MBIとは?
投資家やファンドがM&Aによって企業を買収する目的はその企業を経営することではなく、買収後に企業価値を高めた後に保有する株式を売却し売却益(キャピタルゲイン)を得ることです。企業価値とは、企業全体の経済的価値のことで、その企業が事業活動によって将来的に生み出すキャッシュフローの金額によって企業価値は変動するので、経営者の手腕に大きな影響を受けます。
譲受企業が事業会社の場合は別として、投資家やファンドが企業を買収し自ら企業価値を高めることは容易ではないので、経営のプロを送り込み企業の立て直しや企業価値の向上を図る手法がMBIです。ブランド力や技術力があるにも関わらず、経営者の実力不足で業績が低迷または悪化しているケースにMBIは用いられます。
MBIと「MBO」との違い
M&Aとは「Merger and Acquisition」の略称で、米国から入ってきた言葉です。M&A関連用語も同様に英語の略称が多く使われているため、3文字の略称が非常に多く混乱することもあります。そこで、本題に入る前にMBIと混同しがちな「MBO」「TOB」「LBO」について解説します。
MBIは「Management Buy In」
MBI(Management Buy In)とは、企業の買収者が買収後に外部から経営者を送り込み、当該企業の価値を高めるM&Aの手法です。主として金融機関や投資ファンドなどがキャピタルゲインを得る目的で、ブランド力や技術力があるにも関わらず経営のまずさによって低迷、あるいは業績が悪化している企業を再生するケースに用いられるM&Aの手法です。
MBOは「Management Buy Out」
MBO(Management Buy Out)は日本語で「経営陣買収」と訳され、企業の経営陣が金融機関や投資ファンドなどから資金を調達し、既存の株主から自社の株式を買い取ることにより経営権を取得するM&Aの手法の1つです。これに対し、従業員が自社株を買い取ることにより経営権を取得する手法はEBO(Employee Buy-Out)と呼ばれます。
また、同じビジネス用語のMBO(Management by Objectives)は、「目標管理」のことなので使用する場面に応じて意味を理解しなければなりません。
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MBIと「TOB」と「LBO」の違い
TOB(Take Over Bid)は、日本語では「株式公開買付」と言います。公開買付を行う者が不特定多数の株主に対し、買付価格、買付期間、買付株式数を公表し、証券取引所を通さず直接買い付けるM&Aの手法で、譲渡対象企業が同意している場合は「友好的TOB」、同意なく実施する場合は「敵対的TOB」と言います。
LBO(Leveraged Buy Out)とは、借入金によってM&Aを行う手法で、対象企業の資産や将来のキャッシュフローを担保にして、金融機関などから借り入れた買収資金によって株式や事業の買収を行います。前項で説明したMBOを行う場合に、経営陣だけの手持ち資金では限界があることからLBOの手法を活用するケースがあります。
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MBIが必要なケース
M&Aには多数の手法があるので、目的や対象企業の特性、投資できる資金、メリット・デメリットなどを総合的に検討し最適な手法を選択しなければなりませんが、MBIが適している2つの代表的なケースを紹介します。
経営者が経営資源を生かしきれていない場合
知名度の高い人気ブランドや独自の高い技術力を持っているにも関わらず業績が低迷している企業の場合には、それらの経営資源を最大限に活用した経営ができればその企業の業績は大きく伸びる可能性あります。MBIは、このように現状の経営者が自社の経営資源を生かしきれていない企業に対し、M&Aにより買収を行った後に外部の優秀な経営者を送り込んでブランド力や技術力などの積極的な活用を行い、事業を発展させ企業価値の向上を図るものです。
事業の立て直しが必要な場合
事業が低迷しているだけでなく赤字に陥っているような場合にもMBIは有効な手法となります。この場合には、問題点の洗い出しから改善策の立案・実行までが必要となりますが、このような経営の立て直しには経営者の手腕が不可欠ですから、MBIによって外部から招き入れた優秀な経営者によって不採算部門の切離しや、会社の経営資源を活かした新たな経営戦略の導入や効率的な組織づくりによって立て直しを図らなければなりません。
MBIの3つのスキーム
優れた経営資源を保有しながら業績が悪化・低迷している企業を買収し、優秀な経営者を送り込み企業価値を高めるMBIには、主導権を持つのが「買収者」か「新たな経営者」か「対象企業」かによって3つのスキームに分類することができます。
買収側が外部から経営者を送り込む
第1のMBIのスキームは、企業の買収者が買収後に外部から経営能力の高い新たな経営者を送り込み、当該企業の経営改善を行い価値を高めるM&Aの手法で、ここまで解説してきた一般的なMBIのスキームに該当します。他のスキームとの違いは、新しい経営者が金融機関や投資ファンドなどの買収側に属さず、買収には関わりがない外部の人材であることです。
新たな経営者がファンドなどと共同出資する
第2のMBIのスキームは、企業再生に実績のある人や経営に意欲を持っている人などが金融機関や投資ファンドとの共同出資によりMBIの対象企業を買収し、自らが新しい経営者となって当該企業の再生を行い企業価値を高めるものです。他のスキームと大きく異なる点は、買収企業の経営者となる人物が主導してMBIを実施し、自らが経営者として買収企業の経営改善を行うことです。
買収対象の企業が外部から経営者を迎え入れる
第3のMBIのスキームは、買収対象の株主や従業員が金融機関や投資ファンドからの資金調達によってMBIを実施した後、自ら経営能力のある新しい経営者を招き入れるものです。このスキームは外部環境が大きく変化した場合や、本業が衰退期に入った場合などににおいて、新しい事業への転換が求められているにも関わらず、現状の経営陣では事業転換の実現が期待できない場合などに選択されます。
MBIのメリット
MBIにはいろいろなメリットがありますが、主なメリットとして①企業価値の向上、②生産性の向上、③経営再建の3つをあげることができます。
MBIで企業価値が向上する
金融機関や投資ファンドなどがキャピタルゲインを得る目的でMBIを実施した場合、買収した企業に経営能力の高い優れた経営者を送り込み、それまで十分に活用されていなかった人材、ブランド、技術、情報などの経営資源を最大限に活用した経営を行うことによって、事業の発展や企業価値の向上が期待できます。
MBIで生産性が向上する
MBIによって業績が低迷している会社に就任した経営者は、最初に会社の現状分析を行い業績が低迷している原因と今後の課題を明確にした上で、ビジョン・経営計画・事業計画を策定し、組織編成と役割分担などを明確にします。その結果、会社の目標を組織全体で共有し、社員それぞれが自分の成すべきことを理解した上で行動するため、事業効率や生産性の向上が期待できます。
MBIで経営再建ができる
MBIによって買収企業に送り込まれた経営能力の高い経営者のもとで、業績が悪化している事業の切離しや、可能性のある有望事業に対する経営資源の投下などの「選択と集中」を推進すれば、財務体質を改善するとともに事業効率を高め経営再建を行うことが期待できます。
MBIの注意点
MBIによって送り込まれた新しい経営者は、当然従来の経営方針や事業内容を見直し主力事業を将来性のある事業に転換する、あるいは、人材の適正配置のための組織変更や業務の効率化、および人事制度などの見直しが考えられます。この変化に対し、従業員の混乱や反発、顧客や取引先などの離反といった事態が生じる可能性があるため、ステークホルダーの協力が得られるように丁寧な説明を行いながら進める必要があります。
MBIのまとめ
ここまで、MBIとはどのような手法なのか、MBIが必要なケース、3つのスキーム、メリット、注意点などについて解説してきました。業績が悪化または低迷している企業を買収して経営陣を入れ替えるという手法は効果が期待できる反面、従業員や取引先などの反発・離反といった副作用が出る可能性もあります。
このような副作用を生じさせないためには、新しい経営者は経営改善チームを設置するとともに、M&Aの専門家のアドバイスを受けながら慎重に進めることが重要です。