そもそも世帯や世帯主とは?
最初に、基本的な言葉の定義を確認しておきましょう。
「世帯」とは、「住居および生計を共にする者の集まり」のことです。「集まり」とありますが、単身者の場合は、1人だけで世帯になります。
「世帯主」とは、年齢や所得にかかわらず、世帯の中心となって物事をとりはかる者として世帯側から、役所に報告された人のことです。いわば、役所に対して届け出る「家族の代表者」です。
複数人で構成される世帯の場合、一般的には、収入の多い男性が世帯主になる場合が多いと思われますが、誰が世帯主になっても構いません。
世帯主は15歳以上であれば、収入や続柄に関係なく各世帯で自由に決めることが可能となっています。専業主婦(専業主夫)や高校生といった未成年者でも世帯主になることができるのです。
世帯主が死亡したら、原則的に世帯主変更届を提出する
世帯主が死亡したときは、原則的に「世帯主変更届」を居住地の市区町村役場に提出する必要があります(例外は後で述べます)。世帯主変更届の提出は住民基本台帳法に定められている義務であり、正当な理由なく無視し続けた場合には、5万円以下の過料が課される可能性がある点に注意しましょう。
世帯主変更届は死亡届けと一緒に提出するのが一般的
家族が死亡した際には、深い悲しみなどの精神的負担の上に、様々な事務手続きが押し寄せます。慌ただしく過ごす中で、必要な手続きを忘れないコツは、同タイミングで行える手続きがある場合には一度に行ってしまうことです。
世帯主変更届は、死亡届とセットで提出すると、忘れにくいでしょう。
死亡届とは、人が死亡した場合、7日以内に役所に提出しなければならない書類です。提出と引き換えに火葬許可証を発行してもらう流れになります。葬儀を進めるためには必要不可欠な書類であることから、死亡届については葬儀会社が代理で提出してくれることもあります。
世帯主変更届については葬儀会社が行う慣習はありませんが、死亡届と一緒に代理してくれる場合もあります。確認してみましょう。
世帯主変更届の基本情報
世帯主変更届は、現世帯主が死亡した際に次の新しい世帯主を登録するための手続きです。
提出はいつでも良いというわけではなく、死亡後14日以内に居住地の市区町村役場へ提出しなければなりません。
この届けを提出できるのは新しい世帯主に限られず、世帯員や代理人での提出が可能です。同世帯内の家族であれば委任状も不要です。ただし、葬儀会社や友人などの同世帯外の人が代理する場合には、委任状が必要になります。
提出する際には本人確認が行われるため、免許証やマイナンバーカードなどの本人確認書類を持参します。健康保険証や年金手帳など顔写真が付いていない書類の場合には、2点見せる必要があるため注意しましょう。
現在の市区町村役場では、印鑑レスが進んでいるため不要な場合がありますが、念のため、印鑑も持参しておくと安心です。認印で問題ありませんが、シャチハタは避けましょう。
▼図表 世帯主変更届の提出まとめ
提出できる人 | 新世帯主・世帯員・代理人 |
提出先 | 居住地の市区町村役場 |
提出期限 | 死亡後14日以内 |
必要書類など | ・世帯主変更届 |
・本人確認書類(免許証、マイナンバーカード、パスポートなど) | |
・印鑑(認印可) | |
・委任状(代理人の場合) |
世帯主変更届が不要なケース
世帯主が死亡した場合であっても、世帯主変更届を提出する必要がないケースもあります。
世帯主変更届は、「15歳以上の世帯員が3人以上いる世帯の世帯主が死亡した場合」に提出すると覚えておけばいいでしょう。
上記以外の場合は、新たな世帯主が明らかなので、世帯主変更届を提出する必要がないのです。具体的には次のようなケースです。
1人暮らしで世帯に誰もいなくなる場合
1人世帯の世帯主が死亡した場合、その世帯には誰もいなくなり世帯そのものが消滅するため、新しい世帯主を届け出る必要がありません。
例えば、実家で1人暮らしをしていた父(母は既に死亡しており子は結婚して独立したケース等)が死亡した場合には、1人世帯の世帯主が死亡しているため、子が世帯主変更届を提出する必要はありません。
また、親元を離れて1人暮らしをしている学生などでは、住民票が実家のままになっているケースもよくあります。このような人が死亡した場合は、そもそも世帯主ではないので、世帯主変更届提出は不要です。
15歳以上の2人世帯だった場合
2人世帯の世帯主が死亡した場合には、その世帯は1人世帯になるため、自動的に残された人が世帯主になります。
例えば、子供が独立した老夫婦や、親と子の2人暮らしの場合などです。
3人世帯だが1人が15歳未満の子供だった場合
3人世帯で、そのうち子供1人が15歳未満だった場合には、世帯主が死亡した後に世帯主になれる人は残された大人の1人しかいません。この場合も、その大人の人が自動的に世帯主になるため、世帯主変更届を出す必要がありません。
例えば、夫婦と14歳の子の3人家族であれば、夫婦の残された方が自動的に世帯主になります。
3人世帯だが1人が15歳未満の子供だった場合
3人世帯で、そのうち子供1人が15歳未満だった場合には、世帯主が死亡した後に世帯主になれる人は残された大人の1人しかいません。この場合も、その大人の人が自動的に世帯主になるため、世帯主変更届を出す必要がありません。
例えば、夫婦と14歳の子の3人家族であれば、夫婦の残された方が自動的に世帯主になります。
世帯主変更手続きの流れ
世帯主変更届を実際に提出する際の流れを解説します。特に難しいところはありません。
世帯主変更届に記入する
まず、世帯主変更届を作成します。各自治体で名称や様式が異なりますが、「世帯主変更届」や「住民異動届」といった名称が多いです。
様式は各市区町村役場に置いてあります。わからなければ、窓口で世帯主死亡の旨を伝えて応じた様式を受け取りましょう。
また、ホームページからダウンロード出来る自治体もあります。印刷をして事前に記入してから持参すれば、役場で記入する時間を要さず効率的です。
例として、江戸川区の住民異動届を紹介します。
この様式の場合には、転入や転居などと共通の様式になっているため、ごちゃごちゃした印象を受けますが、記入する箇所は少しです。
どちらかというと、このような共通様式を採用している市区町村役場の方が多いようです。
まずは、「窓口にきた人の氏名」、「電話番号」、「窓口にきた日」を記入しましょう。
次に「異動者との続柄」の該当番号を丸で囲みます。代理人の場合には3になり、その下部分の「3の方についてご記入ください」の欄も記入します。「異動年月日」は死亡日になります。
そして、「世帯主」の「これから」に新しい世帯主の氏名、「いままで」に死亡した世帯主の氏名を記入します。「異動者氏名」の1~4には、新しい世帯主を含めた世帯員全員の必要事項を記入してください。
少しでも分からない箇所があれば、遠慮なく窓口で確認しましょう。よくわらないまま記入して何度も修正が出るよりも、職員に聞きながら記入した方が、お互いに楽です。
委任状の作成
世帯主変更届を代理人が提出する場合には、委任状が必要になるため、あわせて準備しましょう。
委任状の形式は、市区町村役場によって、決まっている場合もあります。形式が決まっていない場合には、市区町村役場にどういった事項の記載が必要なのか、ご確認ください。概ね、次の必要事項の記載を求められるでしょう。
・委任の年月日
・委任者と受任者の住所、氏名、電話番号
・委任の内容
・押印
インターネットで「委任状 テンプレート」などと検索すれば、たくさんヒットするので、好みのものを選んで印刷して利用すればいいでしょう。
また、市区町村役場にも委任状の様式は置いてあるため、記入漏れなど心配な場合には、これを入手して利用しましょう。
窓口に提出
世帯主変更届の記入が完了したら、市区町村役場の担当窓口に提出します。戸籍課や市民税課などが多いですが、分からない場合には総合窓口で確認して案内してもらいましょう。
本人確認を求められたら、持参した本人確認書類を提示します。
また、自宅で書類一式を作成した場合であっても、修正があった場合に備えて印鑑を持参しておくと安心です。
世帯主の健康保険手続きも忘れずに
人が死亡した際には、国民健康保険と社会保険のいずれでも、資格喪失届と保険証の返還が必要となります。
特に国民健康保険は世帯ごとに登録する制度であるため、世帯主が死亡した際には、次の世帯主へ納付義務を移さなければなりません。手続きには、次のものを持参しましょう。
・国民健康保険資格喪失届
・世帯全員分の国民健康保険証
・印鑑
これらの手続きは、世帯主変更届と一緒に手続きしてしまうのが効率的でおすすめです。自治体によっては、死亡届と同時に資格喪失手続きが行われる場合もあるため、事前に確認しておきましょう。
なお、会社員などが加入している社会保険の場合には、手続き先は市区町村役場ではなく世帯主の勤務先になります。通常は、勤務先の会社が手続きを進めてくれます。世帯員側は、保険証を勤務先へ返還することになります。
残された家族が扶養に入っていた場合には、自身の手続きも必要
亡くなった世帯主が社会保険に加入していて、家族が世帯主の扶養家族になっていた場合、世帯主が死亡すると、その健康保険証は無効になるため、家族自身の健康保険手続きも必要になります。
具体的には、家族が自分自身で国民健康保険に加入するか、または、他の家族の扶養に入るかどちらかの手続きです。
なお、国民健康保険には、もともと扶養という概念はなく、加入する必要がある家族全員が個人で加入しているため、世帯主等を書き換えた健康保険証が発行し直されることになります。
世帯主が年金受給者だった場合の手続き
世帯主に限ったことではありませんが、死亡した人が年金受給者だった場合には、年金の受給を停止するため、「受給権者死亡届(報告書)」を年金事務所または年金相談センターへ提出します。
ただし、日本年金機構にマイナンバーが登録されている人については提出を省略できる場合がありますので、年金事務所に電話確認してみると良いでしょう。
厚生年金受給者だった場合には死亡後10日以内、国民年金受給者だった場合には14日以内が期限となっています。
期限内に届出をせずに死亡後の期間についての年金も受け取ってしまうと、それは不正受給になります。最悪の場合、詐欺罪で逮捕される可能性もあるため十分に注意しましょう。
世帯主変更届以外の必要手続き
世帯主が死亡した場合には、世帯主変更届の提出以外にも、必要な手続きがあります。
世帯主に限ったことではありませんが、世帯主が死亡したら、医師から死亡診断書を発行してもらいます。この死亡診断書と死亡届は1枚の用紙になっていますので、遺族が死亡届の必要事項に記入をして、死亡日から7日以内に市区町村役場に提出をします。
死亡届を市区町村役場に提出する際に、遺体を火葬するための火葬許可書の申請も行ってください。発行された火葬許可書を受け取り、火葬場に提出して火葬を行うことになります。火葬が終われば火葬場から火葬証明書が発行されます。火葬証明書は、遺骨をお墓や納骨堂に納めるときに提出します。
なお、死亡届の提出や火葬許可書の申請は、葬儀屋が代行して行うことが一般的です。
また、世帯主が亡くなった場合は、電気ガス水道等のライフライン等の名義変更や解約手続きも必要となります。
亡くなった世帯主が所有していた相続財産については、遺言がある場合には遺言に従い、遺言がない場合には遺産分割協議を行ったうえで、不動産の相続登記、預金の払い戻しなど、相続手続きが必要となります。
相続税が課せられる場合には、相続税申告も必要となります。
まとめ
私たちが普段暮らしている中で、世帯主という制度を意識する場面は、ほとんどないでしょう。そのため、世帯主が死亡した場合に、それを変更する届け出が必要であるということ自体が、意識に上らないかもしれません。
しかし、「15歳以上の世帯員が3人以上いる世帯の世帯主が死亡した場合」には、新しい世帯主を登録するために世帯主変更届を提出することは、法律上の義務であることは、覚えておきましょう。死亡後14日以内という期限にも注意してください。