被相続人が死亡したことで発生する「みなし相続財産」
ここでは初めに、みなし相続財産とは何かについて解説します。みなし相続財産をひと言で表すと、被相続人が亡くなったことがきっかけで受け取ることとなる財産となります。例えば生命保険をはじめとした保険金や、企業からもらう死亡退職金などが、みなし相続財産に該当します。より噛み砕いて説明すると、被相続人がもともと保持していた家や車とは違い、亡くなったことで財産となるものが「みなし相続財産」です。
みなし相続財産は民法上の相続財産ではありません。しかし、相続税を計算する際には被相続人が亡くなることで生ずる財産についても相続財産とみなされます。そのため、みなし相続財産であっても相続するときには「相続税」の課税対象となります
みなし相続財産にあたる6つの代表例
みなし相続財産についての概要をお分かりいただけたでしょうか。次は、具体的にどのようなお金が「みなし相続財産」にあたるのか説明します。ここでは代表例として、生命保険金・死亡退職金・定期金・債務の免除・信託受益金・弔慰金の6つについて解説します。それぞれのみなし相続財産をよく理解し、もらい損ねたり、相続税の申告もれとなったりしないようにしてください。
生命保険金
被相続人が亡くなったことで得られるお金として、まず浮かぶのが「生命保険金」でしょう。生命保険金は、みなし相続財産の代表例です。生命保険金は原則として、相続税の対象となります。
しかし、保険料を支払っていた方や保険金の受取人によって、税金の種類が変わる点は注意しなければなりません。詳しくは以下の表にまとめているので、参考にしてください。
被保険者 | 保険料の負担者 | 保険金の受取人 | 税の種類 | |
① | Aさん(例えば夫) | Aさん(例えば夫) | Bさん(例えば妻) | 相続税 |
② | Aさん(例えば夫) | Bさん(例えば妻) | Bさん(例えば妻) | 所得税、 または住民税 |
③ | Aさん(例えば夫) | Bさん(例えば妻) | Cさん(例えば子ども) | 贈与税 |
生命保険に関する税金は「誰が対象で、誰が保険料を支払い、誰が受け取るのか」がポイントとなるわけです。上記の例では①のケースで受け取る保険金がみなし相続財産となります。
また受け取る際は、保険会社所定の請求書・死亡診断書・受取人の印鑑証明書などを用意し、郵送または、窓口で手続きをおこなってください。
死亡退職金
被相続人が亡くなったことにより、勤務先等から支払われる「死亡退職金」もみなし相続財産に含まれます。死亡退職金は被相続人が生前に受け取るはずであった「退職金」を、死亡後に受け取った場合にのみ、相続税が発生します。
税金の種類は、退職金を受け取るタイミングによって変わります。被相続人の死亡後3年以内に遺族が死亡退職金を受け取った場合は「相続税」、3年以上経過してから遺族が受け取った場合は「所得税」に分類されます。
ちなみに、被相続人が生前に受け取った退職金は「所得税」とされます。
定期金
定期金に含まれる財産とは、個人年金や収入保証付きの保険金などです。数年間に渡って入ってくる予定だったお金は、相続人が受け取れます。厳密に言えば、相続人が引き継ぐのはお金ではなく、定期金を受け取る権利です。
定期金のうち以下3つに該当する財産には、相続税がかかりません。
● 厚生年金または、国民年金などの遺族年金
● 未支給年金
● 厚生年金の遺族受給権
被相続人に定期金がある場合は、上記の3つを参考に、相続税がかかるのか否かを判断してください。
債務の免除
みなし相続財産には、支給される現金だけでなく債務の免除も含まれます。被相続人の遺言によって借金がなくなった、もしくは遺産で借金を肩代わりしてもらった場合は、免除された債務が「みなし相続財産」とされます。
信託受益権
遺産を信託銀行などに預けて、管理や運用を任せることを「信託」と呼びます。被相続人が信託をおこなっていた場合、その結果生まれた利益は、相続人が受け取ることができます。この権利を指して「信託受益権」といい、これも相続税の課税対象です。
ただし、信託を委託した者以外が利益を受け取る場合は、誰が受取人であっても相続税が発生するので、注意してください。
弔慰金
被相続人が亡くなった場合、企業から支給されるお金として死亡退職金があると解説しました。しかし、被相続人が亡くなった際は「弔慰金」という財産も発生します。
弔慰金とは、企業側が従業員やその家族に不幸があった際に支給する現金です。多くの企業で採用している「慶弔金制度」の一種と考えてください。支給額は企業や団体、勤続年数によっても異なります。
また企業から出されるだけでなく、公的機関から弔慰金が支給される場合もあるでしょう。代表的な例は以下5つです。
● 災害弔慰金
● 国会議員が死去した際の弔慰金
● 戦没者遺族への弔慰金
● 国籍離脱者となった戦没者遺族への弔慰金
● 国外で犯罪被害を受けた遺族への弔慰金
みなし相続財産における注意点
ここまでで、どのようなお金や権利がみなし相続財産に含まれるのかお分かりいただけたでしょう。ここからは、みなし相続財産にまつわる注意点を5つのポイントに分けて解説します。
みなし相続財産は相続放棄していても受け取れる
みなし相続財産が一般的な相続財産と異なるのは、「相続放棄していても受け取れる財産」という点です。これはみなし相続財産が民法上、相続財産とされていないためです。
ただし、死亡退職金と生命保険金は、例外となってしまうこともあります。両者は、具体的な契約内容によって「相続財産」として扱われることがあります。
生命保険の場合は、被保険者と契約者が被相続人で、受取人が相続人である場合は、みなし相続財産です。死亡退職金は、会社の規約によって受取人が配偶者や子どもであった場合は、みなし相続財産に分類されます。
一定額までは非課税
相続税が課せられるみなし相続財産があることは、もうお分かりいただいているでしょう。しかし、みなし相続財産のなかでも「生命保険金」と「死亡退職金」は、それぞれ一定額までならば非課税となります。また、「弔慰金」も死亡退職金に含まれ非課税措置の対象となります、
非課税となる金額は、以下の計算式で求められるので、参考にしてください。
500万円×法定相続人の人数=生命保険の非課税限度額(または死亡退職金の非課税限度額)
みなし相続財産は遺産分割の対象外
みなし相続財産のなかでも「生命保険金」には、特に注意してください。生命保険金は受取人の固有財産となるため、遺産分割の対象外となります。つまり、生命保険の受取人は、遺産分割で受け取った金額に加えて、生命保険金を丸ごと受け取ることができるということです。
節税対策としても有効
みなし相続財産の中でも生命保険金は節税対策としても非常に有効です。既にご説明した「生命保険の非課税枠」などを利用し、非課税枠の上限額までの死亡保険金に加入し、亡くなった後に遺族がそのまま受け取ります。
一時終身保険に加入すれば、非課税枠の上限額まで一括で支払うことが可能です。90歳以下・生命保険未加入・相続税における基礎控除額よりも財産がある、といった3つの条件をクリアしている方の節税対策にはもってこいでしょう。
みなし相続財産は遺留分の対象外
みなし相続財産は遺留分の対象外となります。遺留分とは、相続人が遺産を最低限確保するために設けられた制度です。前提として、日本では財産について「被相続人の財産は家族の協力のもとに築き上げたもの」と考えられています。
被相続人は、ある程度まで財産を誰に残すのか自分で決めることができます。しかし、上記の考えに則って、家族にも最低限の財産を残さなければならないと定められています。
みなし相続財産は原則として、この遺留分に含まれないため、家族が必ず得られると保証された財産ではないということです。
みなし贈与とは?
みなし相続財産と合わせて理解しておきたいのが「みなし贈与」です。ここではみなし贈与について、概要や代表例を紹介します。
みなし相続財産と考え方は同じ!
みなし贈与も基本的な考え方は、みなし相続財産と同様です。本来は「贈与」とされていないもののなかでも、受取人が利益を得た場合は「みなし贈与」として、贈与税が発生します。みなし贈与の代表例を次で紹介します。
みなし贈与の対象例
みなし贈与には、以下のようなものが含まれます。
● 低額譲渡により資産を譲り受けた場合
● 無償名義変更
● 親族間の金銭賃借
「低額譲渡」とは、本来の価格よりも低額で資産を譲渡することであり、譲り受けた側は本来の価格よりも低額で譲り受けたことによる低額部分がみなし贈与に該当します。無償名義変更とは、不動産や有価証券などの名義を無償で変更することをいいます。
親族間での金銭賃借もみなし贈与に該当する場合があります。親族間で長年返済されていないお金は、贈与したものと見なされるためです。上記いずれの場合でも、金額に応じて贈与税が発生するので、注意しましょう。
まとめ
生命保険金や死亡退職金の他にも、定期金、債務、信託受益権、弔慰金などが、みなし相続財産です。相続税が発生するものしないもの、非課税となるものなど、みなし相続財産は種類によって税金が変わるため、ややこしく感じてしまうかもしれません。
しかし、正しく把握していないともらい損ねるなどの不利益が生じたり、相続税の申告時に財産からもれてしまったりする可能性があります。事前にしっかりと把握しておくことがおすすめです。
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