M&Aの成功事例と失敗事例から学ぶ事業拡大におけるポイント

会計士 牧田彰俊

有限責任監査法人トーマツ入所、各種業務の法定監査、IPO支援に携わる。その後、ファイナンシャルアドバイザリーサービス部門にてM&A アドバイザリー業務・財務デューディリジェンス業務・企業価値評価業務等に従事。組織再編によりデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に異動し、主に国内ミドルキャップ案件のM&Aアドバイザリーとして、豊富な成約実績を収める。2018年、これまで以上に柔軟に迅速に各種ニーズに応えるべく株式会社M&A DXを設立し、現在に至る。

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M&Aは、合併・買収を目的とした企業の取り組みです。事業拡大のために計画を立てる企業も多くありますが、「実際にどのような事例があるのか気になる」という方もいるのではないでしょうか。

そこでこの記事では、M&Aを実際に行った企業の成功事例と失敗事例をご紹介します。これからM&Aを行うべきか悩んでいる方は、過去に行われた事例から実態を学ぶことができるでしょう。チェックしたいポイントもあわせて解説するため、M&Aに関する情報を得たい方は参考材料として役立ててください。

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国内におけるM&A成功事例

国内におけるM&A成功事例

M&Aを成功させるには、過去の事例から知識を得ることが大切です。国内のM&A成功事例として、ソフトバンク、インテグラル、エボラブルアジア、日本電産の4つの企業をご紹介します。

メディアに取り上げられた事例もありますが、具体的な取り組みについて理解を深めておきましょう。

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ソフトバンク

ソフトバンクは、日本の企業のなかでもM&Aを有効に活用している会社といわれています。メディアで大きく取り上げられた代表的な事例は以下です。

・ボーダフォン

・福岡ソフトバンクホークス

・アーム社

アメリカでは、2013年にスプリント・ネクステル・コーポレーションを、2014年にはブライトスター社を買収しました。ワイモバイル・ソフトバンクBB・ソフトバンクテレコムは2015年に吸収合併となり、現在までさまざまな企業とM&Aを成立しています。

ソフトバンクが日本のみならず海外にも進出した理由は、「日本での経験を活用すべき」と考えたからです。M&Aにより、日米でトップクラスの顧客数を誇っています。

しかし、今ソフトバンクはWe Work(ウィーワーク)への巨額出資により、岐路に立たされております。この投資の行く末に日本のみならず、アメリカも注目しておりますので、皆様も是非注視していきましょう。

インテグラル

インテグラルは、M&Aの第一線で活躍するプライベート・エクイティーファンド(PEファンド)です。スカイマークが経営困難に陥るなか、2015年、真っ先に筆頭株主として手を挙げました。スカイマークを見事に経営危機から救ったM&Aの事例です。

民事再生のために45億円を融資し、大々的なリストラにも追い込まれることなく取り組みを進めました。事業内容だけでなく、社員と上層部とのかかわり方に重視した点が特徴といえるでしょう。社内コミュニケーションの重要性を説き、スタッフ全員の向上心を高める考えを反映しています。また、当時低い水準にあった飛行機の定時運行率を、業務改善により業界トップまで押し上げた手法も見事と言わざるを得ません。

M&Aが効果をもたらすといわれる「精神的負担の軽減」を具現化した事例といえます。

エボラブルアジア

エボラブルアジアは、国内外の航空券予約サイトで知られるエアトリを運営しています。大手サイトと比較すると知名度は高くないものの、2019年12月現在ではテレビCMで見かける機会も増えました。

その背景には、M&Aによって積極的に投資を行った取り組みがあります。2017年5月にDeNAトラベルを買収し、サイトの網羅性を高めました。エアトリは当初国内航空券に特化したサイトでしたが、DeNAトラベルを買収したことで海外航空券やツアーへもジャンルを広げます。

M&Aの前後で業績も伸び、インターネット旅行会社のなかではトップクラスの取扱高となりました。

日本電産

日本電産株式会社は、1984年から国内外でM&Aにおいて成功を重ねてきました。アメリカ・イギリス・カナダ・イタリア・タイなど世界各国の企業を買収しています。日本電産は「時間を買収する」という考え方に則り、いかに相乗効果につなげるかを重視してM&Aを行う企業です。

2017年には、ヨーロッパ・北アメリカに構える多国籍企業のエマソン・エレクトリックを買収しました。電気の製造や電子部品の販売を行う大企業です。事業の成長を高めることを目的に、自社製品の売り上げにつなげる相乗効果を具現化した実例といえるでしょう。

国内におけるM&A失敗事例

国内におけるM&A失敗事例

M&Aにおいては、成功事例から学ぶだけでなく具体的な失敗事例を理解することも重要です。失敗事例の内容のみならず、その原因や対策を考えるきっかけにもなります。

今回ご紹介する事例は、富士通、パナソニック、日本郵政、キリンホールディングスの4つの企業にまつわるM&A失敗事例です。

富士通

富士通は、1990年にイギリスのICL(International Computers Limited)を子会社化しました。買収額は株式の80%となる1,890億円です。このM&Aによってコンピューター産業における分野別で世界2位の企業となり、富士通のICL買収は成功したと思われていました。

しかし業績は悪化し、2007年の決算では評価損が2,900億円であると発表しています。株価は下落し、富士通が行ったM&Aは失敗という結果になりました。その後は、コスト削減に力を入れ、2016年下半期を境に業績は改善傾向にあるといわれています。

パナソニック

M&Aの失敗事例のなかでも、取りあげられる機会の多い会社がパナソニックです。パナソニックは、2009年に三洋電機を4,000億円で買収しました。2年後の2011年には追加で投資し、三洋電機を完全子会社化しています。

しかし、事業予測を読み外したことが要因のひとつとなり業績は悪化してしまいます。買収当時の予測を裏切り、2013年の決算で計上した評価損は6,000億円にのぼります。巨額の損失を出したパナソニックはメディアにも広く取り上げられ、「M&Aに踏み込むべきでなかった」と批判される結果となりました。

日本郵政

M&Aの失敗事例として記憶に新しいものが、日本郵政が行った取り組みです。日本郵政は2015年、オーストラリアの物流会社であるトール・ホールディングスを買収しました。当初の日本郵政は黒字続きの企業でしたが、2017年の連結決算では4,003億円の損失を出す結果になります。

日本郵政のM&A失敗は、オーストラリアでの業績不振が原因のひとつです。日本郵政側のITシステムや事業統合など、取り組みの内容にも至らない点があったといわれています。

問題解決のために、人員を削減したりビジネスユニットを簡素化したりと再建策を行ったものの、予想していた右肩上がりの業績とはかけ離れてしまいました。

キリンホールディングス

キリンホールディングスは、ビールや清涼飲料水で有名な大手企業です。2011年、ブラジルのスキンカリオール(ブラジルキリン)を買収しました。スキンカリオールは、2011年当時ブラジルでトップレベルのシェア率を誇った企業です。買収金額は約3,000億円と発表されています。

しかし、3年後の2014年を境にブラジルでの販売数が減少したことから経営不振に陥ります。翌年2015年の決算では、約1,100億円の減損損失を計上する結果となりました。

M&Aが失敗した要因は、キリンホールディングスの焦りにあるといわれています。先手を打って買収することに集中しすぎたことが、具体的な戦略を不明瞭にすることにつながったと考えられています。

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海外におけるM&A成功事例

海外におけるM&A成功事例

M&Aについて理解を深めるためには、海外の企業が培ってきた経験を知ることも重要です。ここからは、海外の企業が成功させたM&Aの事例をご紹介します。

Dell、クラフト・フーズ・グループ、ホンハイ(鴻海精密工業)、Facebookの4つの企業の事例について、どのような内容であったのかなど理解を深めておきましょう。

Dell

パソコン製品で有名なDellは、2015年にEMCを買収しました。プライベートIT企業としては世界で最大となり、グループ名をDell Technologiesに改めたことでも話題になった事例です。2019年11月時点では、Dell EMCのほか以下の企業が傘下となっています。

・Pivotal

・Virtustream

・VMware

・RSA

・SecureWorks

グループ全体での従業員数は14万人以上です。年間の売上金額は740億米ドルにものぼり、IT企業グループとして成功を収めました。パソコンやサーバーなど、各事業に強みをもつ企業を集めた成功事例といえるでしょう。

クラフト・フーズ・グループ

クラフト・フーズ・グループは、アメリカで最大規模を誇る食品メーカーです。2015年にM&Aを実施し、HJハインツと合併しました。HJハインツはケチャップのパイオニアとして知られる企業です。

合併後は社名を「クラフト・ハインツ」とし、北アメリカで3位の規模を実現しました。全世界では食品業界で5位の規模を誇っています。合併によって得られた効果は、コストの削減です。材料の調達工程を減らすことや共通仕入を実施することによりボリューム・ディスカウントを実現することに成功しました。

また、クラフト・フーズ・グループの商品販売は北アメリカが中心でしたが、ハインツの販路を活用することによって海外にも積極的に販売されています。日本国内ではクラフトチーズやパルメザンといった商品が流通しています。

ホンハイ(鴻海精密工業)

ホンハイのM&Aでは、圧倒的なV字回復を実現させたとして話題になりました。2015年、電機メーカーとして名高いシャープが経営困難に陥ります。株価は108円にまで下落したころ、支援に名乗り出た会社がホンハイです。2016年8月にシャープを完全子会社化しました。

M&Aでおもに重視されたことは、社員の年齢よりも技術や営業成績です。優秀な新入社員にも昇給を適用し、向上心や求心力を高めました。案件の決定方法にも変更が加えられます。このような取り組みにより、1年4か月後には東証一部への復帰を実現しました。

Facebook

Facebookは、世界中で数人にひとりが毎日利用するといわれているSNSです。これまでにさまざまな企業を買収していますが、2012年、写真共有アプリで絶大な人気を誇るInstagramを買収しました。

Instagram以外の企業との相違点は、Facebookとの統合を行わなかったことです。Instagramのサービスを停止させるのではなく、Instagramがもつ魅力や強みを拡大していくことを目的としました。さらに、「将来的に競合相手になるであろう」ということを予測してM&Aに踏み切ったともいわれています。

M&AによりInstagram・Facebookいずれのユーザーも増加しているため、相乗効果を十分に発揮した事例といえるでしょう。

海外におけるM&A失敗事例

海外におけるM&A失敗事例

海外のM&A失敗例にもさまざまな事例があります。今回は、ウォルマート、テスコ、マイクロソフト、BMWの4つの企業についてご紹介します。M&Aでの具体的な取り組みについて理解を深めていきましょう。国内の失敗事例と同様、失敗した要因を考えることも重要です。

ウォルマート

2002年、アメリカのウォルマートが西友(SEIYU)と資本提携しました。業績に伸び悩む西友の事業を見直すことが目的です。5年後の2007年には追加投資を行い、西友をウォルマートの完全子会社としました。

ウォルマートの投資金額は最終的に2,000億円を超えたともいわれていますが、西友の業績は改善しません。これには、アメリカと日本の文化・習慣の違いがかかわっていると考えられます。ウォルマートと同様の手法が、日本の消費者には効果を発揮しなかったためです。

つまり、ウォルマートのリサーチ不足や、日本にまつわる理解が及ばなかった点が要因といえます。

テスコ

テスコは、イギリスで展開している大手スーパーです。2003年に、日本のシートゥーネットワークを買収しました。シートゥーネットワークは「つるかめランド」というスーパーで事業を行っていた企業です。

投資金額には約300億円を費やしましたが、業績は改善しませんでした。8年間奮闘するも思うように伸びず、2011年には撤退します。その後、シートゥーネットワークはイオンに買収され傘下となりました。

2003年に行ったM&Aにより、テスコは日本法人の負債を請け負う結果となります。8年という短い期間で買収失敗を迎えた事例です。

マイクロソフト

ソフトウェアの開発や販売を行うマイクロソフトは、これまで多数のM&Aを実施しています。そのなかでも失敗として取り上げられる事例がノキアの買収です。2013年9月、マイクロソフトはフィンランドの携帯電話事業を買収しました。買収金額は日本円にして約5,300億円です。

買収後は、マイクロソフトの携帯電話事業が世界2位に躍り出ます。好調かと思われましたが、次第にシェア率は低下し、2015年の決算では多額の減損損失を計上する結果となりました。2019年11月現在は、携帯電話の事業から撤退しつつあるといわれています。

BMW

BMWは、世界的に人気を誇る車メーカーです。1994年、イギリスの車メーカーであるローバー社を買収しました。ローバー社の経営困難を救う目的があったといわれています。しかし、2000年ごろには大幅な赤字に見舞われることになりました。

BMWのM&Aが失敗した要因は、相乗効果の少なさであると考えられます。ローバーとBMWではターゲットに差があるため、マーケティングの効率化や生産コストの削減など、M&Aを成功させるための要素が少なかったことが要因といえるでしょう。

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M&Aの成功の定義は

M&Aの成功の定義は、譲渡企業と譲受企業で異なります。譲渡企業にとってのM&Aの成功は、希望価格またはそれ以上の価格で自社を売却できることに加え、資本が入ることによる経営基盤の安定や従業員の雇用の継続などがあげられます。一方、譲受企業の成功は、ただ単に対象企業をコストを抑えて譲受することではありません。
譲受企業にとってのM&Aの成功は、売上高の向上や利益率の向上、シェアの拡大や技術の獲得などの効果やメリットがもたらされることが、譲受企業にとっての成功といえるでしょう。
M&Aを行うことによって投資資金の回収や、新たな企業価値が創出できたかどうか、いわゆる『シナジー効果による新たな価値の創出』ができているかどうかが成功を判断する一つの基準になると考えられます。

M&Aの成功事例・失敗事例をチェックする際のポイント

M&Aの成功事例・失敗事例をチェックする際のポイント

M&Aの事例をより深く理解するためには、注目するべきポイントを押さえることが大切です。成功事例・失敗事例ともに、「なぜM&Aに踏み込んだのか」「なぜ成功・失敗」したのかを考えることが重要になります。

また、事業拡大における課題を整理していく過程も解決につなげる要因です。事例をチェックする際のポイントを3点ご紹介します。

M&Aを行った目的は何か

M&Aの事例を見る際には、企業がなぜM&Aを行ったのかを分析することが大切です。M&Aにはさまざまな理由があり、事業内容や業績により目的が明確化できます。たとえば、買収する企業は以下のような目標を立てるでしょう。

・規模の拡大

・業績の向上

・多角的経営

完全子会社化すると全体の規模が大きくなるため、お互いの相乗効果も期待できます。戦略を立ててうまく効果を発揮すると、売り上げの上昇につなげることも可能でしょう。また、時間的負担と精神的負担を軽減する効果があることもM&Aの目的のひとつといえます。

このように、M&Aを行うきっかけとなった出来事や事業背景などを分析することで、各企業が考える目的が見えてきます。

M&A成功・失敗の要因

なぜ成功できたのか、なぜ失敗してしまったのかといった要因の分析は、今後実際にM&Aを行う際に役立ちます。失敗した要因の例は以下です。

・対価(株価)が不相応に高過ぎた

・経営戦略が明確化されていなかった

・買収すべきタイミングが適切でなかった

・発生した問題を放置した

上記以外にも非常に多くの要因が考えられます。要因を分析するためには、M&Aや事業の内容、企業の目的を理解したうえで明確にしていくことが大切です。事前に知識を蓄えることで、失敗を回避できる可能性もあります。

失敗の要因とあわせて成功した要因も明確にできれば、「M&Aに踏み込むべきか否か」も見極めやすくなるでしょう。

各事例を見て事業拡大における課題を整理することが大事

M&Aのおもな目的は事業拡大ですが、これを成功させるためには課題を整理することが重要です。各企業の目的と成功・失敗の要因をすべてピックアップし、最終的な課題をまとめます。たんにまとめるだけでなく、具体的な改善案なども書き出すとよいでしょう。

情報を整理することで、自ずと解決への糸口が見えてきます。なるべく多くの事例に関する情報を集め、ひとつひとつの目的・課題など詳しい項目を整理することが大切です。

まとめ

M&Aは、企業の規模を拡大したり時間的・精神的負担を軽減したりするために有効な手段といえます。しかし、失敗すると巨額の損失を出すリスクもあるため、慎重に進めなければなりません。

日本国内のみならず、海外でも非常に多くの企業がM&Aを成功させています。実際に成功した事例を参考にすることも大切ですが、同時に失敗した事例についても知る必要があります。成功・失敗それぞれの具体的な目的や結果につながった要因など、情報を整理して実際のM&Aに役立てましょう。

株式会社M&A DXは、M&Aの成立実績を豊富にもっています。製造業・サービス業・IT企業など幅広い業種からご相談をお受けします。株式譲渡・会社分割・経営統合などの各種スキームの実績もあるため、M&Aを検討中の方はぜひこの機会にご利用ください。中小規模の案件を積極的に取り扱うことも私たちの取り組みのひとつです。

株式会社M&A DXの専門家と連携し、M&Aによる有益な企業へと発展させていきましょう。

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