相続手続きには期限がある?期限ごとに手続きの内容を紹介

税理士 安江一将

会計コンサルティング会社・税理士法人及びベンチャー企業2社に勤務。会計コンサルティング会社・税理士法人では税務顧問・税務申告のほかに、事業承継支援業務、組織再編業務、IPO支援業務、M&A業務を数多く実行。ベンチャー企業では管理部長・経営企画室を歴任し、上場のための体制構築・実行支援を推進する。大手コンサルティング会社名古屋支社副支社長を経て2019年8月に安江一将税理士事務所として開業した後、さらにM&A業務を推進することを目的として株式会社M&A DXに参画し、現在に至る。

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相続の際は様々な手続きがあり、それぞれ期限が設定されています。期限を過ぎてしまうと、ペナルティが発生する場合もあります。

そこで、今回は相続時の手続きを期限ごとに分けて解説します。相続する際に、手続き漏れがないか不安に感じている方はぜひ参考にしてください。

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本記事のポイント

  1. 相続人で手続きの期限がいつまでなのかを知りたい方向けの記事です。
  2. 期限ごとに分けて、どのような手続きがあるのかを丁寧に解説しています。
  3. 各手続きの内容も詳しく解説しているので、今後相続する際にどのような手続きを踏まなければいけないのかを知りたい方向けの記事にもなっています。

相続に関する期限とは

相続手続きには期限がある?期限ごとに手続きの内容を紹介

相続は死亡により発生し、財産を相続する人は様々な手続きを行う必要があります。ここからは、亡くなった方を「被相続人」と呼び、被相続人が遺した財産を相続する権利を持つ方を「相続人」と呼びます。

期限のある相続の手続きと期限のない相続の手続きがある

相続手続きには、期限が定められているものとないものがあります。期限のある手続きの代表例は、限定承認や相続放棄、相続税の申告・納付などです。

一方、遺産分割協議や遺言書の検認には特段定めがありません。ただし、そのまま放置しておくと弊害がある可能性が高いため、期限がない手続きであっても早めに進めるようにしてください。

期限も相続の手続き内容によって異なる

相続手続きは一律に期限を定められてはいません。そこで今回は、「3ヶ月以内」「4ヶ月以内」「10ヶ月以内」「1年以内もしくは3年以内」の4種類に区切って相続の手続き内容を説明していきます。

相続の開始日とは

相続手続きの期限は、相続の開始日(起算日)から〇日以内や〇か月以内、〇年以内と表現します。相続の開始日は、被相続人の死亡日です。死亡は医学的な死亡である「自然死亡」、一定期間以上失踪しており死亡したものとみなされる「擬制死亡」、事故や災害などで死体が確認できない「認定死亡」のいずれかで判断されます。

ただし、被相続人との関係が疎遠で死亡したことを知らなかったなどの場合には、相続手続きは、相続開始があったことを知った日を起算日としています。このように「相続開始があったことを知った日」は一般的に被相続人の死亡日と同日ですが、例外的に時期がずれるケースもあります。

相続放棄や限定承認は期限が3ヶ月以内

相続放棄や限定承認は期限が3ヶ月以内

相続放棄や相続の限定承認の申し立ては、相続の開始から3ヶ月以内に行います。期限内に相続放棄や限定承認の手続きを行わない場合、相続を単純承認したことになります。

相続の単純承認とは?

相続の単純承認とは、相続人が被相続人の権利・義務を無条件で全て相続することです。特別な手続きは不要です。単純承認すると、被相続人に借金があれば借金も引き継がなければなりません。

相続放棄とは?

相続放棄とは借金も財産も一切相続しないことです。被相続人に借金があったとしても、相続放棄することで相続人は返済する必要がなくなります。

ただし、相続放棄をすると財産も引き継ぐことができません。負債しかないと思い相続放棄をした後、資産価値の高い財産が見つかったとしても、相続できません

また、相続放棄をした人は相続人ではなくなります。相続放棄をしたことで、共同相続人の相続割合が大きくなります。

相続放棄の流れ

相続放棄は以下の流れで進められます。

1.戸籍謄本や相続放棄申述書などを準備する
2.(相続放棄したことで損することのないように)財産調査する
3.被相続人が亡くなる直前に住民票があった地域を管轄する家庭裁判所に相続放棄を申し立てる
4.家庭裁判所から相続放棄に関する照会書が届く
5.送られてきた書類の回答欄に記載し、家庭裁判所へ再送
6.家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が送付されてくる(相続放棄が認められる)

限定承認とは?

限定承認とは、被相続人の財産の範囲内で借金などの負債を相続することです。限定承認すれば、被相続人に借金があったとしても相続財産の範囲内の相続で済みます。さらに、相続した不動産が競売にかけられたときにその不動産を優先的に購入することができるため、評価額分を支払うことで被相続人の自宅など思い入れのある財産を相続することができます。

ただし、単独で相続の手続きができる相続放棄とは異なり、共同相続人全員が限定承認の手続きをしなければなりません。そのほかにも、手続きが複雑な点やみなし譲渡所得税が課されるなどの可能性あります。限定承認を選択する場合は、事前に税理士などの専門家にご相談いただくことをおすすめします。

限定承認の流れ

限定承認の流れは以下の流れです。相続放棄に比べより複雑な手続きです。

1.戸籍謄本や限定承認申述書などを準備する
2.財産調査をする
3.被相続人が亡くなる直前に住民票があった地域を管轄する家庭裁判所に限定承認を申し立てる
4.家庭裁判所から照会書が届く
5.照会書に回答し、家庭裁判所へ再送
6.家庭裁判所から限定承認申述の受理通知書が送付されてくる(限定承認が認められる)
7.限定承認したことを官報に公告、住所を把握している債権者に直接催告書発送
8.相続財産を換価、相続債権者や受遺者に弁済
9.残余財産を遺産分割、相続

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所得税の準確定申告は期限が4ヶ月以内

所得税の準確定申告は期限が4ヶ月以内

相続の開始から4ヶ月以内に所得税の準確定申告をおこなわなければなりません。

所得税の準確定申告とは?

所得税は毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得について計算し、その所得金額に対する税額を算出して翌年の2月16日から3月15日までの間に申告・納税します。しかし、途中で納税者が亡くなってしまうと申告や納税手続きができなくなります。

準確定申告とは相続人が被相続人の代わりに所得金額及び税額を計算し、申告と納税を行う手続きのことです。納税の義務は相続人全員にありますが、家庭裁判所で相続放棄の申述が認められた人は対象となりません。

なお、通常確定申告は翌年の2月16日から3月15日ですが、準確定申告の期限は相続人が相続開始日の翌日から4ヶ月以内という点を覚えておいてください。

出典:国税庁「No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」

所得税の準確定申告の流れ

所得税の準確定申告の流れは以下の通りです。

1.収入状況を把握するため、被相続人の通帳や源泉徴収票などを探す
2.金額を計算して確定申告書に記入、相続人全員で署名・押印
3.被相続人が亡くなった当時の住所を管轄する税務署に申告書を提出
4.納付書に該当金額を記入し、金融機関で納付

被相続人に所得が発生しているかの調査など、準確定申告の手続きには手間がかかります。ただし、被相続人の収入が1社からの給与収入のみで金額が2,000万円以下である場合や年金受給額400万円以下かつその他の所得が20万円以下の場合など、所得税の準確定申告が不要となるケースもあります。

相続税の申告・納付は10ヶ月以内

相続税の申告・納付は10ヶ月以内

相続人が被相続人から相続や遺贈で取得した財産の価額の合計額が基礎控除額を超える場合、相続税の課税対象となります。相続税の申告及び納付の期限は相続開始から10ヶ月以内です。

ここからは相続税申告の流れを紹介します。

相続税申告のポイント

今回相続税申告のポイントは、非課税財産、基礎控除額、控除制度や特例です。

墓所や仏壇、500万円×法定相続人の数までの生命保険金などが非課税財産に該当します。非課税財産や葬式費用、債務は財産総額から除いて正味の遺産額を計算します。

基礎控除額は、3,000万円+600万円×法定相続人の数です。正味の遺産額から基礎控除額を控除することができます。例えば、法定相続人の数が2名の場合は遺産総額4,200万円までは相続税が課されません。

基礎控除額以外にも、相続税を抑えることができる控除制度や特例が存在します。例えば、配偶者の税額軽減を利用すると配偶者は遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が1億6,000万円までか、配偶者の法定相続分相当額までは相続税が課されません。

そのほか、未成年者控除や障害者控除などを対象者が利用することで税額から一定額を控除できる制度もあります。

出典:国税庁「財産を相続したとき」

相続税申告の流れ

相続税は以下の流れで申告します。

1. 遺産総額を確認し、申告が必要かを判断
2. 財産や債務、控除額などを相続税の申告書に記入
3. 被相続人が亡くなった当時の住所を管轄する税務署に申告書を提出

相続税は現金で一括納付することが原則です。ただし、納付が困難な事由が認められると、年賦払いによる方法で納める「延納」や相続した財産で納税する「物納」を選択できるケースがあります。

相続税の申告は計算が複雑なため税理士に依頼することをおすすめします。税理士への費用がかかるので自分で進めたいという方は、国税庁HPで確認できる手引きおすすめします。以下からダウンロード可能です。

国税庁「パンフレット・手引 相続税・贈与税の申告のしかた・手引きなど」
(最新年度の「相続税のしかた」をダウンロードしてください)

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期限が1年以内・3年以内の相続の手続き

期限が1年以内・3年以内の相続の手続き

1年以内に済ませる手続きとして、遺留分侵害額請求、3年以内が期限の手続きとして小規模宅地の特例や生命保険金の請求があります。各手続きの概要は以下の通りです。

遺留分侵害額請求は相続開始から1年以内が期限

遺留分は民法が定める一定の相続人が最低限相続できる財産です。遺言書で自分以外の相続人が受取人として指定されていても、民法で遺留分を請求する権利が認められています。

遺留分を請求する手続きが遺留分侵害額請求です。遺留分侵害額請求する方法には、相続人間での話合いや請求調停、請求訴訟などがあります。

小規模宅地の特例は相続開始から3年以内が期限

小規模宅地等の特例は、被相続人が住んでいた宅地等の評価につき、一定面積に相当する部分について、相続税の課税価格から減額できるという制度です。特例を適用するためには、相続税の申告書に遺産分割協議書の写しなどの書類を添付し、適用を受ける旨を記載しなければなりません。この特例の期限は原則として確定申告期限までですが、申告期限後3年以内の分割見込書を提出し、3年以内に遺産分割を完了した場合には適用が可能となります。

出典:国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」

生命保険金の請求も3年以内

被相続人が生前に生命保険に加入しているケースも多いです。しかし、保険法第95条で保険給付を請求する権利は3年と設定されています。
なお、相続人が保険金を受け取る際には「500万円 × 法定相続人の人数」までは相続税はかかりません。

相続手続きの期限一覧

相続の手続きと期限一覧は以下の通りです。

期限手続き
被相続人の死亡(相続開始)
四十九日の法要
戸籍謄本や除籍謄本の取得
年金や保険の手続き
遺言書の有無確認
相続人、相続財産の確認
3ヶ月以内相続の放棄、限定承認の申し立て
遺産分割協議
4ヶ月以内所得税の準確定申告、納付
財産目録、相続税の概算提示
遺産分割協議
相続税申告書作成
10ヶ月以内相続税申告、納付
相続財産の名義変更
1年以内遺留分減殺請求
3年以内小規模宅地の特例利用
3年以内生命保険金の請求
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相続の期限を過ぎるとどうなるか

相続の期限を過ぎるとどうなるか

まず、相続に関する手続きの期限を過ぎることで考えられるのがペナルティです。例えば、準確定申告や相続税申告の期限を過ぎてしまうと延滞税や無申告加算税などの税金が課され、本来より高額の税金を納めなければならない可能性があります。

また、相続放棄や限定承認のように期限が到来することで単純承認とされてしまったり、遺留分侵害額請求や生命保険金の請求のように時効を迎えてしまい請求できなくなる場合もあります。

いずれにしても期限を過ぎることにはデメリットしかないため、スケジュールを守るように早い段階から準備していただくことをおすすめします。

現時点では土地などの相続登記に期限はない

現時点では土地などの相続登記に期限はない

相続登記とは、相続登記とは土地や建物などの不動産を有していた人が亡くなった際に行う名義変更のことです。通常、土地などの不動産を相続した際には、相続登記することで不動産の所有者名義を変更します。

▼対象記事
[相続登記にかかる4つの費用を紹介!専門家に依頼すべきケースとは?]

現時点で相続登記に期限はありませんが、民法改正により相続登記の義務化及び罰則の付加が予定されています

相続登記しないことの問題点

相続登記をしなければ、登記簿謄本で自分が所有者であることを示すことができません。そのため、相続人は不動産を売却できません。

さらに、2019年7月に民法が改正され、相続登記をしないと相続分を超える部分について第三者へ対抗することができなくなりました(民法第899条の2)。

今後は相続登記が義務化される見込み

2021年4月の参院本会議で所有者不明土地法が可決されました。2024年をめどに、土地や建物の相続を知った日から3年以内の登記が義務になる見込みです。

相続登記が義務付けられると、期限内に申告しない場合に10万円以下の過料を科されます。

出典:日本経済新聞「相続登記の義務化、24年めど 所有者不明土地法が成立」

まとめ

まとめ

相続の手続きには3ヶ月、4ヶ月、1年・3年といった期限が設けられています。期限を過ぎることによる弊害は手続きによって異なりますが、期限内に手続きを行うことをおすすめします。

相続の手続きは複雑で財産評価も難しい場合が多いため、相続手続きに不安を感じたら、まずは税理士などの専門家に相談することをおすすめします。被相続人や相続人が事業に関係している場合は、事業承継などの問題も絡むため特に複雑です。

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