTOBを行っています。これは友好的TOBの代表的な例で、孫正義社長と前澤友作社長が笑顔で写真撮影に応じたシーンも話題になりました。
このTOB成立によって、ZホールディングスはZOZOの発行済株式のうち50.1%を取得することに成功し、子会社化しています。ZホールディングスがTOBに投じた資金は約4,000億円といわれ、これは近年でも稀に見る大規模な取引です。
同じくソフトバンクグループ傘下のYahoo!が運営する「PayPayモール」にゾゾタウンの出店が決まるなど、すぐに大きな変革が見られています。両社の強みを生かし、相乗効果を発揮するTOBとして注目に値する事例です。
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TOBを成立させるためには、企業経営としてのノウハウだけではなく、事前段階からさまざまな手続きを行うことも重要なポイントになります。友好的TOBだとしても失敗に終わるケースはゼロではありません。
TOBをスムーズに成立させるためには、株式会社M&A DXのM&Aサービスのご利用がおすすめです。M&A DXには、ベンチャーから上場企業まであらゆる会社のM&Aを実現させた実績があり、TOBの知識・経験も豊富なメンバーが揃っております。
公認会計士や、税理士といった有資格者を中心に、TOBに関する手続きを全力でサポートします。。TOBをご検討の方は是非M&A DXへご相談ください。
まとめ
TOBは、主に上場企業が対象企業の経営権の取得を目的に買付を行うM&Aです。TOBは対象企業の同意や賛成がなくとも実行が可能であるため、敵対的買収・友好的買収の2パターンがあります。
TOBに関わるご相談は、経験が豊富な株式会社M&A DXまでご連絡ください。M&A DXではM&Aをワンストップでご提供しており、TOBに欠かせない法律上の手続きを含め、経営者をサポートします。
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