のれん代とは?算出・計算方法や会計処理、高く売却するコツなど紹介

MBA 髙橋義博

国立大学卒業後、2008年に日本イーライリリー株式会社に入社しプライマリーケア領域のMRとして首都圏を担当し、2015年上期に全国1位の販売目標達成率を獲得。2015年にアストラゼネカ株式会社へ転職、2018年上期に全国1位の営業成績を獲得。製薬会社に在籍しながら名古屋商科大学大学院へ進学し2017年にMBA取得。経営者により近い立場で仕事がしたいという思いから2019年にM&A仲介会社へ転職し、製造業における事業承継型M&Aや建設業における異業種マッチング型M&Aなど複数の成約に携わる。

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M&Aで必ず発生するとも言われる「のれん代」。M&Aの譲渡金額を決めるうえで、のれん代は重要な要素です。

この記事では、のれん代の内容や発生要因、金額の計算方法、会計処理のやり方などを解説します。

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のれん代とは?

のれん代とは、企業や事業などを買収する時に支払われる金額と、企業(または事業)の純資産との差額を指します。たとえば、買収金額が3億円で、企業の純資産が2億円の場合、1億円がのれん代となります。

M&Aを実施する場合、必ずと言っていいほどこののれん代が発生します。のれん代が発生する理由については、次から詳しく解説します。

なぜのれん代が発生するのか

一見すると、買収額を決める時、「企業(事業)の純資産の額」と金額を一致させるほうがよさそうに思えます。しかし、企業の収益には「ブランド」や「ノウハウ」「従業員の能力」「顧客基盤」など、無形資産も影響します。そこで、企業(または事業)の純資産額にこれらの無形資産を加味して、買収金額を決めるのが一般的です。

つまりのれん代とは、ブランドやノウハウ、従業員の能力、顧客基盤などの無形資産を金額に換算したものになります。

のれん代がマイナス(負ののれん代)のこともある

実は、買収金額と純資産の差額を示すのれん代は、プラスだけでなくマイナスになることもあります。のれん代がマイナスになる時は「負ののれん代」と呼ばれます。

譲渡企業の買収金額が純資産額を下回ってしまう要因は、いくつかあります。

・訴訟リスクを抱えている
・簿外債務(従業員への未払い給与、退職金など)が発生している
・譲渡企業が、買収金額が純資産を下回ってでも譲渡することを望んでいる など

負ののれん代は譲受企業にとってもリスクとなりますが、譲渡後にこれらのリスクを改善できれば、その後大きく収益を伸ばす可能性も秘めています。

参考:負ののれんとは?発生理由や会計上の処理方法を解説

のれん代の計算・算出方法

前述のとおり、のれん代は次の計算式で求められます。

のれん代=買収金額-純資産

このうち、純資産は資産から負債を差し引けば求められます。一方の、買収金額は企業価値をもとに算出されます。企業価値を評価するには、主に次の3つの方法があります。

・インカムアプローチ
・コストアプローチ
・マーケットアプローチ

それぞれ次から詳しく解説します。

①インカムアプローチ

インカムアプローチとは、将来的に獲得すると見込まれる収益性ベースに、企業価値を算定する方法です。インカムアプローチには、次のような評価手法があります。

・DCF法
・収益還元法
・配当還元法

インカムアプローチのメリットは、企業固有の将来性を企業価値にしっかり反映できる点です。今のところ大きな利益を出していない企業だとしても、将来性がある企業と判断されれば、企業価値は高く反映されることになります。

一方で、将来性を重視するため評価が客観的になりやすく、恣意性を排除しにくいのが難点です。

②コストアプローチ

コストアプローチとは、企業の貸借対照表に記載された純資産をもとにする企業価値を算定する手法です。主に中小企業に対して用いられます。

コストアプローチの主な手法は、次のとおりです。

・簿価純資産法
・時価純資産法
・年買法(時価純資産+営業権)
・清算価値法
・調達原価法

コストアプローチのメリットは、貸借対照表の純資産をもとに算定されるため、客観的な評価が得られやすい点です。貸借対照表の数字を基に評価するため、企業評価を算定しやすく、経営者も算定基準を理解しやすくなっています。

一方で、コストアプローチは将来の収益性を反映しにくいのが難点です。M&Aは通常、企業の将来性も加味して買収金額を決めるため、会社の存続を前提としている場合には適していない側面もあります。

参考:コストアプローチとは?メリット・デメリット・計算方法を紹介

③マーケットアプローチ

マーケットアプローチとは、株式市場やM&A市場における株価や取引価額に基づき、企業価値を算出する方法です。マーケットアプローチには、次のような方法があります。

・市場株価法
・類似会社比較法(マルチプル法)

マーケットアプローチは、企業価値に市場環境の動向を考慮できる点です。株価は景況感や競争企業との競争関係などが客観的な視点で反映されているため、企業価値に市場環境を織り込むことができます。

また、マーケットアプローチは市場に公開されているデータを基に算出するため、客観的な評価を得られやすい利点もあります。

一方で、株式市場に事態と乖離した歪みが発生している場合は、正確に企業価値を評価できないのが難点です。マスコミ報道や特別損益などによって株価が過度に上振れしたり、下振れしたりすることで、株価に企業価値が反映されていない恐れもあります。

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のれん代の会計処理

M&Aによって発生したのれんは無形資産と考えられるため、「のれん」という勘定項目で貸借対照表の資産に計上します。たとえば、以下を例に考えてみましょう。

(例)
以下の企業Aを、株式譲渡によって500万円で譲り受けた。

【企業Aの情報】
純資産:300万円(資産-負債)
資産:400万円
負債:100万円

(万円)

借方 貸方
資産 400 負債 100
のれん 200 当座預金 500

今回、株式譲渡によって経営権が譲受企業に移転するため、譲渡企業の資産と負債は譲受企業に引き継がれます。そのため、資産と負債をそのまま借方・貸方に計上します。

譲渡金額が500万円で純資産額は300万円なので、のれん代は200万円発生しました。プラスののれん代なので、借方に計上されます。

のれん代の償却は会計基準によって異なる

のれんの価値は年々減少するため、減価償却によって適正に価値を評価します。しかし、のれん代を減価償却できるのは「日本の会計基準」で会計処理を行う場合に限られます。

日本企業の会計基準には「日本の会計基準」と「IFRS(国際財務報告基準)」の2つがあります。原則、上場企業は日本の会計基準で会計処理することとされていますが、IFRSで会計処理することも認められています。

次から、各会計基準の償却に対する考え方を解説します。

日本の会計基準の場合

日本の会計基準の場合、20年以内に規則的に償却できます。2のれん代は「定額法」で償却するのが一般的です。

のれん代の償却期間は、20年以内で自由に設定できます。極端な話、2年で償却も可能ですが、償却期間が短くなるほど利益も圧迫されるので注意しましょう。

たとえば、M&Aによる正のれん代200万円を10年で償却する場合、毎年度で次のように会計処理を行います。

(万円)

借方 貸方
のれん償却 20 のれん 20

IFRS(国際財務報告基準)の場合

IFRS(国際財務報告基準)の場合、基本的にのれんの償却は行いません。これは、のれんは経済的便益が企業に流入すると考えられ、買収時点で償却方法を決定すべきではないという考えのためです。

ただし、毎年「減損テスト」を行い、のれんの価値が消失していると認められた時には減損損失を計上する。減損損失とは、固定資産の収益性が悪化し投資額の回収が見込めない時に、帳簿価額を回収可能価額まで引き下げる会計処理です。

たとえば、300万円ののれん代を計上していましたが、とある年度で100万円分の価値が目減りを確認したとしましょう。この時、のれん代を300万円から200万円まで切り下げる会計処理が減損損失です。

上記の減損損失を計上する場合、貸借対照表の借方に「減損損失」を、貸方に「のれん」を計上します。減損した金額は100万円なので、次のように会計処理を行います。

(億円)

借方 貸方
減損損失 100 のれん 100

なお、IFRSでは毎年回収価額の測定が必要なため、日本の会計基準よりも減損損失を計上しやすいと言われています。

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のれん代を高くして売却する2つのコツ

譲渡金額が上がるため、譲渡企業にとってはのれん代を少しでも高く算定してもらいたいと思うものです。譲渡企業がのれん代を高くして譲渡するコツを2つ紹介します。

①自社を高く評価してくれる企業を探す

のれん代を高くしてもらうためには、自社を高く評価してもらえる企業を探すことが非常に大切です。たとえば、譲渡企業が強みをもつ市場に参入したいと考える企業にとって、この譲渡企業は魅力的に見えます。

このような場合、ブランドや顧客基盤などが高く評価されることでのれん代が多く算定され、相場よりも高い譲渡金額で譲渡できるかもしれません。自社を高く売り込むためには、自社の強みと弱みを明らかにすることが重要です。

また、自社を高く評価してくれる企業を探すうえで重要なのは、譲受企業候補の絞り込みです。ロングリスト→ショートリストで的確に絞り込んでいくことで、効率的に自社と相性のよい譲受企業候補を探していきます。

②具体的な情報を提示する

譲受企業がのれん代を考慮するうえで重視するのは、譲渡企業の具体的な情報です。なるべく具体的な情報を譲受企業に伝えることで、自社の有益性を伝え、なるべく高く評価してもらいます。

のれん代を高く評価してもらうためには、次のような点を伝えると効果的です。

・自社の強みや弱みを伝える
・従業員の特徴や平均年齢など
・顧客からのブランド評価
・顧客数や発注数、店舗数など

譲受企業は、譲渡企業が抱える潜在的なリスクを警戒しています。具体的な情報を伝えることは信頼獲得にもつながるので、ぜひ意識してみてください。

のれん代の税務上の取り扱いについて

最後に補足として、税務上におけるのれん代の取り扱いについて紹介します。

税務上「のれん」という資産分類はない

実は税務上では「のれん」という資産分類は存在しません。税務上では、のれんと類似する概念として「資産調整勘定」や「差額負債調整勘定」が用いられます。

資産調整勘定…税務上の非適格組織再編(金銭対価の合併や会社分割など)で、対象となる被合併法人などから資産または負債の移転を受けた場合に、交付した金銭の額が移転資産および負債の時価純資産価額を超えた金額(交付した金銭の額>移転資産及び負債の時価純資産額)

差額負債調整勘定…上記の場合で、移転資産および負債の時価純資産価額が、交付した金銭の額を超えた金額(交付した金銭の額<移転資産及び負債の時価純資産額)

「資産調整勘定」や「差額負債調整勘定」は、税務上の申告書には表示されますが、会計上の申告書(会計上の貸借対照表)には表示されません。

また、会計上と税務上では時価純資産額は異なるので注意しましょう。これは、税務上の時価純資産では、繰延税金資産や引当金などの概念がないためです。

「資産調整勘定」「差額負債調整勘定」を益金・損金に算入する

税務上ののれんである「資産調整勘定」「差額負債調整勘定」は、原則として計上後5年間で均等に償却することになっています。また、「資産調整勘定」「差額負債調整勘定」は、それぞれ益金・損金に算入します。

・資産調整勘定…5年間で均等に償却し、損金に算入する
・差額負債調整勘定…5年間で均等に償却し、益金に算入する

これらは法人税上の強制償却にあたるので、任意で償却額を決めることができません。またこれらは、会計処理の方法にかかわらず、益金・損金で算入されることになっています。

まとめ

のれん代とは、企業や事業などを買収する時に支払われる金額と、企業または事業の純資産との差額を指します。企業の収益にはブランドや顧客基盤などの無形資産も関係するため、M&Aではこれらを加味して譲渡金額を決めるのが一般的です。

譲渡企業にとって、のれん代を高く計上するためには、自社を高く評価してくれる企業を探したり、具体的な情報を探したりすることが重要です。本メディアを運営するM&A DXはM&Aを得意とする仲介会社なので、譲渡または譲受を検討している企業様は、ぜひ弊社までご相談ください。

関連記事「のれんとは?基礎知識や会計基準による違いをわかりやすく解説

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